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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生15巻6号

1954年06月発行

雑誌目次

特集 公衆衞生に必要な新藥の知識

癌の治療藥

著者: 石山俊次

ページ範囲:P.5 - P.15

ホルモン
 癌につける薬はない。これが常識であり,定説であつた。H. M. Dye(1949)が1948年までに文献にあらわれた5,000種以上の抗腫瘍剤をしらべたところでは,ほとんど大部分がnegative worksであつて,なお希望をもつて注目しうるものは僅々数種に過ぎない。A. Gellhornの言をかりていえば,癌の治療薬をさがす仕事は,原野に野生の動物をしとめるよりももつとたよりないものであつて,悪性腫瘍細胞に関する空想的な知識をもとにして,かりそめに企てられる癌の薬物治療は,つねに無意味であるのみでなく,ときには有害でさえある。
 いつぽう癌の早期診断と手術及び放射線による治療手段は,過去50年間に著しい進歩をとげたが,しかしそれにも自ら限界があって,5年以上のいわゆる永続治癒率でみても,胃癌の8%,前立腺癌の20%,乳癌の40%,などで,残りの多くのばあいは,最善の手術,最善の放射腺療法にもかかわらず,空しく失われていく事実をどうすることもできない。最近の化学療法にもとめられるものは,このようなきびしい現実から生れたもので,したがつてたとえ単独で癌を根治しないまでも,症状を緩解し,再発や転移を制禦し,手術の限界をこえて進展した癌の進行を阻止してより長く生命を保証するならば,それだけでも有意義なものと考えなければならない。

血圧降下剤

著者: 村上元孝

ページ範囲:P.17 - P.20

 従来高血圧の治療は食餌療法,生活指導,対症療法に限られ,半ば止むを得ざる疾患の1つにされていたが,Hexamethoniumを始めとしてHydrazinophthalazin,Veratrum alkaloid,Hydergine,Rauvolfia serpentivaと血圧を比較的長時間に亘り下降せしめる所謂血圧降下剤の登場は臨床医家のみならず,一般世人に1つの大きな問題を提供した。
 高血圧者剖検屍に於ては血圧の高いもの程動脈硬化殊に脳動脈硬化,冠硬化は高度で,脳出血,脳軟化,心不全心筋梗塞,心筋胼胝も高率に出現し,予後の面からも血圧の高いもの程不良の為,何等の副作用を呈する事なく,血圧を正常血圧或は其に近い血圧に下降せしめ得るならば此等合併症の出現頻度も減じ,血圧降下剤は高血圧症の拔本的治療法でなくとも高血圧治療の一大進歩と言わなければならない。然し現実には此等血圧降下剤は其使用に当つて尚多くの問題を残している。

γ-グロブリン

著者: 平井秀松

ページ範囲:P.21 - P.26

1.まえおき
 γ-グロブリンという物質はもともと純粋な物理化学的概念で定義されるが,抗体成分が多くはγ-グロブリンとしての性質をもつているので,γ-グロブリンという言葉は同時に抗体グロブリンの意味を含んで使われることが多い。又それが故に重要な物質なのである。
 γ-グロブリンという言葉を説明するためには電気泳動法の説明にさかのぼらなければならない。電気泳動とは溶液の中に陽と陰の電極を入れると,溶液中の溶質粒子が自分自身の帯電に従つて陽極または陰極に向つて動く現象をさすものである。従つてこの方法により溶液中の帯電物質の分析ができるので,古くから化学的な研究に用いられてきた。蛋白質も溶液中でその溶液のpHに支配されて帯電しているので,矢張りこの電気泳動分析の対象になる。電気泳動法には色々な方法があるが,スエーデン,ウプサラ大学のTiselius教授が考案した方法は極めて精巧であり,今迄に現れた方法のうちである意味でもつともすぐれたものである。この方法は今日Tiseliusの電気泳動法(1)と称して広く世界中に行われている。この方法については次項にのべることにする。

輸血代用品

著者: 大村泰男

ページ範囲:P.27 - P.32

1.いとぐち
 輸血代用品なる題目で執筆を依頼されたがこの言葉は輸液を研究している者にとつては,好ましい響を与えない。一般に代用品と称せられる物は本物よりとにかく落ちるものと,相場がきまつている。現在のわれわれの努力は,輸液をして輸血代用品の名を返上させる線まで向上せしめることである。
 とは言え,輸血,すなわち全血輸注は,今更ながらその臨牀効果の多面的なことに驚くのである。これを今日の輸血代用液が全て果し得ているとは,とても言えない。僅かにある一面を代用しているに過ぎない。それでは同液に欠けている点は何か。いろいろ思いつくのであるが,最たるものは酸素呼吸に関与するヘモグロビンを欠くことである。Hbはまだ人工的に造り得ないから,Hbを輸液の一成分として用い得るまでに到つていない。現在は後に述べるように輸液の研究が進歩したので,その他の点では,例えば給水効果,取扱いの便利,運搬及び保存性のあること,副作用の少いことなどでは,輸液の方に秀れた分があるけれども,危急の場合にはまだまだ輸血にかなわないから,輸血代用品なる言葉は,いまだ返上の時期に達していない。今後の発展を期待するのである。

