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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生19巻1号

1956年01月発行

雑誌目次

特集 人口問題の焦点

近代的人口問題の歴史的変遷

著者: 館稔

ページ範囲:P.1 - P.5

1.まえがき
 1955年10月24日から29日まで,東京で,国際家族計画連盟の第5回総会が開かれた。会長Mrs.Sanger,事務局長Mrs.Houghtonを始め,外国からの出席者は80名に上つた。SUマイアミ大学スクリツプス財団人口問題研究所名誉所長Warren S.Thompsonならびに現所長P.K.Whelpton等,著名な人口学者も列席した。国内からの参加者は200名に上り,盛会を極め,国内はいうに及ばず,世界の注目を引いた1)
 また,1955年11月22日から12月3日まで,インドネシア,バンドンにおいては,国連主催のアジア人口セミナーが開かれることとなつている。

産業と人口

著者: 黒田俊夫

ページ範囲:P.7 - P.9

1.人口増加と経済成長
 人口に関する問題が深刻化するのは,一般に人口の数が自己を扶養するに足る力,つまりその社会の経済力との間に著しい不均衡が発生する時である。兩者の間に一応の均衡が維持されている時には,人口の問題は深刻な社会経済問題化するに至らない。人口を扶養する経済力は,いいかえればその社会の産業構造の発展の問題に帰する。従つて人口の問題は,人口と産業の二箇の変数のいずれかが著しく変動することによつて深刻化するに至る。このことは次のように表現することができる。人口の変動率一増加,減少の二箇のばあいがあるが,現実には前者のばあいが多い。特に戦後日本のばあいや東南アジア諸国のばあいの如き一と産業の発展率との間に著しい開きを生じ,兩者の間に不均衡が生ずることによつて,人口問題が提起される。このような不均衡にはいろいろのばあいが考えられるが,今日もつとも一般的なものは,激しい人口増加とこれに即応しえない経済の発展ないし停滞との間に発生する不均衡である。経済が拡大発展を示しながらも,人口の増加率に及びえないことから生ずる人口問題は,いわゆる「経済成長率」の問題と関連して,経済学上においても重大な課題を提起している。
 このような人口の増加と経済の成長との関連を具体的に日本について観察してみよう。

受胎調節と人工妊娠中絶の出生に及ぼす影響

著者: 久保秀史

ページ範囲:P.10 - P.14

 わが国の出生率が,近年急激に低下しつつあることは,なんといつても事実である。この出生率の甚しい低下は,生理的な,自然な現象とみることは出来ない。とすれば,その原因は,不自然な,人工的な原因と考えなくてはならない。
 出生率の下つたこと,即ち子供を産まなくなつたことは,国民がそれだけ出生を望まなくなつた結果である。なぜ,このような出生抑制の意慾が盛んになつてきたかというに,それには,社会的,経済的,,心理的など,いろいろな要因が関与していることと思われる。

年令訂正出生率並びに年令階級別出生率による諸国出生状況の比較観察

著者: 瀨木三雄 ,   栗原登

ページ範囲:P.15 - P.21

1.訂正出生率による観察
 出生率の地域的比較は,従来多く粗出生率によつて行われてきたが,国によつて人口の年令構成が異る故,1年間の出生数を全人口にて除して得られる粗出生率によつて,これを比較するのは,制限された意味しか持たないのは当然である。
 出生状況を示す数字としては,粗出生率のほか,姙娠可能年令の女子人口にて出生数を除して得られる特殊出生率,又は女子人口又は既婚女子人口に付いての年令階級別出生率,或いはこれと多少意味合いは異るが,年令階級別女兒出生率を用いて算出する総再生産率,又はこれに更に死亡率をも合せて考慮に入れる純再生産率,或いは更に各年令の出生率を合計累積して得る年令累積出生率等,さまざまの数字が考えられる。これらの率にはそれぞれ,さまざまの意義があり,その意味には一長一短があつて,いずれが最もすぐれたものであるかは決め難い。

出産に影響する生物学的,社会的,心理学的要因

著者: 木村正文

ページ範囲:P.22 - P.32

1.問題の展望
 多くの社会学的問題でも同様であるがこの問題即ち子供を産むということに対する種々の因子を探究する問題は,それ自体の現象に何らかの社会的問題,例えば将来人口に対する不安とか,国民の健康福祉,民族の逆淘汰というような問題が包含されていたからに外ならない。この様な現実の問題に対して多くの学者達は事実の統計をとり,記述し,個々人の考えを加えて,それぞれの理論を作りあげ,又或る学者達はそれに対する善意の社会改革案さえをも提起しているのである。この様な学者達の活動の基礎である統計資料は1700年代より今日に至る迄種々の方法であつめられている。がしかし統計技術の発達していなかつた時代の資料にはしばしば多くの傾りのあるものがあり,今日においても多因子を含むこの問題の明白な解答はあたえられていないといっても過言ではない。まず本紹介においては人口の一般的発達段階にしたがつて,それぞれの時期におけるそれぞれの統計を考察し,出来るだけ世界のあらゆる国国の現象を説明しうるような理論ずけを考えることにしよう1)

