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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生17巻1号

1955年01月発行

雑誌目次

特集 医療制度とその盲点(Ⅰ)

わが国における医療制度の主要な問題点とその考察

著者: 橋本寿三男

ページ範囲:P.1 - P.5

1.まえがき
 明治初年独乙医学が採用されてから封建時代の漢方医学や蘭方医学を圧倒し,現在の医療制度を独乙的な色彩で塗りつぶした。その基盤の上に敗戦と共に米軍の占領行政によつてアメリカ医学やアメリカ的な制度が次々とたてられた。今日なお徳川時代の残渣のあるなかに独乙的なものが主流をなし,新にアメリカ的な制度が根を張ろうとしている。これがわが国の医療制度の現状というべきであろう。巷には徳川時代そのままの街医者がいるかと思われ,大学の附属病院は19世紀の独乙の大学病院そのままであるかと疑わせられ,反対に全くアメリカ式な病院経営の病院があつて,新しいインターン制度を活用しているところが増えつつある。この複雑な要素を消化して,わが国に適しい制度を作りあげるためには少なからぬ勇気を必要とするであろう。
 社会を病苦から救うことを目的として医療が行われる。医療を行う場所は医療機関であり,医療を行う者は医師,歯科医師,看護婦等の医療従事者である。医療機関は一つの社会機関であり社会自体の機構に,支配される医療従事者の身分等についても同様に社会が疾病やその医療を如何に考えるかによつて決定される部分が多い。わが国に適しい医療制度を考える場合には,やはりわが国の現実を無視することはできない。医療制度も一般社会の進展と共に進展するものだからである。唯,社会の進展に最も優先すべきものとする考え方が諸外国でも既に採用されていると考えてよいであろう。

社会保険医療の欠陷

著者: 大村潤四郞

ページ範囲:P.6 - P.9

立場によつて色々の見方が出来る
 我が国社会保険医療における欠陥は何か,これには色々の見方が存するであろう。診療に従事する医師の側に云わせれば,診療報酬があまりに安いために充分な医療が行われ難いとか,そのため医師の生活が安定しないとか,診療方針がきうくつで充分な医療が行われ難いとか,制限診療であるとかいつた類である。患者の側から見れば保険では良い藥を使つてくれぬとか,医師が不親切であるとか,その他色々ある。又保険者の立場に立つて見ると被保険者が制度を濫用するとか,医師が濃厚診療を行うために財政が膨脹して困るとかこの様な点について対策を立てねばならぬという様なことになる。従つてこの様に各自が別な立場に立つて考える時には或立場から欠陥として認められる事項がかえつて長所であり,長所として認められる点が欠陥となる。すべて制度というものはその「しくみ」が合理的であると同時に,それに関係する患者なり医師なりが満足すべきものでなくてはならない。いいかえればその社会には各各社会的な環境条件があつて民衆の習慣に合わない様な制度は,如何にそれが合理的といわれるものであつても,成長するものではない。そこで茲には我が国の医師や一般大衆の現状からして現行の社会医療制度をどの様に改革したらよいと思うかという点について私見を述べて見たいと思う。

結核治療施設の盲点

著者: 加倉井駿一

ページ範囲:P.10 - P.13

 結核治療施設の現在に於ける盲点とは,とりもなおさず結核症の盲点でもあると考えるので,この兩者を合せて論じて見たい。

医藥學教育の批判

著者: 橋本寛敏

ページ範囲:P.14 - P.19

 わが国の大学医学教育は明治時代早く独逸の学風を享けて発足したのであつて,各教授の各講義が教育の中心をなした。勿論多少の実習もあつたが,学習の幹根は系統的の医学知識をノートに記録して修得するにあつた。
 その頃,参考書はすべて独逸から輸入したものだけであり,医学を学ぶ者の拠りどころは教授の講義だけであつたから斯くあつたのである。

