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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生18巻6号

1955年12月発行

雑誌目次

特集 公衆衞生と経済

疾病予防と治療との経済的考察

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.1 - P.3

 戦後著しい飛躍を示した衞生行政が,最近又各地で萎縮の兆を現わし始め,広く関係者を憂慮させている。病院,療養所,保健所,衞生研究所等の削減や所要人員の整理,さては衞生部自体の廃止統合等,所謂地方財政の立て直しにからんで,地方の衞生行政は危機に臨んでいる。
 各界の知事諸公も衞生行政を軽視するわけではないが,これも県財政上やむを得ない処置として是認さるべきものだという。その裏には世間一般に--衞生行政は戦後「水ぶくれ」した。進駐軍の後おしで,日本の現状には過分な衞生施策が行われたのだから,相当これを圧縮しても無理ではない―と云うような考えが広がつているのでなかろうかと思われる。

国民総医療費

著者: 田中明夫

ページ範囲:P.4 - P.7

まえがき
 最近の政府管掌健康保険の赤字問題にいたる迄健康保険,医療扶助等所謂社会医療の分野においてこの数年間に続発した諸問題は,保険医の坐り込み,一齊休診或は結核患者の坐り込み等の社会問題迄も引起し,関係者は勿論,一般国民の記憶に新らたなところである。しかもこれらの諸問題の大部分が未だ根本的解決をみずにくすぶり続けている現状であり,またかかる傾向はたんに我が国に限らず英・仏等の諸国においてもいろいろの形で現われているようであり,その根源は極めて深く大きいようである。限られた紙面においてこれら諸問題の全貌を詳細にえがくことは不可能であるので,ここでは社会医療費をも含めた国民の総医療費とその国民所得のなかに占める地位を簡単に示して御参考に供したい。

社会保障と国民経済

著者: 大村潤四郎

ページ範囲:P.8 - P.14

 社会保障(Social Security)という言葉は欧米では主として所得の中断,稼働能力の喪失を意味する。我国ではこれは可なり広義に解せられ,昭和25年に行われた社会保障制度審議会の勧告では社会保障制度を,社会保険・社会扶助・社会福祉・公衆衞生竝に医療に分けている。Bever-ridgeが彼の勧告の中で全国民を対象とした公衆衞生・医療竝に社会復帰のサービスを所得保障の三つの前提の一つとして掲げたのは理由のあることである。社会保障は所得の間断なき保障によつて人々を貧困から護ることであるが,その目的を達成する為には先ず不時の出費を招来する出来事,疾病,出産,結婚,死亡等に対する保障が必要である。特に疾病は医療費の点においても稼働力の喪失という意味に於いても,個人の生活をおびやかす最大の不幸であり,最も屡々貧困の原因となつていることは各国における数多の調査によつて実証せられる点である。
 第1表は昭和29年4月に行われた厚生行政基礎調査の結果であつて耕地面積3反未満の世帯から事業経営者世帯を除いた世帯について収入別の有病率を見たものであるが,収入が少いほど有病率が高い事実を示している。そこで所得の保障についての制度を考えるに当つて,保健衞生対策の推進が前提条件として必要であるということは当然の構想であるというべきである。

疾病別医療費

著者: 伊藤信義

ページ範囲:P.15 - P.26

I.まえがき
 疾病が貧困の最大の原因であることはすでに公認の原理であつて,医療費は一個人が一時に負担し得る能力を超えることがしばしばである。従つて,医療費が国民経済において占める位置について論ずる場合,疾病別の医療費を明らかにすることは重要なことであり,これとともに疾病率が明らかにできるなら,それは医療財政ないし疾病予防対策上の基礎資料となるのみでなく,医師にとつてはまた医業合理化の参考ともなるであろう。
 元来,疾病率は衞生状況・年令・職業・貧富の差等によつて異り,また受診率は衞生知識の程度・医療施設の分布と交通の状況等によつて相違するものである。一方診療の傾向(質と量)従つて,これに伴う医療費は疾病率・受診率と関連し,かつ疾病の軽重の差・患者の医療に対する認識の差・経済的負担能力とともに,診療を担当する側の人的・物的諸条件の差異等によつて異つてくるものとみられる。