消毒剤

著者: 八田貞義

ページ範囲:P.33 - P.40

 公衆衛生上の消毒は研究室内作業の滅菌と同程度を目標とする。したがつて煮沸消毒ならば十分長時間沸騰点に保つ,ガーゼ・繃帯などは高圧蒸気法による。薬液消毒も十分その濃度と作用(浸漬)時間と温度とを大きくするように心がけねばならない。硝子器具(注射器など)は乾熱滅菌するがよい。消毒にはまつたき知識と誤りない操作とが要求され,決していゝ加減のものであつてはならない。ワクチン,血清をはじめ,一切の予防用,治療用,診断用の製剤を皮下,静脉内,皮内,筋肉内などに注射するに際し,従来この国の医家はあまりにも手軽に不注意に病原菌の迷入に対する防禦法を軽視してはいないか。注射部位の発赤・疼痛なども,その製剤本来の避くことのできない反応と視るものもあろうが,消毒の不完全などにもとずく医師の怠慢過失によるものと反省すべきものなければ幸いである。
 以下紙数の関係もあるので主に化単的消毒剤,それもそれらの生物学的意義特に消毒作用について述べ,化学的特性について述べる考えはない。それは別に人がある。われら生物学徒はそれを薬物化学者にお願いして少しも恥ではなかろう。

新しい驅虫剤と殺卵剤

著者: 小宮義孝

ページ範囲:P.41 - P.46

 新しい駆虫剤と殺卵剤について書けとの註文であるが,駆虫剤はともかく,寄生虫の殺卵剤として実際に広汎に適用しうるまでのものはなく,みな目下研究中に属するものである。だからそういう意味で殺卵剤については最近そのホープと思われる2〜3のものにつき進歩研究の跡をたどつて書くこととした。

新しい農藥とその中毒

著者: 上田喜一

ページ範囲:P.47 - P.51

 古くは農薬は砒酸鉛,砒酸石灰,硫酸銅のような無機化合物か,硫酸ニコチン,除虫菊のような天然物であつたが,大戦後多数の合成物質が発見され,古いものは次第に新しいものにより駆逐されつゝある。
 又農薬の概念も拡張され,単に殺虫,殺菌の目的に止まらず殺鼠,除草,植物成長調整(発芽抑制等)を目的とする薬品も包括するようになつた。

ねずみ昆虫驅除剤

著者: 鈴木猛

ページ範囲:P.52 - P.57

 予防医学のいちばん外側をうけもつ仕事に鼠族昆虫の駆除事業がある。これは甚だ地味な仕事でありながら国民の文化の程度を直接に反映し,その成果は国民生活の向上に寄与するところが大きい。我が国でも年々この事業が活溌になり,モデル地区をさきがけとして全国に蚊やハエや鼠のいない郷土が続々と建設されるような機運になつてきた。この事業の立役者はいうまでもなく殺虫剤,殺鼠剤を中心とする各種のいわゆるEconomicpoisonである。第2次大戦を契機としてこの分野の薬剤の発展にはめざましいものがあるが,その殆んどが欧米の着実な研究の成果によつており,環境や風土の相違によつて独自な発展が期待されているその応用の面に於てさえも,我が国の実情としては残されている問題が甚だ多い。こゝでは殺虫剤,殺鼠剤,防虫剤(忌避剤)などにつき,我が国における最近の進歩を中心に特にその応用面の発展について解説を加えてみたい。

麻醉に関係ある最近の藥剤

著者: 山村秀夫

ページ範囲:P.58 - P.63

 麻酔関係の新薬についての最近の発展は目覚ましいものがあつて,いまこれを詳細に説明することは到底不可能のことであるが,こゝではその主なるものをごく簡単に紹介することにする。

麻藥と覺醒剤

著者: 竹山恒寿

ページ範囲:P.64 - P.67

 麻薬も覚醒剤も同じように社会的関心を持たされている薬品で,どちらもすぐれた薬効をもちながら"悪の薬"として名声が高い。薬にも,直接に感覚的な刺戟を人体に与えるものと,そうでないものとがあり,アルコールや催眠剤または麻薬や覚醒剤は,これを使つたときに特有な感覚的刺戟があることで知られている。こういう薬効を持つている薬は,本来の目的をはなれて嗜好品として使われる可能性ができてくるわけである。アルコールや阿片のように,はじめから嗜好品として出発したものもあるけれど,阿片アルカロイドの誘導体や覚醒アミン,パルビツール酸催眠剤,抗ヒスタミン剤などは,何も嗜好品としてつくりだされたものではない。しかし,そのもつている作用が一種の快感刺戟として働くために,人はこれを追求し連用し溺れこみ,ついには慢性中毒となつて心身を荒廃させ,社会的にも大きな問題を提供しているような始末である。ことに麻薬と覚醒剤のばあい,その害毒が大きいので,法律的にも特別な取締法がつくられて,濫用がいましめられているけれど,中毒者はあとを絶たない。麻薬の中毒者は日本全国に10万から20万人いると推定されているし,覚醒剤中毒者は50万人,あるいは100万人と称されている。どちらも違法行為である薬物耽溺なのでその実数はつかみ難い。しかし地域的な実態調査をすると,麻薬中毒者は10万人を超すと思われるし,覚醒剤中毒者は70万から80万人くらいは存在するように推定される。

