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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生17巻2号

1955年02月発行

雑誌目次

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牛乳の處理問題

著者: 石橋卯吉

ページ範囲:P.24 - P.26

 最近牛乳の処理について低温殺菌と高温殺菌の是非をやかましく論議されているが,これは戦後酪農の急速な発展により,その産物である牛乳が急激に増産せられ最近の経済不況にあつて消化しきれず,他方,乳製品の滞貨によつて大乳業会社の原乳の買入価格の数次に亘る引下げ問題に絡み,一部酪農団体は自らの手で牛乳を処理するためには,敢て低温殺菌方法のみによらず,簡単な設備で足りる高温殺菌を許可せよと,関係方面に強力に働きかけ,小売価格引下げによる消費の増加という観点から一部に高温殺菌を許可すべしという意見もあり,国会においては最初に参議院農林委員会において採上げられ,政府当局との間に数次に亘り論義が繰り返えされ,現在政治問題にまで発展したのであるが,この低温殺菌か,高温殺菌かの問題は独り乳価の面からのみ判断さるべきものではなく,牛乳の消費は戦後年々急カーブを画いて上昇をたどつており,現在でも一般国民の信頼を受けつつ需要が増加している。牛乳余剰の原因は色々あると思うが私の考えでは,デフレ下において安い良質のマーガリン等の進出が盛で,酪製品の売行きが思う程伸びず一時的に酪農業が成り立たないような現象がみられるのであるが,この問題は他の経済領域に於ける立法により酪農業を援助すべきで,国民の保健衞生に関連した牛乳の殺菌問題とは切り離して考慮すべきものである。

牛乳の處理問題

著者: 兒玉威

ページ範囲:P.27 - P.31

もめる牛乳の処理問題
 近年牛乳の生産量は急速な上昇を示し,本年は恐らく戦前の2倍近い生産を示すだろうといわれている。牛乳は今や国民の食生活中の重要部門を占め,食生活改善上欠くことのできない食品となつたが,意外にも需要の拡大は増産に伴わず,乳価の暴落は酪農の危機を招いている。然るに若し,動物性蛋白質の摂取量の少いわが国の農山村において,身近な生産物である牛乳が一般に飲用されるようになれば,消費の拡大のみでなく,白米過食の惡習も自ら矯正され,栄養の欠陥も補われて正に一石二鳥の策であるといつてよい。ここにおいて酪農団体はその保護対策の一つとして高温殺菌の認可を厚生省に迫り国会に陳情して省令の改正を要望している。これに対し市乳の処理業者団体は非衞生な高温殺菌を認めることは時代錯誤だと反対し,更に酪農振興を図つた農林省低温殺菌を奨励した厚生省や市乳の価格引下げを要望する消費者の立場も加わつて,兩派の利害対立し,牛乳の高温処理問題は今や深刻な政治問題化しようとしている。
 現行の省令では低温殺菌を原則とし,例外的に高温殺菌を認め得る立前をとつているが,実際問題として都市においては牛乳の消費量も多く,低温殺菌の大規模な処理施設を設けて処理を行う方が衞生的であるばかりでなく,却て能率的であり経済的であつて,特に高温処理の有利な点は認められないというのが多くの専門家の意見のようである。

黄変米の再搗精

著者: 大城俊彦 ,   芦沢広三

ページ範囲:P.32 - P.35

1.緒言
 昨夏黄変米問題が巷間に大きな波紋を投じてより,厚生大臣の諮問機関である食品衞生調査会は黄変米特別部会を設置してこの問題を審議することとなつた。そして夫々の研究班はその科学陣を動員して,各視野各角度から黄変米に関する研究を開始したのである。
 その結果として,現在のところ「外観上ほぼ正常であるが培養上黄変米菌の証明された所謂白い黄変米においては,再搗精を施すことにより食用に対する安全度を著しく高め得る」となす説と,これと反対に東京農業大学三宅市郞教授等の如く「再搗精により菌を去り無毒にしようなどとする事は痴人の夢である」となす論あつて未だ結論に達しない。