開業医制度

著者: 林良材

ページ範囲:P.20 - P.23

 今,君達を指導,教育しつつある教官連は何れも斯界のエキスパートだから,医学の尖端を教え,最新の研究主流を指向してくれる。だから,君達の生活には日々の進歩がある。進歩あるところ必ず愉快が伴う。それがだ,一たび実社会へ出て,実際の診療面に携わるという事になると,これは又,大した方向転換を要求せられるのだ。たとえ,それが君達の習得した医学知識を善用し,君達の良識の命ずるところに従つて行つた診療であつても,社会保険医療制度,それが又現在国民医療の80%を占めるまでに立到つている。この制度に於ては,一定の枠があつてね,その埒外に出ると,事の善惡は別として,許容されないのだ。「診療に節制を守られたし」という通牒が来る。それがたび重なると所謂「お呼び出し」があつて専門知識のない若僧官吏から,お叱りを蒙つて,請求報酬を削減された上始末書を取られけりだ。
 こうなると,医学の進歩に立遅れまいと,新らしい文献を読んだり,学会へ出たりして勉強することは,もう実生活とは全然遊離して終う。医師免許証を貰つたばかりのホヤホヤも,医師生活30年の練達の士も診療報酬は同点なのだからね。

医業類似行爲

著者: 中村一成

ページ範囲:P.24 - P.25

 現行医療制度において所謂「医業類似行為」は如何なる位置を占めているのであろうか。医業類似行為に関する規制の根拠は,昭和22年12月20日に公布され翌23年1月1日から施行された「あん摩師,はり師,きゆう師及び柔道整復師法」の第19条であつて,その内容は,『この法律公布の際,引き続き三箇月以上,第一条に掲げるもの(医師以外の者で,あん摩(マツサージを含む),はり,きゆう又は柔道整復を業とする者一(註)筆者)を除く外,医業類似行為を業としていた者であつてこの法律施行の日から三箇月以内に,省令の定める事項につき都道府県知事に屆け出た者は,第十二条の規定にかかわらず,なお昭和30年12月31日までは,当該医業類以行為を業とすることができる』として特定の者に医業類似行為を許容すると共に,取締の規定(省略)を添えている。
 この法律以前においては医業類似行為は法律の規制を受けず,おおむね各県の県令によつて屆出制が採られていたのである。

家族制度と医療

著者: 丸岡秀子

ページ範囲:P.26 - P.27

 うす暗い寝間にゴホンゴホン,咳込みながら年寄が寝ている。中風である。そのむこうには青白い娘が結核で寝ている。紡績帰りにちがいない。そうでなければ頭痛もちで年中寝たり起きたりの母親。このような暗い家の中の姿は,どこの農村にもみられるが,家族の病気のしわは,みんな嫁や息子たち,丈夫でいるものの上に寄せられている。しかし,過重な負担は,起きて働いているものの健康をいつまでも保証しているわけにはいかない。代るがわる病気になる。病気になつたからといつて放り出すわけにはいかない。嫁は実家に帰されても,引きとつた実家ではまた病人がひとりふえるだけである。
 失業対策の貧しさは,農村の家族主義の上にしわよせされるとよくいわれる。家族主義は,この場合政治の貧しさに対して,好都合な場所を提供しているわけである。同時に,政策から見離された失業者や病人は家族主義以外にすがるところはない。家中がともどもに,生活を縮めあつて,居場所をつくつてやるのである。

