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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生17巻3号

1955年03月発行

雑誌目次

特集 慢性疾患の疫學

英米における冠状動脈疾患の疫学的展望

著者: 宮入正人

ページ範囲:P.1 - P.7

まえがき
 アメリカ合衆国では1910年以来心臓病による死亡が死因の第一位となり,1918年インフルエンザの大流行年をのぞいて常に死因の王座をまもりつづけている。1947年には全死亡数1,445,000の43%にあたる626,000が心臓及び血管の疾病による死亡でこれは第二位以下の主死因である癌,事故死,肺炎,結核及び腎炎による死亡数を合計した数よりも更に大きい数であり,実に心臓血管の疾病による死亡は死者3人の中に1人を数え,1分間1人の割で死亡する状態となつた。この状況に鑑みて来国議会は心臓病対策を特に採り上げ,以来各種の調査研究が活溌につづけられている。1949年New England Heart Associationの調査によれば,3,700,000人が心臓疾患のみによつて,又更に略々同数の3,700,000人が動脈硬化症及び高血圧症に悩まされており,生産力の上に152,000,000稼動日が1カ年間に失われている事が明かにされた。

癌の疫学

著者: 石田保広

ページ範囲:P.8 - P.14

癌は昭和27年より国民死亡の第2位の疾患となり,年々その重要性が増加している。癌の疫学研究も必要性を増し,また多くの研究者がこの分野に興味をもつ様になつてきた。癌の疫学研究の目的は次の2つ,すなわち,1.行政に必要な解析,2.癌の発生要因の分析の2つに分けて考えることが出来る。勿論この兩者は密接に関連しているので区別することは困難であるが,前者には一断面の調査である一般人口中の罹患率Incidence Rate,有病率Prevalence Rate,死亡率を求めることや,癌患者を登録し,長期間にわたる観察をおこなつて生存率を求めること等が属し,社会階級,職業,遺伝,習慣或いは発癌因子と癌罹患率,死亡率を比較検討することは後者に属している。癌の疫学研究に際し資料や解析の方法が急性伝染病の研究の場合と多少相違があるので,今回は研究に必要な資料及び解析の方法の大要について述べ,つぎに癌の疫学の分野で問題になつている点及び研究の方向について簡単な説明を加えたい。(註1)

悪性新生物罹患の地理病理的観察

著者: 藤咲暹

ページ範囲:P.15 - P.27

緒言
 我が国におけるここ数年来の結核をはじめとする各種伝染性疾患の死亡の著しい減少は,脳出血,惡性新生物など非伝染性疾患死亡の相対的増加を招来した。今やこれら非伝染性疾患に対する何らかの公衆衞生対策が強く要望されるに至つている。惡性新生物に対する対策を考究するためには,唯死亡統計について疫学的検討を加えるだけでは不充分であり,その罹患状況についても可能の限り調査して地理病理的観点よりその特長を把握することが必要であることが強調されている。米国,デンマークでは惡性新生物患者についての地理的調査研究が行われており,その成績が既に発表されているが,我が国においては従来かかる地理的調査研究が行われたことはなかつた。東北大学医学部公衆衞生学教室は,この問題に積極的な関心を持ち,昭和26年以降宮城県衞生部,宮城県医師会の援助を得て,宮城全県下の惡性新生物罹患状況の調査を行つて来た。ここに宮城県惡性新生物罹患調査結果の概略と地理病理的観点よりの国際比較をなした結果を報告する。
 なお,本報告においては惡性新生物を白血病,ホジキン氏病等を含めた広い意味で用いることにする。

老人病について

著者: 渡辺定

ページ範囲:P.28 - P.33

 人生の最終の目標は,最長の寿命,最強の健康最大の活動力の下に意義ある一生を終えることにあろう。近年,人間の寿命は世界各国民とも著しくのびた,殊に日本人は戦後著しい寿命の延長を示したことは周知のことである。30年前なら100人生れて60才には40人前後しか生きのこる確率がなかつたのに,最近は70人前後生きのこる確率となつた,急性伝染病死は減じて慢性疾患がまして来た。しかも日本は出生の急減で将来老人層の人口中に相対約多数になる状況にある。
 従来,生物学者も医学者も生物の発育成熟及び老化は当然のことと考え余り深入りをした研究に乏しかつたが最近は著しく関心を持たれて来た。老人病への関心もその表われの一つである。今回も本誌編集同人から老人病について何か書くようにとの註文があつた,しかし老人病と云つても老年だけ特別に来る確然たる病気はない。

