icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生19巻5号

1956年05月発行

雑誌目次

口絵

公衆衞生関係の春の学会から

ページ範囲:P.1 - P.4

 第29回日本産業医学会は4月1日より3日間白井伊三郎会長(昭和医科大学教授)のもとで開催された。つづいて4月5日より7日まで金沢市で第26回日本衞生学会が大谷佐重郎会長(金沢大学教授)のもとで行われた。
 各学校,研究機関,会社など,年度はじめの最も多忙の時期であつたにもかかわらず参会者が会場に溢れるほどの盛況であつた,これは我国の衞生学及び産業医学の関係者がいかに本学会を重要視し,又期待しているかをあらわすものである。

綜説

衛生教育国際会議の本年の課題

著者: 斎藤潔

ページ範囲:P.5 - P.6

衛生教育国際連盟とは
 衞生教育国際連盟(The International union for Health Eaucation of the Public)は,1951年パリーで結成された国際的な民間機関であつて,凡ての人々のための衞生教育の向上に貢献することを目的としている。
 実際事業としては本連盟は,各国に於ける全国的な衞生教育委員会と,衞生教育者の全国的協会の創立を促進し,衞生教育の分野に働く諸団体の密接な関連を打ちたてて,衞生教育について多くの国々の間の情報を交換し,お互の経験を比較し合うことを促進しているのである。

ポリオワクチンのその後

著者: 甲野礼作

ページ範囲:P.7 - P.13

まえがき
 1954年に参加人員百万人以上に及ぶ大規模な野外実験が行われ,急性灰白髄炎(以下ポリオと略す)に対するソークワクチンの予防効果が確認された旨,公式の発表が行われたのは昨年の4月14日のことであつた。従来医学上の発表でこれ程世界的なセンセーシヨンをひき起した事件はないと言われる。アメリカにおいては1954年度の成績に基いて1955年度は更に大規模な予防接種が行われ,一方ソークワクチンを希望する外国に対しては,これを配布する用意がある旨のアイゼンハウアー大統領の発表が行われた,
 しかるに,その発表から僅か1月も経たぬうちに,ソークワクチンの接種をうけた子供の間から,ワクチンに起因すると思われるポリオが発生し,一種のパニツクを現出したのは,最初の発表が華々しかつただけにアメリカ人は勿論われわれ外国人の関心をもいやが上にも高めずにはおかなかつた。

新しい殺虫劑の功罪

著者: 鈴木猛

ページ範囲:P.15 - P.20

 編集部から示された表題の斬新さに誘われて,引受けてはみたものの,「新殺虫剤の功罪」とは,なかなかに難かしい問題である。ここでは,近い将来に,我が国の公衆衞生の分野に登場する可能性がある,いくつかの新しい殺虫剤の横顔を紹介しつつ,それらも含めて,DDT,BHC以後の近代殺虫剤の功罪について,雑然と私見をくりひろげてみたい。

黄変米はどうなつたか

著者: 遠山祐三

ページ範囲:P.21 - P.24

まえがき
 米に寄生する黴の漸く問題となり,黄変米なる名称ができて研究が緒についたのは昭和12年来のことである。当時東京農大の三宅市郎教授が台湾総督府から黄変米につき研究の依頼があり,内藤,角田氏等と研究の結果変色した米に青黴属のP. toxicarium Miyakeを発見命名した。この毒性について東大医学部柿沼,小林両教授に研究を依頼し浦口,平田氏等によつて研究は着々進められた。即ち浦口博士は昭和17年に有毒成分の薬理学的研究,同22年には動物に対し急性毒であることと,その微量を長期連続動物に与うるときは貧血,神経,肝臓障害を起す慢性変化等多数の研究を報告している。然し乍ら,昨今黄変米又は病変米と呼ばれ国民の注目をひいているのは終戦後輸入外米に角田博士により昭和23年10月エジプト米から発見され肝硬変を起こすP. islandicum Soppと昭和27年2月泰国からの輸入米に発見され,腎臓障害を起すP. citrinumThomと呼ばれる黄色系色素を産生の菌とである。これ等各種の黄変米菌の各種性状,毒性その他学問的データについては紙数の関係上これを後日の機会に譲り,茲には主として自然黄変米給与人体実験及び猿使用の人工黄変米給与による長期飼育成績と食品衞生調査会黄変米特別部会の活動の概略を記することとする。

