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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生18巻4号

1955年10月発行

雑誌目次

特集 疫學観の進歩

医学的生態学としての疫学觀の発展

著者: ジヨンEゴルドン ,   宮入正人 ,   平山雄

ページ範囲:P.1 - P.8

 私は過去3カ月の間,日本の方々を廻って多くの講義をし,その中で疫学の原理を述べて参りましたが,日本に於ける最後の講義として,此処でお話するようにというお言葉でありましたので,私は標題にありますような考え方がどういう風に生まれて来たか,についてお話したいと思います。これは決して新しい考え方ではないのでありまして,その解釈には確かに新しいものがありますが,とにかく非常に長期間に亘つて発達してきた考え方であります。そこでまずこれらの考え方がどのようにして生まれて来たか,ということを申し上げたいと思います。
 話を三つの部分に分けてお話したいと思いますが,私は疫学は公衆衞生の用いる科学的方法であると考えております。私がした講義の中では,その考え方をさらに進めて,生態学的という考えに迄推し進めたのであります。私は疫学は医学的生態学であると,考えております。さて三つに分け,一番目にその科学的方法の発達過程をお話したいと思います。二番目は,医学的生態学の考え方についてお話したいと思います。三番目には,どうして私にこの考えが非常に重要なものと思われて来たか,その過程についてお話して見たいと思います。いささか自敍伝めいて潜越ですが,それも話してほしいといわれましたので,後でそれに触れて見たいと思います。

座談会

ゴルドン教授の「医学的生態学」をめぐつて

著者: 菊地正一 ,   北練平 ,   原島進 ,   宮入正人 ,   田多井吉之介

ページ範囲:P.9 - P.20

 田多井 WHOと厚生省,それから公衆衞生院の関係者各位の御努力で公衆衞生院の疫学教育の顧間として,ハーバード大学公衆衞生学校の疫学教授Gordon博士が今年の3月初旬から6月上旬迄日本に滞在され,公衆衞生院を中心として各地で講義あるいは講演なさつたことは,皆様方が御存知の通りでありますが,博士の最後のスケジユールであつた疫学研究会に於ける講演を本号に掲載することになりましたので,その機会に併せてゴルドン教授の学的体系に関する座談会を開くことにいたしました。従つて読者の方々にもお分り頂けるために,この座談会の形式は主としてゴルトン教授とともに各地で通訳の労をとられ,さらにすでに1953年から54年にかけてハーバード公衆衞生学校で親しくゴルトン教授の薫陶を受けられた宮入先生にいらつしやつて頂きましたので,まず宮入先生からゴルドン教授の滞日中の講義や講演あるいはゼミナールの内容を,ごく大ざつぱにお話頂いて,原島先生,北先生,菊地先生からそれに対する御意見を聞かせて頂ければ幸いと思いますが。
 宮入 非常に大ざつぱに申しますと,3月から5,6月迄の間,第一には公衆衞生院に於ける各コース特に医学関係のコース,それからその他藥学,獣医,保健婦そういうような人の合同コースでの講義或はゼミナールをやりました。第二には厚生省の防疫課の要望によりまして,防疫講習をこの機会にいたしまして,大体5つの府県に行きました。

第5回綜合医学賞入選論文

睡眠と日内変動

著者: 田多井吉之介

ページ範囲:P.21 - P.35

 ヒトの日常生活は,活動と休養の織りなすモザイク模様であつて,正常の生活態度は昼間活動して夜間に睡眠という休養を行うのであるが,これには多数の例外がある。例えば乳兒の睡眠は成人と非常に異るし,また成人であつても,夜間作業を必要とする特殊の職業につくと,生活のリズムを乱す型の睡眠をとらざるをえない。ヒトの健康生活に休養がいかに大切であるかは,改めてここに論ずるまでもないが,休養のうちでも最も重要な睡眠の研究は,ややもすれば忘れられがちである。睡眠の科学に関する成書がいかに少いかは,この事実を証明してあまりあると思われる。ここに著者が,あえて睡眠に関する問題を論じようとする理由がある。
 ひるがえつて,活動と休養に伴つて生理的に生ずる生体内のリズムの研究もまた,実際的な面からみると非常に大切であるが,これを主題とした報告は比較的わずかである。例えば生体に関する測値が,24時間のどの時刻に,生体のどのような活動と休養のリズムの中にえられたかという記録は,基礎および臨床のあらゆる研究に不可欠であるのに,とかく軽視されがちなために,誤つた結論が導きだされるおそれさえある。著者がここに睡眠の問題を考究すると同時に,これと関係の深い日内変動に関する諸問題をとりあげた目的の1つは,この日内変動という生理的リズムを考慮すべき重要性を強調するためである。

寄生虫の諸問題 研究報告

公衆浴槽内における寄生虫卵檢査成績

著者: 淸水重矢 ,   中林正子

ページ範囲:P.36 - P.38

 ある種の寄生虫保有者の肛門周囲,臀部などは,その種の寄生虫卵によつてある程度汚染されるものである。汚染の程度は寄生虫の種類,寄生濃度,用便後の清拭の精粗,清拭に用いる用紙の紙質,入浴の頻度など各種の条件によつて左右される。肛囲,臀部,会陰部,手指などに付着した寄生虫卵は,入浴によつて洗い落され浴槽内に遊離する。
 公衆浴場における浴湯が,実際どの程度寄生蠕虫卵によつて汚染されるものであろうか,これに関しては三浦ら(1953)の熊本市での報告があるが,東京都所在の公衆浴場における実情を知るために,武蔵野市内のそれについて検査を行つたのでその成績を報告する。

