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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生14巻6号

1953年12月発行

雑誌目次

特集 結核問題の焦点

結核X線診断の急所

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.3 - P.14

1.はじめに
 標題のような題名を編集者からいただいて,実は筆者自身大いにまごついた次第である。というのは,今まで,結核のX線診断に急所というものがあるとは,考えていなかつたからである。しかし,強いて急所と言われてみるとないわけでもない。ただしこの場合の急所たるや,実は最も平凡なことであつて急所という言葉の意味を決め手といつた風にとつていただくと困るのである。
 つまり,筆者は結核のX線診断において最も大切なことは,極めて平凡なこと,或は至極常識的なことを,本当に身につくように「実行」していただくことだと考えているのであつて,標題の意味もそう御了解願えれば幸である。

結核予防政策の方向

著者: 聖城稔

ページ範囲:P.15 - P.18

結核死亡の減少と結核対策
 昭和26年に初めて10万を割り93000余となつた我国の結核死亡はその後も減少の一途を辿り27年は7万余となり人口10万対82.1という未曾有の低率を示すに至つた。
 昭和28年1月以降も引続き減少をつづけ7月末までの累計は3万3千余で昨年同期の4万6千余に比し更に1万3千余の減少である。従つて本年の結核死亡は更に減少して5万余に落着くものと考えられる。特に靑少年の死亡減少が顕著であることは更に意義深いものを感ずるのである。

精神衞生の領域—昭和28年6月5日日本国際医学協会第6回例会において

著者: 齋藤千都 ,   パウル・ヴイ・レムカウ

ページ範囲:P.19 - P.24

 お手許に差上げました印刷物は,今夕皆様に申し上げたいと考えていることの概要を記したものであります。そのいちいち細かい個々の事項について御説明申し上げるには大変長い時間を要し,到底ここではできないことでありますから,私は,只今皆様がごらんになつている表につきましては,一つ一つに深入りすることなく又どの部分も,特にくわしくない様に,簡単な註釈をつけるという程度にさせて頂きたいと存じます。別表参照
 先ず皆様は,その表の右側よりも左側の方に余程多く項目がもられていることにお気ずきのことと存じます。これは,私が精神医学的治療の重要性が少いと考えているのではなく,多くの医師の方々は精神障害の予防よりも治療の方をよりよくご存じでいらつしやるからであります。治療については,今迄に十分考究されてまいりました。患者は一生涯ほとんど治癒しないようにみえるのでありますから,いやでも私共が常に治療の重要性を感じさせられているのであります。そのため,私共の考えが予防にまで及ばないようになつてしもうのであります。誰かがいいましたように,私共は水道の蛇口が開き放しになつている。風呂桶の水をかい出すのに忙しくて蛇口を止める事に考え及ばなかつたのであります。それゆえ,表にあらわされている不均衡は,決して治療の必要性を軽視しているのではなく,予防面を強調しているのであります。

論説

結核病学者に望む

著者: 豊川行平

ページ範囲:P.2 - P.2

(1)結核治療体系の確立
 結核,殊に診断治療に関する研究は最近急速の進歩をとげた。特に治療面においては昔日の俤を留めない程度の変化を受けている。曾つては結核の治療といえば専ら大気,安静,栄養療法に依存するのみで,療養所の医師となつたが最後全くなすべき術もなく,ただいたずらに自らの腑甲斐なさを嘆くのみであつたわけであるから,そういう時代からすると夢のような状態である。最近数年の間にストレプトマイシン,パス,ヒドラジツト等の化学療法剤が相次いで発見されたし,又外科的療法では気胸,成形より最近では区域切除さえ実用化され,この方面の成果は最近の結核死亡率の激減となつて現われてきていることは周知のとおりである。
 しかし,このような各種治療法の相次ぐ出現は大気,安静,栄養療法を軽視させる結果を招いたのみならず,更に結核治療界の混乱をも惹起したことは争えない事実である。例えば,ある学者は初期より区域切除を行うべきとしているし,ある学者は化学療法剤を主張するといつた具合で,そこには頼るべき治療体系といつたものがなく,医師はそれぞれ自己流にてんでんばらばらなやり方で治療を行つているというのが現状である。かかる現象は少くとも他の疾病には見られないことで結核死亡者は減つたが患者は増えたといつたことが起るのも当然といえよう。

