特集 公衆衞生と経済
社会保障と国民経済
著者:
大村潤四郎1
所属機関:
1厚生省保険局医療課
ページ範囲:P.8 - P.14
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社会保障(Social Security)という言葉は欧米では主として所得の中断,稼働能力の喪失を意味する。我国ではこれは可なり広義に解せられ,昭和25年に行われた社会保障制度審議会の勧告では社会保障制度を,社会保険・社会扶助・社会福祉・公衆衞生竝に医療に分けている。Bever-ridgeが彼の勧告の中で全国民を対象とした公衆衞生・医療竝に社会復帰のサービスを所得保障の三つの前提の一つとして掲げたのは理由のあることである。社会保障は所得の間断なき保障によつて人々を貧困から護ることであるが,その目的を達成する為には先ず不時の出費を招来する出来事,疾病,出産,結婚,死亡等に対する保障が必要である。特に疾病は医療費の点においても稼働力の喪失という意味に於いても,個人の生活をおびやかす最大の不幸であり,最も屡々貧困の原因となつていることは各国における数多の調査によつて実証せられる点である。
第1表は昭和29年4月に行われた厚生行政基礎調査の結果であつて耕地面積3反未満の世帯から事業経営者世帯を除いた世帯について収入別の有病率を見たものであるが,収入が少いほど有病率が高い事実を示している。そこで所得の保障についての制度を考えるに当つて,保健衞生対策の推進が前提条件として必要であるということは当然の構想であるというべきである。