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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生18巻3号

1955年09月発行

雑誌目次

保健所長の生活の記録

保健所活動の在り方に就いて

著者: 野瀨善勝

ページ範囲:P.1 - P.4

I.緒言
 最近の国民保健動向が端的に物語る如く,過去10カ年間に於ける保健所を中心とした公衆衞生活動の成果は,誠に顕著にして,保健所の将来に対する国民の期待も亦大である。他面,死亡率の激減に伴い,国民保健の様相も逐年趣を変え社会の公衆衞生的要求にも地域差が顕著となつて来た。
 然し乍ら,衞生行政の末端組織体たる保健所の業務は広汎多岐に亘り,之を綜合して,地方の実情に即し住民の日常生活に結び付いた,真に国民から敬愛され,親しまれる運営をなすことは今日のところ余りにも困難が多い。

実践のなかから

著者: 高樹正浩

ページ範囲:P.5 - P.9

胸部(健康)診断
 阿讃国境の靑い山脈の上に影を落してぽつかり浮んでいる白い雲,後はうすみどり色の空,初夏の風が麦の穂の上をそつと撫ぜて渡つて行く。
 麦畑の間に点在する苗代田に水が張られ,真白い五位鷺が舞降りる。

民衆と共にある保健所

著者: 安東晁

ページ範囲:P.10 - P.12

 山陽本線を西下の際,須磨,明石辺の佳景を後にしてはじめて見出される海,それは尾道水道であろう。ちよつとした川巾位しかない海をへだてた向島には造船所があつて,時には捕鯨船の一団が修理に入港したり,いつぞやは四六時中マスト高く赤旗をはためかしてソ聯の船が来ていたこともあつた。五月頃の瀬戸の島々は麦の黄と除虫菊の白とに彩られて旅の人々の目を樂しませる。
 志賀直哉,林芙美子の作品で,最近は「東京物語」,「放浪記」などの映画で紹介された尾道は,戦災を免れ,山と海とに狭まれて東西にのびた細長い町,市制が敷かれて既に60年に垂んとし広島県では広島市に次いで二番目に市となつた商業都市,由緒ありげな寺院の塔も,町家の瓦,壁の色も何となく古めかしい。その昔,大阪と下関の中間に位し港町として発展して来たこの町にも通例によつて遊廓の栄えたことは当然のことで,今だに町の一廓にはその名残を止めている。

生活改善と保健所活動

著者: 佐々木孝治

ページ範囲:P.13 - P.14

 保健所は新しい保健所法によつて生れ出て8年の月日が経ち一般にも大分知られて来た。
 しかし私の保健所は右に社会保険出張所があり,左に郵便局が隣合つているせいか,時々簡易保険や健康保険とま違われて掛金の文句を聞き面喰うこともある。ことほどさように大衆は保健所に無関心である。

研究報告

一農山村地帶に於ける乳幼兒の栄養摂取形態について(其の一)

著者: 佐藤千春 ,   室賀賢一 ,   枠田まさ

ページ範囲:P.15 - P.20

はじめに
 乳兒及び幼兒の初期の如き,発育の旺盛な時期に栄養方式の巧拙が重大な影響を及ぼすことは想像に難くない。往々この時期に種々の発育障碍が現われることは(1)(2),これのみに起因しないにしても大きな関聯を有することは今日迄述べられている通りである。正しい栄養指導の必要な所以であろう。然るに,農山村地帯にあつては,生活環境が都市のそれと著しい隔りがあり,従つて食事形態も自から異るものがある。乳幼兒の栄養指導に当つて,これ等の特性を無視して徒らに都市の食事形態の枠に篏め込むことは,絵に描いた餅を奨める感がある。筆者等は常にこの悩みに逢着するので,先ず現在行われつつある乳幼兒の食事形態を自然の姿でCatchし,これを分析考究し,今後の栄養指導の基礎たらしめんと試みたわけである。

結核医療実状の一斑—名古屋市西区に於ける調査

著者: 前田鍵次 ,   土屋高夫 ,   宇治谷喜代子 ,   伊東和子 ,   高橋進一

ページ範囲:P.21 - P.28

序言
 わが国の結核死亡は周知の様に近年減少し,特に靑年層に著しいのであるが,罹患者は,これに反し明らかに壮年層の特に男子に増加の趨勢を示し,戦後の壮年層罹患率は戦前の2-3倍に及んでいる。1)2)3)この様に罹患者が壮年層,従つて多く家庭生活の中心をなす人々であることに伴い,病変の程度によつては経済的の困難にも耐えて長い療養生活を続けねばならない例が多くなるのは見易いところである。最近結核対策の中心問題として医療保障が論ぜられているのは遅まきながらも当然のことである。
 結核対策を樹てるには罹患の実情を知ることがまず大切で,28及び29年度に結核実態調査が厚生省により行われた所以であるが,同時に又罹患者がどの様な療養生活をしているかを知ることもこれに劣らず必要と思われる。さきに私共は当市西区民の結核罹患の情勢を知つたので,3)今回更にこれらの罹患者の療養生活の実情を知ろうと企てた。