時評

WHO西太平洋地域委員會 第四囘會議を終つて

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.33 - P.33

 WHO西太平洋地域委員会の第4回会議が去る9月3日より8日まで東京で開催されたことは,わが国の公衆衞生史上極めて重要なことである。
 人類の歴史に未だかつてない原子爆弾の被害さえ受けて,数十万の人命と莫大な富を犠牲に供した戦争に続き,世界平和の攪乱者として四囲の友邦より冷い眼を以て迎えられた数年間は,わが国民に取つて最も苦難にみちた試錬の時期であつた。

統計資料のページ

統計面に現われた結核の現状—1953年

著者: 聖城稔

ページ範囲:P.25 - P.32

Ⅰ.結核患者の動向
 現在わが国における結核患者の動向を行政的に知る唯一の手がかりは,結核予防法による結核患者の届出状況と,この届出にもとずいて行われる保健所における結核患者の登録状況による以外にはない。
 結核患者の届出制度は1947年3月以降行われているが,最近ようやくこの制度も軌道にのり,1952年は年間58万人余が届出られ結核死亡数に比して8.4倍の届出患者があつたこととなる。

座談会

ツベルクリン反応の再檢討—昭和28年10月2日

著者: 淺野秀二 ,   染谷四郞 ,   千葉保之 ,   室橋豊穗 ,   豊川行平

ページ範囲:P.34 - P.50

 染谷 今晩はツベルクリン反応に関する全般的な問題について話をしようということですから,まず第一にツベルクリン反応の結核感染の診断上の意義について,次にこの反応に用いますツベルクリンそのものの問題,諸外国ではどういうツベルクリンを使つているか。P.P.Dはどうか,それから第3にツベルクリンの判定基準というような問題。それに続いて更に現在我々が行なつている2000倍ツベルクリンの外により濃厚なものを用いる必要があるかどうか,或は最近進藤博士の報告のようにもつと弱い稀釈度のツベルクリンを使う必要があるのかどうかというようなこと。第4にツベルクリン反応の出方に変化を与える原因としての反覆注射の問題,最後にBCG陽転と自然陽転の鑑別,こういうふうな問題で一応皆さんにデイスカツシヨンしていただきたいと思います。

研究報告

大阪市内某工場地帶に於ける結核患者自宅療養の実態

著者: 相沢龍 ,   今井安子 ,   鈴木歌 ,   中元寺典子 ,   田中美知子 ,   寺西敦子 ,   村上恭子 ,   平尾惠美子 ,   藤井佳子

ページ範囲:P.56 - P.58

 昭和26年度結核死亡数は遂に9万台となり,結核死亡率は11.1で明治以来の最低値を示し,死因順位も又待望久しかつた第2位が実現して我国の結核対策の将来は極めて明るいかの如く見える。併し飜つて各種の社会的条件を考える時,患者の療養生活には楽観を許さないものが多い。所が従来この方面の調査は必ずしも満足す可き状態ではない。それ故に余等は昭和27年8月大阪市内某工場地帯の自宅療養患者の実態を調査した。

保健所の外來よりみたる農村結核

著者: 大角喜敎 ,   赤座赫

ページ範囲:P.59 - P.61

 当保健所は岐阜県養老郡高田町に位置し養老郡海津郡を管轄する。町村数23,人口74.430人であり濃飛丹野の西南端を占め典型的平坦米作地と一部山間部とからなつている。著者等は当保健所の結核外来新患者で昭和26年6月より12月迄半カ年間に受診したもの750名に就て種々の角度より分析し,農村の所謂結核患者と称するものの実態を知り得たので報告する。

