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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生20巻4号

1956年10月発行

雑誌目次

綜説

連鎖球菌感染症—細菌学及び免疫学の立場より

著者: 草間秀夫

ページ範囲:P.1 - P.14

I.まえおき
 連鎖球菌が様々の人体感染症を起すのは周知のことであり,日常臨床家の遭遇するところではあるけれども,色々な理由で従来我が国では一部の人々を除いてそれ程の関心を持たれていなかつた。然し,近年次第に猩紅熱患者の数が増加しつつあつた矢先,昨年秋から冬にかけて所謂流行性腎炎の全国的流行を見るに至り,急激に一般の関心を呼び起すようになつた。
 ひるがえつて,連鎖球菌の細菌学に関する内外の業績を見ると,最も複雑な部類に属するこの細菌も―これが示す多様な感染症の発現に直ちに結びつけて考えることはまだまだ出来ないにしても―可成りの程度にその免疫学的,生物学的性状が明らかにされて来た。そのうちの或るものは本病の成立機序を考える為の有力な手掛りを提供して居り,一方では,疫学上,臨床上に役立つ幾つかの方法を産み出している。そこでまづ,この細菌自身の諸性状を解説し,次にこれに基いて連鎖球菌感染症の成立ちを実験医学の立場から言及して見度い。

溶連菌感染症

著者: 香川修事

ページ範囲:P.16 - P.24

総論
 溶血性レンサ球菌(溶連菌)による疾患として猩紅熱,丹毒,咽頭炎,アンギーナ,産褥熱,敗血症,限局性化膿性疾患等があり,急性リウマチ熱,急性腎炎も溶連菌と深い関係にあることが知られている。しかし連鎖状をなす球菌は人の疾患と関係なく,水,牛乳,塵埃,人・動物の糞便の中にも見出される。これらのレンサ球菌をSchottmüller(1903)は赤血球に対する態度によつて溶血性レンサ球菌(Streptococcus hemolyticus)緑色レンサ球菌(Streptococcus viridans)と非溶血性レンサ球菌とに分けたが,Brown(1919)はその溶血の状態をα,α',β,γ型に分けた。
 α型とは集落周囲に狭い緑色の溶血環があり検鏡すると赤血球の遺残がある。

急性腎炎の疫学

著者: 平山雄

ページ範囲:P.25 - P.34

I.緒言
 昨年9月以降,突発的に日本全国に亘つて流行した急性腎炎は,新たに登場した公衆衛生上の重大な問題である。問題が新しいだけに,本症に関する学問的な諸成績は末だ完全に出揃つていない。そのような時に本症の疫学について総括的に展望し,蔓延の様式及び対策のあり方を論述することは,時期尚早の感がないわけではないが,「疫学は常に医学の最前線にあり,医学を開拓するラツセル車の役目をすべき」と筆者1)は強く信ずるので,敢えて筆をとる次第である。
 疫学(Epidemiology)という言葉程様々な定義が下されているものはない。従来の諸家の見解を通覧して見ると少くとも次の4種に分類出来ることを知る。

猩紅熱トキソイドについて

著者: 沢井芳男

ページ範囲:P.35 - P.40

まえがき
 ジフテリアと同様に猩紅熱をトキソイドで免疫予防しようという考えが生れたのは,1923年にDick1)夫妻が猩紅熱の患者材料をヒトに接種して実験的に感染症をつくることに成功して以来のことである。ついで同氏等は患者から分離されたレンサ球菌が猩紅熱様の発疹を作るいわゆる外毒素を生産すること,さらにまた培養の濾液からえた毒素(ジツク毒素)でジフテリアのシツクテストと同様に皮膚反応を行うと,猩紅熱に対する感受性をテストすることができることなどを明らかにした。すなわちジツクテスト(Dick test)がこれである。
 この様にしてジツクテストを手がかりとして,上述の毒素を用いて猩紅熱の能働免疫が行われるようになつたが2),本毒素はジフテリア毒素にくらべると,ヒトに対する毒作用ははるかに弱いが,それでも毒素をそのまま免疫に用いるといろいろな不快な副作用とくに猩紅熱様の発疹ができたり,あるいはまた軽い猩紅熱になることもあるので,ジフテリアトキソイドと同様にホルマリンでトキソイド化しようとする試みが多くの研究者によつて行われるようになつた3)4)5)

