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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生16巻3号

1954年09月発行

雑誌目次

特集 食中毒

食中毒の疫学

著者: 佐竹繁男 ,   十亀國子

ページ範囲:P.1 - P.6

I まえがき
 昭和24年以後,2526,27年と毎年食中毒集団発生報告をもとにして,食中毒の疫学的考察を行つているが,終戦後の混乱状態もおさまり,食糧事情も一応は戦前と同一のレベルに達した最近において,再び食中毒の発生が増加の傾向を示して来た。特に目立つのは集団発生の多くは工場病院の給食や,全国の小学校に於いて保健体位向上の為に実施されているところの学校給食等集団給食施設の増加や,戦時中,中止されていた修学旅行,その他の団体旅行の復活の為これらをもとにして起るものが多く,又食糧の出廻りが円滑になつた為,商人の行商が多くなつた事,又,時世を反映して,いかがわしい加工食品の多くなつた事,等の事情が錯綜して,食品を扱う人,食べる人の不注意に乗じ食中毒発生の動機を多くしている事情などがうかがえることである。従つて食中毒集団発生の危険にさらされている一般大衆,被給食集団,集団旅行者等に対して,その注意を換起する意味からも食中毒の疫学的考察を行うことは甚だ肝要と思われる。

新しい細菌性の食物中毒

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.7 - P.10

 食物が惡くなると世間では言う暑い気節には調理してから数時間も放置すると,食物によつては色が変り,臭いが変つて変質して来る。食物が惡くなつたのである。こんな食物は味の点から言つても食い物にはなるまいし又人はくさつた食物として食わずに棄ててしまう。併し多少臭の変つた程度のものを食つても必ずしも食物中毒になるものとも限つていない。細菌性の食物中毒が問題になる限り,やたらにどの細菌でも食物中毒の原因となり得るものではない。
 細菌件食物中毒は周知のように,大体2つの範疇に区別される。1つは細菌そのものが食物と共に消化管内に這入つてそこで増殖し,そのことによつて中毒がおこるものであるし,もう1つのものは,食物の中で細菌が増殖し,その際産生された或る種の毒物のために中毒がおこる種類のものである。前者の代表的のものはサルモネラによる食物中毒であり,後者ではブドウ球茵の産生する胃腸毒による食物中毒,あるいはボツリヌス菌の出すボツリヌス毒素による中毒がこれである。

飮食物によるウィールス性疾患

著者: 兒玉威

ページ範囲:P.11 - P.19

まえがき
 ウイールス性疾患の感染経路としては従来多くのものは泡沫感染或は接触感染によるものとされていたが,最近この方面の疫学的研究の進展に伴い,ある種のウイールス病においては食品或は牛乳,水等による経口感染が認められ,食品衞生上注目されてきている。わが国に存在するウイールス病のうち,今日経口感染の確認され或は推測されているものとしては伝染性下痢症,泉熱,上北沢熱(所謂給食病),流行性肝炎,伝染性単核症,急性灰白髄炎,茂原下痢症等がある。これらのうち2,3のものは経口感染のみによつて伝播するが他の或る種のものでは経口感染の外に泡沫感染や接触感染も可能であると考えられている。その概要については既に本誌15巻1号の特集「伝染病問題の焦点」において述べられているので,ここでは重複を避け,食中毒と伝染病との境界問題として上北沢熱と泉熱を中心としてこの課題に対し考察を加えてみたい。

日本に発生したボツリヌス中毒に就て

著者: 遠山祐三

ページ範囲:P.20 - P.25

1.まえがき
 ボツリヌス中毒の歴史は古く1735年頃から知られていたがその病原細菌を初めて分離したのはVan Enmeugeu氏でベルギーで発生した食中毒でその原因食と思われた喰べ残りのハムや屍体の脾臓胃等から一種の猛毒を産生する嫌気性菌を発見分離し之をその病原菌であると認めボツリヌス菌と命名したのが1896年である。爾来今日まで世界中でボツリヌス中毒発生の最も多いのは北米合衆国であり又欧州の諸国殊に独乙,ソ連邦,仏国,英国等にも経えず患者の発生を見ている。日本では昭和26年北海道で中村博士等の報告が出るまでは臨床報告は無く従つて従来は殆ど世間の注目を引かなかつたというよりは寧ろ逆に我国にはボツリヌス中毒は存在しないものと誤認されておつた次第である。ボツリヌス菌には5つの菌型A.B.C.D.E.が知られているが人に病原性を有するのはその内のA.B及びEの3型だけで,就中従来欧米諸国で多数の中毒患者を出しいるのはA型とB型兩菌でE型菌の知られたのは比較的新しく1935年以来の事で,従つてその発生例も僅少で現在まで報告されているのは世界を通じて17例に過ぎず,その内5例が僅か3年間に日本で発見されている。C型とD型は何れも主として家畜や家禽を侵かし人には全く病原性はないものと見做されている。

