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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生16巻6号

1954年12月発行

雑誌目次

特集 公衆衞生と放射能

原子力醫学

著者: 都築正男

ページ範囲:P.1 - P.4

 いうまでもなく,医学は応用科学の一つであるから,科学の進歩は当然の結果として,医学を発展せしめる。近代に於ける科学の進歩の内,最も著しいものは原子力領域に於けるそれであつて,1942年米国シカゴ大学のフツトボール競技場の一隅で,同大学物理学のフエルミ教授によつて行われた原子力開放の実験は実に劃期的のもので,それまで,人類が永く望んでいた原子力が人類の手によつて,始めて制御開放せられたのである。シカゴ大学フツトボール競技場の一隅に掲げられている銅板には次の字句がきざまれ,科学の行脚をする人々の眼を止めさせている。
 "1942年12月2日人類はこの地で始めて連鎖反応の実験に成功し,それによつて,原子核勢力を自由に発生せしめることが出来るようになつた。"

エツクス線障害

著者: 津屋旭

ページ範囲:P.5 - P.9

 最近放射線障害の問題が活溌に論議せられ,職業性疾患としての放射線障害の問題が取上げられつつある事は,遅ればせながら誠に喜ばしい事である。「文明国に於いては現在少くとも,エツクス線障害は後を絶つた」というStanford大学Newell教授の言を籍りる迄もなく,吾々は一日も早く名実共に文明国の仲間入りが出来る様努力すべきである。「放射線障害とその対策」の大略に関しては既に公衆衛生13巻6号に述べてあるので,今回は可及的それと重復する事を避け,エツクス線障害の臨床に就いて述べる事とする。

アイソトープの人体への影響

著者: 山下久雄 ,   中山光平 ,   鈴木勝 ,   秋山武知

ページ範囲:P.10 - P.12

はしがき
 茲でいうアイソトープとは放射性アイソトープのことで,その人体に及ぼす影響とは放射線の作用であり,それが取扱者に危険なく取扱われることが必要である。
 アイソトープからは種々の放射線が出るが,重要なのは,γ線とβ線とで,人体に対しては体外から照射される場合と体内に入つて作用する場合とがある。非常に微量なら,その影響は無視出来るが,各々の場合に準じた最大許容量Maximam permissible doseを越すと障害が現れて来る。

核分裂産物の生体内代謝について

著者: 佐藤德郞

ページ範囲:P.13 - P.13

 核分裂によつて放出される放射性同位原素の影響は原爆の影響のみならず,原子力を応用する工業にとつても非常に大きな問題である。
 放射性同位原素を生物に応用する方面で先覚者であるHevesyの著書に引用してあるもののうちから重要な問題を拾いあげて見よう。

水爆の実験と気象の変化

著者: 荒川秀俊

ページ範囲:P.14 - P.15

 1954年3月1日から5月5日までビキニ環礁で数回にわたつて水爆の実験が行われた。5月20日に開かれた日本気象学会の総会席上において,(1)水爆実験によつて成層圏に打上げられた放射能を持つ多量の灰は地球をかこむ大気の大循環のために世界中に運ばれること。(2)このような大規模な大気汚染は長い間つずくので日射その他の気象現象に異常をきたし,今後の凶冷その他の気象災害との関係については全く予想をゆるさないこと"なる二項を具体的内容とした声明書を議決し,内外の学界及び諸機関に訴えるところがあつた。その後,わが気象学界でなされた結果を要約すると,次ぎの如くになる。

魚類の放射能汚染

著者: 河端俊治

ページ範囲:P.16 - P.20

検知成績からみた放射能汚染魚の出現状況
 第5福龍丸事件このかた南方海域より帰航するマグロ船はすべて東京,塩釜,三崎,清水,焼津の指定5港で漁獲物について放射能検査が実施されて来た。始めは国の検査官によつて行われたものが5月1日より検査が都県に移管されたが,中旬より近海においてマグロ類シイラ等に放射能が検出されるようになつたので,指定港以外に大阪兵庫,利歌山,徳島,長崎,鹿兒島の各府県においても,それぞれの水揚港において自発的に放射能検査が実施されるようになつた。ここに厚生省に集つた資料に基き放射能汚染魚の出現状況を調べてみよう。

