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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生2巻4号

1947年09月発行

雑誌目次

綜説

勞働基準法と醫學

著者: 石川知福

ページ範囲:P.173 - P.178

 昭和22年5月3日は新憲法が實施された日として,新日本が永久に記念すべき日となつた。吾々醫學に關與して居る者としては新憲法中第25條『すべて國民は健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。國はすべての生活部面について,社會福祉,社會保障及び公衆衞生の向上及び増進に努めなければならない』は特に忘れることの出來ない條文である。それと相竝んで吾々國民の勤勞生活を規定した重要な條文として第27條がある。即ち『第27條:すべて國民は勤勞の權利を有し義務を負ふ。賃金,就業時間,休息その他の勤勞條件に關する基準は法律でこれを定める。兒童はこれを酷使してはならない』といふのがこれである。本年3月18日には衆議院で可決され,3月26日には貴族院を可決通過した。勞働基準法は,この憲法の第27條に基づいてゐる。この勞働基準法は目下その細かい實施令の案が厚生省勞働基準局で吟味されつつあるので,遠からずその成案が公聽會にかけられ愼重なる検討が加へられた上で,發令され,實施にうつされることであらう。
 日本産業衞生協會内には,勞働基準法の衞生關係部面を檢討するが爲の委員會が,昨年昭和21年から設置されて度々の會合が催された。施行令に關する草案についても同委員會案を作り,之を當局の參考に供したのであつた。

原著

ツベルクリン皮内反應強度と發病との關係

著者: 吉岡博人 ,   日比貞子

ページ範囲:P.179 - P.188

I 緒言
 ツベルクリン皮内反應の必要性は廣く認められ,その應用範圍も次第に擴大されつゝあることはよろこぶべきことと言はねばならない。現今に於ける結核蔓延状況では感染防止は恐らく不可能であり,從つて結核豫防には初感染の早期發見が肝要であることは今更贅言を要さない。そこで,早期發見の方法として普遍的に廣く行はれ得るのはツベルクリン皮内反應であるから,陽轉時を知る爲にも,また感染程度を知る爲にも,ツベルクリン・アレルギーの發現状況に據る他はないわけである。
 いま,豫防的立場よりツベルクリン反應に於ける強弱の問題を採り上げてみたいと思ふ。ツベルクリン皮内反應に對する皮膚感受性によつて,臨牀所見或ひはレントゲン所見と直接に結びつけ,活動性の診斷の一助となさんとせる學者も見受けられた。しかし,誰もが首肯し得る立證の缺除が看取され,また,現在までの吾々のもつた資料では,ツベルクリン反應強度とレントゲン所見との間に於ては一定の相關性の存在すらみとめられなかつたのである1)2)。しかし,時日の經過によつてその感受性は低下すると言ふ意味から,ツベルクリン皮膚感受性の高いものは發病者が多いとせる3)報告もある。

論説

保健所と醫療問題

著者: 齋藤潔

ページ範囲:P.189 - P.190

 保健所に於ける醫療問題が最近特に論議されてきた。保健所自體が所内に於て行ふ醫療と,保健所の機能の中へ醫療問題を取り入れて考へること,即ち醫療も公衆衞生の一部であるといふ考へ方とは別問題である。抑々わが國の保健所は大正の末頃内務省に保健衞生調査會が設置されて,諸外國のHealth Centerが同委員會で調査檢討された頃から,識者の間に認識されてきた。當時の社會状勢ではその實現は殆んど望むべくもなかつた。然るに昭和の初め頃,やはり内務省内に公衆衞生技術官訓練機關設立準備委員會が設置されて,現在の公衆衞生院の創設準備が内務省とアメリカのロックフェラ財團との間にすヽめられた。公衆衞生院の本質は衞生技術者の訓練機關であつて,その實習機關として都市竝に農村地區に模範衞生事業の機關が設置されることゝなつて,都市型のものが現在の東京都中央保健所の前身である東京市保健館であり,農村型のものが所澤保健館で現在の埼玉縣所澤保健所である。この兩保健館はやがて出現する公衆衞生院の實習場であるから,院の事業開始前に出發することゝなつた。東京市保健館は昭和10年1月,また所澤保健館は昭和12年既にその事業を開始した。この保健館の機能は地區衞生事業であると同時に教育機關でもあるから,現在の保健所とは稍々趣を異にしている。--最近の保健所は實地修練生の實習教育機關ではあるが專門技術者の實習機關ではない--。

