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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生15巻1号

1954年01月発行

雑誌目次

特集 傳染病問題の焦点

Q熱(上)

著者: 北岡正見

ページ範囲:P.2 - P.10

 1933年以来,濠洲,クイーンスランド,ブリスベーン地方に屠夫の間に,職業病のように,発疹熱,腸チフス,パラチフス或はブルセラ症とも異なる不明熱性疾患の発生することが気付かれて来た。Derrickは当局の命を受け,その調査研究に従事し,1937年,9例の症例を記載し,本病が一独立疾患であること,またその病名については,将来の研究を待つて正式に決定すべきであるが,仮りにQ熱と名附けることを述べた。ところが,このQの語源について,Derrickは侵淫地であるQueenslandの頭文字をとつたと伝えられていたが,最近,福住2はQuery(疑問)diseaseのQの方が正しいらしいと記載している。しかしDerrich自身は,その原著の中で,Qの語源についてはなんら触れていないため,そのいずれが正しいか判断出来ない。
 Q熱は,嘗ては,濠洲と北米合衆国の一局所にのみ存在していると考えられていたが,第二次世界大戦を契機とし,殊に1945年以来,他の大陸,植民地にまで蔓延し,今日では,濠洲,北米の他に欧洲,小アジア,アフリカ及び南米等にも存在することが報告され,極東にまでその脅威の魔の手が延びつつあるのである。従つてWHO3でも之の問題を取り挙げ,その防疫に努めているのである。

公衆衞生面からみた腺熱

著者: 笠原四郞

ページ範囲:P.11 - P.16

1.いとぐち
 いずみ熱が猩紅熱から分離せられて,その本態が漸く明になつて来た今日この頃,またしても,いずみ熱 と似て非なる不明疾患の集団発生報告が散見せられるようになつた。伝染病の時勢に伴う推移というか,誠に面白い現象である。かかる不明疾患の一つが,これから述べようとする腺熱(伝染性単核症)である。話の順序として,先ず腺熱の概略から始め度い。

流行性肝炎のヴィルス學

著者: 徐慶一郞

ページ範囲:P.17 - P.25

まえがき
 今次世界大戦中独逸軍は東部戦線,ルーマニア,地中海沿岸,殊にリビア,クレタ島に於て米軍は太平洋戦域並に地中海戦域に於て流行性肝炎の爆発的流行に遭遇した。又近時朝鮮戦線の米軍に於てもかなりな流行が報告されている。1本病が軍隊病(Bormann)2と云われる所以であろう。
 我が国に於ては戦後,特筆すべき大きな流行は見られなかつたのであるが,昭和26年より本年初期に亘り全国各地に患者の多発を見ている。詳細な発生状況は後日の調査に譲るが最近に報告され又著者の耳に入つ例でも,九州-熊本,3長崎,4中国-宇部,5岡山,6近畿-山科,7和歌山名古屋,8関東-東京都下,久里浜,等多数がある。特に注目すべきは岡山県下赤盤地区に於ける極めて重症な肝炎の流行であり,その死亡率は13.98%(発生患者93名死亡13名)に及ぶ驚異的数字を示したのである。

傳染性下痢症について

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.26 - P.28

 伝染性下痢症が一つの病気の病名であるということをよく認識しておかねばならない。単に伝染性に下痢をおこす病気という言葉ではないのである。伝染性にひろがる下痢性疾患が大きく流行した場合,しかもそれが赤痢などではない場合に,伝染性下痢対策本部などという名称で,防疫陣が布かれるのを時に目撃するが,伝染性下痢症というのはこの種の普通名詞ではないのであつて,チフス,赤痢,日本脳炎等と同列の一つの確立した病気した病名であつて,その病原体も,伝染性下痢症ウイルスとはつきりしているのである。
 伝染性下痢症は昭和23年の初春に日本全国特に新潟,山形,和歌山等に流行して以来我が国では認識されるに到つた。それ以前に日本に本病が存在したかどうかは詳かでない。併し少なくとも人目にたつやうな流行をおこしたことはないと考えられる。又昭和23年春の本症流行がいかにしておこつたか,換言すれば,その流行の,感染源がどこにあつたかも不明である。その時まで我が国では全然認められなかつたのであるとし,その当時は終戦後なお日浅く,日本軍人,軍屬の復員繁く,又,連含軍特に米軍の住還も盛んであつた頃であるし,感染源が国外にある可能性も一応成立する。そこで国外に於ける本病と同様な症状を持つた病気の流行状況を文献で調査してみると,一つは支那方面に於てそれらしいものがみられる。俗称豊台下痢と言つて,北支北京近郊の豊台に第二次大戦中に往々見られたものである。

所謂給食病について

著者: 尾崎嘉篤 ,   佐竹繁男

ページ範囲:P.28 - P.32

1.発生状況
 本病が初めて認知されたのは,昭和25年9月東京都神田区内の4小学校及び同杉並区内の1小学校において集団発生をみた事例であつた。本件は東京都衞生局の詳細な疫学的調査の結果,学校給食に使用されたソーセージが原因食品であり,いずれも埼玉県下某会社の同時製品であることが知られた。当時「学童奇病」とか「ソーセージ中毒事件」などと,新聞紙上に騒がれたものであるが,その病因物質が何であるかは不明に終つた。
 その後,昭和26年に1例,昭和27年に2例発生を見たが,いずれも同じく東京都内で,学校給食によるものであつた。

カンデイダ,カンデイダ症(モリニヤ症)及び可視粘膜カンデイダ症の治療—内科的疾患の治療に関する私共の基礎実驗

著者: 細谷省吾

ページ範囲:P.32 - P.39

 微生物を原因とする種々の疾病に対して抗生物質療法が日常行われ治療医学は躍進したが,その反面,既成の抗生物質に感受性をもたない微生物特にカンデイダ(モリニア)の如き真菌類に屬するものは所謂交代菌現象の結果として,従来より却つて病原性を発揮する機会が大となつたのみならず,未だ適切な治療法が見出されていないために呼吸系,消化系の重症疾患,深部諸臓器の感染菌血症,敗血症,が内外諸学者から相続いで記載されるに及び,カンデイダ症は世界の臨床医家の研究対象となるに至つた。我国においても昨年来臨床各科の権威者による綜説的論文が輩出し本症の原因,感染の機序,従来の治療法,文献等に就て詳細に説明紹介されたが1〜19有効な療法はないと云う事に一致している。
 今回本誌の編集部から私にも執筆を求められたがこの方面の研究経験は日なお浅いのみならず,与えられた紙数も尠ないので,諸家の記載との重複を避けるためにカンデイダの菌学的地位と自家小実験の範囲に止め自己流の治療研究への基礎実験を略述することにした。

日本に於けるリツケッチオージス

著者: 川村明義

ページ範囲:P.39 - P.42

1.まえがき
 現在世界でリケツチオージス(リケツチア性疾患)として知られているものは,発疹チフス,発疹熱,ロツキー山紅斑熱,リケツチア性痘瘡,恙虫病,Q熱,塹壕熱等であるが,この中日本には発疹熱と恙虫病が地方的に存在する外は定住性を確認されたものはない。戦争病或いは飢餓病と呼ばれる発疹チフスが御他聞にもれず我が国にも今次大戦中から終戦混乱期にかけて北方より浸入流行を極めたことは未だ吾々の記憶になまなましい。しかしこれも社会の立ち直りと共に一部靑森県北端地区に地方性に定住が疑われる以外はいつしか影をひそめてしまつた。しかし依然として北方隣接地区に濃厚有毒地を控え,それとの交通機関や社会状勢によつては媒介動物(虱)が定住している以上いつ何時再び淫浸のうき目を見ぬとも限らないし,それのみか未だかつて一度も発生を見ないQ熱,リケツチア性痘瘡でも媒介動物の存在と濃厚有毒地との貿易交通の頻繁化にともない我国に侵入し人獣を罹患させないとは云い切れない現状である。此の様な状勢を念頭におき,且つ今次大戦を契機として飛躍的進歩をとげたリケツチア学の新しい知識を整理し,リケツチオージスの対策を考えて見たいと思う。

論説

新しい伝染病

著者:

ページ範囲:P.1 - P.1

 十年前には,所謂異型猩紅熱などと呼ばれていたものが,最近では「泉熱」という名称に統一されて来た。名称の統一は新しい独立疾患の確立を意味する。異型猩紅熱といわれていた当時は,新しい疾患か否かを尚疑う人があつたが,今日では既に多くの研究室で病原体と思われるビールスが分離せられ,その同定試験に入ろうとする段階に至つている。やがては感染経路も明かにせられるに至り,予防可能となる日も遠くないであろう。
 伝染性下痢症も戦後問題となつた伝染病であるが,最近余り発生がないが,最近千葉県茂原市に発生した集団下痢症が臨症的には伝染性下痢症と似たものであり,疫学的にはやや異る点もあるが,病原体と思われるビールスを分離したので,伝染性下痢症との異同が目下調べられている。

統計資料のページ

赤痢流行の動き

著者: 金光克巳

ページ範囲:P.43 - P.45

 赤痢の流行も,第4年目を迎えて漸ぐ下降の傾向を示して来た。本年の発生は10月3日現在の簡速統計によると患者数88081名,死者数7324名で,昨年に較べて患者数において約10%,死者数において約26%の減少を示している。
 従つて一般的には赤痢の流行は終つたという考えを持つことができるだろうが,今後流行が急速に減少するか或は可なり緩まんな下降線を辿るか,或は地域的には流行は反つて増加するかどうかと云つた今後の流行の動きは,防疫当事者にとつては重要な問題であると共に,疫学専門家にとつてもまことに興味ある問題であろう。以下昭和24年以降の各地方別の赤痢流行の動きを紹介して今後の動きを知る参考とする。

隨想

思い出ばなし

著者: 飯村保三

ページ範囲:P.46 - P.48

 「老兵は死なず只消えて行」きもせず,減価償却の理法を忠実に柄相当の仕事に精進し,帰来夕食一献静かに草庵の晩景を味いながら多少の感傷に耽るとき,誘われるままにチビペンを運んで見る。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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