Health Physicist教育課程

著者: 勝沼晴雄

ページ範囲:P.21 - P.23

放射線を使用する現場の衛生管理は,企業の類種,規模の大小などにかゝわらず是非とも実施されなければならない。そしてそのためには
1)放射線現場の衛生管理を行う人
2)衛生管理に必要な機械設備
3)衛生管理技術
が不可欠の要項となつてくる。衛生管理に必要な機械及び管理に必要な技術面については,他の機会に触れることにして,こゝでは,放射能と関係ある現場の衛生管理を行う人,即ちHealth Physicistが,どのような教育をうけてその資格を与えられるかを略述する。

研究報告

豚結核と人結核の関係に就て—第1報 豚の「ツベルクリン」皮内反応実施成績

著者: 小林和巳

ページ範囲:P.24 - P.27

1.まえがき
 Robert Kochによつてはじめられた「ツベルクリン」反応(以下「ツ」反応と略記する)は結核の感染,未感染を判定する手段として発展し,現在動物結核は専ら「ツ」反応によつて診断されている。畜牛の「ツ」反応としては皮下注射法,点眼法,眼検反応法,腔反応法等が挙げられているが,我が国では主として,皮内反応が実施されている。
 我々は牛の「ツ」皮内反応に関する資料から牛結核と人結核との関係を調査し,兩者の間に一定の関聯性を認め得ている(1)

細菌性赤痢患者発生に伴う保菌者検診について

著者: 斎藤勇 ,   坂田守

ページ範囲:P.28 - P.34

I.緒語
 細菌性赤痢患者が発生した場合,その家族及び周辺の健康者の検便を行い屡々保菌者が発見される。而してこの健康保菌者は,附近に赤痢患者を散発せしめるばかりでなく,時に大流行の原因ともなるので,赤痢予防上重要視せねばならぬ。時には患者の数倍乃至は数十倍の保菌者が発見されることがある。これがむしろ最近の赤痢の一特徴ともいえる状況である。
 昭和29年3月15日,若松市旭ガラス社宅内に3名の細菌性赤痢患者が発生したので,直に同社宅に隣接する8戸29名について検便を行い,2名の健康保菌者を発見した。更に社宅家族全般にわたつて検便を続行した結果意外に多くの健康保菌者を発見し,しかもその菌型が種々異つていたので,社宅区域の患者と保菌者との関係及び分布状態を検討考察した2,3の問題について報告する。

医科教育と保健科教育

著者: 岡田芳子

ページ範囲:P.35 - P.36

 新学制の施行に依つて医学部以外の大学や学部の講座中に驚く程多数の保健に関する講座が開かれた。
 医学部以外の学部に於けるこの多数の保健衞生に関する講座は現在の所全くその指導目標が定まらず,教える方も教えられる方も,誠にギゴチない講座内容を形造つて終つた観が深い。

疫学上の新課題

著者: 古屋曉一

ページ範囲:P.37 - P.38

 昭和29年2月8日,惡寒戦慄を伴う高熱を主訴として国立東京第一病院に入院した22才の一女性患者があつた。検査の結果,3日熱マラリア原虫が末梢血中に証明せられ,診断は確定したが,患者は外地及び内地のマラリア浸淫地に居住したことなく,輸血を受けた経験もなかつた。初めての熱発作は今年の1月中旬であつた。陳旧マラリアの再発とは考えられず立ち入つて質問してみたところ,患者は数年前から覚醒アミン(ヒロポン)を常用しており,多いときには1日100本位を皮下若しくわ静脈内に注射したという。患者は入院のときまで上野公園内の某所に居住しており,その週辺には自分と同じような症状を呈する患者がほかに数名いると陳べた。そこで私たち数名のものは,医長の小山(善之)博士を中心として,その実態を探るべく同所に赴いた。そこには日本医大セツルメントがあり,その好意のもとに,その地区の有熱患者,覚醒アミン常用者及び対照としてその地域に,1年以上居住はしているが覚醒アミンを用いていないものたちから血液塗抹及び濃塗標本を作り,併せて簡単な検診を行うことができた。
 調査の範囲はその後拡大され,省線秋葉原駅附近,千代田区鍛治橋附近,台東区隅田公園附近,同区田原町附近,文京区後樂園附近にまで及び,調査総数は105例に達した。