結核の家族内感染調査について

著者: 篠崎吉次

ページ範囲:P.61 - P.63

 保健所に届出でられたり,集団検診や健康相談によつて発見された結核患者の家庭には,すべての結核患者を收容する隔離施設の余裕のない現在では,狭隘な家屋に放置されることによつて家族内感染が多く発生しているものと想像される。この家族内感染の実態と結核患者の居住する生活環境を明らかにすることは,結核の発病予防上,有意義なことと考える。又かかる実態を明確に把握することによつてはじめて徹底した療養指導も可能であると思う。私は以上の観点から当保健所の担当する管内の結核患者世帯を対象として,保健婦の訪問調査によつて得られた結核調査表を集計した結果2,3の知見を得たのでここに報告する。

京橋地区に於ける乳幼兒結核の最近の推移

著者: 宇留野勝正 ,   深瀨操

ページ範囲:P.63 - P.65

まえがき
 昭和22年東京都衞生局の立川氏は東京都の乳幼児結核死が戦後激増の傾向があり,そしてその傾向が全国のそれよりもはるかに著しいことを報告された。全国の年令別結核死亡率からみると0〜4年層では24年度は人口1万対76.0で最高を示したようであるが,26年度にはすでに戦前の死亡率に戻り,或はむしろ昭和10年(55.1)15年度(56.3)よりも少くなつたようである。しかしその減少度は年令5年以上のものよりははるかに少ないのである。しかし当保健所管内の乳幼児結核の死亡率は後述のように5年以上のものと同様0〜4年の乳幼児に於いても著しい減少を示した。恐らくは全国の乳幼児の結核も之と同様今後次第に減少してゆくことであろうが,この死亡率の減少は乳幼児結核の発生即罹患率とどういう関係にあるであろうかという事は興味ある問題である。著者等は東京都京橋地区(東京都中央保健所管内)の乳幼児の結核につき種々の資料をもとにしていささか考察してみた。

人工氣胸療法についてのアンケート

著者: 田中正好 ,   丸山正雄

ページ範囲:P.66 - P.68

まえがき
 人工気胸療法は最も普通的な虚脱療法として肺結核治療に確固たる地歩を占めて来ている。しかし一般開業医並びに患者の側からはそれ程好もしい受入れ方をされていないように思われる反面最近気胸による障碍の再検討も行われ本療法も新しい批判の対象となりつつあるかに見える。この際患者が果して本療法を如何に体験しつつあるかを知る目的でささやかなアンケートを試みたので報告する。なお適正な結核治療を普及せんとして結核予防法の中に本療法を公費負担の対象としてとり上げてからすでに一年有余を経過している。公費負担制度が発足した当時本療法をうけていた患者は結核治療に関して比較的進歩した考え方を持つていると考えられるのでとくに之等の人達を対象に選び結核予防法に対する簡単な感想をも求めた次第である。

農村における開放性結核患者の疫學的意義に関する研究

著者: 中山茂

ページ範囲:P.68 - P.78

発端患者についての観察成績
 結核症の本態とその蔓延機転を正しく把握するには臨床,病理及び細菌免疫学的研究と共に,疫学的研究が必要であることは,今更言うまでもない。殊に結核患者とその家族についての疫学的な調査研究は,結核症の疫学的特性を明かにする上に極めて重要である。
 開放性結核患者の伝染源としての意義に関してはQpie①,Downns②,Puffer③,紙野⑤,山鳥⑤,奥野⑥,藤井⑦等がかなり詳細な調査報告を行つているが,その多くは都市における観察例であつて,農村における観察成績は比較的少い。且つこれらの報告の大部分は,結核患者群についてのみ調査が行われていて,その対照としての健康者群の調査がゆるがせにされている。

ツベルクリン反応の注射部位による強度差について—(Sign Testによる左右差)