研究報告

バスの車内換気に関する実験的調査

著者: 鈴木武夫 ,   川森正夫 ,   輿重治 ,   石川清文

ページ範囲:P.25 - P.30

I.序
 現在,交通機関は戦前以上に復興したとはいえ,他方これを利用する乗客数が著しく増加しているから,衛生学的にみた場合,車内環境条件が劣悪化する傾向にあることが容易に想像され,事実我々の日常屡々感ずる所である。現在と事情は多少異るが,昭和21年末より翌年春にかけて行われた国電混雑時の調査(1)において,気温,気湿,炭酸ガス量,粉塵数及び細菌数の調査よりみた場合,車輛内の空気の汚染度は乗客数と一定の関係にあることが示され,それより衛生学的にみた場合の一車輛に乗せうる乗客数を推定している。
 又,最近の傾向として,バスの普及がめざましくその利用回数と共に長距離輸送の増加が著しいことである。これに伴い,バス車体,座席等の改善がはかられ,振動,騒音,照明等は漸次快適な状態になりつつあるにも拘らず,バス乗車の際不快な感じを抱かせられることが稀ではない。これは道路の不備もさることながら,快適な環境条件をつくる主要因の一つである車内空気条件について,未だ充分な考慮が払われていないためであると考えられる。即ち,車内の気温,気湿,気流,炭酸ガス量,粉塵数,細菌数,臭気及び排気ガスの洩れ等で示される車内条件の問題が多く未解決のまま残されているからであろうと。

災害地に於ける受胎調節(第1報)

著者: 掃部俊造 ,   西岡長策 ,   玉村良

ページ範囲:P.31 - P.33

緒言
 終戦後受胎調節の必要性が叫ばれて以来,これが実施率は次第に上昇しつつある。然し,貧困者及び無教養者階級にあつては,なお旧態依然たるものがある。私達は,かかる階級者多く,管内最高の出生率を示し,更に昭和28年9月25日の台風13号の来襲の結果家財の大半を流失し,極度の悪環境に置かれた飯南郡港村の婦人に対し,受胎調節の実施計画を立て,既に満3月を経過し,些か見るべき成果を收めたのでここに報告する。

常用消毒剤の効力に就いて

著者: 拜郷比呂志

ページ範囲:P.33 - P.35

緒言
 近代医学の進歩に伴い,新しい種々の消毒剤が登場して,其の優れた効力と,消毒の簡易化に依つて,広く斯界に普及される趨勢にある時,現在広く使用されている各種消毒剤と比較検討することも亦,臨牀上意義のある事と思われるので,以下述べる検査を行つた。

毒蛾について

著者: 森下哲夫

ページ範囲:P.35 - P.38

 昨年岐阜県多治見市に大発生した毒蛾(Euproctisflava)は愛知県名古屋市,瀬戸市,春日井市,海鳴町周辺にも大発生をして初夏の夜を悩ませた。本邦に於ける毒蛾大発生の記録は1889年宮城,岩手両県に於いて大発生したのが最初のものの様で,1908年山形,兵庫両県で,1915〜16年新潟,秋田,千葉の各県,1917年宮城,1918年静岡,1919年石川次いで1926年宮城県で大発生した。終戦後は1947〜49年に亘つて宮城,青森,秋田,山形の諸県に大発生があつた。今年の大発生は昨年の多治見市を初め岐阜県では土岐市,瑞浪市に,愛知県では名古屋市,瀬戸市,春日井市,富山市,刈谷市,半田市等にも毒蛾被害が見られた様で,少数毒蛾の飛来は岐阜市でもあり被害者を見ている。この両県下に於ける被害者は推定数十万と考えられる。東京都から九州に互る一帯殊に近畿地方でも毒蛾多発を見た様である。毒蛾科の数多くある毒蛾の種類の中で大発生をする種類は我が国に於てはドクガ(Eupro tis flava)に限られている。人体被害のある毒蛾として,チヤドクガ(Euproctis pseudoconspersa),クワノキンケムシ(Porthesia xanthocampa)等が夫々前者は茶,椿,山茶花等に後者は桑につくので,茶業養蚕業に携る人々に被害を与える記録があるが,農薬の発達した時代で重要性は稀薄化しつつある。