寿命と人口—日本の将来の最低人口

著者: 渡辺定

ページ範囲:P.33 - P.37

 人口とはある時期のある特定の地域の人間の数と考えている。人口はその地域における出生と死亡と人口の流出流入で定まり,現在の人口は,過去のこの三者の関係で形作られ,将来の人口は,この三者のうごきで定まることは今更いうまでもない。
 与えられた課題は寿命と人口である。本文では流入流出のない人口,即ち閉鎖人口について考えることとする。或る入口に属する個体の寿命が長くなれば,その人口は増す傾向にあり,また老年層の割合もます方向にあることは誰しも考えることである。

人口問題としての結婚

著者: 村田宏雄

ページ範囲:P.38 - P.42

1.人口問題としての生殖
 人間は生理的条件の差にもとずいて,男女の兩性に分れている。生殖という機能を果すに当つては,此の兩性の性的相互作用が必要である。人間の人口は此の生殖により,新しい人口が再生産される。従つて人口問題上,再生産の為には,どうしても男女の性的相互作用,すなわち性的な男女の人間関係が営まれなければならない。再生産が行われることで人口が維持されるのであるから,男女の性的相互作用は,人口問題上ゆるがせにすることの出来ない点である。
 だが此の点迄では,何も人間に限った問題とはならない。どんな生物でも種族保存の傾向があり,その為には生殖を必要とし,雌雄に分かれている限り,生物は此の兩性の性的結合が再生産には欠く可らざることとなっているからである。動物の場合,此の性的結合には,性行動による兩性の性的相互作用を必要とする場合が多いが,此の際の性行動とは性的要求という生理的条件によつて惹起される緊張体系を解消させようとして起るものである。従つて,人間の生殖も,純生物学的意味からは,性的欲求から惹起させられると考えられよう。

食糧と人口

著者: 渡部十之介

ページ範囲:P.43 - P.47

 1920年(大正9年)から,1950年(昭和25年)の30年間に,世界の人口は18億から25億へと35%の増加を示している(第1表)。今後もし,このような比率で年々増大して行くならばやがて30億に到達するのも,さほど遠い将来のことではあるまい。
 世界の人口が,20年代から現在に至るまで徐徐にではあるが,それでも,年々平均1.2%近くの比率で増大してきたという驚くべき事実は,理論はともかくとして,この間において,これら20数億の人口を養うに足るだけの食糧が,何らかの形で供給され続けてきたことを物語つている。このことは,第2表の国際連合食糧農業機構の資料による世界人口の1人当りの食糧生産指数の推移を見てもほぼ肯定されるところである。

第5回国際家族計画会議をめぐる二,三の所感

著者: 村松稔

ページ範囲:P.48 - P.53

 去る10月24日から29日にわたり東京芝のマソニツク・ビルデイングで開かれた第5回国際家族計画会議は内外の視聴を集めて盛会裡に無事幕を閉じた。国際家族計画連盟(本部は英国ロンドン)の主催になるこの種の会議は1946年のストツクホルムに始つて以来,戦後約10年の間にしばしば会合を開き,ストツクホルム,チヤルテンハム(英国),ボンベイ,ストツクホルムと廻つて今回は5回目,アジアでの開催は2回目であつた。回を重ねるにつれてその規模が大きくなり,次第に文字通り国際的の基盤に立つようになつたこの連盟の成長ぶりは,創始者であり,又現在その会長であるSanger夫人の努力の賜物であつて,40年の生涯をこの運動に捧げてきた夫人にとつてさだめし感慨の深いことであつたろうと思う。
 国際家族計画連盟は現在15の国々から構成されており**,日本では日本家族計画連盟が正式の一員として加入している。今回の会議にはこれら15カ国の他に,バーミユーダ,ハワイ,タイ,カナダ,イスラエル等も参加した。15カ国の代表すべてが来朝して自ら出席したわけではなく,西独,イタリー,オランダ,プエルト・リコ等は論文のみによる参加であつたが,とにかく会議の幕をあけてみると,外国からの参会者は約90名,日本人参加者は約300名というこの種の会議としてはこれまでのうちで最も大がかりなものとなつた。

人口錯覚

著者: 館稔

ページ範囲:P.54 - P.57

 『私が筆を取ろうとしている現在,1ドルはおよそ70セントである』―統計学や経済学でおなじみのI.フイツシヤは,その名著『貨幣錯覚(マネー・イルージヨン)』を,こういう一見奇妙な文章で書き起している。それは1927年のことであつた。1927年といえばアメリカの経済界にはどこか無気味な嵐を含んだ黒雲が去来していた。あの世界の経済界を混乱の渦中に投じた世界恐慌の火の手が,ウオル街の一角に立ち上つたのが1929年の秋であつた。
 不幸にして,戦後貨幣価値の激変で苦しんだ今日のわが国では,現在の1,000円が戦前の1,000円とどんなに違つているかということを誰もがよく知つている。しかし,戦前の1,000人の人口と現在の1,000人の人口とがどんなに違つているかということを,われわれは余りよく知つていないような気がする。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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