著者: 重松逸造 ,   染谷四郎 ,   平山宗宏 ,   阿部昭治

ページ範囲:P.78 - P.82

1.はじめに
 ツ反応が注射部位によつて異なる反応強度を示すことは,既に柳沢①,岡②,尾関③,後藤④,鈴木⑤,宮内⑥,小池⑦,須永⑧,湯田⑨等の指摘している所であつて,その理由としては,BCG接種よる局所アレルギーの増強,ツベリクリン反覆注射による反応性の減弱等があげられていることも周知の通りである。
 最近ではBCG接種該当者選択の問題,或はツ反応陰転の問題等に関連して,野辺地等⑩が再び本問題をとりあげてその重要性を強調しているが,われわれも人体皮膚におけるツ液力価検定法⑪の研究途上,その必要性にせまられて本問題を検討した。

社会医学的に觀た人間の壽命

著者: 大山保

ページ範囲:P.82 - P.84

 近時社会医学Social Medicineは医学上の問題としてのみなく国際的見地からも重視されるようになつた。社会医学乃至社会衞生学と云うことばは前世紀の中頃から用いられて来たのであるが其定義乃至意義の解釈はいまだ確然と一定したものであるとは云えない。然し今日で云う社会医学はCrew(1)が指摘しているようにhuman ecologyに関する学とも云える,そして其目的は「遺伝と環境」の人間集団に及ぼす影響を究明し,人間の福祉を社会的手段により積極的に増進せんとするものである。言いかえれば社会医学の目的は近代定義に適つた肉体的精神的及び社会的健康の実現にあると云える。従つて之は公衆衞生の進路を示すものである。ここでは社会医学と公衆衞生学との異同に就いて論ずる事を避け社会医学的に観た人間の寿命に就き述べ,社会医学の有する意義の一端を明かにしたい。

撒布隣接田に於けるホリドール中毒例について

著者: 田波潤一郞

ページ範囲:P.84 - P.86

1)緒言 二化迷虫対策として採用された有機燐剤の撒布は昭和27年度の試験期を終えて28年度より全般的な使用に乗り出した。私は農村衞生研究の一端として千葉県山武郡地方の衞生指導に当つていた関係上毒物である本剤の使用に関し,一般農家に対しては地方事務所を通じ,農業技術指導員には集合教育を行い,児童に対しては地区別にPTAの会合を通じてその啓蒙に努めて来た。本年米作期に入つてから6月未までに9例のホリドール(以下ホと略す)中毒例を経験したが,その1例は撒布地域に隣接した苗田に於ける中毒であつて被害形式が苗取り作業に関係しているのでこの概要を述べ指導の参考にしたいと思う。
 2)被毒状況 第1図に宗したホ剤撒布田には6月9日午後2時頃より一段歩当り2000倍ホ乳剤1斗を撒布した。当時は毎秒5m位の風が図に示した方向に吹いていたと言う。被毒者は次の3名であつた。

肺吸虫症患者の喀痰および糞便からの虫卵検出頻度について

著者: 小宮義孝 ,   横川宗雄

ページ範囲:P.86 - P.89

 肺吸虫症患者の定型的な喀痰は,粘調で特有な飴色を帯びており,この部分を検鏡すると,本虫卵を見いだす確率が極めて大きい。本症の診断にあたつては,被検者の喀痰中に本虫卵を,証明することがそのもつとも確実な方法であることは云うまでもないが,一方集団検査の場合には,よし本吸虫症患者であつても,かならずしも常に定型的な喀痰がえられるとは限らない。この場合,もし糞便よりも喀痰と同様に本虫卵が検出され得るならば,本吸虫症の検出は,一般腸管内寄生虫検査のための糞便検査と同時に行いうるので,甚だ便利である。けだし人々は,無意識的にも,しばしば自己の喀痰を嚥下すろことが考えられ,従つて喀痰中に混在する本虫卵が,糞便中に混在してくる可能性は充分あり得るところだからである。しかし従来この点に関して検討を試みた報告はまことに少い。僅かに富永(1942),Faust(1949)のそれがあるのみである。富永は50名の患者につき,喀痰と糞便の同時検査を1000回行つて,喀痰中に994回糞便中に138回(13.8%)虫卵が陽性であつたと云い,Faustは肺吸虫症患者で肺症状のあるものの糞便からの本虫卵の検出頻度は約40%であると云つている。
 私たちは,昭和25年夏より26年冬にかけて静岡県狩野川流域において,肺吸虫症患者35名につき,引き続いて喀痰,糞便の同時検査を行う機会を得たので,その結果について如上の点をしらべてみた。