看護に関する諸問題

著者: 小西宏

ページ範囲:P.28 - P.29

 看護婦,保健婦,助産婦については嘗て夫々看護婦規則(大正4年),保健婦規則(昭和16年),産婆規則(明治32年)があつたが,昭和22年7月これらが廃止と同時に保健婦,助産婦,看護婦令に一本化せられ,1年後には法律となつた。我が国の看護婦制度はこれによつて根本的な改革がなされた欧米の先進国並の制度がここに確立をみた訳である。併しその後数次に亘る改正が加えられ,現行の制度に到達するまでにはかなりの迂余曲折があつた。このことは新制度が占領下という特殊条件の下に一応生れることは生れたがそれを育てることの難しさを物語つている。ナイチンゲールがヨーロツパに於ける看護改革にその一生をかけたことを思えば我が国に於てこれ位の経緯を伴つたことは当然のことかも知れない。又ナイチンゲールの改革が欧米の病院の近代化への黎明を齎した如く,我が国の場合に於てもこの看護改革が病院改革の端緒を開いた点に於ては同じ意義をもつものということができる。
 兎もあれ,今日看護を廻つて存在する種々の問題は直接間接にこの新制度に基因していることはいう迄もない。大地震のあと余震が続く如く,これだけの画期的な変革のあとに若干の問題があとを引くことは止むを得ない。それらの問題のうち一番大きなものは看護婦の不足ということであり,このことが又凡ての問題に多かれ少かれ関係を及ぼしている。併し今日看護婦の不足に頭を悩ましているのは我が国だけではない。

国立病院のあり方

著者: 尾村偉久

ページ範囲:P.30 - P.31

 「国立病院のあり方」といつても,今さら医療国営論とか,公営論,或は,医療体系の根本論にふれて論じたのでは,それぞれ意見のあるところで,収拾がつかないので,ここでは,むしろ,現存する国立病院の,病院医療に対するよりよき貢献は如何にあるべきかについて考えて見たい。

研究報告

最近4年間の新潟縣における集團赤痢について

著者: 井村繁樹 ,   高野秀雄 ,   辻裕 ,   真島建 ,   長崎昭 ,   坂川己一 ,   高井隆之助 ,   佐藤タヅ子 ,   小泉衡平 ,   池村謙吾

ページ範囲:P.32 - P.35

 昭和25年以降28年までに新潟県下で経験された集団赤痢は30件に及ぼうとしているがそのうちには赤痢集団免疫の問題に関連して興味あると思われる事例も含まれている。ここではこれら集団赤痢の発生時期,発生地区,原因菌型等に関していささか考察を試み,併せて最近2年の発生例につきその原因と思われる事項も報告したい。
 資料その他,新潟県下各保健所からの集団赤痢絡熄報告を主とし同発生又は状況報告等を従とした。なお集団赤痢として取扱つた例はいずれも患者20名以上を算したものである。

Hyaluronidase併用のB. C. G. 接種成績

著者: 小松貞三 ,   林田貢

ページ範囲:P.36 - P.37

I.まえがき
 1950年にSven Bergqvist1)はストツクホルムの学童にHyaluronidase(以下「ヒ」と記す)併用のBCGを接種して,従来のBCG接種方法よりも「ツ」反応が速かに陽転すること,接種局所反応が強く現われる傾向のあることを報告し,更に接種局所反応が強い場合は一般に「ツ」反応の陽性持続期間が長く,結核菌に対する防禦効果も大であると云うTörnell,Herzberg等の業績を引用して,「ヒ」併用によつて免疫を強め且つ長引かせうるかも知れないと論じている。
 私達はN造船所従業員に対して「ヒ」併用のBCG接種を行う機会を得たのでその成績について報告したい。

昭和28年東京都に発生した日本腦炎患者の発病誘因に関する2〜3の觀察

著者: 山口與四郎 ,   池田和雄 ,   岩崎綾子

ページ範囲:P.38 - P.40

はしがき
 日本脳炎発病の素因,誘因としては種々の要素が考えられるのであつて,今までに幾多の研究報告がなされている。当予防部においても昭和23年の本病大流行の際,1781例の患者について調査を行い,その成績の概要を発表したが,今回は更に昭和28年に発生した208例の本病患者につき観察を行い2〜3の知見を得たので報告する。