アレルギー樣食中毒

著者: 宮木高明

ページ範囲:P.26 - P.30

 昭和27年から28年にわたつて,かなり広い分布でサンマ,イワシなどのみりん干(みりん干と称するが,加工にみりんは使用しない。櫻干という名称がつけられ,事実に適しているが,ここでは通称にならつてみりん干としておく。)による食中毒が発生した。たとえば厚生省食品衞生課の調査になるところを第1表に示したが,これによつてもかかる食中毒が少くないことを裏書きすることができよう。
 この中毒症状はどれも,食後30分ぐらいで起つてきて,顔面その他の紅潮,時にじんましん様発疹,頭痛,惡寒,そして中に嘔吐,下痢を見るという共通したものである。この症状より見てもこの食中毒が細菌性のものでなく,毒物性のもので,しかもアレルギー様であることが容易に想像される。

新しい食品防腐剤

著者: 相磯和嘉 ,   柳沢文德

ページ範囲:P.31 - P.37

緒言
 食品に保存性を持たせる目的で防腐剤を添加する事の可否は常に医学者公衆衞生担当者の論議の的となるところである。古くは〓酸についての独逸における論争,サルチル酸の毒性,安息香酸の脂酸代謝の障碍に対する問題等がある。
 最近我が国においても食品衞生調査会に対し厚生大臣より「防腐剤を積極的に使用させる事の可否について」諮問が出されて,委員の間で活溌な検討がなされている。著者も委員の1人として論議に参加した次第であるが,事が重大なので明確な結論を得る事は容易でないと思われる。

ソーセージ中毒

著者: 新井養老

ページ範囲:P.39 - P.43

 ソーセージを介して起る中毒には,サルモネラ属菌,ボツリヌス菌などによるいわゆる細菌性中毒もあり,また腐敗中毒もある。しかしここでは,そのようなものを述べようとしているのではない。
 ここに云うのは昭和25年の9月,東京都の小学校で初めて注目されたソーセージ中毒で,当時,不明一過性熱性疾患として扱われ,新聞紙はその後給食熱,給食病などと呼称した中毒を指しているのである。すなわちその後,昭和28年東京都衛生局関係の研究者一同の提案によつて上北沢熱と命名され且つ概ねそのように承認された新しい一つの疾病のことを意味するものであり,最初の事例は次の通りである。

納豆の衞生學

著者: 尾崎嘉篤

ページ範囲:P.44 - P.45

 納豆は,日本東部の諸県において,最も大衆に普及している食品の一つである。その栄養価の高いこと,原料より製品への利用率の大であること,価格の低廉なること,調理の簡素なこと等,豆腐と共に極めて注目すべき食品であり,又,そのまま直ちに食べることよりして衛生面よりも重視すべきものである。
 その構成は,大体において次の通りとされている。

食品衞生面からみた豆腐—特に食中毒との関連について

著者: 相磯和嘉 ,   柳澤文德

ページ範囲:P.46 - P.48

 豆腐及びその加工品は本邦日常食品中,特殊な大豆加工品で,栄養学上にも嗜好上にも重要なものの一つである。にも拘らずこの食品の製造法,販売手段或は調理面から考えてみると,必ずしも衛生的な食品とは言い難い点が多い。特に加熱処理が行われうる食品であるのに習慣とか,味覚の点で生で食べる場合が多いからである。ここに豆腐に関連する消化器伝染病,食中毒について私達が行ってきた食品衛生学的基礎研究の成績を紹介し,聊か検討も加えてみたい。

