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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生2巻5号

1947年10月発行

雑誌目次

原著

鼠族昆蟲驅除の消化器系傳染病に及ぼしたる影響

著者: 石館文雄

ページ範囲:P.235 - P.241

序言
 1946年(昭和21年)7月より10月に亘つて長野縣に鼠族昆蟲驅除が市部に重點的に實施されたので,戰時中の1942年(昭和17年)より1944年(昭和19年)に至る間の平均(以下1944年にて記す)と,終戦後の社會秩序の混亂と非衞生的生活環境に加へて敗戰による復員者,引揚者の縣内移入の最も顯著と認められる1945年(昭和20年)と,鼠族昆蟲驅除を實施した1946年(昭和21年)とに就いて消化器系傳染病の發生状態を考察して見たい。

論説

平均壽命の延長

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.242 - P.243

 米國の公衆衞生は今日世界に冠絶するに至つて居るが,之は前世紀の中葉Massachusetts州地方から展開し初められた約100年の歴史をもつ組織的な公衆衞生運動の結實したものである。今此の期間に於ける米國の公衆衞生發達の跡を平均壽命を尺度として辿つて見るに,次の如き事實が見られる。
 1850〜1900年の50年間,即ち上述の米國の公衆衞生活動史の前半期に於て,其の中心舞臺であつたMassachusetts州民の平均壽命は男子は7,8歳,女子は8,9歳の延長を示して居る。又1900〜1939年の期間,即ち上述の歴史の後半期の當初40年間に米國の屆出制度施行前全部に於て15年の平均壽命の延長が見られた。そして昨1946年には米國民の平均壽命は實に65歳に達し,1850年當時の平均壽命に比し,又我國の最近の平均壽命に比し約20年の差があることが觀取されるのである。平均壽命は公衆衞生の成果を示す綜合的な示標であるので,此の約20年の平均壽命の延長こそは,米國の公衆衞生運動100年の里程標たるべき好箇の金字塔として鑽仰すべきものである。

研究及資料

九州産アノフェレスに就て

著者: 八木辰太

ページ範囲:P.243 - P.246

諸言
 余は昨夏,佐賀縣下の一僻村に於て臨牀上「マラリア」と思考される1患者の診療に從事した事がある。患者は土着の農夫であつて,支那事變,太平洋戰爭に從軍の經驗なく,内地の主要瘧地を旅行した事もない。未だかつて該村にはマラリアらしい風土病は見られたことはなかつた。然し戰爭以來近隣に多數のマラリア既往兵士が復員して來てゐるので,或は之に基因してゐるのではなからうかと思はれたので調査することとした。

無醫村乳幼兒檢診成績

著者: 松村龍雄 ,   神前章雄 ,   法月勇朔 ,   近藤高男 ,   吉田久

ページ範囲:P.246 - P.252

緒言
 本報告は昭和16年,17年夏に余等東大小兒科教室員が,栗山教授の指導の下に,全國の5無醫村に於て乳幼兒檢診を行つた成績を主とし,更に又昭和13年に教室員早川,淺野,松村の調査した一無醫村の成績を加へてまとめたものである。本報告に於て明かにされた無醫村に於ける乳幼兒保健の無指導状態は,當時も現在もただに無醫村のみならず,廣く農村に漁村に認められてゐるものであり,又都市とも關連なしといへぬものである。更に又,乳兒榮養失調症は戰中戰後の乳児食糧難のために,現在益々廣く益々甚しく認められてゐる。余等が,戰爭下の出版事情のために發表が遅れ,やや古びた感のある本報告を,敢て發表するのはこの故である。

乳幼兒死亡の概況(承前)

著者: 瀨木三雄

ページ範囲:P.252 - P.259

5.乳幼兒死亡原因總括と死因の檢討
 第3圖は昭和18年の0-5歳各年齢層に付,主要死因を示したものである。乳兒死亡の3大原因は先天性弱質,肺炎,下痢及腸炎であるは人の知る通りである。しかし乍ら此處に注意を要するのは先天性弱質の死亡に包含されてゐるものは,先來我國の統計作成上次の診斷名を含むといふ事實である。即ち先天性弱質,發育不全,軆質不完全,軆質薄弱,小兒萎縮,榮養不良,生活薄弱,榮養障碍,榮養消耗等が包含される。この中明かに後天的理由に基く榮養障碍等が包含されてゐる事に就ては今後の檢討を必要とするであらう。更に早産と先天性弱質との差は事實上明かなるものなく,先天性弱質の大部分乃至相當部分が早産である事は疑ひないが,我國では早産は甚だ尠い。(英國等では先天性弱質は尠く早産が多い。最新の統計作成方法によると我國にも早産として表示されるものが非常に多くなる筈である)。
 下痢及び腸炎(2歳未満)の中には下痢,乳糜痢,青便下痢,腸カタル,腸炎,腸消化不良,消化不良,1歳以上の榮養不良,榮養障碍,小兒萎縮等が包含される。即ち榮養障碍は乳兒に於ては先天性弱質に,1歳兒に於ては下痢及腸炎に算えられる。