横浜港湾地域で捕獲された鼠の衞生学的検査成績

著者: 上田修示 ,   岡本享吉 ,   親里嘉雄 ,   野沢龍平 ,   助川信彦

ページ範囲:P.89 - P.92

 1952年には南支及北鮮方面にペスト患者発生の風評もあり,一層強力に捕そ並に検査を実施する計画を樹てて実施し,一カ年を経過したのでその成績を報告する。

野菜,漬物類の熱湯処理を大衆化した場合の回虫の予防効果

著者: 沢田藤一郞 ,   大鶴正滿

ページ範囲:P.92 - P.95

1.前言
 戦後未曾有の蔓延を来した蛔虫禍は,依然として国民保健上大きな問題となつている。その防遏,予防には,根本的,積極的な公衆衞生上の施策が必要であることは論をまたないが,他面簡易で大衆化され易い,しかも効果的な予防法も大いに研究されねばならないと思う。この意味で著者等は経口感染の一歩手前で感染源の撲滅をはかる方法として,野菜,漬物類の熱湯処理を先ず取上げてみた。調査は,兎に角最初から一般大衆を相手とする集団調査の形で開始された。従つてこの種のいわば個人衞生的な予防法が,大衆にどの程度支持され,また実行されるか,また野菜,漬物類が蛔虫感染源の担い手としてどの程度の役割を持つているかを知ることが調査の主な自的であつたわけである。

螢光燈による眼障碍

著者: 大塚任 ,   藤崎茂

ページ範囲:P.95 - P.96

 第1例 21才,女,初診,昭和28年4月21日,主訴 眼痛と視力障碍。
 現症歴 患者は国鉄ガード下の小さいスタンドの女給をしている。ここでは以前より20Wの螢光燈5箇を天井につけていたが,この時はグローブがあり,旦壁の色は灰色であつたそうである。その時も眼が疲れ易かつたのであるが,昨10月初旬特に悪くなり,2-3日で自然に治癒した。4月8日に照明を40W螢光燈3本に代え,店内を白く塗り変えた所眼の疲労が漸次強くなり,19月から眼の充血と疼痛羞明があり開瞼が困難となり,21日に外来を訪れた。家族歴には特記すべきものなし。

化学合成線維衣料に関する衞生学考察

著者: 都築弘 ,   福島堯明

ページ範囲:P.97 - P.99

 新化学合成線維ナイロン・ビニロン等に就ては,これを肌着として使用する際衛生学的見地から多分に考慮の余地があると考え,国立線維工業試験所の御指導援助を得て,天然線維と比較検討しつつ若干の研究を試みた。
 第一段階として供試材料には,我々の最も身近にある靴下①を用いることとし,市販に出されて居るナイロン・ビニロン・絹・綿・毛の5種を実験の都合上無染色のものを撰び(註),織物としての若干の性能,着用時に於る保温性及汚染吸着等に就て,又,衣服下気候で最内層の湿度は恒に概ね50%②③(40〜60)であるが,此の湿度を恒常に保つためには皮膚からの不感蒸泄に基く水蒸気を織物が如何に処理するか,外気気候が快適であつても時に依り蒸し暑い感じや汗ばむ場合があり,これは織物の吸水性及通気性のみでは解決が困難であるかに思われるので,水蒸気透過性④⑤を仮定して若干の実験を試みた。