黄變米の再搗精問題に就いて

著者: 三宅市郞

ページ範囲:P.36 - P.39

 黄変米を再搗精して配給すべしとの声は昨年夏頃より起つたもので其当時は国立衞生試験所で再搗精すれば菌が著しく減少すると言う様な結果を得たと聞いて居た。其後11月17日の黄変米研究連絡会議で新潟県及び兵庫県衞生研究所の報告が出て,初めて再搗精問題の基礎をなす研究を知つたのである。然るに其報告を検して全く腑に落ちない点があつたので,東京農業大学で助教授松濤誠道氏の監督下に大学院学生若松秀行氏をして実験せしめ其結果を12月11日日本植物病理学会関東部会で発表し次いで12月15日の黄変米研究連絡会議で発表した。
 以下に記す所は12月15日の会議で発表したものと其後追加して現在尚実験中のものとの二部から成つて居り何となく連絡のない様に見えるが全部書き直す時間がないからこれで勘弁して頂きたいと思う。

所謂出血熱の疫学

著者: 宍戸亮

ページ範囲:P.1 - P.11

まえがき
 "流行性出血熱"という名称の疾患が我が国の学者によつて見出されたのは今より10数年前の事で,当時(昭和14年)ソ満国境に駐屯していた我が国の旧軍隊の将兵の間に高熱と著しい出血性傾向と腎臓障害を伴う一奇病が流行し,当時の関東軍々医部当局を中心にして一群の民間学者の協力によつて本病は一ウイールスに由来する疾患である事が確定された。1)2)3)
 1951年朝鮮の戦場で戦つた国連軍隊の中に上述の流行性出血熱とその臨床症状の極めて類似した疾患が多数発生して米国の多くのウイールス学者4)5)や二,三の西欧の学者5)が所謂出血熱に注目し始めるに至つた。又これより先,ソ聯邦に於ても既に我が国の学者が満州に於て流行性出血熱に注目し始めたと殆んど期を同じくして本病の存在をソ聯領北東シベリヤに認め,我が国の学者の多くの研究と全く独立に且つ殆んど並行に研究が進められ我が国の学者と等しく本病がウイールスに由来する疾患である事を認めた。7)8)しかも又ソ聯邦に於てはその後後述する如く各地に高熱と出血性傾向を主訴とする各種の出血熱が見られ9)現在では所謂出血熱に対して幅の広い定義を下さざるを得ない状態に立至つている。

環境衞生学の課題としての大気汚染

著者: 新保外志 ,   田多井吉之介

ページ範囲:P.12 - P.23

1.はしがき
 大気圏の底に共存するわれわれ人類の歴史をふり返えるならば,大気と気候は直接に身性に作用しまた間接に食物としての植動物の生育を支配するものとして,遠い過去からその生存に重大な影響を与えてきた。衣食住その他の生産技術が進歩した―それは長い年月の人類の努力の結晶であるが―現在はもちろん将来でも,その事情は根本的にはかわらないであろう。しかし社会の進歩とともに,われわれは次第に気象や大気の直接の支配から自らを脱却しつつあることは確かである。ところが人間社会が成長し,自足的農業生産社会から脱皮して工業化が始まり,都市に人口が集中し,運輸交通もさかんになると,社会自らが環境としての大気の性状に影響を与え,新しく大気汚染問題を提供してしまつた。衞生学の歴史をみると,古くは細菌学をまた最近は栄養学など,大きな学問分野を包含してきたが,大気の汚染問題はそれにつぐ分野となりつつある。
 去る3月と4月数回に亘つてマーシヤル群島で行われた合衆国の水爆実験の結果が,原住島民と偶然遇難した第五福龍丸の不幸にとどまらず,予想以上に大きなスケールで長く海洋魚族や大気を放射性物質で汚染し続けた事実に直面して,われわれはこの対策に心胆をくだいている。しかしもつと広い意味の大気汚染が社会の問題として取り上げられたのは,現在に始まるのでも"原子灰"に始まるのでもない。平和な生産社会にも,なおその問題は生じうるのであつた。

煙霧の害

著者: 森島侃一郎

ページ範囲:P.23 - P.23

 米国ロスアンゼルス市附近の煙霧の害は丁度,咽頭炎や喉頭炎や洞感染や,慢性の咳嗽流行時期とその時期を一にしているので,同市の市民は非常に怒を覚えている。1954年の感謝祭の日に,生後三カ月程の子供が三人もこの呼吸器性疾患の急襲で一時間以内に死んで仕舞つた。その死因は同市の煙霧により窒息死とあつてその兩親たちは市を相手取り損害要償の訴を起している。
 この事についてロスアンゼルス市医師会長Philip Samson氏は彼の考えの一端を披露し,曾て1948年ペンシルヴニア州ドノラで22人にも上る人々の生命を奪つたような大災害の主をきつと発見して見せるといつている。

