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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生20巻3号

1956年09月発行

雑誌目次

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血清疫学の理論と実際

著者: 金光正次

ページ範囲:P.1 - P.10

I.血清疫学の現況
 血清疫学とは最近Paul1〜2)等やMelnick3)等がポリオの疫学で提唱している"Serologicalepidemiology"に対して我々が与えた仮りの訳語であつて,原語の示すように血清学的疫学と云う意味であるが,免疫化学や地理病理学等にならつて簡略に表わしたものである。病原体に対する血清抗体を人間や動物について集団的に測定し,それによつてその疾患の疫学を研究する事はかなり以前から行われている事で,特に新しいものではない。しかし病原微生物学や血清免疫学の進歩に伴い,これまで病原体に対する特異抗体の検出が困難であつた疾患に於ても抗体の定量的測定の可能になつたものが次第に増加し,更に抗体の測定術式が簡易化されるに及んで集団を対象とするSerological surveyが各種の疾患について広く行われるようになつた4〜10)。特に不顕性感染の多いウイルス性脳炎11〜13)やポリオ1〜3)14〜15)の侵淫蔓延の状況はこの方法によつて著しく鮮明になり,その他のウイルス性16〜23),リケツチヤ性疾患24〜25)の疫学もこれにより多くの知見を加えた。

流行性肝炎の臨床と病理

著者: 小田正幸 ,   岩本淳

ページ範囲:P.11 - P.15

まえがき
 肝臓病は近年医学的にも社会的にも注目をあびてきたが,診断手技の発達によることも勿論だが,実際数も可成り昔に比べて多くなつている様である.その中で最も屡々見受ける型が流行性肝炎である.この病原体についてはビールスであるという説が今日では殆んど常識化されて居り,ビールス性肝炎とも呼ばれているが,厳密に云うならば臨床家としての我々は流行性肝炎とは一定の症候を有する或一群の疾患をまとめた症候群にすぎないのではないかと反省して居る。

流行性肝炎の病原と疫学

著者: 兒玉威

ページ範囲:P.16 - P.23

まえおき
 現在本病を名指すものとして流行性肝炎Epidemic hepatitisと伝染性肝炎Infectioushepatitisの両者が通用している。実際本病は集団的或は流行性に発生する場合もあるが,散発性に発生する場合が多いから,後者の名称の方が適しているかもしれない。流行性肝炎は最近,臨床医学の面からだけでなく公衆衛生の面からも非常に注目されるようになつてきた。しかし,本病のように,なお未知の部分の多い感染症を理解するためには,病原・疫学・病理及び臨床を綜合的に観察して行くことが望ましく,病原とか疫学とかをそれぞれ切り離して論ずることは適切を欠くおそれがある。
 本病に関しては多数の文献の外に,既にW.Siede5),北岡正見1),小田俊郎2),中村隆3),斎藤宏4)等の著書があり,1954年までの報告は殆んどこれに網羅されているといつてよい。更に1954年第28回日本伝染病学会総会の交見演説「流行性肝炎について」において原亨(大阪医大),小坂淳夫(岡大),斎藤宏(名市大)3氏の詳細な研究発表があり,また1955年第2回ウイルス学会総会ではシンポジウムとして「流行性肝炎の病原と病理」がとりあげられ,天野重安(京大),村上栄(岡大),奥野良臣(阪大)諸氏の研究発表8)及び討議が行われた。

新しい感染症(2)—現地疫学の立場から

著者: 松田心一

ページ範囲:P.24 - P.36

IV.新しい感染症の流行機序の解析
 さて以上で私は新しい感染症の種類とその個々の感染症に関する概説を試みたわけであるが,このような新しい感染症の流行が,どのような機序によつて起るものであるかを前述の場合には縦に眺めたのに比し,茲ではこれを横に眺めて見て,それによつて流行機序の解析を行つて見ようとおもう。
 前節で私達は,疫学は人間集団,すなわち社会に於ける疾病の分布消長を集団現象として観察するに始まると述べたが,それではその疾病の分布,消長を司配する主要因は何であるか。これを感染症について考えて見ると,それは宿主群とその環境とその環境の中に生存する病原体との三者であることはいうまでもない。

給食施設の監視指導の要点

著者: 金原松次

ページ範囲:P.37 - P.40

 学校における給食は戦後の食糧の乏しい時代に始まり,今日においてはこれに関する法律まで整備され,ユニセフの粉乳やMSAの小麦によつて小学校,中学校といつた義務教育の学校で行われている。当初は戦後の事とて,その設備も一般に極めて悪く,食品衛生の面からみて危険この上もないとも考えられていた。その後学校給食が恒久化するに従い,又世の中が落着いて来るに従い,漸次設備も改善され,又その食品取扱の方法,献立の作り方等もよくなり,今日では,満足とは言えないまでも可なりの域に達したようである。
 工場やその他の事業場の供食は,学校給食に比べて遙かに早く,むしろ戦前からのものも多い。これは工員等の単なる利便のため,或は給与の一環として,又福利厚生の事業として行われて来たものであろうが,やはりその設備は一般に悪く,相当危険な状態にあつたのであるが,今日では過半が改善され,中には市内一流のレストランに劣らないような立派なものも相当数見受けられるに至つた。

わが国公共水の汚濁とその防止対策

著者: 田辺弘

ページ範囲:P.42 - P.55

まえがき
 水は天然資源のうち最も重要な資源の一つであろう。天然資源に恵まれず,しかも人口過剰なわが国ではこの水資源の適正な保全,利用は極めて重大な意義を持つものといわなければならない。従来清浄を誇つたわが国の公共水は明治期以後の産業経済の急速な発展,都市の急激なぼうちように伴い漸次汚濁されるようになつた。この汚濁は第二次世界大戦の終戦前後期において若干減少したが,終戦後再び増加の一途をたどり,その結果国内各所に汚濁による被害が続出し,飲料水,上水道水源,農業,水産業,水泳,ボーテイング,観光など,さらに工鉱業自体にも重大な支障を来し,きわめて厄介な社会問題を招来るようになつた。
 元来公共水の汚濁を防止し,その清浄を保持することは文化国家の義務でもあり,また権利でもあると考えられている。現に欧米文化国家においては既にその大半は法制化して着々実効を収めている。しかるにわが国ではいまだ総括的に公共水の汚濁を防止するための規制が法律化されていない。

生活環境汚染防止基準法案をめぐつて

ページ範囲:P.56 - P.57

 第24国会に厚生省からの政府提案を予定されていた生活環境汚染防止基準法案は,関係各省との調整が間に合わないという理由で提出の運びに至らなかつた。
 法理論的にも,また技術的にもむづかしい法案だけに,これがいちどで簡単に通るなどという甘い考えは厚生省当局も持つていたわけでもあるまいが,戦後産業,交通などの復興発展にともない,各種公害が社会問題化して立法措置が待望されていた矢先だけに,その頓挫は各方面に大きな失望を与えなようである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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