鉤虫感染経路の疫学的研究—第1報 ズビニ鈎虫の主として分布している地方に於ける都市,農村別の蛔虫,鈎虫及び鞭虫の感染状況

著者: 牟田口利幸

ページ範囲:P.39 - P.45

1.緒言
 鈎虫の感染は経口的にも経皮的にも営なまれ時には子宮感染をなす事さえあるといわれている。鈎虫類の感染経路の実験的研究はLeuckartによつて開始された。氏は犬に仔虫を投与して経口感染を認め,つづいてLeichtenstern(1886)は之を人体実験で立証した。Looss(1898)は鈎虫卵の培養及び経口感染の追試過程において経皮感染並びに感染仔虫の体内移行を明かにした。その後も多数の学者により,経口,経皮感染及び感染仔虫の体内移行に関する実験的研究が追試補足されてきて,今日ではその何れも可能であるという見解に達しているとみてよい。
 しかしわが国の人為ないし自然環境下において兩種鈎虫が如何なる感染機会と経路を実際に持つているかということについては不明な点が多い。殊にわが国に広く分布し,その病害においてアメリカ鈎虫を凌ぐズビニ鈎虫の感染経路の主道が,経口,経皮の何れであるかについては,予防対策上極めて重要であり,生物学的にも興味ある問題で,識者の間で真剣に論議されている。鈎虫感染の疫学的研究については,山崎(1935)は若葉病の研究途上,山陰地方の都市及び農村を対象として鈎虫感染の実態を調査したところ,成人が小兒に比較して感染率及び度が薯しく高度であつたことから,経皮感染を主道と推定していたことが報告の一端にみられる。

炭鉱地方における鉤虫保有者の罹病状況

著者: 牟田口利幸

ページ範囲:P.46 - P.48

まえがき
 高温多湿の環境下において,重筋的労働に従事する者の多い炭山労務者の間に,労働への影響が問題にされている鈎虫が広く蔓延していることは注目すべきことである。炭山の鈎虫については,吉田(1),松下(2),有田(3),大鶴(4),河野(5),田中(6)の諸氏により古くから研究され,吉田,松下,有田等は坑内における適温多湿が感染の好条件なることを報告した。しかし最近田中は坑内の作業方法及び作業衣が改善され坑内感染の危険性が薄らいできたといい,大鶴等は炭山地方における鈎虫の蔓延は自家菜園の普及によつて,農村的性格を帯びてきたことが主因であると報告した。また大鶴,河野はズビニ鈎虫保有者の化学的検査を実施して,濃厚感染者に限らず一般の虫卵保有者の間にも多数の貧血状態の者が存在するとし,労働への影響を認めた。
 著者は鈎虫寄生によつて生ずる障碍が,直接鈎虫を招来する他,間接に他の疾病を増惡させている実態を明らかにするため,昭和27年3月三池炭鉱某坑従業員273名について調査した。先ずStoll法で検便し,検便以前1力年の疾病を健康保険組合の診療費請求書から調査し,鈎虫感染濃度と疾病との関係をまとめてみたので報告する。

ピペラジンの蟯虫に対する効果特に集団驅虫劑としての検討

著者: 川本脩二

ページ範囲:P.49 - P.54

 蟯虫は主として盲腸に寄生し,雌虫は成熟すると下行して肛門附近に産卵する。従つてこの虫体は屡々肛門周囲又は糞便上に見出される事から蛔虫と同様に一般によく知られているが,肛門部に産卵すると云う特性の為に普通の検便法では虫卵の検出は頗る困難で,真の寄生率が不明であり,又蟯虫自身によつて通常人に致命的症状を来す事が少く,更に単なる下剤又は灌腸のみによつても,或る程度の排虫の見られる事より容易に駆虫出来るが如き印象を与える為一般には蟯虫症に対する関心は余り払われなかつた。然し乍ら最近蟯虫卵の検査法が改良されて以来,私共の調査でも京都市及び宇治市に於て蟯虫の感染率は成人75〜81.1%,学童84.9〜97%を示し,都市農村又は成人学童を問わず極めて濃厚な浸淫を示す事が明かになつた。而して蟯虫の感染予防は清潔の一語につきるとは言え,実際には今の所駆虫藥による虫体の駆除以外には殆んど適確な方法はない。従来蟯虫症の治療は肛囲に現われた虫や便と共に排泄された虫を見て驚いた母親の訴えによつて行われる個人治療が主であり,而も蟯虫によつて重篤な症状を来す事が殆んどない為に,積極的に医師をたづねて治療を乞う事は比較的少なかつた。この様に感染予防の為の適確な方法がなく,而も医師を訪ねる事が少いとするならば,予防撲滅の為には積極的な集団駆虫が重要視されねばならない。

農村學童の蛔虫反復集団駆虫と感染状況について

著者: 太田秀淨

ページ範囲:P.55 - P.59

 山梨県甲府市の北方山の手にある主に農家より通学し,学園の環境は田畑にて囲まれたる学童の低学年を対象に蛔虫の毎月集団検便駆虫をなし,年間に於ける蛔虫の感染状況を知ると共に,各種駆虫剤による駆虫効果を知らんとして昭和28年7月より1年間観察した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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