経費の面からみた結核の現状

著者: 城戸茂夫

ページ範囲:P.27 - P.37

1.はしがき
 医学の面からみた結核の現状については,昭和28年と同29年に厚生省が実施した二つの実態調査の結果,その詳細な内容が明らかとせられた。いまやわが国の結核対策は,ここにあらたに判明した科学的資料の上に立脚して,大きな躍進をとげなければならない時期に際会している。厚生省が昨年9月決定した「結核対策強化要綱」は,このような躍進への第一歩をふみだすための一つの試みであり,その中に盛られた一連の施策のうち健康診断の拡充等二,三のものについては,すでに本年度より実現をみるに至つている。しかし乍ら,結核医療費公費負担制度の拡充強化等の極めて重要な問題がなお残されており,来年度予算の編成に際してはこれらを何とか解決しなければならないのみならず,将来さらに第二次第三次の「結核対策強化要綱」を作成して次々にその実現をはかり,一日も早く結核を撲滅することが急務であると考えられる。以下主として経費の面から結核および結核対策の現状を分析し,その将来の方向を見定める一つの資料としたい。

赤痢の経済的損失

著者: 金光克己

ページ範囲:P.38 - P.41

 此処数年来,年間発生患者数約10万前後の流行をつづけている赤痢の経済的損失という難しい課題について検討を加えるに当つて,可なり主観的な推定が入つてくることをお許し願つておきたい。
 昭和24年関東に端を発し,年をおうて,遂次全国にまん延した赤痢の流行に対しては,昭和25年以来,その予防対策は,伝染病予防行政における最大の重点として,非常な努力が払われて来た。又その予防のために支出された経費においても,伝染病予防費の大部分を占めている状況である。然し,赤痢の流行は,昭和27年の患者数約11万を頂点として,若干下降の傾向にあるとはいえ,残念乍ら流行の山の背を歩んでいる状況である。それ文に,赤痢予防における経済的分析はまことに難問題であると同時に非常に意義ある問題であると云うことが出来る。

労働災害の経済的損失について

著者: 加藤新

ページ範囲:P.42 - P.44

はじめに
 わが国において労働によつておこる災害--業務上の負傷,疾病,癈疾,又は死亡の実数は正確にはわからないが,例えば労働基準法の適用事業場からの報告に基いた統計によれば,昭和29年中に全産業(鉱業を除く)で死亡した者は4,637名,休業8日以上の負傷者は290,596名で,業務上の疾病にかかつた者は(鉱業を含む)20,295名であり,また労災保険の補償費給付の対象となつた災害者数は,昭和29年度(昭和29年4月〜昭和30年3月)中,全産業で576,628名となつている。しかも,これらの統計に含まれない災害者を考え合せると,わが国においては毎年60万人以上の人が労働災害によつて負傷したり,疾病にかかつたり,死亡したりしているということになろう。そして,この数字は昭和12年から16年までの日華事変の戦死傷者51万余名をはるかに越え,また,大平洋戦争の戦死傷者186万余名の1年平均53万余名をも越えるという驚くべき数字である。

藥品の経済学—製藥企業の計画論的課題について

著者: 常松已一

ページ範囲:P.45 - P.50

まえがき
 今日の製藥企業を,一般における諸産業のそれと同じく,経済的行為を主体とする「私企業」体と見做すか,それともこれに公益性を冠することによりいわゆる「医療機関」の一環としての従属的経済体と見做すか,ということで問題の解釈が違つてくる。
 いま後者の考え方からすると,医療機関のヘゲモニーを握るものは,すなわち「医師」であり,またそれと裏はらに「藥剤師」の存在があるのだから,この兩者に先導されて一つの企業体を形成しているのが製藥企業である,という主張がでてくる。特に今や国民医療の8割までが社会医療となつてきて,これが云わずもがな「医療の社会化」となつて現実化してきている以上,これに従属する製藥企業だけを自由に放任しておくことは不当であるという見解ともなつてくる。

第5回綜合医学賞入選論文

聾唖に関する生理学的研究

著者: 小川喜代子

ページ範囲:P.51 - P.75

I.序論
 聾唖とは,聴器,聴覚中枢,言語中枢の何れかに障碍があるかにより,日常の会話を聴取出来にくいものを言う。
 聾唖は中耳内耳の障碍によつておこる真性又は単純性聾唖と,言語の綜合理解力の欠陥によつて起る白痴性聾唖の如き精神的聾唖,並びに聴器,聴神経線維,聴中枢,感覚的言語中枢,発声器に対する未梢性運動中枢と,其未梢経路の構成する反射弓の何れかの部位に障碍をうけて起る聴唖と,前記三者の混合によるところの混合性聾唖とに分類される。又聾唖の原因と聴覚消失の起る時期によつて先天性と後天性聾唖とに大きく分類することも出来る。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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