食品衞生におけるコナダニ類の問題

著者: 佐々学

ページ範囲:P.49 - P.52

I.まえがき
 コナダニ類とよばれる1群のダニ類はおそらく遠い昔から人類の食品に発生して色々な形で害を及ぼしていたにちがいないが,少くも我国で食品衛生上の重要な問題として認識され始めたのはようやく近年のことである。しかし古く三宅Scria(1893)が喰腎血蝨Neprophages sanguinariusと名づけて人の尿中から発見したダニ,或はその後の数多くの類似の症例に見られたダニ類が現在の知識から再検討したとき殆どすべて食品などに発生するコナダニ類やホコリダニ類であることを考え合わせると,実は我国でも古くから医学上の問題として注目されていたことになる。
 私は数年前から色々な症例の尿,喀痰,糞便,腹水などに臨床医家の方々が検出されたダニ類を検索する必要に迫られ,他面食品衛生や環境衛生の問題として色んな我々に身近い材料に発生したダニを調査する機会があってこの分野の研究をやや本格的にとりあげて来た。そして私共の知見がひろまるにつれて,これらの微小なダニ類がひき起す衛生上や経済上の被害が意外にも大きなものであり,また自然界にこの微生物がいかに広汎に,しかもおびただしく繁殖しているものであるかについて驚きを感じている。もちろん我々がこれから解決しなければならない,或は調査の手をひろげなければならない多くの分野が残されているが,ここにこれまでの知見のあらましを述べて御参考に供したいと考えた。

"黄変米"の種類と中毒の性質

著者: 浦口健二

ページ範囲:P.53 - P.55

 戦後に東南アジアを始め世界の凡そすべての米産地から我国に米が輸入されるに及んで屡々大量のカビ米が発生して,しかもそれが飯用に適しないというので種々問題を起している。所謂"黄変米"なる名称は新聞や議会方面でよく用いられているが,黄色乃至褐色を呈する変質米には種類が多く,寄生菌も必しも一定しない。その中で戦後の輸入米で初めて我国にはいって来て我国で有毒の可能性が強いと判定されて港々の倉庫に足どめされ,遂に配給から除外される所謂"黄変米"は農林省方面の呼び方に従えばタイ国黄変米,イスランジア黄変米等とそれぞれの名称をもつたもので,変質の模様,寄性菌の種類,産地等もいろいろである。我々研究者の間ではこの"黄変米"を一括して黄変米類似変質米と呼ぶことにしている。それは我国では戦前から黄変米なる特定の変質米が存在していて,この在来のいわば本来の黄変米との混同を避ける必要があるからである。戦前から我国各地に発生するものを狭義の黄変米とすれば,戦後の輸入米に発見される黄変米類似変質米は広義の黄変米と見ることが出来よう。
 戦前からの黄変米は寄生菌がPenicillium toxicarium Miyakeで,東京農業大学植物病理の三宅市郎教授等によって昭和13年台湾米から分離され,その分布が裏日本を初めかなり広く我国内に及んでいる。

カドミウム食中毒の1事例について

著者: 金行広雄 ,   畚野ふみ ,   井爪淸一

ページ範囲:P.65 - P.68

緒言
 昭和28年11月18日,奈良県天理高等学校に於て調理実習で作つた料理を摂取した。1名の教官及び34名の生徒中,30名が食中毒を起した。その原因を追求した結果,天火で焼林檎を調理した際,Cd鍍金した平皿を使用した為,酸性果汁によりCdが溶出して食中毒を起した事が解つた。欧米諸国では特に第二次世界大戦中,屡々Cd中毒事例が発表されているが,我国では未だ1例も報告されていないので,その実情と試験結果の概要を報告する。

注目すべき食中毒例

ふぐ中毒

ページ範囲:P.43 - P.43

 昭和23年1月18日布施市在住の名村A(男46才)は,同市永和市場内の某魚商より「ほんふぐ」1匹の片身(約350匁)外その内臓(白子,肝)を購入し,午後7時頃から家族親類6名でそのふぐをすき焼にして摂食した。名村Aはもともとふぐが大好きであつたので他の人より沢山食べたが,6名中2名はふぐを食べなかつた。
 ふぐを食べた4名の中先ず名村B(女19才)が食後間もなく手足,唇のしびれを訴え近所の医師に診てもらい,注射をしてもらつて帰つてきた。その時Aは就床していたが,家人が心配して様子を聞いたところ,多少しびれを感ずるが気のせいだろうと云つてそのまま臥床していた。

砒酸鉛中毒

ページ範囲:P.48 - P.48

 昭和26年1月29日鳥取県八頭郡船岡村船岡中学校に於て,家事実習の時間につくられた菓子が原因となりその摂食者44名中41名が何れも摂食後30分乃至1時間ではげしい嘔吐を催すと云う中毒事件があつた。
 嘔吐以外の症状としては,大半が頭痛を訴え,倦怠感のあった者が2名あったが,下痢,発熱はみられなかつた。(但し微熱のあつた者1名)。幸にして死者は1名もなく翌30日中に殆んど全員が回復したが,上記の潜伏時間及び症状よりみて,原因物質は化学物質であろうとの推定のもとに原因食品の分析試験が行われた結果,砒素(0.08%)及び鉛が検出された他刺戟性物質でピリジン核を有する植物性塩基が検出された。