抗酒剤

著者: 高橋宏

ページ範囲:P.68 - P.70

 元来ゴム工業に地味な役割を演じていたDisulfiram(Tetraethylthiuram Disufild)が,生体のアルコールに対する耐性を著しく低下する作用を持つことを偶然発見され,これがデンマークの科学者Jacobsen及びHaldによつて初めて記載され,更に同国のアルコール中毒専門医である。Martensen-Larsenが,アルコール中毒治療剤としてのこの薬品(商品名Autabus,アメリカ及びカナダではAntabuse)の使用経験を発表してから,足かけ7年の歳月が過ぎた。
 日本でDisulfiranがこの目的に使われたのは昭和25年であり,われわれの教室では,現在まで800を越える患者が,昨年春よりNocbinの名で製品化されたこの薬品を投与された。

EDTAについて

著者: 勝沼晴雄

ページ範囲:P.71 - P.74

 EDTAは,アルカリ土類から重金属に至る広汎な範囲に亘る元素と所謂キレート化合物を作る性質があり,更にその化合物は水溶液でイオン化しないので,理工学,医学等の各方面で,かなり注目を集めている。特に放射性元素の重要性がクローズアツプされる様になつてからは,一部の放射性元素による生体の内部曝露障害(Internal Hazard)の治療の面で,一層本剤の重要性が増して来た。
 EDTAは,Ethylene Diamine Tetra-Acetic Acidの略称であるが,又Versene(市販名)などとも呼ばれている。この物質は最初Schwazenbach及びAckermann(1947)によつて記載せられたが,その後欧州及び米国の学者達によつて,その基礎的性質に関する研究が行われ,これと竝行して,その応用的方面の研究も熱心に行われて,文献の数も既に相当多数にのぼつている。ここでは主として医学の分野における本剤の応用について述べるが,順序として先ずSchwazendach等によつて行われた基礎的研究の概略を紹介しておく。

放射線障害とその對策

著者: 津屋旭

ページ範囲:P.75 - P.82

 ここに云う放射線とはIonizing Radiationの意であって,X線のみならず,天然並びに人工放射性物質(以後RIと略記する)から放射されるα線,β線,γ線其他を総称する。之等は何れも電離作用を有するものであつて,之に伴う放射線のエネルギー吸収が,放射線の生物学的作用一障害作用の根源をなす事は云う迄もない。
 Röntgen教授によるX線の発見,Curie夫人によるRadiumの発見は近代科学の魁けをなすものであるが,その発達の歴史に放射線障害による幾多の尊い犠牲が払われている事は,Ehrenbuchder Röntgenologen und Radiologen aller Nationen(Strahlentherapie,1937)の中に詳細に記載されているが,吾国に於いても亦その例に洩れるものではない(1)。多年に亘る放射線診療の犠牲として再生不能性貧血で斃れた京大故末次教授,骨髄性白血病の長崎大故永井教授の名前は吾々の記憶に新しい。更してこの様な放射線障害が現在如何なる傾向を示しつつあるかという事は我国の公衆衛生上一つの重要な研究課題たるを失わないであろう。

放射能による食品の殺菌保存

著者: 尾崎嘉篤 ,   山田幸孝

ページ範囲:P.83 - P.86

 1.
 人工放射性物質Radioisotopeの医療面,研究面,工業面における利用は,既に人のよく知るところであり,又極めて目ざましい発達を示しているが,近時,これを食品の殺菌及び保存に利用しようという試みが主としてアメリカで行はれ,相当な成果をあげている。

防腐剤のあり方

著者: 宮木高明

ページ範囲:P.87 - P.92

1
 防腐剤は広く微生物侵襲に対抗する手段としてその価値をもつている。人畜の生体に疾病を起させる場合,或は栽培植物の病変原因となる場合を特別扱いする以外は抗微生物的な手段として薬物を利用する場合,防腐剤という名称が正当に用いられるといつても過言でない。
 従つてそれは近代に於て特異な進歩を示している化学療法剤や抗生物質剤などと近似した性格をもつているし,事実これ等と平行してその研究なり技術なりが育てられるべきだろう。しかし,いわゆる防腐の対象となるものの,性質や価値によつて全く別の問題が生じてくることを注意しなくてはならない。

新しいホルモン剤

著者: 古沢嘉夫

ページ範囲:P.93 - P.94

 新しいホルモン剤という場合,今日市販されているホルモン剤をながめると,必ずしもホルモンとしては新しくよいが,製剤としては新しいホルモン剤の中に入れなければならないものがある。
 第1類はホルモンとして比較的新しく臨牀と応用されるようになつたもので,コーチゾン,ACTH,パロチン等である。