東京都内に於ける急性腎炎の流行に就いて

著者: 山口与四郎

ページ範囲:P.41 - P.45

 昭和30年11月東京都北多摩郡府中市第3小学校児童及び家族に,急性腎炎患者が約15名発生したので調査を進めたところ,9月以降府中市を中心とし主に郡部地域に流行性に腎炎が発生していたことが判明した。東京都衛生局では東京都医師会の協力を得て急性腎炎の患者発生を把握することに努める一方,腎炎多発地区の府中市内の小学校児童及び家族についての健康調査を進め,都立駒込病院・都立衛生研究所と共に疫学,臨床,病原の各分野にわたつて共同研究を行いその成績は第30回伝染病学会に報告したが,本稿には現在迄に判明した都内の急性腎炎の流行状況について概略を述べ御参考に供したい。

原著

結核患者退院後の実態調査

著者: 田中正好

ページ範囲:P.46 - P.49

〔I〕
 今,吾国の結核対策は一つの転機に立つていると考えられる。一方では昭和28年度より厚生省において行われている。実態調査による結核患者の正しい把握と,最近の化学療法を主軸とした結核治療の進歩による結核療養の本態の変化があり,他方では昭和29年度に57億円と云う未曾有の赤字を出した健康保険経済の底に横わる結核療養費の問題と,最近しばしば伝えられる結核療養所における空床を将来している療養経済の限界の問題がある。いつの時代においても患者達は日々の生の生活の中で,疾病と戦い,その多くは更に生活苦に追われ二重の責苦にあえいでいるのが実状である。即ち,結核はその患者の経済生活を破壊して一家の貧困の原因となり,その貧困は再び次の結核を誘発する悪循環をくり返しているのであつて,この悪循環を断ち,新しい結核の実態に立脚した対策を今こそ用意しなければならないのである。
 実態調査の結果によると,吾国には現在137万人の入院を要する結核患者がいると言われる。それに対する結核病床の数は僅かに20万床にすぎない。従つてこれら多くの結核患者の中にあつて,とも角も一度び入院生活を送り得た患者は,選ばれた人達であり,最も恵まれた療養生活をなし得たと言うことが出来る。しかしそれらの患者もこれをつぶさに観察し如何にして退院してゆき,退院後は何の様な生活を送つているかを見れば,ここでもきびしい吾国の国民生活の縮図を覗うことが出来る。

出生時体重別にみた乳兒の体重基準値について

著者: 山口健男

ページ範囲:P.49 - P.51

1.緒言
 近時,未熟児対策の問題が注目をあびているが,その発育過程を見て行く場合,機械的に従来の出生時体重を考慮しない発育基準値と対比することは,当を得たものと思われない。斎藤,辻氏1)2)は出生時体重が,その後の体重発育と極めて密接な関係にあり,その影響は幼児期のみならず,学童期にまで及んでいる事を観察している。私は保健所において,日常育児指導に当る場合,出生時体重を考慮に入れる必要性を痛感しているのであるが,この場合ただ勘に頼るのでなく客観的な出生時体重別発育基準値があれば,出生時体重の大なる者も小なる者も,夫々正当に判定され育児指導上有益と思われる。そこで一つの方法として私は出生時体重とその後の体重との相関係数を求める事により,出生時体重別の乳児体重発育基準値の作成を試みた。

鉤虫卵陽性率検査の為の被検者選出について

著者: 水野哲夫

ページ範囲:P.51 - P.54

緒言
 農村における鈎虫卵陽性率を検査する場合,その鈎虫卵陽性率を正確に知る為には全村民をすべて検便する事である。併しこの全村検便は多大の時間と労力と費用を要するから,数多くの農村の鈎虫卵院性率を検査する場合―例へばある県でその県内の鈎虫卵陽性率を推測したい場合等―には殆んど不可能になる。次に考えられる事はその村の全村民よりランダムに被検便者―標本―を抽出して検便する事であるが,この方法も農村の実情より推してランダムに―飛び飛びに―糞便を集める事は不可能ではないが困難である。柳沢等1)は農村の鈎虫卵陽性率が16-20才の年令階級の鈎虫卵陽性率とよく一致し,16-20才の年令層を検便する事によつて農村の鈎虫卵陽性率を推測し得るとした。併るに小宮等2)は鈎虫感染の濃厚地区では感染源が一般に濃厚に存在すると考えられるから,年少者層の鈎虫感染率と成年層の感染率との比が,鈎虫感染の稀薄な地区の両年令層の感染率の比よりも小さいのではないかと言つている。小宮山3)は小宮の推論に基いて川崎市登戸地区において上記の比率が農村部と市街地とでは差異があつたとしている。
 以上の様に鈎虫卵陽性率検査の為の被検者の選出に就いては種々議論されているが,要は比較的に容易に糞便を集め得て,しかもその結果集め得た標本内容が母集団の小模型となる様な標本であればいい訳である。

捕鼠(そ)器による倉庫内のねずみ驅除について

著者: 前田弘近 ,   玉ノ井恒 ,   小田武治 ,   溝口末吉

ページ範囲:P.54 - P.56

(1)まえおき
 外航船舶は国際衛生規則によつて,ペスト予防のためねずみ族の駆除を施行しているが,これら船舶と直接関係のある港湾地域の倉庫内のねずみ駆除を行つて,船舶内にねずみの侵襲を防止することは,海港検疫上重要なことである。関門港においても,従来から,倉庫内のねずみ駆除については,各倉庫業者が自主的に行つてはいたが,ただ思いつき程度に過ぎず,何ら計画的なものはないようであつた。昭和24年12月,時あたかも満鮮においてペスト流行のうわさもあり,検疫業務にたずさわる筆者らは,港湾地域の倉庫内におけるねずみ駆除について関心を持つていたので,門司市大里,日本製粉株式会社門司工場倉庫(以下日粉という)及び門司市西海岸通日本通運株式会社門司支店埠頭倉庫(以下日通という)において,倉庫内の捕そ器によるねずみ駆除について調査を行つた。調査期間が短く充分満足ではないが,一応の結果が得られたので,更にこれ以上続行しても,その意義はうすいと思われ,また諸種の事情があつて,一先づ中止し,その結果をまとめて報告することにした。

血液コリンエステラーゼの野外測定法—簡易測定第二報

著者: 椎木悌二 ,   大久保達雄 ,   上田一誠 ,   高橋浩

ページ範囲:P.57 - P.60

 Parathion中毒の診断に血液のCholinesterase(以下ChE)活度減弱の確認が有力な手段であることは周知の事実でありながら,その測定は広く普及しているとは言えない現状である。その大きい原因として測定法(1. 2. 3.)がかなりの装置および技術を要することが禍していると考え,その隘路を打開すべくさきに我々は特殊な装置を必要としない血清ChE測定法としてphenol-red-Comparator法(4)(こをれ第一法とする)を発表した。これは従来の方法に比較すれば確かに実施容易な方法であるが,なおピペツト,試験管,遠心沈澱器,恒温槽等の実験用器具を備えた所でなければ行い難い。
 故に第二法として第一法を簡易化し上記の実験用器具を一切使用することなく,野外のparathion撒布の現場においても容易に実施しうる血清ChE測定法を考案した。この方法の原理は,第一法と同様ChEがAcetylcholineを加水分解して醋酸を遊離しそのために降下した基質のPHをphenol redを指示薬として測定する方法であるが,必要試薬を予め乾燥封入しておいたAmpullにSahliピペツトより採血した血液を水と共にいれ,気温(室温)より計算された時間の経過後その色調をPH標準比色管と比較するという簡単なものである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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