修學旅行における奈良市の折詰中毒

ページ範囲:P.55 - P.55

1.発生の概要
 山形県藤島農業高等学校173名が昭和27年5月19日夜東京を出発,20日5時30分頃名古屋駅にて朝食として駅弁を購入摂食,同日,13時25分奈良に到着,駅でS軒製二重折詰弁当を購入,直ちにバスで市内旅館に入り,14時20分頃摂食,その後市内見物の途中17時頃より患者が続発し始めた。翌21日浜松より奈良県に対して,山形県余目高等学校81名から奈良の修学旅行の帰途車中にて多数食中毒患者が発生した報告があり,調査の結果,前記S軒製の弁当を食べており,而もその内容が藤島農業高校と全く同一であることが判明し,発病の状況,症状,経過等が,この2集団が全く一致しており,疫学的に,原因食品はS軒製の折詰による同一事件と決定されたものである。

福島縣下「かに」による食中毒

ページ範囲:P.56 - P.57

 福島県相馬,石城,双葉,田村各郡において,日本海沿岸においてとれた「かに」による食中毒が毎年8,9月に発生している。発生状況は第1表の如くである。
 第1表の如く,7〜9月に発生し,症状,潜伏時間等全例ともよく似ておる。又発生地域も,平市を中心に,日本海沿岸でとれた「かに」に限られている。現在までに病因物質は究明されていないが,当地方特有のものか「かに」特有の因子があるのか,又季節的に関聯性があるのか将来の研究にまつべきところが多い。

毒カマスの中毒

ページ範囲:P.58 - P.59

 昭和24年頃から,東京,京都,岡山,神奈川と珍しい名前のこの種食中毒が発生している。

アサリ・ハマグリの中毒

ページ範囲:P.59 - P.60

 アサリ・ハマグリと云えば,浜松,豊橋が連想される位,国内でも,外国でも,この中毒は知名になっている。
 発生状況は,上表のようになつているが,この中,豊橋及びアメリカの事例は,静岡,神奈川のものと異るまひ毒によるもので,以下所謂アサリ毒と区別して述べたい。

ビルマ豆による中毒

ページ範囲:P.60 - P.61

 昭和23年12月25日,兵庫県尼カ崎市において配給雑豆により,6名中毒内3名死亡という食中毒事件が発生した。しかも,この事件は数カ所より同時に発生したものであり,且つこの雑豆は加熱した後摂取したのであるから,当然該豆に有毒成分が含有されたか,或は広範囲に毒物による汚染があつたものと考えられるし,又配給品であるので,更に他にも同様の中毒が発生しているのではないかと想像せられ,配給経路と範囲を考慮して,相当広い地域に亘つて調査が行われ,その結果明らかになったもので中毒死者総計4名,患者数十名であつた。尚この雑豆は大阪,和歌山の地区にも同類品が配給され.若干の中毒患者は出したが,死者はなかつた。
 中毒死者はその殆どが最下層の生活を営む家庭の幼児である。摂食時の状況,症状の1例は次の通りである。

所謂給食病

ページ範囲:P.61 - P.62

 本疾病は昭和25年9月東京都神田千桜小学校他4小学校に感冒様の症状を呈する従来知られなかつた疾病の集団発生をみ,新しい経口的に起る疾病として注目されて来たものである。其後毎年度当疾病者が各地に,小学校のみならず,工場,寮,寄宿舎,保安隊等集団給食施設に多数発生し,その発生機転,病因物質等,疫学的,細菌学的に可なり調査研究されている。
 現在までの発生状況は第1表の通りである。

サバの罐詰による食中毒

ページ範囲:P.63 - P.63

1.発生の概要
 昭和28年7月16日,熊本市健軍町熊本保安隊において,晝食時,サバ味付罐を2人に1罐の割に給食し,早いものは5分,遅くとも5時間以内に,アレルギー様症状を呈する患者が85名発生した。本事故の病因物質については,国立予防衛生研究所食品衛生部において研究の結果,新しい物質によることが判明し尚詳細について研究中である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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