淨化槽の放流水殺菌に関する研究

著者: 中西恭生

ページ範囲:P.41 - P.43

I.緒言
 福岡市内24カ所に於ける水槽便所の放流水中の細菌学的検査を行つたところ平均一般生菌数は1cc中24,000.000大腸菌群のM.P.N.は29,000.000という甚だしく細菌に汚染されていた。
 斯の如き汚染された放水が市内中央を流れる那珂河に注ぐ事は此の河が盛夏には子供達のよき遊泳場ともなる為め甚だ危険にして公衆衛生上見逃せられない重要な問題である。

食品中のダニ類に就いて(第1報)—味噌中のダニ類

著者: 眞貝春男 ,   宮内陽子 ,   長谷川曉男

ページ範囲:P.44 - P.46

I.緒言
 食品に寄生して,これを喰害するコナダニ類については最近食品衞生の立場から重要視されて来ている。味噌に就いても,その表面にサトウダニ,ケナガコナダニが発生する事はすでに佐々,浅沼氏等により報告されており,又ダニ類が人体内に侵入して種々の障害を惹起する原因となり得る事も多々の報告が為されている。吾々も食品中のダニ類に興味を持ち特に日本人に関係の深い味噌について食品衞生学的見地からこれが検索を試みたので,そのまとめ得た結果をここに報告する。

性病豫防対策に關する與論調査 I.—届出制度に関する医師の意見

著者: 小原菊夫 ,   伊東弘祐 ,   山田達男 ,   小島丑造

ページ範囲:P.47 - P.49

 性病患者の届出制度が実施されてから数年になるが,その実績はあまり振わないようである。われわれの調査(公衆衞生第14巻第5号)によると,東京都の届出情況は健康保険,公費患者においても,10%以下が届出られたにすぎない。届出制度は性病予防行政の基礎である。日常診療に従事する医師が,この制度に対してどの程度の関心をよせ,またいかなる意見を持つているかについて,われわれは無関心ではいられない。そこで,とりあえず,都内の医師に対して書簡質問を試みたので,その結果を報告する。

宮城縣における肝吸虫感染

著者: 小宮義孝 ,   佐藤菊雄

ページ範囲:P.50 - P.53

 宮城県における肝吸虫症の歴史は明治初年にさかのぼる。即ち当時宮城県本吉郡黄牛(現在の柳津町の医師高屋養仙が,この地に腫病と云われる胃腸障害と水腫とを主徴とする1種の疾病の存在に注意し,かかる疾病はその附近の締切沼の魚介を採取するものに多いと云われていたが,明治17年患者の糞便中に初めて肝吸虫卵を発見し,同19年いわゆる黄牛病で死亡した鈴木安左衞門の死体解剖により,之が肝吸虫にもとずくものなることが初めて確認されるにいたつた。尚この地には明治21年ベルツ博士がその調査に赴いている。
 それ以来昭和の初頭までにいたる同地方及びその附近の肝吸虫卵保有者は依然として存在し(表略)また柳津町において大正元年より昭和19年にいたる死亡者より肝吸症による疑のあるものは26名に及んでいる。

日本住血吸虫病の予防に関する研究

著者: 太田秀淨

ページ範囲:P.54 - P.58

1)日本住血吸虫セルカリアの殺滅について
 日本住血吸虫病の有病地に於ける本病の中間宿主宮入貝の撲滅は本病撲滅の為の先決問題であるが,完全なる撲滅を今日に於て未だ期することが出来ず,近年山梨県に於ては,多額の国庫を以て化学藥剤による撲滅と共に,溝渠をコンクリートに改修しその生活条件をかえることにより撲滅を行つているが,貝の撲滅と共に感染幼虫であるセルカリアの水中に遊出したものを殺滅することは本病の予防上必要な条件である。セルカリアは化学藥剤及び機械的刺戟により容易に死滅せしめ得られるが,実用に値する簡易なる方法は実験せられていない。私は実験室内に於て,水中に遊出したセルカリアを急激に落下させることによりセルカリアを簡易に殺滅し得る方法を実験した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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