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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生18巻1号

1955年07月発行

雑誌目次

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大気汚染

著者: 鈴木武夫 ,   輿重治

ページ範囲:P.1 - P.13

1.はしがき
 昭和29年暮より昭和30年の春にかけ,新聞紙上にはスモツグ(Smog)という新語が表われ,しばしばスモツグに包まれた都市の写真が紙上をかざり,あたかも都市の冬季の一風景であるかの如き感を呈した。時を同じくして大気汚染の問題が一般人の関心をひいた様である。ところが春来ると共に,その関心は再び雪の如く消えて無くなりつつある。しかし,大気汚染の問題は冬季のスモツグで代表される現象のみをいうのであろうか。
 都市は工場と交通機関と多数住民の住宅がひしめきあつている。夫々の目的に応じ活動し,そのエネルギーを消費し,何等かの生産を行い,その生産にともなう廃棄物を空気中に水中に土中に捨てている。そして自然の浄化作用に,その最後の運命をたくしている。然し自然の浄化作用は強力ではあるとしても,その強さは無限のものであろうか。

温度と濕度の衛生

著者: 田多井吉之介 ,   山本理平

ページ範囲:P.15 - P.25

はしがき
 生態学は,人間の環境を3つに区分している。物理的環境,生物的環境,および社会的環境がこれであるが,温度と湿度は前記物理的環境においてつねに代表的にあげられる要素である。したがつて衞生学の発展過程において,その当初から学者の注目をあつめ,多数の研究がなされてきたのは改めてここに述べるまでもなかろう。しかし学問の発展は社会的進歩と切離しては考えられない。最初の衞生学者が取扱つた「人間に対する温度と湿度との影響」の研究は,もつぱら抽象された人間の温度あるいは湿度の単位に関して行われたのであるが,現在の温湿度の衞生を考慮する場合には,社会的な人間と社会的環境から明確に分離しがたい物理的環境条件としての温湿度とを採上げざるをえないのである。鉱工業の発達にともない製鉄場その他には異常高温条件が必要になり,その作業環境に労働者が曝露され,またとくに食品産業に不可欠の冷凍業では,反対に労働者は低温環境に曝露されねばならない。軍事的要求や交通の必要から,極地や熱帯地に居住しなければならない集団も生じてきた。あるいは温帯に生活していた人が,急に熱帯地や極地に移動する必要も起つてくる。1)これらはすべて産業の近代化に影響されて派生してきた現象であるが,考えてみると地球上の大部分の大陸には1年中の寒暑の差がかなり大きい地域がある。したがつて,ある一定の地域に定住していても,寒暑の影響を多分にうけて生活せざるをえないのである。

屋内空気の汚染

著者: 斎藤功

ページ範囲:P.26 - P.35

1.まえがき
 屋内空気の汚染ということをここでは広く一般的に解釈して,屋内空気の衞生的不良化という意味に解釈することを初めにことわつておく。
 一般屋内空気の汚染の問題は,古くして且つ新しい問題である。空気は地球を囲繞し我々の身辺にあまねく存在し,生物の生存に瞬時も欠くことのできないものであるから,空気の汚染が人類の健康に重大な影響を持つべきことが,古代から考えられたのは当然である。しかしながら屋内空気汚染の衞生学的研究は凡そ前世紀後半のPettenkofer以来のものと観てよいであろう。その後現世紀に入つてからは,L. Hillのカタ寒暖計,V. Hill-Shepherdの快適図表,C. P. Yaglou and W. E. Millerの感覚温度図表等の登場や,他方,塵埃,炭酸ガス,空中細菌,紫外線,輻射熱,照度,騒音其他の測定術式の多数の案出,改良等があつて,環境衞生学が著しく進歩したことは他の科学同様であるが,問題を屋内空気の汚染ということにしぼつてみると,これは特に我が国では従来比較的閑却されていた部門であつて,近時漸く次第に一般の関心を集めるようになつた公衆衞生の一部門であると考えられる。

騒音—特に工場騒音の実態とそれに附隨する諸問題について

著者: 宮下道夫 ,   及川富士雄

ページ範囲:P.36 - P.42

まえがき
 筆者等に課せられた標題は騒音ということであつたが,茲では騒音それ自体の物理学的な究明とか一般市街地に於ける騒音やそれに伴つて発生する公害問題などに触れるよりも,現在の我が国に於ける工場騒音の実態とか,それからどのような問題が派生しつつあるのかとか或いはそれらの解決のためにどのような措置が採られつつあるのかというような事柄について触れた方が筆者等の立場上適当でもあり又必要であるとも考えられるのである。従つて茲では標題名に拘束されることなく主として其等の諸点を主眼点として報告することとした。