公衆衞生医師要員の補充対策

著者: 聖成稔

ページ範囲:P.40 - P.43

1.公衆衛生に従事する医師不足の現状
 広汎にわたる公衆衞生の仕事を行つてゆくためには種々の技術者が必要であることは言うまでもない。即ち医師,歯科医師,藥剤師,獣医師を始めとして助産婦,看護婦,保健婦,栄養士,レントゲン技師等がそれであるが,この中最も充足の困難なものが医師である。我国の衞生の仕事が防疫を中心とした取締行政であり,従つて警察署を第一線機関として業務が展開された明治,大正の時代はさして問題にならなかつた様であるが,昭和13年に保健所が誕生して漸く我国の衞生行政も技術者を中心とする指導行政に転換してからは,この公衆衞生に従事する医師職員の必要性が痛感されて来たので,保健所を始めとして種々の施設や官公庁に定員がおかれ予算措置も講ぜられたのであつた。
 然し戦争中は,多数の医師が軍医として応召されたために診察に従事する医師さえ不足を告げていたので,公衆衞生に従事する医師の充足は到底不可能であつた。

WHO理事国に選ばれて

著者: 山口正義

ページ範囲:P.44 - P.46

 去る1月15日朝厚生省兒童局の高部母子衞生課長がKLM機で,そして同日夜茨城大学長東龍太郞博士がSAS機で,共に羽田からジユネーヴへ旅立たれた。去る1月18日から開れかたWHOの第15回執行理事会に,東博士は日本から選ばれた理事として,高部課長はその随員として出席するためである。
 日本がWHO理事国に選ばれたのは,昨年5月ジユネーヴで開かれた第7回世界保健総会に於てであつて,同総会直後に開かれた第14回執行理事会には取り敢えず同総会への日本政府首席代表小沢厚生省統計調査部長が理事として出席されたが,その後国内に於て慎重に人選を行つた結果東博士を理事に推薦することとなり,所定の手続を了つたので,今回の同博士の渡欧となつたのである。

研究報告

鉤虫保有に関する一知見—感染源からの隔離が考えられる場合の鉤虫保有率の推移

著者: 小泉明

ページ範囲:P.47 - P.48

 1952年埼玉県下某紡績工場の夏季健康管理対策として,東大公衆衞生学教室の手によつて実施された疲労および熱中症の検診調査(1)のうち,寄宿女子従業員の寄生虫検診の資料―ことに鉤虫保有率―に関して興味ある知見を得たのでここに報告する。
 調査対象はそのほとんどが16〜22才の未婚の女子紡績従業員であつて,出身地は主として新潟,群馬兩県で,入社後は工場構内の会社寄宿舎で集団生活をなし,せいぜい年1〜2回短時日帰郷する以外きわめて統制のとれた起居をおこなつている。食品衞生に関しては会社食堂でことに注意し,食器の消毒にはすべて熱湯を用い,生野菜をそのまま食膳に出すことは避けており,一方便所の清潔に十分気をつけて屎尿処理には寄宿生の手をわずらわしていない。なお当時までに鉤虫駆除を実施していない。

隨想

欧米擦旅管見

著者: 堀内一弥

ページ範囲:P.49 - P.52

 昨年9月中旬イタリーのナポリで,第1回国際産業医学会議が開かれ,これに出席したのを機会に,それから約3カ月間オーストリア,西ドイツ,フランス,イギリス及びアメリカをまわり,自分の研究課題である疫学や職業病学について各地の学者と討論したり,その研究所を視察したりした。ヨシのズイから天井をのぞく式の皮相の観かも知れないが,私の旅行は大体独り旅で,旅館も安宿であつたし,食事も一膳めしやで食べたことも多く,タキシーなどには殆んど乗らなかつた庶民的な旅であつたので,その間に見たり聞いたりしたことは飾り気のないよそゆきでないものであつたことは事実である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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