藥品の輸入と国産

著者: 小幡昌利

ページ範囲:P.95 - P.97

 近年世界の医薬品類の進歩は目覚しく,戦後のスルフアダアイジン,ストレプトマイシンを始めとする新抗菌性物質,コーチゾン,イソニコチン酸ヒドラヂト等,続々と新しい医薬品が我が国に輸入され医療の面で寵児となつているが,これら輸入薬品の概況とその変遷の一端,国内の医薬と品の生産との比較を統計の面から概観して見たい思う。
 限られた紙面であり又統計資料として現在最も正確なものは,輸入統計については大蔵省の日本外国貿易統計,生産統計は厚生省の薬事工業生産動態統計であるが,貿易統計の分類が生産統計の如く細分されていないため,多少の相異及び細部についての検討が出来得ない点はお許し願いたい。なお,現在医薬品の輸入に関する外貨運営の方針は,他の物質と同様国産不能の医薬品原料に重点を置く外,製品よりバルク,更に中間原料又は粗原料の輸入に可能なる限り置き換える措置が取られており,国産の推進が画られていることは云う迄もない。先ず茲数年間の医薬品等の輸入に対する措置はどうか,それは第1表の輸入予算額の通り昭和28年迄年々増加を続け,これを境として昭和29年からは下降の状況と見ることが出来る。更に減少して原料を除いて医薬品の製品(主としてバルク製品)のみの輸入は,現在伸びつつある医薬品の輸出が同様に伸びたとすれば,両者同額の年間約70万弗(約25億円)と見込まれている。

論説

公衆衛生と新藥

著者: 酒井威

ページ範囲:P.1 - P.4

 水爆被害漁夫の放射線火傷に,EDTAという新薬が送られたと新聞が報じて居る。EthyleuDiamine Tetra Aceticacidの略字である。之に類する医薬品は,Hypotonin(E. D. Valerianate 1922)と,E. Dに琥珀酸を結合したHypotonal(大正14年田村)とが,何れも血圧降下剤として市販されて来たが,E. DTAの如き化学構造式の物は,従来二価陽イオンの定量試薬には賞用されたけれ共,医薬品としては正に新薬である。然し今日の使用法では,公衆衞生の新薬ではない。該事件以来,無難な鮪までが,需要消費が少くなり,為に之が売れ残つて鮮度が落ち,非衛生に陥る怖がある。昨年の米国化学会では,Tarr氏が,魚類を貯蔵する氷の中に,1ppm. の割に,クロロテトラサイクリン(オーレオマイシン)を含有させると,鮮度が長期間保続出来る事を発表して居る。同様にDetherage(1953)は,獣肉動物の屠殺直後に,上記抗生物質を淋巴節に注射すると,死後の変化を永く防止し得ると云う。オーレオマイシンは1948年(Duggar)以来の薬であり,今日では果して新薬に属するか否かは知らないが,立派に食品衛生上の,即ち公衆衛生の薬品でもある。
 新らしい薬品は,世界の各地で毎日のように誕生する。誕生前に充分に実験検討されても,世に出てから改めて評価されて,或は夭折し或は延命して人類のために活躍する。

隨想

新藥ばやり

著者: 三堀三郞

ページ範囲:P.98 - P.99

 だてやすいきようで薬を飲んだり注射したりする者も無かろうが,この頃のように新薬続出で新聞,雑誌,ネオン,ラジオ,テレビで,これでもかこれでもかと言わんばかりのどぎつい宣伝広告で圧力を加えられたんでは,医者もそうだが,病人にしたつて,何となく使つてみたくなるのも人情である。医者にしてみれば,手際よく治して患者に気をよくしてもらいたいし,病人にしてみれば,いち早くその恩恵に浴して,君ありやよく効くねお蔭ですつかり楽になつたよなどと,新物食いの誇りを持つてみたい気持ちもあるから,新薬がはでな広告でお目見得すると,医者も病人も一応は使つてみたくなるものである。こんな心理から,薬の世界にも何となく流行といつたようなことが成立してしまうのである。
 藥の広告というものは,ほかのものの広告とはちがつて,薬事法でなんのかんのと制限をうけることになつている。医薬品適正広告基準といういかめしいものがきめられていて,始めに製造の許可をうける時に申し出た効能効果の外には,改めて,許可なしには勝手に効能効果を広告してはいけない。公認とか推せんとか書くことも許されない。なお品質,効能,効果に関しては最大級の形容詞を用いてはならないことになつている。この点は過信することによる危害の防止ということで,他の物品の広告にくらべて厳しい点である。多くの医薬品広告で違反事例の最も多いのはこの点である。