市販乳剤系消毒藥の消毒力効果について

著者: 熊沢泰 ,   土平一義 ,   伊藤正治 ,   谷八千代

ページ範囲:P.39 - P.41

1.序論
 戦後逆性石鹸が登場して以来乳剤系消毒藥は一大転機に立たされた。即ちこの逆性石鹸は非常に安定であり且つその石炭酸係数は今迄の消毒藥より遙かに大きい。
 然しこのものは有機物によつてその作用が激減するので目下の所手指消毒食器洗滌等にのみ使われ,下水,便壷消毒等には使われてはいない。それで乳剤系消毒藥はその長所を生かして今でも水便壷等の消毒に用いられている。然し更に有機物による影響をより少くし,且つ逆性石鹸の如き高い石炭酸係数を所有する乳剤系消毒藥が出現する事は現在防疫並びにそれらの関係者の熱望する処である。

日本藥学会協定普通室内空気判定標準改訂案に就て

著者: 斎藤功

ページ範囲:P.42 - P.45

 ここに言う普通室内とは,藥学会衛生試験法1)の用語例に従い凡そ住宅,事務室,学校,病院,百貨店,劇場等を指す。これ等の場所は,普通の場合その空気中に特殊の有害物を含まず,所謂普通空気試験の対象であるが,上記のようにその数も種類も非常に多い。しかもこれ等の場所に於ける所謂事務的作業者の結核其の他の罹病率は,現業部門に比して寧ろ高い場合が多く,事務的作業を単に軽作業というような概念で軽く律し去るような風潮が少くなかつたことに対して,反省の声が挙げられている5)現在である。
 これ等の場所の空気の試験は,純研究的になされることもあるが,寧ろ事業所側の衞生管理上の必要による依頼や,公衆衞生上の必要から行政的になされる場合等が多い。然し何れにせよ,試験結果は関係者全部によく把握,諒解される必要がある。これは結局得られた試験成績を如何に評価し判定し簡明に要約表現するかという問題に帰するのであるが,これは未だ検討の余地ある問題と思う。然し現状としては,本案は理論並びに現実に即して最も適当と考えられたものである。

随想

医学の異端者

著者: 土屋忠良

ページ範囲:P.46 - P.47

 公衆術生学が何うやら重要視せられるに至つた今日に於ても,未だまだ多分にそうした気分が抜けきらないように思われるが,殊に終戦前の頃までは,医学と云えば即ち治療医学であつて,大衆の中には,直接患者の診療に当らない各地方庁の衞生技術官や各医科大学の基礎医学教授は医者ではないんだとさい考え居る者が相当に多く,いやそれどころか,物分りのよい筈の同僚医師でさえ動ともすると医学の異端者ででもあるかのように特殊の扱をして居られる向の決して尠くなかつたことは否めない事実であつた。
 それかあらぬが,僕の同窓の一友人の如きは,自分の興味と力量とから,是非衞生技術官となつて公衆衞生の実を挙げて見度いと念願し,大張り切りで着々と準備して居ることが図らずも母親に知られ,「滅相な,とんでもないことだ,そんなものになるんなら何を苦しんで大学へなどやるものか,お医者さんにし度いばかりに,貸家を売り土地を売り,おまけに,お祖父様の大切にして居られた書画骨董の殆んど全部を手放してまでも,お前に高等の教育を受けさせ,お医者さんにしてやつた筈だ。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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