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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生17巻6号

1955年06月発行

雑誌目次

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肺結核内科的治療の進歩—「結核治療指針」の今日の役割について

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.1 - P.10

1.はじめに
 本誌の性質上結核予防法の「治療指針」特に審議会の状況を頭に置いてこの課題に答えて見よう。
 「進歩」というからには現在と過去のある時点との比較を意味することになるが半世紀前と比較することも出きるし10年前--第二次大戦の前後を対比することも意味深いだろう。しかし我が国では結核予防法によつて一応の診療の水準化が行われているのであるから,これを既定の事実とみなしこの指針を乗りこえはみ出したところを進歩とみなすのが,実際的であるように思われる。もつとも指針が改正されてからまだ1年にもならないのであるからその後の真の進歩と単なる見解の相違とを区別することは困難だが,学問に関するかぎり,権威が確立されたその瞬間から批判され否定さるべき当然の運命をもつものと覚悟すべきであろう。とにかくここでは現行の指針以後にいくらかの進歩があつたかどうかを考えて見ることにする。

肺結核治療における最近の進歩(外科)

著者: 塩沢正俊

ページ範囲:P.11 - P.22

1
 "市療(現国立中野療養所)に居たころはなあ"と当時のことを想い出されて隈部先生は時々感慨深げに語られる。その話によると,手足は絲のように痩せ衰えながら腹は臨月を思わせる程の蛙腹を呈し,腹水穿刺と腹囲測定が先生の日課の主な1つであつたと云う。そして,屍体がところ狭きまでに屍体室に並べられ,剖検に夜を徹したことも稀でなかつたと云う。
 それ程以前のことでなくここ数年前であつても,胸成術の前後に合併する腸結核症が患者や医師を悩まし苦しめて来たものである。

腸内細菌の病原性に関する考察

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.23 - P.31

1.腸内細菌の分類
最近Kauffmannが第1表の様なEnterobacteriaceaeの新しい分類形式を提案している。(1)
(1)SalmonellaのO抗原の表示は従来Ⅰ,Ⅱ……とローマ数字を用いたが,今後1,2……とアラビア数字を用い,又新菌型が見出されると土地の名をつけたが,今後は単に抗原構造のみを記載することが第6回国際微生物学会議(1953)で定められた。

腸内細菌の臨牀的観察

著者: 中溝保三

ページ範囲:P.32 - P.36

まえがき
 腸内細菌の分類学的研究は従来のSalmonella以外にもKauffmann一派のEscherichia,Klebsiella,Proteusに関する研究やEwing等のShigellaの研究等によつて近来精緻を極めつつあるが,その臨牀像については一部を除き解明せられぬ部門が多く,今後の検討に俟つところが多い。
 ここではこの1〜2年わが国において発表,報告せられた業績の内臨牀に関連するものを簡単に御紹介したい。

公衆衞生に必要な歯科衞生知識

著者: 大西栄藏

ページ範囲:P.37 - P.46

 明治の初年から歯科医学は近代医学の中で特異な発達をして来た。明治8年に公布せられた医制においては,歯科は口中科として規定せられ一般医学の一分科として取扱つていたが,その後明治16年に公布せられた医師試験規則では医師試験の外に歯科医師試験の規定が設けられ,これが現代の歯科医師制度の発端となり,明治39年医師法,歯科医師法が兩立して制定せらるるに及び医療は医師の行う医業と歯科医師の行う歯科医業とに分れて,全く別個の歩みを続けて来たのである。その為歯科医学の発達も,一応一般医学とは別個な環境と人人とにより研究せられ,向上したのであるが,兩者共に長足な進歩を遂げた今日,なお医学と歯科医学とは現実的に別個な物として一般社会に取扱かわれているのである。元より歯科医学は一般医学と全く異る特殊性が存在することは確であるが,その根拠とするところは医学の範疇を出ずるものではない。衞生学と歯科衞生学との関係も全く同様である。従つてこれが公衆衞生の一般社会に応用される場合においても,一般衛生と歯科衛生は分離した形で別々に取扱かわれている場合が多いのである。このことは公衆衞生が国民生活の上に益々重大な意義と効果をもたらし,国の重要施策として採り挙げられている今日,我が国公衆衞生の発展のうえから好ましいことでは無い。これが亦歯科衞生の発展を阻害している一つの原因でもあろうかとも考えるのである。

実態調査からみたわが国の結核の動態—昭和28年及び昭和29年調査による年間推移

著者: 山口正義

ページ範囲:P.47 - P.59

I.調査の目的
 厚生省は,昭和28年に世界で初めての試みである全国的な結核実態調査をおこない,その結果結核とくに要医療の数はこれまで予想されていたよりはるかに多く,実に292万人の多きにのぼり,このうち21万人が外科的療法を,219万人が化学療法を,137万人が入院を必要とし,80万人が結核菌を排泄し,204万人が空洞またはその疑のある者であり,しかも要医療のおよそ80%は結核であることを自覚していないことなどが明らかになつた。
 また,結核予防対策の面では乳幼児と壮年以上の高年令層の予防措置が不徹底であることがわかり,さらにこれまでその体系化に兎角明確さを欠いていた結核医療対策の面では,初めて全国的な結核の病型,病勢,適応医療及び入院の要否等が明らかになり,結核対策を強化するうえに極めて重要な根拠がえられたのである。

研究報告

パラチオン中毒の應急檢査に使用できる簡便血清コリンエステラーゼ定量法(第一報)

著者: 椎木悌二 ,   大久保達雄 ,   高橋浩

ページ範囲:P.61 - P.67

 パラチオン(及びその類似製剤)中毒の診断は血清コリンエステラーゼ(ChE)や血清SH基の定量及び尿(又は血液)からの製剤またはその分解産物たるパラニトロフエノールの検出をまつてはじめて確定する。なかでも血清ChEはパラチオンに対して極めて鋭敏に反応し活度低下を来すから,その測定はパラチオン中毒診断における最も重要な検査と見做されている。血清ChE定量法としては色々な方法が発表されているが,多くはWarburg装置,ガラス電極pHメーター及び光電比色計など小さな実験室では購入しにくい高価な器具を使用しなければならない。
 ここに発表するChE定量法はもともと肝疾患における血清ChE低下を検出する目的で案出され,既に1600例以上の患者血清を処理した歴史を持つている。その原理はマイケル法及び厚生省が標準法として認定している上田氏の方法と同様に,血清(血漿)を混じたアセチルコリン基質緩衝液のpHが血清のChEによるアセチルコリン分解(醋酸産生)の進行につれて降下するのを測定し,このpH降下の強さを以つてChE活度を代表さす(pHの降下が顕著な血清ChE活度は不明瞭な血清のそれより大きいと判定する)のである。基質緩衝液のpHはフエノールレツドを指示藥としコンパレーターで出来るだけ精密に読取る。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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