運動直後における体温測定の方法論

著者: 村上カオル

ページ範囲:P.38 - P.40

 運動時,或いはその後における生理的機能の中,体温は呼吸・脈搏・血圧などと共に,運動量や疲労の消長などを知る上にきわめて重要視すべきものとしてあげられている。
 相当激しい運動時においては体温が上昇し,さらに高温の環境ではとくにこの傾向が強いということが古くから知られている。しかし,運動の直後かえつて体温が降下する場合のあることも指摘されている。たとえば,荻原氏らは100m疾走後,体温が1〜2℃下降することを実測し,田村弘喜氏もマラソン競走後さらに強い体温の降下が2℃以上あることを発表した。しかし,それらの原因については十分の解明が与えられなかつたように思われる。

流行性肝炎による汚染の疫学的指標

著者: 今井清 ,   菅沼達治 ,   佐野一郞 ,   林康之 ,   山県英士 ,   田中義人 ,   村上義次

ページ範囲:P.40 - P.43

I.はじめに
 昭和29年8月下旬から11月上旬にかけて東京都新宿区大久保地区に限局して約240名の流行性肝炎が多発し,その原因として地区内の某豆腐店(以下A店とす)の豆腐が明かにされた。この豆腐店(小売,卸売,行商を含む)を平生利用する世帯は推定約400軒で今回の多発地区の全世帯の略1割に相当するものである。この400軒の内,大久保小学校に通学する児童は約150名で最大限150名の児童が豆腐により汚染される可能性があつたわけである。このような状態の中で流行性肝炎病毒による実際の学童間の汚染は果してどの程度であり又どのような指標で知ることが出来るだろうか。
 我々は流行性肝炎病毒に汚染された場合の肝障害の検査として肝触知と尿ウロビリノーゲン検査を取り上げ,大久保小学校児童に就て検査した。その成績は疫学的にみて病毒汚染度の指標として使用し得ると思われるのでここに発表する次第である。

豆腐による流行性肝炎の多発例

著者: 與謝野光 ,   高橋末雄 ,   山下章 ,   今井清 ,   菅沼達治 ,   永井正雄 ,   仲井和雄

ページ範囲:P.43 - P.48


 昭和29年9月22日東京都新宿区の大久保小学校養護教諭より5〜6名の黄疸による欠席児童があるとの連絡を受けたので,直ちに現地調査に趨いたところ附近にも黄疸患者が発生している事実をつかみ調査に当つた結果,5ケ町に略々限局して235名の患者発生のあることを知り,原因として同地区内の一豆腐店の豆腐が推定された。なお本調査のうち,疫学は都衛生局予防部,淀橋保健所,臨床は都立豊島病院,国立東京第一病院,病原は国立予防衛生研究所が担当した。

日本腦炎ウイルスに及ぼす塩素消毒の影響

著者: 時任直人

ページ範囲:P.49 - P.55

まえがき
 塩素消毒によるウイルスの不活化実驗に関しては,Lensen等1)2)3),Ridenour等4)の急性灰白髄炎ウイルスについて,又Neefe等5)の流行性肝炎ウイルスについての報告がある。Lensenは粗製急性灰白髄炎ウイルスを用いると,それに含まれる蛋白貭が要求する塩素量が,ウイルス不活化に要するそれよりもはるかに多いため,不活化に有効な塩素量を論ずることは不可能であるとし,半精製ウイルスについて実験している。日本脳炎ウイルスについて塩素消毒の実験はまだ報告されていない。しかし,日本脳炎ウイルスは蚊によつて伝播されるとは云え,患者の口腔液,或いは尿糞便内にも排泄されることが知られ,また濃厚ウイルスを猿に実験的に経口的に与えるとウイルス血症等を起すことが明らかにされて来た今日において,自然界に排泄撤布されるウイルスを消毒することは防疫上必要なことである。ことに飲料水がウイルスによつて汚染された場合,どの濃度の塩素量によつてウイルスが不活化されるかが問題である。ここに水道水浄化に用いる塩素量が日本脳炎ウイルスを不活化するに足るか否かについて実験を行つた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら