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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生15巻3号

1954年03月発行

雑誌目次

特集 乳幼兒衞生の焦点(I)

最近の小兒衞生問題

著者: 斎藤潔

ページ範囲:P.1 - P.2

 乳兒死亡率はいつの世いかなる時代に於ても,その土地の文化の程度を示す指標である。過去数十年に亘り,世界の最低乳兒死亡率を誇つていたオセアニアの小国ニユージーランドは,近年その栄譽を遂に北欧の文化国スエーデンに譲つた。
 欧米に於ける乳兒死亡率は,過去30年間に著しい改善を示し,アフリカ,南アメリカ及びアジヤの諸国をはるかに凌いで低率をつづけている。最近のわが国の乳兒死亡の低率は,欧米のそれに肉迫している。わが国の総死亡率の低下と平均余命の上昇とが,久しきに亘つて足ぶみしていたのは,わが国の乳幼見死亡率の改善が思わしくなかつたことが原因であつた。このように乳兒死亡率はその国の衞生状態を反映しているので,過去30年間のわが国の乳兒死亡率改善の跡をたどれば,最近のわが国の公衆衞生の歴史を繙くことになるであろう。

小兒結核と公衆衞生

著者: 福島清

ページ範囲:P.3 - P.5

 わが国の小児科の臨床において小児結核というと,髄膜炎,粟粒結核,肺門リンパ腺結核等が主として対象となり他の病型は余り相手にされなかつた様な嫌いがあつた。事実日常では上記の様な結核性疾患に遭遇する場合が多いのに反し,慢性肺結核症等は今迄小児療養所一つなかつた吾が国では比較的等閑視されたのも無理はないかも知れない。小児結核全般からみた場合,このような慢性型の結核は比較的少くて而も学令期以上の年令でないと稀れであるということも一つの原因であろう。由来学童の結核は全年令を通じ最もたちがよいと言われている。即ち治り易く死亡率を見てもこの時期が最低を示していることは外国でも日本でも同じである。所が一般の小児結核の関心が深まるにつれて,小児でも成人型のものが決して少いとは言えないことが次第にはつきりしつゝある感がある。又化学療法の急速な進歩によつて今迄の拱手傍観の態であつた幾多の結核性疾患が治るようになつた事は何んと言つても関心を深めざるを得ない様になつて来ている。
 結核感染形式がその大部分が飛沫感染であり,開放性患者との接解のはげしい程うつり易いことも当然で,乳幼児の様ないわば結核処女地とも言うべきものに対しては患者と接することによつてたちまち感染が成立するわけである。外界との接触の少いこれら乳幼児の結核の感染源を追及すると大部分がその家庭内に結核患者が発見されることも幾多の調査が示している。

母子衛生行政—妊産婦指導を中心として

著者: 田波幸男

ページ範囲:P.6 - P.8

1
 日本の母子衞生の現状を一口にいうならば,さして惡いともいえないけれども,よいともいえない。丁度中間にあるような気がする。
 妊産婦について先ず考えてみると我国の妊産婦死亡は以前から比較的低いのであつて,現在では出産1000について約1.5といつた所である。つまり600回強の出産について死亡者は1人であるから実数としても約3000にすぎない。ただ此所で注意しなければならないのは,妊産婦死亡率に低下の傾向が極めて少くて,此の所数年間1.5に停滞してしまつていることだ。海のあちらの米国ではかつて妊産婦死亡率は我国の数倍の値であつたが最近その低下速度が急速であつて2,3年前に我国より低くなり,終に1.0を割つてしまつたようである。これに比べれば我国の妊産婦死亡率の停滞は感心した傾向とはいえない。妊婦死亡は東北地方に多く,妊産婦死亡の原因の中で最も重要なのは妊娠中毒症である。

精神薄弱兒の発見

著者: 小林提樹

ページ範囲:P.9 - P.14

 精神薄弱児を論じようとする場合.先ず精神薄弱とは何であるかということから出発しないとならない。これは大変重要な根本問題であるけれど,それはここでは余り触れないことにしたい。というのは,その定義には仲々むずかしいところがあり,医学的研究であれば的確な定義から決めて行く必要があるが,ここにこれから問題にしようという範囲では,私達の一般常識的な見方で大過なく精神薄弱児を爼上に上せ得ると考えられるからである。又実際には精神薄弱児を確実に選び出すことよりも,その疑いのある者を見つけ出す方がもつと意味があるからでもある。併し,最も妥当と思われる定義だけを加えておくことにする。即ち,精神薄弱とは発育過程において恒久的に智能発育が障碍されたものである。

未熟兒の諸問題—身体状況からみたその予後について

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.15 - P.20

 今後の公衆衞生に課せられた問題として,未熟児の重要性が漸く認識されつつあるのは,乳児死亡殊に新生児死亡に占める未熟児の割合からみても当然の成行である。けれども未熟ということが果してどの程度のハンデキヤツプであるかということは,必ずしも一致した見解を得るに到つていない現状である。「未熟児が学童としては発達の鈍い子供となり,さらに精神病的,或は神経病質的な患者になりがちである」と説くCapper(1928)1)の意見や,「未熟児を救うことに熱意をもち得ない。生残るものが肉体又は精神的異常者(handicapped)になる惧れが多分にある」と漏らしたSir Robert Hutchison(Expresident of Royal Society of Medicine, President of Royal College of Physician, WHO'S WHO, 1939)の言2)も味うべきものがあることを否定し得ない。果然近年報ぜられているRetrolental fibroplasia3)による失明も同様な疑念を投げかけるものであるが,これは未熟児そのものによるよりは,採られた治療方法と関係があるとする若干の根拠4)があるので一部未熟児の必然的運命であるか否かは斯界の進歩に期待する他はない。

公衆衛生問題としてのビタミンD缺乏症

著者: 弘好文 ,   河原崎倜 ,   佐川忠義

ページ範囲:P.21 - P.25

I.頻度
 我が国では,大正の末期頃までは「東京育ちの小兒にみられたるクル病」等という,学会報告が行われたぐらいで,ビタミンD缺乏症は北陸,東北地方の地方病であるかのごとくに思われ勝であつたが,その後,各地からも報告例が増加し,特に終戦後においては日本の各地域で,かなりの頻度にクル病が証明されることが指摘せられて,日本全体の公衆衞生上の問題の一つとして取扱われねばならないようになつた。
 昭和27年7月,札幌において日本小兒科学会総会が開催された時に,その附帯行事の一つとしてクル病についての座談会が行われたが,その際に発表せられたる各地のクル病頻度は次のようである。即ち北海道においては満1年半乃至2年以下の小児において札幌市22%(5月調査),十勝地方41.1%(5〜6月調査),東北地方では主として2年以下の小兒において宮城県17%前後,福島県14%ぐらい,山形県30〜40%,秋田県宮川村25%,靑森25.6%,岩手県30%前後,東京の某乳兒院では22%,京都府の某赤ちやん大会では6.1%,九州の八幡市においては1033名の乳兒中,頭蓋癆17.7%,内の約半数はレントゲン学的にクル病性変化を伴う,鹿児島においては1350名中,頭蓋癆202名,内19名はクル病という数字であつた。

統計資料

母子衞生の統計資料

著者: 長瀨十一太

ページ範囲:P.26 - P.43

母子衛生の統計資料
 最近の母子衞生統計の著しい特徴は出生率,乳児死亡率が激しく減少し,死産率が急増した事である。
 これら母子衞生の主なる統計資料を各項別に以下記述する。

随筆

—おかやまけんちぢ—三木行治氏の縣政診断

著者: 秋田貞男

ページ範囲:P.44 - P.45

 医者で県知事をしている方と云えば『それは岡山県知事の三木行治先生でしよう』とお答えになると思います。他にもう一人居るのですが,三木さんのみを想い起すのは厚生省公衆衞生局長として立派な手腕を見せ,一般に親しみの深い方ですから止むを得ないと思います。

研究報告

学童の食事調査(第2報)—偏食と身長・体重との関係について

著者: 東義夫

ページ範囲:P.46 - P.47

緒言
 学校給食が現在小学校に於いて全国的に実施され,その目的としては栄養の補給,食事に関する道徳心の養成,偏食の絶滅等が挙げられている。
 先に偏食の状況を自家の職業別により究明したが,今回はその偏食が身長・体重に如何に影響するかについて検討を加えた。

新潟縣における出生数の減少に及ぼす人工妊娠中絶の影響

著者: 森田桂次

ページ範囲:P.47 - P.50

 一地域における出生数の減少に及ぼす人工妊娠中絶の影響について研究するに際しては種々の方々があろうと思うが.筆者は流早死産がないと仮定した時,どの位の出生数並びに出生率があるかを統計的に推算し,それを夫々蓋然出生数並びに蓋然出生率と名ずけ,この蓋然出生数と実際の出生数及び人工妊娠中絶件数とにいかなる数的関係があるかを研究した。

学童の手指及び爪垢の寄生虫学的汚染度

著者: 富士田猛 ,   中條惟基 ,   三原庸太郎

ページ範囲:P.50 - P.51

 爪垢中の寄生虫卵,特に蛔虫卵に就いては早くより注目せられ,高野等により報告せられた。又同氏は実験的にも蛔卵が,爪垢内で発育し得る事を観察した。最近では,吉村は農村の学童に,高率であつたと報告し,清水等は,蟯虫卵19.3%に次いで高率に蛔虫卵は検出せられ9%であつたと,発表しておる。又同時に爪垢中より少数の鉤虫卵,横川吸虫卵を検出しておる。清水等は又学童の手指洗滌液より24.3%に寄生虫卵を検出し,内蟯虫卵13.4%で爪垢同様最高を示し,次いで蛔虫卵は10.2%で他に少数の横川吸虫卵,鞭虫卵及び矮少条虫卵の保有者があつた。
 近年塵埃が蛔虫の感染に深い関係を,有する事が注意せられて来た,我々は塵埃その他により汚染せられた,手指よりいかにすれば,蛔虫卵を除去し得るか,而して之等に依る蛔虫の感染を予防し得るかを研究せんとし,次の如き実験を行つた。

重層法による人血清コリンエステラーゼ活性値の檢定法

著者: 田波潤一郞

ページ範囲:P.51 - P.52

 農村に於ける有機燐剤連続撒布者の血清コリンエステラーゼ(以下ChEと略)活性値の変化を知ることは中毒予防の見地から望ましいことである。このためには血清ChE活性値を集団的に何回か繰返して測定しなければならない。Hall & Lucasの方法は優秀であるが,50人乃至100人を対象として比較的短時間内にその活性値を検査することは煩雑であり,試薬を多量に必要とする。多少の精度は犠牲にしても,ある人の活性値が正常の場合に比較してどの位低下しているかを簡単に知る方法が望まれる。著者はアセチールコリン(以下Achと略)溶液pH8.0に修正したものに被験血清を加えたものをクレゾール・レツドを含有する寒天柱pH8.0なるものに重層し,産生された醋酸が一定時間内に寒天柱に拡散することによつて生ずる黄変部分の長さを比較することによつてChE活性値の程度を知ることが出来たので,その方法を記載する。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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