論述

アメリカ合衆國に於ける公衆衞生管理

著者: サムス大佐

ページ範囲:P.190 - P.193

日本公衆衞生學會發會式における講演要旨
 公衆衞生上,公衆衞生管理なる概念は絶えず變はるべきものである。交通の發達は利用増加と伴つて,疾病の急速傳播が平行して來たことを銘記せねばならぬ。比較的に孤立して居つた各地方地方に於ける公衆衞生管理方法の適當であつたものが最早施行せられなくなつたことを認めなければならぬ。
 過去300年間アメリカ合衆國に發達して來た公衆衞生管理はどの様であつたか,實際に於て北米で疾病管理の第一歩は,1648年マサチユウセッツの移住地となつて居る處の疾病の地方的爆發を管理する企圖であつたのである。然しながら,連邦政府としての第一歩の眞の企ては,1798年になされたのであり,それは米合衆國創建後間もないことであつた。此事は海員に對する醫學的救助を與ふべき法令で,企劃されたのであつた。

産兒制限の反對に答へる

著者: 太田典禮

ページ範囲:P.194 - P.198

1.産兒制限は民族を亡すか
 先づ産兒制限は民族の滅亡を招くからよくないといふ議論は,一應御尤もです。私も日本の土地が狹いからといつて,たゞそれだけの理由から産兒制限を主張するのではありません。しかし,民族の發展は單に人間の頭數だけ多くなればいゝというものではない。十分に養育し,教育することもできないほど,子供を澤山生んでも仕方がないではありませんか。優秀な子孫を殘すためには,その時代になり各々の家庭の状態になり應じて,子供の數を適當に制限しなければ,民族の發展も望めません。
 人口が減るのは産兒制限の罪ではなく,傘をさゝねばならぬ程雨が降るからなので,罪は雨の方にあるわけです。世の中がそれ以上人口を養ふ事が出來ない時代には,産兒制限をいうことが知られていなかつた昔でも,慘虐な方法を用いてまで人口の増加を防いで來たではありませんか。

種々の託兒制度と家庭問題の將來

著者: 木田文夫

ページ範囲:P.198 - P.204

1.新しい託兒制度の必要
 産兒問題と託兒問題とは,わが國がいま,文化國として出發するためには,どうしても眞劍な對策を必要とする公衆衞生學上の第一の課題であろう。とりわけ託兒制度をとりあげたい。といふのは,家事と子澤山に追はれたわが國の母が,その子供たちの性格の決定や,智能の素地,あるひは社會道徳や教養の育成にもりとも大切な小兒年齡満2歳乃至5歳の時期をただ叱り聲,怒り聲と,落書をしたり公園の花を折つて遊ぶ無關心な放任の中に過させてしまひ易いからである。よく言はれるやうな三つ子の魂百までといふことわざは,今日の新しい異常兒童や不良靑年の研究で,ワロンやベンジャミンその他によつて證明された事實である。
 とくに社會人文化國人としての公衆道徳の教化は,智育に先立つ學齡前期に身につけておかせなくてはならぬ。今日わが國の交通機關や街頭や浴場いたる處で見られる人の迷惑は少しも意に介しないといふ非社會性は,敗戰によつて新たに生れたものではなく,昔から日本人の特徴であつて,窮境によつて目につき易くなつたばかりである。その原因の大部分は家庭の父母の無教養にある。その幼兒がまた同じ父となり母となるのである。

研究

現行BCGワクチンの缺點と改良法

著者: 鶴見三三

ページ範囲:P.204 - P.209

 BCGワクチンの接種が,感染豫防延ては發病防止に一定の效果あることは最早議論の餘地がない。併しながら現行BCGワクチンは,普通皮内又は皮下に接種する關係上,種々の副作用を招來する。その内輕度の發熱その他の全身症状は,他のチフスコレラ等のワクチン注射の場合と敢て變りはないが,唯不快なるは接種部位に於ける膿瘍竝に潰瘍を形成することである。之も注射の菌量と體質により一様ではないが,その頻度は第1表に示す通りである。

米國國立衞生研究所の無菌試驗用培地の還元電位的性質に就いて

著者: 福見秀雄 ,   大村桂子

ページ範囲:P.209 - P.215

 米國々立衞生研究所指定の無菌試驗用培地1)は,好氣性菌も嫌氣性菌をも共に發育せしめる至極便利なものであり,そのことは小島等2)の報告によつて確認されてゐる。私達はこゝで,この培地の酸化還元電位的な性状に就いて,若干の考察を試み,終りに私達の實驗記録を追加したい。
 米國國立衞生研究所の無菌試驗用培地の處方,製法及び,私達の使用したその變法培地については,小島等の報告2)を參照されたい。

流行性腦脊髓膜炎菌健康保菌者の研究

著者: 宮入正人 ,   重松逸造 ,   芦前義守

ページ範囲:P.215 - P.220

序言
 流行性腦脊髓膜炎の傳染源として健康保菌者が重要な役割を演ずる事は周知の事實であるが,鼻咽腔壁よりの本菌保有者檢索成績は,種々なる條件の爲に千差萬別である。
 私共は,本年4月東京都防疫課の御協力を得て,都内一部の患者發生箇所における健康保菌者檢索を行つたので,それをこゝに報告する次第である。因みに東京都における本症流行を見ると,昭和20年より増加の傾向を示し,本年には,急激な上昇を示してゐる。

特殊環境での腸管寄生蟲の蔓延状態について

著者: 山田明 ,   山田弘 ,   桝田敏明

ページ範囲:P.220 - P.223

 調査は昭和22年5-6月にかけて行つた。そして,方法としては,マッチ箱に拇指頭大の糞便をとらせ,採便後3-4時間のうちに,その少しを載物ガラスの上で1滴の食鹽水をよく混和し,新聞紙の上で活字がやつとすかしてみられる程度に薄くひろげ,被ひガラスでおさえる直接塗抹法を用ひ,わたし達3人で鏡檢した1)
 檢査の對象は,神戸刑務所と岩國少年刑務所の受刑者1553名で,神戸刑務所は20歳以上の成人の男子を,岩國少年刑務所は15-20歳の少年を收容し,それぞれ兵庫縣下と中國,四國地方に住んで居た者が殆どである。

傳染性疾患の防遏—腸チフス—第4囘

著者: 早川淸

ページ範囲:P.223 - P.228

 1.本病の認知:……本疾患の特性は持續性の熱,淋巴組織特にパイエル氏體Peyer's patchesの腫脹と屡々その潰瘍,脾腫,躯幹部の發疹,下痢その他内臓の實質障碍を伴ふことである。輕症のもの,非定型的のもの又た屡々臨牀上看過される様な病型もある。腸チフス菌が血液,糞便,尿等に見出され得る。
2.病原體:……腸チフス菌,Eberthella typhi

保健所のペーヂ

BCG接種後の諸観察

著者: 窪田利根男

ページ範囲:P.228 - P.229

 昭和21年12月,管下利根郡の1町15村に於て,10歳〜20歳の靑少年にBCGを接種した。ツ反應施行は,17373人で陽性者7579人(43.63%),BCG接種は9737人に行つた。接種液は,結核豫防會製造のものである。接種1〜2月後の潰瘍發生率は,53.95%で,問題となる如きものはなかつた。山村でありながら陽性率の比較的高いのは,7〜12月前(當時保健所未開設)14ケ町村に,結核豫防會が檢診を行ひ,BCGを接種した爲と考へられる。即ち,學童の陽性率に就いて觀察すると,沼田町,水上村(温泉地)の陽性率は48.99%で,これに該當する學童の陽性率を豫防會の報告に見ると,21.06%である。又薄根村等4村の當時の陽性率は13.14%であり,今囘は43.28%,但し18.63%の1村を除くと50.33%で,前囘のBCG接種の結果が同様に現はれてゐる。18.63%の1村は,BCG接種をしない2村の學童陽性率12.27%,及豫防會檢診時の上記6町村の平均陽性率17.63%に近い。BCG液の力價の關係と見られる。
 即ち,豫防會がBCGを接種した14町村の今囘の學童のツ反應陽性率が,35%以下5村,35%〜50%間5村,50%以上4町村である。豫防會の檢診は11月から5月の間に行はれたが,上記陽性率35%以下の5村は,何れも11月及3月下旬後である點,東京よりのBCG液の輸送と氣温の温暖とが大に影響してゐるものと考へられるのである。

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ニュース

ページ範囲:P.229 - P.231

保健所の強化擴充による定員及事業費調
A本省
a定員:2級技官……2名,3級事務官……1名,雇……2名

情報

ページ範囲:P.231 - P.231

疾病の豫防教育實踐強調運動の展開
 今囘,文部省では全國の學校をして『疾病の豫防教育實踐運動』を展開せしめることになり,この旨全國に通牒を發した。實施期間は,本年11月15日−12月5日。本運動は,衞生教育の一環としてとりあげ,結核及び寄生蟲豫防を重點とするものである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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