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新しい結核藥

著者: 川上保雄

ページ範囲:P.2 - P.2

 Streptomycin(SM)がWachsmannにより抗結核性抗生物質として登場して以来,最近数年間に多数の結核症に対する化学療法剤が表れ,結核の治療法を一変した觀のあることは周知のことである。以下主要なる結核化学療法剤を擧げて見る。
 抗生物質:SM,及,Dihydro-SM(SMのストレプトーズの-CHOが-CH2OHとなつている。副作用としてSMの方は前庭神經障害Dihydro〜SMの方は蝸牛神經障害,をおこしやすい)。最も早く表れたものであるが,現在でも最も有効な化学療法剤である。此等は当初1日3gという様な多量の連日注射が行われ,副作用も従つて多かつたが,その後1日0.5〜1g更に週2回の間歇投与で少くとも慢性肺結核に対しては効果は同様で,副作用はずつと少くなり,且藥剤に対する耐性出現率をも減らすことが出来た。然しシユーブ,粟粒結核,特に腦膜炎では,やはり強力投与の必要があり,その副作用も多い。この副作用を防ぐ為複合SMが作られた。SMとDihydroSMを夫々に50%混合したもので副作用は夫々単獨の場合に比し遙に少いという。

酵素製剤

著者: 副島圭一

ページ範囲:P.3 - P.3

 最近の臨床に使われている酵素製剤を概觀してみる。
 消化酵素Diastase.Pepsin.Lipase,Pancreatin等特に述べる必要もない

抗生物質

著者: 大竹喜彦

ページ範囲:P.8 - P.9

 抗生物質とは一言にして云えば,微生物の産成した物質で,他の微生物発育に拮抗するものである。その発見された種類は約250種にも及び,その中いくつかの治療藥があるが是等に就て主な適應症を列擧すれば大体次の通りである。
ペニシリン(Penicilliun notatum)

庇肝剤

著者: 高橋晄正

ページ範囲:P.12 - P.13

肝は生体最大の器官で,多くの他器官と密接な機能的関連性を持ち,複雜多岐なその機能に関する研究は,近年急速に進歩し,治療面にも新機軸をひらいたとはいえ,未だ永山の一角を窺わせているに過ぎない。以下庇肝剤として用いられているものを,糖質・蛋白質・綜合アミノ酸剤等の基礎榮養物,酵素系に関与する特殊アミノ酸及びビタミン類,解毒剤,腸内細菌による腐敗産物産生を抑制する抗菌物質,腦下垂体副腎系ホルモン等に分けて簡単に紹介する
 1.糖質 肝機能が健在である為の1つの條件は肝細胞内に多量のグリコーゲンの存在することである。經口的に投与出来ない場合や急を要する場合には5%液皮注,10%液点滴靜注を大量に行う。糖同化機能に障碍ある場合に高張液の大量を短時間に与えるのは良くない。種類としてはブドー糖よりも果糖の方が肝に対する沈着率が大きい。インシユリンは筋グリコーゲンへの糖質移動を来す結果肝グリコーゲンを減少せしめ却つて良くない。

解毒剤

著者: 三好榮一

ページ範囲:P.15 - P.15

 解毒剤として用いられる藥物に消化管内に残存する無毒性或は不溶解性或は不溶解性に変化させる目的で用いられるものと,体内に吸収された毒物,又は体内で生じた毒性物質を解毒する目的で用いられるものとある。

齒科の藥

著者: N生

ページ範囲:P.26 - P.26

 齒科に使用する藥と云つても他科に使用する藥と全く違つた藥が使用せられるものでなく,又その目的を異にするものでもない。従つて使用する藥の適用も他科と同様に全身投与も局所投与も行われている。
 しかし齒科領域は解剖学的にも生理学的にも色々な特徴があるため,特に歯牙と云う特殊器官があることと,この齒牙が顎骨内に植立して粘膜が,これら顎骨並に歯頸部を被う特別な関係が複雜であるため,治療の目的によつて使用する藥にも特別な考慮を拂う必要のあることは他科におけると同様である。そのために特に歯科用に作られている製剤も決して少なくない。

強心剤に就て

著者: 土肥一郎

ページ範囲:P.30 - P.31

 強心剤の中,カンファー,アミノコルヂン,コラミン等は中樞を興奮させ,ヂギタリス系の藥及びストロファンチンは心筋の働きを増大し,キサンチン系のものは冠循環を改善するといつた工合に夫々特有の働き方を持つている。これらの他に考慮に入れて置くべき作用としてアヂスチン及び心臟ホルモンがあり,更に重症心不全の治療の立場からは,水銀利尿剤を忘れることが出来ない。
 中樞興奮剤は心臟の自働中樞,血管中樞,呼吸中樞に作用し,それの機能を高める様に働く。従つて急性心臟衰弱,ショック等の急性循還不全に用いられる。これに屬する藥物の中,ビタカンフアーは最も慣用され大量を用いても危險の少いものである。カルヂアゾール,コラミン,ネオスピランはむしろ呼吸麻痺を救うための中樞興奮剤として用いられる場合が多いが,これらはビタカンファーに比して痙攣を起し易いから用量及び使用時の患者の状態に注意が要る。

