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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生17巻5号

1955年05月発行

雑誌目次

特集 水道問題の展望

我が国の水道史

著者: 広瀨孝六郎

ページ範囲:P.1 - P.6

1.序説
 水道の歴史といつても水道というものをどう定義するかによつて,その起原も沿革も相当に変つてくる。近代式水道の定義は別に後記するとして,この起原を求めるならば明治初年に作られた横浜市水道が嚆矢である事は間違ない。併し概念的に水道といえるものの歴史はもつと古いものである。例えば世界の水道史上に有名なローマ水道を考えて見るとこれは専ら水路の規模と延長との大なる事が特長で,従つて豊富な水量を供給してはいるが,水質に関しては殆んど考慮が払われなかつた。併しこれを以て水道と考える事には何人も異論のない所であろう。この見地から我が国水道の起原と沿革とを辿る事としよう。従つて単に井戸による地下水の人工的取水の起原沿革は割愛する事とする。

日本の水道と行政

著者: 爲藤隆弘

ページ範囲:P.7 - P.12

初期の水道
 人の集落が村から町へ,町から都市へと次第に大きくなるにつれて,水の需要は段々と多くなり,従来の泉や井戸にのみ頼ることができず,他に良好で豊富な水源を求めて,これを市中に導水しなければならなくなつた。このように水源が遠くになると個人個人の力では実現が困難になつてくるので公共の施設としての水道が必要になつてくるのである。飲料水供給の方法は,文化が進むとともに,個人的施設の井戸から共同施設の水道へ,単純な給水施設から複雑な給水施設へと進歩して来たのである。
 わが国における上水道の創設は,徳川家康が江戸に幕府を開き江戸住民の飲用水の欠乏及びこれに基く不衛生を解消するために築造した神田上水である。即ち天正18年井の頭の湧水を水源として江戸市中に配水する延々23粁に達する自然流下の上水道工事がこれである。徳川幕府のほか,全国の雄藩においても同様その城下町の飲用水の問題を解決するため上水道を築造して住民の保健衞生の確保を図つたのである。即ち金沢水道,水戸水道,福山水道,名古屋水道,仙台水道,鹿兒島水道,高松水道,福島水道,赤穂水道等がこれであり,いずれも徳川中期今から200年ないし300年前までに築造されたものである。これらの施設は,当時の為政者が莫大な資金をそそぎ最高の技術を動員して築造した驚嘆に価するものである。

水道施設

著者: 左合正雄

ページ範囲:P.13 - P.21

I.緒言
 我々の水道に対する常識的な概念からすれば,水道とは何時でも安心して飲用に供し得る水が豊富に成可く安く供給され,又一旦火災時には消火に役立つ施設である。そのためには給水栓から出る水量は使用水量を充たし,水圧が適度にあつて,水質は飲料水判定標準に合格するものでなければならない。これは大都市の水道でも町村の簡易水道でも,水道と言うからには満足しなければならない条件である。
 従つて水道は現在並びに将来とも出来るだけきれいな水を必要な水量だけ確保し得る水源を求め,成可く簡単な方法で浄化し,安全確実に給水し得るものであることが望ましい。ところが今日大都市の水道の配水量は莫大で,しかも日増しに増加するから,必ずしもその需要に応じるきれいな水源を求め得ないので浄水方法は次第に難しくなつて来ている。一方今日の浄水方法には限度がありどんな水でも水道の水源に利用出来るわけではないから,河川等の公共水の汚濁を防止する必要がある。

水道の管理を公衆衛生学的に視る

著者: 小島三郞

ページ範囲:P.22 - P.27

前書き
 人は水と共にあつた。水と共にある。将来も水とはなれて人間生活は成り立たないだろう。人間の歴史は,使用し得べき水源と,密接に関係して始まつた。大河池沼の畔,小川湧泉の近傍に,生活し集団し,掘鑿可能の井戸ある地帯に発展し,次であらゆる方途を求めて,水の確保出来得る範囲に殖民して来た。今日の物質文明は,相当遠方に水を求めて,運搬し得る圏内を益々拡大しつつある。私は単に水と云うが,この水たるや,良好安全且つ豊富でなければならないのは云う迄もない。
 近時邦家諸地方に於ての水道の普及,誠に著しく,国民の受ける便益の程は,また大なるものがある。そして不幸なる疫禍が,残念ながら発生する。今のところ,この種の水系爆発流行は,そんなには頻繁に発生するとは云えない。実のところ私は今日迄の事故は,決して少なくはない,水系に捧げる国民の信頼感を裏切るに充分な頻度であると信ずるけれども,それは大抵は一家専用の井戸,乃至数家庭共有の"共同井戸"での災害で,頻度は大であるが,規模は小であるを常とする。統計の教えるところでは,邦家赤痢の流行の全原因の3分の1は,この"共同井戸"の汚染で説明出来る。この共同井戸の形態と管理とを,そのままに拡大したものが,即ち簡易水道なりなどと,"簡易"に定義ずけて,構築し,管理するならば,今後恐るべき集団流行の規模を大きくするに働き,水道の受益者は受難者となるだろう。

工学的水道管理について

著者: 石橋多聞

ページ範囲:P.28 - P.32

1.まえがき
 わが国の上水道は昭和29年度の調査によれば施設数1,171箇所で現在給水している人口は22.825千人,1日の配水量は約7,118千立方米である。これは法律による規制を受けている企業のみの数字で,この他に自家用水道,部落営の簡易水道等の小規模のものが沢山にあるがこれらは目下の処正確な統計がないので詳かでないが,恐らく数千箇所に上るであらう。これらの水道が消化器伝染病の防遏上果している役割は高く評価されて然るべきである。
 昭和26年に水道を有する市町村と有しない市町村とを任意抽出法により,その消化器系伝染病の発生率を調査したが結果は次のようであつた。即ち昭和22〜26年間の1万人当りの平均患者発生数は,全国平均で水道のある市町村については,7,4人であつたが,水道のない市町村については16,6人であつて水道が防疫上果している効果を如実に物語つている。然し乍ら水道は良好に維持管理されている場合は防疫上の尖兵としての役割は大きいが,この反面一旦その管理を誤る時は逆に伝染病伝播の道具と化し消化器伝染病の集団発生を見る事は過去の幾多の事例が示している。因みに昭和25年以降の水道流行の事例は43件ありこれらは殆んど全部小規模の水道で維持管理の不良に基因するものである。水道流行の疫学的特微は給水区域全般に範囲が及ぶことと,このうち水道利用者に限つて患者が発生する。

水道と伝染病

著者: 尾崎嘉篤

ページ範囲:P.33 - P.40

緒言
 近時,水道による赤痢その他の伝染病の流行事例が極めて多い。昨年10月,東京で開催された日本公衆衞生学会に於ても,水道による赤痢の爆発流行例が連続して5例も報告せられ,注目を浴びたがいずれもその原因は,水道の運営管理の拙劣さによるものであつた。しかもその運営管理の無茶さ加減は,常識では考えられないようなものが多く,遂に小島衞研副所長が「かかる報告は,公衆衛生以前の問題である。来年からは,本学会ではこうした事例が一つも報告されないよう,至急に事態の改善を望む。若し,同様な報告がなおなされる必要があるならば,それは犯罪学会に於てでもなされたい。」と発言したほどであつた。
 伝染病を撲滅すべき使命を担い,現在その普及に多大のエネルギーと資金が充当されている水道によつて,反面,何百人何千人という大量の犠牲者を出しているということは,誠におそるべき皮肉であり,直ちに断乎たる補正手段を講じなければならぬものである。

水質

著者: 洞沢勇

ページ範囲:P.41 - P.47

1.序
 一般水道の目的はいうまでもなく,衞生的で良質な水を充分に支給し,一般の文化的生活や生産に寄与することにある。即ち,水道にあつては質と量が共に満足されることが必要である。ところが自然界ではこの兩者を一様に満足させるような水が次第に得難くなつてき,殊に水質は人口の増加,産業の発達に伴い益々悪化の一路をたどつている。従つて,水道の計画にあたり,水源の撰定は水質の上から非常に難しくなり,且つ浄化方法に対しても負担が益々増大する傾向にある。水道の設計頭初から,施設後の維持管理に至るまで水質の管理なくして水道の成立しない理由もここにある。
 以下,水道の運営と水質との関係につき,若干の問題を取上げて略説することにしたい。

水道と弗素

著者: 北博正

ページ範囲:P.49 - P.51

 水道と弗素の問題に関して述べるには,斑状歯のことから説き起こす必要がある。
 斑状歯とは歯牙(特に永久歯の前歯部)の表面にあらわれる白濁乃至褐色の汚い斑点があらわれる歯牙の異常であつて,既に今世紀の初めに報告例があり,その後,米国の西部地方で特殊な歯牙異常として注目されて来たが,1916年BlackとMckayによつて詳細に研究され,はじめて「エナメル質の地方病性形成不全」として報告されたもので,特定の地域に集団的にあらわれることが多いため,何か共通の原因があるのではないかと,いろいろなものが考えられていたがMckayとBlack(1916),Pierle(1926)は飲料水中に何らかの原因が存在することを唱えたが,当時の検査方法では何等の手懸りも得られなかつた。しかし斑状歯をもつ兒童の常時飲用する井戸水で動物を飼育すると,幼獣では人間同様に斑状歯が発生することから,飲料水中の未知なる微量の物質に基因することを予想せしめたのである。

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牛乳の處理に対する栄養学的考察

著者: 新井養老

ページ範囲:P.52 - P.65

まえがき
 牛乳の処理,販売その他については,食品衞生法(昭和22年法律第233号)食品衞生法施行規則(昭和23年厚生省令第23号)食品,添加物,器具及び容器包装の規格及び基準(昭和23年厚生省告示第54号)において規制されているが,ここで処理というのは,搾つた牛乳の濾過,殺菌小分,密栓のことに限られている。しかしこの他に運搬,貯蔵などのこともある。従つてわれわれが常識的に処理という言葉の内容とは,多少ずれている点がある。のみならず食品衞生法は,飲食に起因する衞生上の危害の発生を防止し,公衆衞生の向上及び増進に寄与すを目的としている関係上,栄養というような事に直接に関与しているものではないのである。もちろん,この処理の奥底には,栄養を或る程度考慮に入れた長い間の実験や研究の結果をもひそめている。
 例えば殺菌の温度について見ても,殺菌と栄養成分の変化との兩面から研究されたノース(North)等のいわゆる安全帯が概ね採択されているのである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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