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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生19巻6号

1956年06月発行

雑誌目次

特集 原子力と公衆衛生 綜説

原子炉について

著者: 小林久信

ページ範囲:P.1 - P.10

 原子力は広島・長崎の原爆という非常に好ましくない形で現われたのであるが,最近原子力を人類の幸福のために使おうという傾向が強くなり,原子力の平和利用ということが各国でさかんに叫ばれるようになつた。また,いままで原子力を兵器として使つていた国でも原子力の平和利用という方面に力を注ぎ出している。そこでまず原子力のもとになるウランの核分裂から述べよう。

核分裂生成物の処理

著者: 浜田達二

ページ範囲:P.11 - P.14

 原子核分裂のエネルギーが動力源のかなりの部分を占める時代のやつてくるのもまもないことと思われるが,それまでの道程にどうしてもこえねばならぬ1つの険しい山がある。それは原子炉の中にできる核分裂生成物の始末であつて,「廃棄物処理」(Waste disposal)とよばれ,ある意味で,現在及び将来にかけて最も大切な人類の課題ともいえるものである。

空気汚染について

著者: 江藤秀雄

ページ範囲:P.15 - P.16

 放射性物質による所謂空気汚染はその規模の大小は別として従来もしばしば問題とされた。然し以前は空気汚染による危険は専らラジウムを取扱う例えば夜光塗料工場や,ウラン鉱山などが対象となつたにすぎない。勿論この場合の原因はラジウムの崩壊によつて生ずるラドンが気体であるため,これが四囲の空気中に発散し,更にまた崩壊により固体の放射性元素が生じて微細な埃状となり空気中に浮游するということにあつた。
 今日ではだいぶ事情が違つてきた。ラジオアイツトープの利用がますます盛んになるにつれて,これを取扱う職場或いは研究室内においては勿論のこと,近く原子炉が設置されるようになれば直接そこに勤務しない人々にとつて全く無関係であるというわけにはいかない。まして原水爆の実験による影響や原子炉の万一の破壊という非常時態の場合にはその害が広く公衆に及ぼすものと考えなければならない。

放射性廃棄物の処分

著者: 左合正雄

ページ範囲:P.17 - P.21

I.緒言
 1942年にフエルミが原子核の連鎖反応に成功して以来,原子力は爆弾として我々の頭上に投下され,引続き行われている原水爆実験は死の灰,原爆マグロ,放射能雨として我々に非常な恐怖を与えている。然るに一方原子力の平和的利用も急速に発展し,昨年はこれに関する第1回の国際会議が開かれ,原子力は動力源として大きな期待がかけられるに至り,放射性同位元素の各方面への利用も目覚しく進展している。愈々我国もこの趨勢に対処する態勢を整え,実験用原子炉を設置せんとする段階に達したことは周知の通りである。
 かくて今や原子力時代への推移は必至である。然し乍ら原子力を生産し,利用するところ必ず放射線を伴うから,その平和的利用に急な余り放射線に対する防護処置を怠るならば,人類は未だ嘗て見なかつた様な怖るべき惨禍を蒙るやも計り知れない。放射線の人体に及ぼす影響,人体に対する最大許容量も未だ余りはつきり判つていないが,特にその遣伝的影響は研究が進むにつれて憂慮される様になつて来ている。従つて我々は出来るだけ人体を放射線から防護するため,生活環境の放射性汚染を防止する方途を考究し,原子力工業の発展に即応して,原子力を人類の幸福に寄与させる様に努めなければならない。

從業員の健康管理

著者: 吉沢康雄

ページ範囲:P.22 - P.25

 従来は極く一部の職場に限られていた放射線障害に関する健康管理の問題は,ここ10年来原子炉による放射性物貭の大量生産が可能となつてからとくに重要となり,原子力の利用が活溌になるに従つて将来の問題としても論議の的となつて来た。
 原子力関係の工場,研究所で作業する者が自然計数以上の放射線をうけることは認めざるを得ないにしても,過剰線量の防禦のため健康管理を厳重にすることはI.C.R.P.(InternationalCommission on Radiological Protection)の勧吾でも強調されている。このためつぎのようなことが問題となる。

食品汚染について

著者: 檜山義夫

ページ範囲:P.26 - P.30

1.はしがき
 核分裂生産物の食品汚染の問題は,大きく二つに分けて考えるのがよいと思う。その一つは,食品の外部に放射性物貭が付着した場合であり,(外部汚染)もう一つは,食品となる生物の体内に放射性物貭が生理的にとりこまれている場合(内部汚染)である。
 この二つの場合に,きれいに隔然と分けて論ずることの出来ない場合や,双方の原因が同時に共存する場合も,もちろん考えられるが,順序として,ここでは二つに分けて述べてみよう。