短期入院綜合精密身体檢査(いわゆるドツク入り)の意義とその実施成績

著者: 日野原重明 ,   橘敏也

ページ範囲:P.34 - P.36

 医学が進歩するにつれて病気の治療の趨勢は対症療法から原因療法に重きがおかれるようになつた。これは20世紀の前半をかざる化学療法の進歩に負うところが大きい。ところが,近代医学の他の面の特色は,治療医学から予防医学へ向わんとする趨勢である。この予防医学は,社会全体をよき環境におき,それによつて公衆の健康を保持し,安心して人々が生活し得る社会を作るという公衆衞生的な内容をもつ。しかしそれ以外に,個人の健康をどうにかして保持し,且老いても人に厄介にならないですむという消極的な考えを脱して,如何に老いても能率的な活動が出来てその人の生が社会に意義をもたらすといつた生活を人生の最後の日迄もちつずけることが出来るように個人を補導する義務を予防医学はもつのである。
 したがつて,この後者の予防医学は個人衞生に合致するわけである。

慢性腎疾患の疫学

著者: 松田心一 ,   平山雄

ページ範囲:P.37 - P.44

1.はじめに
 老人性疾患といえば,脳溢血,癌,心臓病の他に,どうしても腎臓病をあげなければならない。
 Bight, R.(1827)が始めてブライト氏病の概念を医学に導入して以来,腎臓病の分類は諸学者によつて様々に論議されて来た。Vollhard及びFahr(1910)は病理発生学的に,(1)変性的疾患(ネフローゼ),(2)炎症性疾患(腎炎),(3)動脈硬化性腎炎(腎硬化症)を区別したが,これなどが現行の分類法の一応の基礎を与えたものと考えてよいであろう。

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健康長壽者の生態(第1報)

著者: 橋本鍾爾 ,   橋本孝平

ページ範囲:P.45 - P.51

I.緒論
 古来長寿に関する研究は洋の東西を問わず盛んである。著者等もその開業地千葉県安房郡鴨川町周辺の長寿者の生態に就いて以前より多少の興味を有し,安房郡西岬村長寿村に関しては既に数年前報告したが1),従来兎角長寿者に就ての研究がその対象を単に高令者と云う点にのみ着目した物が多いのに反し,著者等は今回特に高令者の中から後記の如き理由で,医学的にのみならず社会的経済的に全く健康と思われる者104名を選びその生態を纏めてみた。戦後予防及び治療兩医学の顕著な発達が出生率,死亡率の低下を招来し遠からず人口構成の老衰化が為政者の重要な課題となるべき我が国に於て,高令者が社会的経済的に健康な生活を営み得る医学的条件の吟味は不可欠な物であると思われる。兎に角田舎開業医の一小調査研究には過ぎぬが大方の諸賢の多少の御参考にでもなればと敢て報告する次第である。特に此処に強調すべきは,これ等104名は凡て著者等の開業生活40年を通じて現在に到る迄,その家庭状況,実族構成,経済状態,労働状態等悉知し相知の間柄であり,ここに纏めた調査に就ても談笑の中に協力を得た事実である。

水戸市に於ける地方性甲状腺腫の問題

著者: 七條小次郎 ,   小谷愛子 ,   矢島ふき

ページ範囲:P.52 - P.55

緒言
 我々は既に報告した様な理由から1)昭和20年以来主として学童に就いて甲状腺腫大度の調査を行つている。現在迄の群馬県下の小中学校に於ける調査成績4)〜8)は何れも対照地藤沢市2)のそれに比し明かに腫大率が高く有意差が認められ,群馬県地方に於て何等か地方性に甲状腺腫を来す因子の存在を推定し得るに至つている。今回海岸線より比較的遠く隔つた群馬県に対し茨城県の海岸に近い水戸市を対照地の一つとして調査を行つたのでこの成績を報告する。

黄変米の再搗精問題に就いて(そのⅡ)

著者: 三宅市郎

ページ範囲:P.57 - P.60

 前号に於いて同一題目の下に書いたがあれは匁卒の際2つの報告をつなぎ合わせたもので甚だ不完全なものであつた故その後の試験結果をも取り入れて茲に再び書いた訳である。
 黄変米再搗精問題の基礎をなす研究と思わるるものは私の知れる範囲内では,新潟県及び兵庫県衞生研究所の報告を中核としそれに国立衞生試験所の意見が加わつて居る。その要旨は

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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