綜合ビタミン劑及びアリチアミン劑投与が夏季の機関車乗務員に及ぼす影響について

著者: 鈴木康之 ,   辻川利雄 ,   原憲造

ページ範囲:P.29 - P.35

1.序言
 北陸本線中ノ郷=今庄間は多数の隧道や急勾配,急曲線の連続した山岳地帯で,北陸本線の難所として知られ,この区間の列車は2〜3輛の機関車で運行される。特に夏季に於ける貨物列車機関車乗務員の労苦には殊に深刻なものがある。
 筆者等は北陸本線の幹線たる重要性に鑑みて,昭和27年以来機関車乗務員の労働災害の予防と,隧道通過の際の苦痛の軽減乃至除去の為の対策に必要な各種の衞生学的条件を得ることを目的として福井・敦賀・今庄の三機関区及び関係諸機関の協力を得て,環境及び労働衛生に関する各般の調査研究を続行中である。

最近四年間の福岡県下に発生した食中毒の概況

著者: 中西恭生

ページ範囲:P.36 - P.39

I.緒論
 食中毒という疾病は可成り古くから有つたものと考えられるが,これに関する記載が何時頃から見られるかについては今遽かにこれをここに挙げることが出来ない。明治,大正及び昭和の初期にかけては医師は勿論衞生当局もこれに関しては余り注意が払われていなかつたが,戦後食品衞生が重視されるに至り昭和23年に初めて食品衞生法が施行され漸く我が国の食中毒の発生概況を知る事が出来る様になつた。私は最近四年間に福岡県に発生した食中毒の概況を纒めたのでこれをここに報告し,この方面への一資料を提供いたしたいと思う。

化学工場(鉛及び染料)に於けるビタミンB12投与効果について

著者: 大和田国夫 ,   井田直美 ,   堀口俊一 ,   和田望

ページ範囲:P.40 - P.42

1.まえがき
 近年各種の原因による貧血に対してビタミンB12が用いられている。私どもはさきに工業鉛中毒の予防と治療の目的でビタミンB12の効果について動物実験を行い,昭和26年4月,第6回日本産業医学会(於東京)に報告した1)。今回は実際に職場に於て,故鉛精錬作業者と染料工場の労働者に対して比較的高単位のビタミンB12を投与したところ,若干の効果が認められたので報告する。

胸部間接撮影像(6×6cm判)に於ける大動脈像横径拡大と高血圧及び梅毒との関係

著者: 原大二

ページ範囲:P.43 - P.45

緒言
 戦後労働基準法により工場,事業場に於ては年1乃至2回の健康診断を行つて居り,此の際胸部のX線撮影は結核の早期発見を目的としている事は言をまたない。その結果が結核に対する化学療法の発達と相埃つて早期発見,早期治療に著しく貢献している事は認めなければならぬ。当事業場に於ても結核の発病者は著しく減じ療養者も漸次職場に復帰し,現在療養中の者は全員758名中に6名,要注意者として健康管理の者は14名である。
 飜つて我国の死亡原因を病類別に見ると,長年第一位にあつた結核は漸次下位となり,現在は脳溢血,惡性腫瘍が第一,第二位となつてきた。従つて今後は事業場に於ける健康管理に於ても,その方面の管理を行うべき時期にあると考えられる。然しながらこれを早急に結核管理の状態の下に於てなす事は困難であろう。腦溢血の予防,高血圧の発見には血圧測定を行うが最も良い方法である事は言を埃たないが,現段階に於ては健康診断の一部として全員の血圧測定は困難である。

屎尿の吸込み處理

著者: 田波潤一郎 ,   長嶋恒義

ページ範囲:P.46 - P.51

緒言
 都会に於ける屎尿処理は近頃愈く軌道にのり,問題とすべき点が少くなりつつあるが,農村及び中都市に於ては未だ合理的な屎尿処理が行われないところが多い。千葉県九十九里海岸地帯を観察するに,水田稲作地帯に於ては殆んど下肥を用いることがなく,麦作地帯に於いて堆肥及び追肥として下肥の使用が見られるが,堆肥の方法が不完全であり,屎尿使用時期が限られている関係上,屎尿消費量が限定されている。常時屎尿消費源として役立つているものは畑作地帯で主として野菜畑である。肥料溜の設備が粗雑であり,肥料溜使用の関心が薄いことは下肥使用の面からみて公衆衞生上重大な問題を残している。
 水田地帯に存在する中都市に於いては常に屎尿処理問題に悩まされている。例えば私設業者の通常の方法は,予め畑作地帯の農家と契約して屎尿消費量を予定し,それに基いて一定数の家庭の汲取りを行い,必要量を畑作地帯にトラツク又は牛馬車を用いて搬送する。若し必要量以上に家庭屎尿の集荷が上れば余剰を荒地に撒布し,または小河川に投棄する。この際業者は需要供給の兩者より一定の金額をうけとる。地方公共団体の手で屎尿処理を合理的に行う計劃もある。

石灰窒素のレプトスピラに対する作用(II)

著者: 八田貞義 ,   山地幸雄 ,   田中弘子 ,   山内信

ページ範囲:P.52 - P.56

石灰窒素浮遊液の試験管内におけるレプトスピラ殺滅作用の濾過並びに放置による減弱
 前報1)においてわれわれはLeptospira icterohaemorrhagiae及びLeptospira Pyrogenesのウサギ血清加コルトフ培養液に,石灰窒素肥料を0.1〜0.02%に加えると,レプトスピラが1〜7日後に消失し,かかる作用は石灰窒素の留水浮遊液を100℃,30分加熱すると減弱することを認め,更に加熱に際してのpHの変化などにつき検討,考察を加えた。今回は石灰窒素留水浮遊液の2号瀘紙瀘液を100℃,30分加熱したもの,及びそれを18日間氷室に放置したもの,並びに石灰窒素留水浮遊液の滅菌用アスベスト層瀘液の殺レプトスピラ力について実験を行なつた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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