論述

空氣傳染性疾患防遏方法の一つとしての床及び寝具の油劑處理方法に就て

著者: 尾崎嘉篤

ページ範囲:P.259 - P.262

 吾々は傳染病のうち,消化器系傳染病とか,鼠族や昆蟲によつて媒介せられる傳染病は,一應之を防遏する手段と方法とを心得,事實又その防遏に成功もしてゐる次第であるが,空氣によつて媒介せられる傳染病となると甚だ心もとないことを告白せねばならない次第である。だゞ吾々の之までなし得たことは,患者を隔離してそれとの接觸を斷つことと,その居室は窓を開放して,危險な病原體を含む空氣は外氣と入れかへ,無限大の自然の稀釋力にたよること,また,患者とやむおえず接觸する人―その他の人もであるが―はマスクを使用するという程度の,極めて消極的な,しかも自信のもてない手段が考へられる位である。この他昔から行はれた消毒劑による空氣の消毒もあるが,どの程度信を置いてよいものか判らず,近頃は殆んど實施せられない次第であつた。
 ところが戰後アメリカより傳へられる所によると,油劑を用ひて床や寝具を處理して,空氣傅染を防止し,更に進んで空氣自身中に浮游してゐる病原體も,同樣に油劑を用いて捕捉して了はうとの方法が實施されてゐるとのことで甚だ興味を持つて待つてゐた次第であつた。たまたまTheAmerican Journal of Hygieneに數篇のこの關係の文獻がのつてゐたからその概要をまとめて記し,御紹介致したい。

保健婦業務とは

著者: 森島

ページ範囲:P.262 - P.268

保健婦の生立は何であつたか?
 保健婦は派出看護に由來して居る。すなわち病家を訪問し患者のみどりをすることであつた。この勤務の根源は最初は宗数的教示の上に出來たものであつた。この派出看護婦協會をしつかりした形の上で作つた最初は,1859年にウリアム・ラスボーンが,英國リヴァプールでフロレンス・ナイチンゲールの援助で結成したのであつた。米國最初のそれはニュー・ヨークで1835年にバッファロ派出看護婦協會の創設であつた。1907年に州立無料援助協會が此の派出看護婦を使用して,結核の豫防に州全軆の戰鬪を開始したのであつた。派出看護婦即ち保健婦の成果が,私立の多くの援助團體の創立となつて,バッファロ市の衞生教育局では傳染性疾患管理を強化する爲め,また學校看護勤務に力を與へる爲めに,この看護婦達を傭ふ樣になつたのである。1913年には公衆衞生法と地方法とが修正されたときに此の保健婦等の勤務は公的機關で其使用が促進された。1916年より1920年間は小兒麻痺の流行や,第一次世界大戰や,流行性感冒の流行等のとき,保健婦の使用は非常な刺戟を作つた。勿論引續き世の不況沈滯の爲め其増加は停止したとはいふものの,1915年に社會保障法の通過により保健婦による活動は其必要性を痛感することとなつた。この法は各市町村の保健婦の採用の爲めの資金を準備させた。

寄生蟲のボクメツ

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.268 - P.271

1.小川のほとり
 さらさらと小川がながれている。
 小川のほとりに,一人のおぢーさんがたゝずんでいる。何をするのかと,そばえ寄つてみるとヒシヤクで流れの水をくんでいる。おぢーさんはセツセと水をくみつゝ手を休めることがない。

紹介

メキシコに於ける衞生教育

著者: 早川淸

ページ範囲:P.271 - P.273

 衞生教育至上主義の聲が,ちかごろ廣く叫ばれ,その具體的動きもぽつぽつあるようであるが,最近のアメリカ公衆衞生雜誌に,メキシコの衞生教育に就ての記事が,目にとまつたので,その概要を記して參考にしたいと思う。
 メキシコに於ける政府としての衞生教育事業は1922年4月21日衞生教育宣傳課が開設せられてからのことである。爾後1940年までに其の事業も漸次擴大せられて,部局となり,更に1943年11月には厚生省が設立せられ今日に及んでゐる。