都市騒音の問題

著者: 佐藤孝二

ページ範囲:P.43 - P.46

 終戦後進駐軍の駐在と共に外人の往来が頻繁になるに従い我国の都市の騒音の強烈さが外人間に問題化して来る一方邦人の海外旅行者のすべてが欧米諸国の都市に騒音の無いのに驚き,内外の輿論は当局者に都市の騒音対策を真剣に取り上げる動機を与えた。これより先,日本音響学会は昭和26年に騒音対策委員会を学会内につくり,都市騒音の防止対策に乗り出す準備をすすめていたが翌27年には東京都に騒音対策協議会が発足し,28年には都知事を会長とする騒音対策委員会ができて東京都の騒音対策は本格的に軌道に乗り,学会が中心となつて大規模な東京都の騒音の実体調査が行われ,それを基にして昨年2月東京都は騒音防止条例を出して騒音の取締に乗り出した訳で,其後地方の各都市でも之にならい次々に条例を施行して都市騒音の低減に努めつつあることはまことに喜ばしいことである。
 一昨年6月筆者は国際音響学会議に出席の序に東京都の依嘱で欧米各国の騒音対策の状況を視察して来たがさすがに30年の歴史をもつだけに何処も建築物の構造から配置に至るまで騒音防止の配慮が行き届いているのに驚いたのである。

最近の照明

著者: 本城巖

ページ範囲:P.47 - P.51

75年前を憶う
 昨秋われわれは電灯発明75年のお祝をした。Thomas Edisonが32才で最初の実用的な電球を製作したのは,実に76年前のことであつてその間に製作され使用された電球の数は400億個に近いことであろう。
 Edisonが当時実在しない電球を夢想し,数百回の実験の後,1879年10月19日綿糸を炭化してフイラメントとし電流を通して光らせた時も,Edisonもその周囲の人も,よもやそれが10月21日まで40時間も継続して点灯しようとは思われなかつたのである。

色彩調節

著者: 木村俊夫

ページ範囲:P.52 - P.58

1.工場のトタン屋根の色
 アメリカでの話である。或る工場で,工場の建物の内部の夏の暑さと冬の寒さを,できるだけ安上りに調節して凌ぎやすくする方法はないか,と思案した。そして考えついたのが次ぎのような方法である。
 先ず,寒くなり始めた頃に,上質のコールタールを買つて来て工場の屋根のトタンにシツカリと塗る。そして暑くなり始めた頃に,今度は安物の粗惡な白ペンキを買つて来てコールタールの上に薄手に塗る。寒くなり始めた頃には薄手に塗つた白ペンキは安物でから丁度消え失せてしまつて,下地のコールタールがムキ出しになつている。………といつた寸法である。

紫外線小講

著者: 赤羽武夫

ページ範囲:P.59 - P.67

 紫外線については,従来から多くの人に依つて書かれているので,私は基本的な部分の解説はなるべく抄略し,紫外線に関して自分達の研究室で実験したものを主体として,医学的に興味ある事実を紹介し同好の人々の参考に供したいと思う。

1954年米国で行われた小兒麻痺ワクチンの野外実驗成績

著者: 宮入正人

ページ範囲:P.68 - P.69

 過日報道された小兒麻痺に対する所謂Salkワクチンによる予防効果の示す成績は本症の予防に明るい見透しを与えたのみならず,我国における医学研究と,その実際的応用に多大の示唆を与えた。今回の野外実験を通じて参考とす可き二つの大きな点かある。その第一は本症の予防にワクチン有効論を想定せしめた本症のPathogenesisに関する諸研究,ワクチンの大量製造を可能ならしめるに到つた多くの業績,更に本症の疫学に関する諸知識等長期間に累積された基礎的研究の結晶がこの成績をもたらしめた事。第二にはこのワクチンを社会に生活しつつある人間集団を対象として行つた野外実験の方法論である。1953年に行つたγ-グロブリンによる予防効果判定実験の規模も米国ならではと思わせる大がかりなものであつたが,実験計画は必ずしも充分とは云えなかつた。今回のワクチンによる実験も,当初の計画には多少の混乱もあつた様であるが,如何なる批判にも耐え得たものは結局正攻法とも云う可き方法であつた。すなわち511州84地区の小学校の1,2及び3学年の学童計749,236名を対象とし各学年を切半し,ワクチン各1.0c.c.の筋内注射を0-1-5に3回完了した200,745名と又全く同様な注射方法で抗原性のない注射液(ゲラチン)を受けた201,229名を対照群(Placebo-Control)として注射後の兩群の罹患率を比較した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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