放射性アイソトープの治療への応用

著者: 宮川正

ページ範囲:P.31 - P.38

まえおき
 公衆衛生の専門誌に放射性アイソトープ(以下R.I.と略記する)の治療への応用を紹介する理由を一応考えてみたい。この読者はおそらくR.Iによる治療の内容そのものよりR.I.を治療に使用する場合のR.I.に対する心構え(或は管理)に重点をおかれることと考える。R.I.の関係する分野は今後増々拡大する一方でR.I.の管理は今後あらゆる方面の専門家の立場から考案され工夫され実施されなければならない。かかる見解で国民を放射線障害から保護すると云う一般論の一部として放射線衛生の立場からR.I.による治療を眺めていただきたい。
 放射線専門医の立場としても斯る点は常々考慮し,努力して居るが他の見解から広視野に立つて考察していただくことは大切である。

アイソトープの医学研究への応用

著者: 三浦義彰

ページ範囲:P.39 - P.45

I.まえおき
 治療面を除いてアイソトープの医学研究への応用といえば,主としてアイソトープを標識(Tracer)としてある化合物の代謝を追跡する場合が多い。
 生体を構成する元素は多数に上るが,その主なものはC,H,O,N,P,Ca,Na,K,Fe,I,Znなどであつて幸いにいずれも放射性あるいは非放射性のアイソトープが存在している。これらのアイソトープを代謝研究に用いる利点は反応がほとんど生理的に行われ,アイソトープを用いたために特に正常の状態と異ることがない点であろう。今世紀の初めにKnoopがフエニル基をつけた脂肪酸を合成してイヌに食わせて脂肪酸のβ酸化説をみごとに打樹てたが,彼の説はフエニル脂肪酸が生理的なものでないという理由で長く論議の的となり承認されなかつた。

原子力の公衆衞生への応用

著者: 豊川行平

ページ範囲:P.46 - P.50

 原子力は公衆衞生の分野においてもその利用面が増大しつつある。例えば,牛乳検査の際,稀釈度の正確さをチエツクするため,牛乳中にP32を加え,各稀釈液をカウントするといつたことが行われている。また,アイソトープやX線が食品,抗生物貭などの低温殺菌に用いられている。食品の低温殺菌は他の殺菌法に代る重要なものとなるだろうと考えられているが,Anonymous(1951)及びClifcon(1955)によると,β線,γ線及びX線による食品の殺菌は約1,5°乃至3.0°repで十分ということである。問題は風味や食品価値を如何にして保存するかという点であるが,これは今後の問題であろう。一方,食品中の寄生虫除去にも放射線は利用できる。例えばGomberg et al(1954)によると,豚肉中のTrichinellaを除去するには750,000乃至106repの照射が必要といつている。Co60のγ線の20,000repは寄生虫仔虫の成虫への成熟を阻止するし,また雌虫は12,000repで完全に殺されるという。
 衞生動物学の研究ではアイソトープは非常に大きな役割を演じている。衞生昆虫にアイソトープを与えて目じるしをつけるという仕事を最初に行つたのはHassett and Jenkins(1949)及びBugher and Taylor(1949)で,それ以来この方法を用いて広範な研究が行われている。

研究報告

ピペラジンハイドレイトによる蟯虫集団驅虫成績

著者: 前田嘉右ェ門 ,   多田哲夫 ,   小原寧

ページ範囲:P.51 - P.51

1.緒出
 戦後寄生虫保有者の増加が叫ばれ,特に蛔虫に就いては,児童の虫卵検査予防駆除の徹底化,公衆衛生知識の向上等から,保有率は低下しつつあるにも拘らず,蟯虫症に就いては,検査方法の不適当と症状の軽微な為,医師並びに一般の認識が低く,軽視又は看過されがちであつた。
 近年セロファンサーブ法及びスコツチテープ法が蟯虫卵検査法として普及されるに従つて,蟯虫浸淫率は意外に高率である事が判明し,殆んど100パーセント寄生していると云う説さえある。当所に於ける福井県内児童のスコツチテープ法による1回検査の成績でも,最高84%の寄生率を得ている。我々が実際に蟯虫卵を検査するに当つて常に痛感するのは,特効薬に欠ける為,多数の陽性者に適当な治療法を指導出来ない事である。今回エーザイ株式会社のピペニン(ピペラジンハイドレイト)に依る児童の蟯虫集団駆除実験を行う機会を得て,副作用を全く認めず優秀な駆虫効果を認めたので報告する。

水害時の井水の衛生学的問題

著者: 武田真太郎 ,   角谷昭一 ,   得津雄司 ,   花岡俊行

ページ範囲:P.52 - P.55

 吾々は昭和28年和歌山県を襲つた7.18水害及び台風13号に際し県予防課,湯浅保健所等の援助を得て防疫給水班を編成,実際活動に従事し,更に水害時の井水カルキ消毒法を実地に検討し,その個々の成績は既に報告したが1)2)3),今ここで吾々の行つた井水消毒法の批判及び今後の水害時の井水防疫活動の在り方を綜括的に述べ,諸賢の御批判を仰ぎたい。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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