ビタミン剤

著者: 吉川春寿

ページ範囲:P.51 - P.51

 最近ビタミンと云うことばが特に大衆化されて,どんな人でも食物にビタミンが含まれていなければいけないのだと云うことを知つている。また,手許にある榮養学の教科書をとつて見てもビタミンと云う項目に提供しているページが全体の非常に大きな部分を占めている。このようにして,今やビタミンにあらずば榮養にあらずと云うような時代を現出しているがどうもわれわれの眼から見ると行き過ぎのように思われる。ビタミンは身体内でいわゆる3大榮養素即ち糖質,脂質,蛋白質が代謝をうけてエネルギーを発生する過程及び種々の無機物質が身体に利用される過程を調節するところの微量で有効な物質であつて,ビタミンなくしては完全な榮養は保てないのであるが,しかし,ビタミンが他の榮養素に比べて特に身体に重要であると云うわけでもなく,いわんやビタミン剤を服用したり,注射したりしていればそれで榮養滿点というわけのものでもない。それなのに,世間では何かビタミンが靈妙魔迦不思議の力をもつもののような印象を受けているようである。
 こうなつた理由は,主としてビタミン研究の歴史とその研究結果が企業とむすびついたというところにあると思う。即ち,ビタミンが微量で有効であり,又化学的にはいろいろの複雜な有機化合物であつて,化学者の学問的興味をそそるものであつた。

気管支喘息の藥物療法

著者: 北原靜夫

ページ範囲:P.54 - P.54

 気管支喘息の治療には非発作時の根治療法と発作時の藥物療法とが問題になるが此所では後者につき解説する。喘息発作は如何にして起るか。之には色々の説があるがWarren,Dixonは肺の毛細管の傷害による充血,水腫が気管支閉鎖の最重要な因子であり気管支筋収縮による呼吸障碍は極く早期段階のみであると。Alexanderはヒスタミン様物質が毛細管の透過性を亢進し平滑筋を収縮して喘息発作を起すのであろうと説明している。
 近年Halpernはアンテルがヒスタミンにより誘発される喘息発作に非常に有効なことを知つた。以来種々のより優れた抗ヒスタミン剤が合成された。FeinbergUnger等多数の研究者の經驗では抗ヒスタミン剤は喘息発作の起る前の咳嗽とか呼吸困難を伴わない痙攣性咳嗽には良く奏効するが著明な発作には到底アドレナリンに及ばない言う意向が強い。

膏藥

著者: 谷奧喜平

ページ範囲:P.59 - P.61

 皮膚疾患の治療に膏藥療法の重要であることは昔も今も変りはないが,その様式と理論は最近大きく進歩した。現在皮膚科で使用する膏藥は次のように大別せられる。1)粉末剤,2)油脂性軟膏,3)乳剤性軟膏,4)水溶性軟膏,5)ローション剤である。茲には戦後急速に注視を浴びた乳剤性軟膏,水溶性軟膏に就いて述べることにする。

抗リウマチ剤

著者: 横山巖

ページ範囲:P.62 - P.62

 1949年Hench,Kendall等によつてCortisone療法が発表されて以来,リウマチ性疾患治療の上に一大進歩がもたらされた。併しリウマチ性疾患は未だにその原因が不明である為に原因的治療を行うことが出来ず,従つて決定的ならざる数多くの治療法が行われている。
 サリチル酸製剤:サリチル酸,ソーダアスピリン,アミノピリン,フナエセチン,アトフアン,ザリチル酸アミド,イルガピリン等が用いられている。此等の中てイルガピリンは,1949年スイスのStenzelによつて合成されたButazolidinとアミノピリンの等量含有藥で注射藥1筒5cc中にブタゾリヂン,アミノピリン各々0.75gを含有して居り,その効果は他のサリチル酸剤に勝つている。サリチル酸剤の副作用としては食欲不振惡心,嘔吐,発疹,耳鳴,難聽,無顆粒細胞症等が擧げられる。

自律神経遮斷剤

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.63 - P.63

 自律神經遮断剤Autonomicblocking drugsは,TEAが實用に供されて以来注目されて来たが,旧くより知られている麦角アルカロイド,アトロピンスコポラミン及びニコチン等も廣義の自律神經遮断剤と考えられる。而しここには新に合成された遮断剤について述べる。

イオン交換性樹脂の醫学への応用

著者: 斎藤泰弘

ページ範囲:P.70 - P.70

 合成樹脂は工業方面に於ては硬水の軟化,蒸溜水製造,分析化学等に應用されていたが1947年以来臨床的にも應用せられるようになつた。淡黄色,褐色乃至黒色の無定形,無味,無臭の微砂状をしており,その構造は合成材料,方法によつて異なるが1例をphenolsulfon酸とFormalinの縮合体をもつて示せば左のように表わされSO3H基のHがイオン交換能を持つており通常R-SO3Hと略記される。合成樹脂自体は溶解しないがその多乳性の構造により電解質溶液を滲透させイオン交換を行う。陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂が區別せられ前者には前記R-SO3Hの他R-COOHがあり後者はR-NH3OHが使用されている。
(A)陽イオン交換樹脂通常R-COOH,R-SO3Hの2種が,使われているがこの型ではHが交換されるのでH型と呼ばれこのHがNa,Ca,K,NH4で交換されたものを夫々Na型,Ca型,K型,NH4型と呼ぶ。1例をあげるとR-SO3H+NaOH→R-SO3Na+H2O尚,再生するにはR-SO3Na+HCl→R-SO3H+NaCl

抗ヒスタミン療法

著者: 北原靜夫

ページ範囲:P.82 - P.82

 1927年Daleは抗原抗体反應の結果組織中にヒスタミン又はヒスタミン様物質が遊離してショツクが起るのではないかと提案した。又気管支喘息,蕁麻疹等のアレルギー性疾患の場合にも患者がアレルゲンを攝取すると体内にヒスタミン様物質が生じ之がアレルギー性症状を起すものと称されている。臨床的にもこの際組織中に遊離して増量したヒスタミンを破壞してその疾患を治療せんとする企が既に10数年来試みられた。
 ヒスタミン破壊酵素であるヒスタミナーゼハベ試驗管内でヒスタミン相当強力に破壊するが三澤教授,Rackemannによるとアレルギー性疾患にはさ程奏効しないようである。1939年RosenthalはThymoxyäthyl diäthylameu< ̄_><CH8CH3O-CH2-CH2-N<C2H5C2H5がヒスタミンによる天竺鼠の腸管収縮を特異的に抑制すること,又皮下注射により痛覚が失われることを述べておる。

「クロロフイール」について

ページ範囲:P.92 - P.92

 脱臭剤,創傷治療剤,増血剤,抗アレルギー剤等の藥剤としてわ勿論のこと,化粧品,キヤラメル煙草,歯磨その他社交用品に迄加工使用されているクロロフイールは,果してどの程度の価値効用があるものであろうか。現在迄にもその抗菌力の無い事,脱臭作用の不明なる事を発表している学者もあるので,ここに医学的考察を加えつつその概略を述べたいと思うクロロフイール(葉縁素);Willstätterが葉緑素の化学構造を決定した,a型はC55H72N4O5Mg,b型はC55H70N4O5Mgの構造式を有している。しかしこれは殆んど藥効を有せず着色剤としてのみ用いられる。クロロフイール誘導体;Burgi(1930)がchlorophyllin Na塩を創傷治療に用い有効である事を発表した。このクロロフイリンも水に溶かすと不安定なため漸次改良されて,カリウム塩,銅塩,亞鉛塩等の誘導体が出現し臨牀への應用が目覚しくなりたのである。藥効;クロロフイールが構造上血色素に類似する事からBurgi(1916)は広範囲な動物實驗より抗貪血剤として著効のある事を発表した。以来多数の学者が追試し比較的効果のある事を認めている。

新しい避妊藥

著者: 古澤嘉夫

ページ範囲:P.94 - P.94

 避妊藥には直接精子に作用して殺精子力をあらわす従来の膣内に用いる形式のものと新たに登場しようとしている経口避妊藥がある。
 殺精子剤の主藥としては酢酸フエニール水銀と硫酸オキシヒノリンであつて,しかも現在日本では酢酸フユニール水銀のみが使われている。その後實用性のある強力な殺精子藥はあらわれないようである。避妊藥使用者の方からいうとゼリーと錠剤が圧倒的に多く器具併用にはゼリー,単獨には錠剤というのが今日の趨勢であつて,おちつくところにおちついたという感である。

ヒアルロニダーゼの臨床的応用

ページ範囲:P.97 - P.97

 近年臨床各科に亘りて急速廣汎に利用を見る様になつた藥剤の一つにヒアルロニダーゼがある。現在市販せられているものは,牛睾丸より抽出せられたもので,本酵素は結合組織の基質の主要成分たるヒアルロン酸を分解してその粘稠性を低下せしめ,以つて組識透過性を著しく亢進させる作用がある。
 本剤の臨床的應用面を大別すると①皮下に大量の液体を注入する場合に②滲潤麻酔及び傳達麻酔に③病竃内の藥剤濃度を高める目的に④人工採精に⑤癒着の防止及び剥離に⑥皮膚掻痒の治療に⑦ヒアロルロン酸含有器官の内圧が病的に昂進した場合に等である。之等を簡単に逐條解説すると,