世界衞生機關(WHO)の動き—中間委員會の經過

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.274 - P.276

 WHOのその後の活動状況がニュースされているので,ここに紹介したいと思う。
 世界衞生機關(WHO)の憲章が61ケ國の代表者により署名された1946年7月22日に,同時に18ケ國の代表からなる中間委員會設立に關する取極めが決つた。この中間委員會は既に第1囘はニューヨーク市(1946年7月19日)で,第2囘はゼネバ(1946年11月4日)で開催されたが,その内容によりWHOの動きを具體的に知る事が出來る。1946年11月第2囘會議の結果決定されたWHOの中間委員會の組織この第1囘の委員會で役員選擧が行はれ,Dr. F. G. Krotkov(ソビエト)が假委員長に選ばれたが,會期の終りにDr. Andrija Stampar(ユーゴスラビヤ)が終身委員長に任命され,3人の副委員長は,メキシコ,エヂプト,支那から選出された。次で,管理及經濟,流行病及海港檢疫,渉外の3委員會の構成が發表された。ゼネバで行はれた第2囘中間委員會は,11ケ國の代表と,UN,UNRRA,國際公衆衞生局,及び汎米衞生會議のオブザーバーが列席して會議が開かれた。その會議内容は次の諸項目に亙つた。1)中間委員會の本部所在の決定には若干の論議の後,本部をニューヨーク市に置き,活動の便宜上一事務所をゼネバに併置し,必要に應じ,その他の場所に委員長の承諾の下に置く事が出來ることに決定した。

結核の撲滅をめざす濠洲

著者:

ページ範囲:P.276 - P.279

 濠洲の結核罹患率は現在世界の最低位にあるが,濠洲の醫學專門家は連邦内から本病を一掃せんものと更に努力を重ねてゐる。

公衆衞生學講座

衞生統計—第4講

著者: 久保秀史

ページ範囲:P.279 - P.282

5.代表値(平均値)
 調査の結果,度數分布表が出來れば,一應目的は達せられたのであるが,一々度數分布表で現わすのでは大變である。そこで考えられることは,度數分布表(集團)を代表する一つの値,即ち平均値を求めることである。
 平均値には計算して得られる算術平均値,幾何平均値,調和平均値と,位置の平均値である中央値,最頻値等がある。こゝでは算術平均値と中央値,最頻値について述べる。

保健所のページ

蛔蟲驅除海人草,栴檀樹皮,小麥藁煎劑効果の比較研究

著者: 加世田保健所

ページ範囲:P.282 - P.287

緒言
 食糧事情の悪化に伴ふ榮養問題がやかましく論議せられてゐる今日,農村に於ける寄生蟲驅除,特に成長期にある學童の寄生蟲驅除は,榮養問題からも識者の間では憂慮せられてゐるところである。
 其の中でも蛔蟲驅除に關しては,戰前迄は主として優秀なるサントニシ製劑に依頼してきたわけであるが,敗戰後に於ては,之が輸入の道は全く閉ざされ,國内生産にも期待出來ざる今日,唯海人草製劑にのみ頼つてゐる現状である。然るにこの海人草製産たるや實に微々たるものにして學童の蛔蟲驅除にさへ事足りざる有樣で,入手容易にして有効なる蛔蟲驅除藥の發見は,實に目下の急務である。

最新の文獻

リポイド抗原による血清の普遍的反應性:「僞陽性」に對する基礎的考察,他

著者: 重松

ページ範囲:P.287 - P.290

 梅毒の沈降反應による血清學的檢査の際に用いられるリポイド抗原は,梅毒血清と特異的に反應にするものであるが,その特異度の極めて高いものでも,檢査方法に特定の條件を加えることによつて殆どすべての非梅毒血清に對して陽性反應を起さしめ得るものであつて,かかる反應を普遍的反應Universal Reactionと呼んでいる。血清とリポイド抗原とが反應する場合,普遍的反應はいろいろな技術的條件によつて起り得るのであつて,その最適條件は血清稀釋に使用する食鹽水濃度の低いことと,檢査の操作中及び判定までの靜置期間の温度の低いことである。そしてこの際形成された沈降粒子は一般に濃度の高い食鹽水を加えることによつて分散するのが特徴である。
 僞陽性反應を起し易い條件もまた低濃度食盛水と低温とであつて,この場合形成られた沈粒子は普遍的反應の場合同様一般に高濃度食鹽水により分散可能である。僞陽性反應のこの3つの特徴(1.低濃度食鹽水,2.低温,3.高濃度食鹽水による分散性)は僞陽性反應と眞の陽性反應との識別に利用することができる。即ち梅毒血清の場合には37℃で最もよく沈降し,高濃度の食鹽水によつて分散しないが,僞陽性反應の場合には低濃度食鹽水及び低温の場合によく沈降し,高濃度食鹽水を加えることによつて分散するからである。

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情報

ページ範囲:P.291 - P.292

日本政府に對する覺書
主題 性病治療用藥品の費用支辨
 1.昭和22年10月27日厚生省から當部へ提出の「性病豫防對策要綱」と題する計畫參照。
 2.次の場合が規定されるなら全體の計畫に對し異議なし。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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