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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生19巻2号

1956年02月発行

雑誌目次

特集 最新の予防接種 総論

免疫の基礎理論

著者: 及川淳

ページ範囲:P.1 - P.7

まえおき
 「免疫の基礎理論」という題から諸兄がすぐさま想像される内容は,抗原抗体反応の理論であろう。確かに免疫学は「疫」を免れるという現象の説明に抗原と抗体の概念を作り,やがてその実在性を証明したが,抗原対抗体の対応という形式は,何も病原体に限られたものでなく,例えば異種動物の血清のような高分子の異物に対する生体の反応形式である事が判り,免疫学は語源を離れて,抗原抗体反応の学問として生長してきた。
 ところが本来の字義での免疫現象は,簡単に抗原と抗体の概念だけでは説明しきれない諸問題を含んでいる。その実例はあまりにも豊富すぎるが,ここでは,免疫学の最初の業績に数えられるPasteurの炭疸の免疫を挙げて,免疫の基礎をなす研究が,どのように行われてきたかを説明してみよう。

ウイルス病ワクチンの展望

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.8 - P.14

 ウイルス病ワクチンの最近の問題点を全般に恒つて展望することは一人の人間が僅少な準備期間に於てなすことは甚だ困難なことであり亦私自身も日頃この問題全般について,特に関心を示していたわけではないので,これについて充分文献的考察乃至実験的研究を行つていないし,茲では特にこの問題の中で,私の日頃の興味と直接つながつている所のみを拾つて,展望とまではゆかないであろうが若干の考察を試みたいと思う。
 ウイルス病ワクチンに関する最近の最も大きな話題の一つは昨年の4月にFrancis(1)(2)を委員長としたポリオ・ワクチン所謂ソーク・ワクチンの野外実験による効果判定の結果の発表であつたであろう。しかもそれをきつかけにしてポリオ・ワクチンに関する研究と論議とが甚だ活溌に展開されたが,その機会にはからずもウイルス病ワクチンとしての活ウイルス・ワクチン(live-virus vaccine)か不活ウイルス・ワクチン(killedvirus vaccine)かという古い問題が論議の一焦点として再び脚光を浴びた。一体ウイルス病ワクチンはCox(3)がその活ウイルス・ワクチンに関する美事な綜説で詳細に紹介している様に,まずJennerとPasteurの痘瘡あるいは狂犬病に対する活ウイルス・ワクチンに源を発していて,ジフテリア・破傷風の毒素免疫に対してウイルス病の免疫には活ウイルスを用いることが一つの行き方となつていた観がある。

不活化ウイルスワクチンに対する幼齢動物の免疫態度について

著者: 中村稕治

ページ範囲:P.15 - P.17

 次に掲げる2つの実験例は,動物が不活化ウイルスワクチンの注射に対して生後或る期間内は成長後と免疫の趣を異にすることがある事実を示すものである。第1例は鶏をNewcastle Disease(以下ND)ワクチンで免疫した場合であり,第2例は豚を豚コレラ(以下HC=hog cholera)ワクチンで免疫した場合である。

予防接種実施の立場から—高率に安全に実施するために

著者: 山下章

ページ範囲:P.18 - P.23

まえがき
 伝染病予防行政としての立場から,予防接種がどの程度の効果をもたらしているか。その量的な測定は困難としても,極めて大きな役割を演じていることについては何人も否定する者はなかろうと思う。この予防接種の効果をあげるためには,如何にして安全であつて有効なワクチンをつくるかという研究が第一義的に大切であることは論を俟たないが,如何にして大衆に高率に実施するかということも勝るとも劣らぬ重要性がある。私は過去4年間の東京都防疫課長としての経験と,わずかではあるが,保健所長としての体験から,予防接種を高率に而も安全に実施するためには,如何なる点が大切か,如何様の注意が必要か等について頂を追つて,2,3の点について述べてみたい。

各論

百日咳ワクチン

著者: 山本郁夫

ページ範囲:P.24 - P.26

 百日咳ワクチンには新鮮分離株,即ちLeslieand Gardner(1)の所謂第Ⅰ相菌を用いないと予防効果のない事が定説となつている。しかし,新鮮分離株とは具体的に如何なる性貭の菌を意味するかは最近まで明らかでなかつた。この事と相まつてワクチン調製上の不備,野外実験による効果判定の統計的処理の困難さ等の為,百日咳ワクチンの予防効果に対し疑義を抱いている学者も少くなかつた。しかし米国におけるKendrick(2)一派の広範,慎重な野外実験,又は英国MedicalResearch Council(3)百日咳研究委員会による追試実験により,この問題に就いては一応終止符が打たれたものと思う。これ等の点に関しては既に筆者(4)(5)が本誌その他に於て綜説を加えておいたので重複を繰返し度くない。一方本邦に於ては,文部省科学研究費による百日咳研究班(6)特に春日の研究により,百日咳菌属(百日咳菌,パラ百日咳菌,ブロンヒゼプチクス菌)の抗原分類,変異の問題が詳しく検討され,百日咳新鮮分離菌という意味が抗原上具体的に明らかにされたのである.即ちLeslie and Gardnerの第Ⅰ相菌とは莢膜(K抗原)を有する菌であり,これが培地上又は患者体内に於て容易に変異を起し,莢膜を失つた所謂第Ⅲ相菌に移行する。

破傷風トキソイドについて

著者: 村田良介

ページ範囲:P.27 - P.30

1.はしがき
 破傷風の予防にトキソイドを用いることは,Descombey(1924)以来知られているが,第二次世界大戦でその効果が確認された。わが国では,液状トキソイドと明バントキソイドの二種が認められているが,外国では最近ジフテリアトキソイド,百日咳ワクチン,腸チフスワクチンなどと一緒に混合ワクチンとして用いられる傾向が強くなつた。

