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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生17巻4号

1955年04月発行

雑誌目次

特集 医療制度とその盲点(Ⅱ)

医療費と個人及び国家経済

著者: 末高信

ページ範囲:P.1 - P.7

〔1〕
 病気は人間の宿命である。いかに日常健康を自慢にしている人でも,時あつて病気になる。そしてこの病気は,病気として苦痛であるばかりでなく,それは生命に対する脅威である。人間は生物として生命の持続について本能としての執着をもち,従つて生命そのものを脅かすところの病気からはなれ,かつ病気そのものから来る痛みや苦しみから脱がれたいと願うわけである。
 このように病気を克服し,その苦痛からのがれるための人間の努力は,広義に解釈された医療である。この医療は,人類発達の初期から,いろいろの形で行われて来たもので,すりむきの疵につばを付けたり,やけどの疵に油を塗つたりしたと同時に,まじないやお祈りなどが行われたことは,改めて説くまでもない。

醫療費大系並に醫療制度の改革

著者: 神崎三益

ページ範囲:P.8 - P.14

 ここ数年,我医療界に劃期的改革を必要とする気運が動いている事は,なに人も否定出来ない事実だ。
 其を裏書する現象が相次いで起り,国会に於ても医藥分業法案の審議に伴つて,医療問題が長期間熱心に討議された。

醫療と法律

著者: 中村一成

ページ範囲:P.15 - P.22

1.序
 医療,ここで取りあげるのは医療制度(公衆衞生制度を除く)であろうが,我が国の医療制度と法律は如何なる関係をもつているであろうか。法律によつて組立てられた我が国の医療制度について,法的規則の盲点は何か。更に,そもそも医療関係に法律が足を踏み入れるべきであるか否か。かくの如き問題について私見を開陳してみたいと思う。

生活保護法による医療扶助

著者: 黒木利克

ページ範囲:P.23 - P.27

まえがき
 生活保護法による保護には,周知のように,生活扶助,教育扶助,住宅扶助,医療扶助,出産扶助,生業扶助及び葬祭扶助の七種の扶助があるが,これらのうちでその実施上また制度的にも最も多くの且つ困難な問題をもつているのは,医療扶助だということができよう。
 生活保護法施行以来,医療扶助の受給人員は,増加の一途を辿り,その他の扶助の受給人員が減少乃至横這いの傾向を示しているのに対して顕著な対照をなしているし,また医療扶助費の保護費支出総額のうちに占める割合も逐年上昇し,今や保護費支出総額の2分の1以上を占めるに至つた。

疾病と社會—都市を中心として

著者: 靑井和夫

ページ範囲:P.28 - P.34

1.予備的考察(理論的枠組)
 「全国に蔓延のきざし,都民5割は感染か!」最近のT紙はこのような見出しをつけて,流行性感冐の全国的蔓延に警告を発している。「ある財の効用は,それが失われたとき払う犠牲によつてはかられる」という限界効果学説によると,健康に勝る富はないわけであるが,われわれは,ふつうほとんど自分の健康について考えるようなことはない。しかし,このように新聞に大きく取扱われると,あらためて自分の周囲をふりかえつてみる。
 ところで,ひとくちに健康とか疾病といつてもそれは一体どのような状態をさしているのだろうか。医者の立場からいえば身体的な機能障害という言葉はとにかくはつきりしているようにみえる。ところが,「精神の疾病」「社会の疾病」という具合に,言葉の意味をひろげてくると,正常と異常を区別する基準がだんだんあいまいになつてくる。かかるあいまいさは,多かれ少なかれ「身体の疾病」にもつきまとつているに相違ない。19世紀末まだ社会学が生物学的アナロヂーの段階からぬけだしていなかつたころ,デユルケーム(E.Durkheim)をはじめ多くの学者の頭をなやました問題はこの点についてであつた。

疾病と社會—農村社会と保健活動の問題

著者: 松原治郞

ページ範囲:P.35 - P.40

〔1〕
「かぜでやすよ。かぜをこじらしたんでやすからな。……何もそんな……」
 おつかさんは,はつきりと反対の意見をいつた。そして,あとは,おしのようにだまつてしまつた。レントゲンという言葉がはげしいシヨツクを,彼女に与えたらしかつた。--もし,おとつつあんが肺病だつたら,どうしよう。隣近所の人たちと,つきあいもできなくなるし,だいいち主屋(おやじ)のねえさんが,何といいだすか。おとつつあんはくびになるだろうし,これからいつたいどうやつて,暮しをたてて行くのか。……いつたい,こんなことになるのも,この保健婦のやつがいけないんだ。いきなり,風のように舞い込んできて,うちの人を,肺病よばわりする。とんでもないさいなんだ。ひとのうちのことは,ほつといてくんろ。よけいなおせつかいだ。(若月俊一氏「健康な村」より)