研究報告

青酸ガスに対する抵抗減弱者に関する研究

著者: 佐藤徳郞 ,   福山富太郎 ,   山田美恵子

ページ範囲:P.100 - P.104

 検疫方面で青酸ガスくん蒸を実施するとき,くん蒸員の事故ばかりでなく,くん蒸完了後船室に入つている人達にも事故がおき死亡することがある。
 青酸ガスの所謂恕限度は従来20ppmで,最近10ppmと考えられる動きが強い。この恕限度は8時間労働における安全限界と考えられているが,Patty(1949)の成績(1)によれば18〜36ppmでは数時間後に軽い症状が出,110〜135ppmでは1時間で生命に危険があり45〜54ppmでは30分〜1時間で相当の症状が現れるといつている。これらの成績から判断すると,恕限度と危険な症状の出るガス濃度との間のひらきが余りに少く,恕限度の10ppmという数字が,青酸ガスの洩れる環境に適応した人達にとつての安全な数字ではないかと考えられる。青酸ガスくん蒸完了後に船室を使用する人達は色々な人達があつて,主として青酸ガスに適応していない人々であるとみられ,なお種々の身体的な故障を持つ人をも包含するおそれがある。何か身体的な欠陥があつて青酸に対する抵抗が衰えていた場合には,普通の人であれば症状をおこさないような青酸量でも死亡する場合のあることが想定されるので,生物学的な実験からそれらの関係を明かにしようとした。

石灰窒素のレプトスピラに對する作用—石灰窒素浮遊液の試験管内におけるレプトスピラ殺滅作用並にその加熱による減弱

著者: 八田貞義 ,   山地幸雄 ,   田中弘子 ,   山内信

ページ範囲:P.104 - P.105

 1917年遠山が黄疸出血性レプトスピラに対する石灰窒素の殺滅作用を,試験管内及び人工水田において認めて(1,2)以来,石灰窒素肥料が水田における作業に由来するレプトスピラ症の防疫に有効であることは,広く認められている(3,4)。しかしその殺レプトスピラ作用の本態については,未だ報告がみられないようである。
 吾々はそのための検討を試みるべく,まず石灰窒素の試験管内におけるレプトスピラ殺滅作用ならびにその留水浮遊液を加熱した際の作用について実験を行つたので,以下にそれを述べる。

ヘノポヂ油製剤と四塩化エチレンの併用による蛔虫及び鉤虫の驅除成績

著者: 大場一兵衛 ,   甲斐田晃

ページ範囲:P.106 - P.107

1.まえがき
 鉤虫寄生者の中には蛔虫を同時にもつているものが相当に多く,著者等の検査集団においても鉤虫寄生者の約57%に蛔虫の同時寄生者が認められた。一般に鉤虫駆除薬の中には,同時寄生の蛔虫を刺戟して不測の障害を来す場合があるといわれている。かかる同時寄生者の駆虫,殊にその集団駆虫に用いて適当であると思われる方法が得られたので茲に報告する。

乳幼兒の身体発育判定図表について

著者: 山口健男

ページ範囲:P.107 - P.109

 乳幼児の身体発育を判定する場合,測定値を標準値と比較することは通常行われる所であるが,その比較も莫然と少し大きいとか非常に小さいとか云うだけでなく,その差をパーセントなり標準偏差単位で示しておくなら月令や男女の構成の異る乳幼児の集団の比較や同一の乳幼児を長期間に互つて栄養指導した場合の効果判定などに非常に便利である。併し個々についてこの計算を行うことは面倒であるので計算図表により簡単に算出する方法は以前発表した1)が今回厚生省で新しい基準値が発表されたので2),本基準値に基いた図表を作成してみた。尚基準値との比較をパーセントで行うか,標準偏差単位で示すかの問題は,例えば体重の場合は10%の差は大して珍らしくないが,頭囲における10%の差は極めて稀である。即ち体重も頭囲もともに基準値より10%多い又は少いからと云つて両者の均合いがとれていると云うことは出来たいので,同じ10%の差でもこれに対する評価は異る。この点標準偏差単位で示す方法は合理的で,今回の厚生省の基準偏差単位をもとに上中下が決められている。従つてここに発表する計算図表もこの方法によつた。

野菜附着蛔虫卵の各種洗滌方法による除去率について

著者: 小宮義孝 ,   和泉精一

ページ範囲:P.109 - P.112

 私たちが日常ふつうに生食する野菜の品種は調べて見ると意外に多く,特に蛔虫感染に密接な関係を有する白菜,大根その他の葉根菜が全年間を通じ又は殆ど年間を通じて出廻つており,又これらの市販品から蛔虫仔虫期卵が証明されている以上(小宮,小島,1954)かような野菜附着蛔虫卵の消毒ないし除去は蛔虫感染予防の重要問題である。然るに蛔虫卵の化学的処理による殺滅は,未だなお実際に普及するまでには至つていない。又熱処理も仲々に行われがたい事情がある。そこで最も実用的な簡便な方法は野菜附着蛔虫卵を水洗して器械的に之を除去する方法であるが,この問題に関しては小田(1927),千葉(1928),斉藤等(1950)等の報告がある。即ち小田は蛔虫卵浮游液を作り之れを菜園の白菜に撤布し,之等の白菜をゴム管を硝子捧の両端に結合してD型とした摩擦器で摩擦しながら洗滌する方法を6回反復し,又別に水道放出水で洗滌しその減卵度を見た。之れによると前者では1回摩洗で約70-80%,2回のそれでその90%以上を減卵し,又放出水による水洗の場合には大体2回摩洗したものと同様の減卵を示した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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