ジフテリア

著者: 黒川正身

ページ範囲:P.31 - P.39

まえがき
 日本のジフテリア罹患率は大平洋戦争の末期に急激に増加して人口10万につき100人以上に達したが,戦後は急傾斜を画いて減少し,1953年には終戦時のピークの10分の1以下に下つてしまつた。
 然し,その当時,東京及びその近傍の各所で行われた調査を綜合してみると32),各年令層を通じてSchick陽性率が意外に高く,また,ジフテリア予防接種の普及率も案外に低いものだと考えざるをえなかつた。このことは,戦後のジフテリアの減少が,必らずしも予防接種の効果のみによつておきたものだとはいえないこと,何か不明の他の因子も考える必要があること,そして,上記のようなジフテリア患者の著るしい減少が,吾々の統制外にある条件の介在によつておきているものであるならば,このような条件は何かの原因で変動することも当然予想されることであり,その場合には,ジフテリアに感受性のある人は多いのだから,再び患者が多発するという事態が生ずるであろうということも予想されること32)ではあつた。

小兒マヒワクチンの最近の進歩

著者: 北岡正見

ページ範囲:P.40 - P.45

 昨年11月に米国小児マヒ財団のO'Connor会長(1)が次ぎのように述べた。即ち1956年の小児マヒ対策には47,600,000ドル(邦貨171億3600万円)が必要であり,10セント募金の協力が望まれる。そして過去においては,有効なワクチン製造の達成に多額の研究費を投じたが,今日ではほぼその目的が達せられ,今年は無料で広く学童にワクチン接種を行う計画が立てられている。勿論小児マヒ患者の救済にも援助金が当てられ,肢体不自由児には移動用の車を,呼吸筋マヒの母には鉄の肺を,四肢不自由な父に義手,義足を与え,その生活を助けるというのである。
 WHO(2)の報告によると,アメリカ大陸において,1945〜54年に亘る10年間の小児マヒ患者発生数をみると,カナダと米国では,他のアメリカ大陸の諸国に比して増加し,例えばカナダでは,1945年の届出患者総数が384例,1952年のそれは5,787例,また米国では1945年のそれは13,624例,1952年のそれは57,879例で,また米における1950〜54年の5カ年間に亘る平均届出患者総数は,凡39,000例で,わが国の年届出患者平均数が凡2,000〜3,000例であるのに比して,凡10〜20倍に当るのである。

インフルエンザ・ウイルス・ワクチン

著者: 深井孝之助

ページ範囲:P.46 - P.48

〔1〕
 少量のインフルエンザ・ウイルスを孵化第11日の卵の漿尿膜腔内に接種する。35.5°で48時間培養すると,漿尿膜内被細胞で増殖したウイルスは漿尿液の中に放出される。この漿尿液を採り,超遠心的にウイルスだけを集める。それを不活性化し,緩衝液に浮遊させ,防腐剤を加えたものが現在用いられているインフルエンザ・ウイルス・ワクチンである。
 米国のStanleyや,Francis, Salk等にならつて,この型のワクチンが日本で造られ始めてからもう5年以上が過ぎてしまつた。この何年かの間,春早く3月からは卵と共に無菌室の中で,6月頃からは2°の低温室の中で超遠心機と共にふるえながら,このワクチンをつくつて来た私達は,インフルエンザ・ワクチンには他のものと比べものにならない愛着をもつている。私達はこのワクチンを育ててゆきたい。

日本腦炎ワクチンに就て

著者: 安東淸

ページ範囲:P.49 - P.52

 我が国に於ける夏期伝染病の一つとして特に小児科領域で重視せられる神経疾患中,日本脳炎はその主なものの1つであつて,従来これの予防に就ては種々な方法が講ぜられて来たが殆んどその効果の認められたものはない。
 譬えば,昭和21年以来我が国に進駐した米軍は,本病の伝播が蚊によつて行われると云う米国のHammon,Reeves等の説をとり挙げて極めて大規模な蚊の駆除或は防蚊網の設備等を行うと同時に,日本側にもこれ等の予防処置を殆んど強制的に行わせ,我が国全般にわたる蚊の駆除はかなり広般にしかも徹底的に行われたにもかかわらず,昭和23年には東京地方を初め全国的に日本脳炎患者の多発を見た事は周知の事実であり,その後も毎年蚊の発生時期にさき立つてDDTの撒布或は水溜りの除去等に就ては米軍の指示を待たず,環境衞生当局が膨大な費用と労力を惜しまず努力し続けているにもかかわらず,毎年少なからざる患者の発生を見ている現状であつて,一昨年来厚生省当局も更に日本脳炎に対する積極的予防対策としての日本脳炎ワクチンの人体応用についての研究に力を入れ,我々が作つた研究班に援助を与えられた事は誠に時宜に適した措置と云うべきである。

狂犬病ワクチン

著者: 長野泰一

ページ範囲:P.53 - P.55

 狂犬病は予後の絶対に不良な伝染病であるから,その予防は非常に重要であるが,しかし,この病気はひろく蔓延する性貭のものではない。また,感染の機会がはつきり判つているのが通例である。だから,日常一般大衆に予防接種を行うことはせずに,感染の機会があつてから後に発病防止の策を講ずることが要請される。一般に感染してしまつてからの緊急予防を免疫学的な手段で行う場合には速効的な受動免疫を与えるのが普通である。すなわち免疫血清を用いるのが定跡である。狂犬病でもこの考えは古くからあつて,実験動物においては,免疫血清はウイルス侵入の後に注射されても,発症を阻止することが示されており(佐伯,1943,1953),人体での試みも行われたこともあつたが,成績は断片的であつた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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