迷信及び新興宗教と医療

著者: 日野壽一

ページ範囲:P.41 - P.46

 たわいない迷信が適正な医療を妨げていることは周知の事実である。また一部の新興宗教が「神は絶対である。神に任せきれ。人間どもの猿智恵ででつち上げた医学などに頼るのは神に背くことである。」といつて,現代医学的診療を拒む実例があまりにも多い。その極端な場合だけが国民医療法違反として軽い処罰を受けるとか,時には傷害致死事件として,新聞ラジオの批判を受け,刑事問題の対象となるにすぎない。しかし宗教教師たちは,これは予期した法難であると称して,逆に布教宣伝に利用し,ますます善男善女を狂信に駆りたてることを怠らない。政府機関がかかる布教宣伝を取締ろうとすれば,その前には,手離しの信教の自由を保証した憲法第二十条が厳然と立ちふさがつている。微にいり細をうがつて精密に規定された諸医療制度,健康保健法その他で,医者は手も足もでないように窮屈に縛り上げられているのに対し,事ひとたび"信仰"といえば,何とマア寛大であるのであろうか。医療と信仰の対立に対してすでに国家意志にかくも大きいへだたりがあるのである。
 それはともかくとして,迷信や一部の新興宗教によつて,常識的に見て不合理と思われる健康上生命上の好ましくない事件が跡を絶たないのは,これを取締る医療制度に不備な点があるのではないか,あるとすればどうすればよいか,というので特集"医療制度とその盲点"の一環として,私に上記の題が与えられたものと思う。

迷信・新興宗教と醫療

著者: 若月俊一

ページ範囲:P.47 - P.56

 この頃の文部省の調査によると,「病気の時医者にかかつたり,藥をのんだりしないで,神さまや仏さまにお祈りし,または,まじないなどをしますか。」という問に対して,全国の学生の百人中十七人までが,もつぱら神仏や,まじないに,たよつているという答が出た。また「病気になつたとき,医者にかからないで,民間療法にたよりますか。」という問に対しては,約50%がイエスと答えた。
 迷信的な治療は,まだ多くはびこつている。ことに,私どものいる農村山間部においては,まだまだ多くのおまじないやお祈りや民間療法的なものが,そしてまた,最近は新興宗教が,病気の治療に使われている。なぜこのような非科学的なものが,今もなお,私たちの前にのさばつているのだろうか。それは,今もなお,無知と因習と古代的な精神が--そして,なりよりも,それらの原因である経済的貧困が国民の生活の中に,横たわつているからであろう。然し,一方また,私たちの,「科学的」と称する医学のありかたに,なにか根本的なけつかんがあるからではなかろうか。

無醫村

著者: 橋本寿三男

ページ範囲:P.57 - P.61

1.定義について
 医師の定住していない村を一般に無医村と呼んでいる。医師が定住していても,その医師がその村民の医療を担当していない場合は勿論無医村である。従つて,無医村は無医療村と考えてよいであろう。
 近代医学の恩恵に浴し得ない国民が存在するのは村とは限らない。大都市の中にもある。村という以上は行政の1単位である村に限定して考えられるのであつて,農村,漁村,山村などでその村民の医療を担当する医師がいない場合,これを無医村と呼ぶこととしよう。大都市などの無医療地域は地域として限定されていない場合が多く,むしろ無医階層と呼ぶべきであろう。又,医師の定住している村であつても,その一部には医療の及ばない地域の存在する場合がある。これは無医地域と呼ぶこととする。

事業場における医療

著者: 長屋信美

ページ範囲:P.62 - P.65

1.はじめに
 事業場における医療について,何か書くようにとのお註文でしたが,さて,事業内容の異なる各種の事業場毎に,その医療もある程度,違うのであるから,どうしても,総合的なことがいえないことを,はじめにお詑びするとともに,関係官庁にも,民間にも,事業場の医療施設についてのデーターがないことで,これが,事業場の医療制度の第一の盲点ということになつてしまうわけで,誠に遺憾なことで,早速この方面から,関係官庁と民間団体とで,調査を進めていただきたいと思う。

アフターケア

著者: 津田信夫

ページ範囲:P.66 - P.71


 医療制度とその盲点と称する特集号の一部として,アフターケアの問題をとりあげて呉れとの事である。恐らくここに云う医療制度は,生活し,家族を養い,社会を構成する人間に対する広い意味の医療,即ち単に炎症をとめ,切除してのけ,疾病を生物から追い出してしまう狭義の医術でなく,社会生活に再び健康にして帰してやる医療についての制度を意味するのであろう。
 従つて,アフターケアが,このような広義の医療制度の範囲の中で,又はその関連部分として問題となるためには,それが必要である色々な条件がなければならない。

統計からみたわが国医療の現状

著者: 田中明夫

ページ範囲:P.72 - P.80

まえがき
 わが国の医療統計は戦前においては,内務省並びに厚生省報告例によつて医師,歯科医師,藥剤師,看護婦(人),助産婦,あんま・はり・きゆう師,柔道整復師等医療従事者の数,及び病院の施設数,病床数,入院患者数,診療所・歯科診療所数,藥局,医藥品販売業者数等を年1回都道府県から報告させてこれを衞生(局)年報に報告していた。またこれとは別に当時はその適用範囲が現在と比較にならぬ程狭かつたが,健康保険に関する統計を年報として発表していた。
 戦後各種衞生,福祉統計の拡充と共に医療統計もその内容が充実整備されたばかりでなく,新たに国民の傷病,医療の状況を世帯面から調査する国民健康調査,病院・診療所の経営実態調査,医藥品の生産動態統計等が厚生省によつて実施されており,わが国の医療統計は国際的にも優位を占めている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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