乳兒期のX線検診による先天性股関節脱臼の早期発見について

著者: 舘野眞

ページ範囲:P.99 - P.103

1.緒言
 先天性股関節脱臼(以下先天股脱と略称)は,その早期発見及び早期治療の重要な事が既に古くから強調されている。それは乳児期に出来る限り早く治療を開始すれば,主として母親の簡単な処置により完全治療を来すことが多いからである。然るに実際にはその発見が遅れ,治療開始の時期も殆ど幼児期になり,処置が困難になるのみならず,不完全治癒ときに治療不能となり,肢体不自由者となる事も少くない現状である。
 二次的な予防措置の可能な本疾患の社会医学的対策としては,昭和18年神中及び伊藤等①が提唱した股関節開排制限,大腿内側部皮膚溝の非対称,その他の臨床所見によつて先天股脱の疑いのある乳幼児を選び,間接撮影によつて診断を決定する早期発見方法がある。本法は提案者の言う如く実際的方法の1つとして非常に有意義な手段と考へられる。然しその後実際に本法を利用して一般乳児の先天股脱検診を行つた報告,或は股関飾開排制限,大腿内側皮膚講の非対称等の症状により,先天股脱容疑者を予選する方法の信頼度をX線検査によつて検討した報告に接しない。

隨想

思つたままのこと—公衆衛生行政官から学界に帰りて

著者: 桑原驎兒

ページ範囲:P.51 - P.52

 井上(北大)瀨木(東北大)兩教授の推せんで福島医大の公衆衞生学講座主任教授として懐しい北海道の地を去つたのは今年の四月であつた。
 過去をふりかえつて見ると私の人生遍歴も可成りヂツクザツク?コースである。私は昭和15年北大を卒業後直に公衆衞生院の医学一年コースに入つた。その頃公衆衞生院に一年間も自費で勉強に行くと言えば変り者の一人として取り扱われた。私は学生時代から社会医学とか公衆衞生とか,兎に角級友が当時見向きもしなかつたことに,興味を持つていた。そして躊躇することなく卒業と同時に上京し公衆衞生院に入つた私は確かに変り者であつたかも知れない。設立日も浅い公衆衞生院の同期生には変り者が多数集つていた。私と一緒にはるばる札幌から公衆衞生院入りをしたもう一人の北大卒業生がいた。今も公衆衞生院小児術生で研究一路の道を歩く親友林路彰君である。あの一年間私は公衆衞生院で多数の友を得今後公衆衛生を開拓せんとする同志を得た。現在大阪府の医務課長をして居られる鶴崎敏胤君,昭和医大の助教授小池重夫君,釧路保健所長の永井胖君,宮崎の保健所長,石井健夫君,又当時満洲国からの留学生で現在中華民国台湾省台北衞生院の王洛君等はこの時以来の忘れ得ぬ友達である。この一年間は私に自分の将来は学界であれ,行政であれ,又民間であれ,公衆衞生の大道から一歩も踏み外すまいと云う強い決心を作り上げさせた。

結核患者とジヤーナリズム

療養雜誌の展望,他

著者: 伊豆忍

ページ範囲:P.53 - P.55

 あらゆる患者の内で結核患者程勉強している者は少くない。よく本を読む従つてこと結核に関する限りインターンなどは足許にもおつぼかない位博学であるこれは結核患者の特質である。
 療養雑誌には,健康会議(医療図書出版社,東京都文京区八千代町19)保健同人(保健同人社,東京都千代田区神田三崎町1ノ2結核予防会内)療養生活(自然療養社,神奈川県小田原市十字町3ノ729)の三種がある。何れも結核治療面に於て啓蒙的役割を果している。これ等の雑誌はほとんど書店へは出していないから一般人には目に触れる機会は少ないが,一度び結核の世界に入るとこの仕事は高く評価されている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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