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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生20巻5号

1956年11月発行

雑誌目次

特集 健康教育と公衆衞生教育 総説

衛生教育と公衆衛生

著者: 楠本正康

ページ範囲:P.1 - P.1

 "公衆衛生の向上を図るためには,民衆の理解と協力が必要である。民衆の理解と協力を得るためには,一にも二にも三にも衛生教育が重要である。衛生教育は公衆衛生の基盤としての重要性を持つている"とよくいわれる。
 公衆衛生従事者の立場から見た場合,この云い方に反対の人は,まずあるまい。だからこの云い方そのものについて問題はない。問題になるのは,それ以後の点である。つまり,民衆の理解と協力を得る衛生教育とは何か,どうすれば本当の理解と協力を得られるか,ということである。

民衆を行動にかりたてる動因

著者: 乾孝

ページ範囲:P.2 - P.8

 人間というものは奇妙な生物である。生物である限り,どんな下等なものでも,その生命を保つのに,何らかの意味で有効な行動以外はやらないのが普通なのに,人間の行動は,ただ「生きる」という限界をこえたものの方がむしろ大部分を占めているようにさえ思われる。だから,「生命」をもつて脅かしても必ずしもひとつの行動にかり立てうるとは限らない。
 恋愛のために心中するなどというのはその極端な例だ。生物学的にみれば子孫をふやすためにこそ惚れ込んだのであろうに,2人とも自分の生命まで絶つてしまうというのはどうしたことだろう。しかもそれが「流行」しさえするのである。

教育とコトバ

著者: 国分一太郎

ページ範囲:P.9 - P.16

I.はしがき
 戦後11年をへた今,わが国の初等・中等教育界では教科課程の再編成が問題となりつつある。そのなかで,国語科の時間数を増加しなければならないという声が,現場や民間教育研究団体の間にあがつている。これは戦後になつて,ほぼ4割5分も減らされたような国語の教授時間数では,国語そのものの力がつかないばかりか,他教科の学習,教科外活動の成功的な実施にも,さしつかえが生じているという事実に立つているのである。
 ところが,これに対して,一方では,それは教科セクト主義である,と批判し,「国語科でその時間数をふやせ」と要求するならば,同じ要求は他教科からも出るだろう,と言うものがいる。そして現に他の教科の専門研究団体等では文部省に対して,いちはやくその教科の時間数をふやせと陳情しているものもある始末だ。しかし,このことぐらい認識不足なことは,そうザラにはあるまいと,わたしには思われる。

地区衛生組織活動について

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.17 - P.22

1.古くて新しい地区衛生組織活動
 地区衛生組織活動を,一定の地域の住民がその衛生上の問題を解決するために行う組織的な活動という工合に,文字通り解釈すれば,これは古くて新しい公衆衛生活動のひとつの方式である。
 古いという意味は,かりに明治以後の伝染病予防の歴史を見てみると,明治12年にコレラの流行が東京から始まり,17年には関西へ,19年にはこれが全国的にひろがつて,19年だけで実に15万6千の患者と10万8千の死者を出したが,この頃"衛生会"あるいは"衛生組合"の名のもとに,町をあげてのコレラとの斗いが行われたという記録があるからである。しかもこれらの活動は,何も役所からの命令によつたものではなく,コレラの大流行を民衆自身なんとかしなければならないと立ち上つたのであつて,こういつたモデルがいくつかあつたために,後に役所から達しが出たり,衛生組合条例が作られたり,さらに明治30年になつて伝染病予防法の制定にあたり,衛生組合についての規定が設けられるようになつたからである。

衞生教育の媒体とその長短

著者: 佐藤恒信

ページ範囲:P.23 - P.28

 一般に通達(Communication)の手段(Channel)としての媒体(Media)には「言葉」すなわち言語的象徴もしくは言語的記号をも含めて考えている。
 アメリカに於ても,"教科課程の視覚化"Visualizing the Curriculumの提唱者であるホーバンHoban及び"視廳覚教授法"Audio-Visual Method in Teachingの著者デールDaleは,言語的手段を他の視聽覚的教具Audio Visual Aidsと並べ一つの媒体の段階として認めているのである。

衛生モデル地区の主婦たち—保健教育の媒体についての考察

著者: 小川一郎

ページ範囲:P.29 - P.32

(1)
 私の住んでいる部落(M市の西郊,農地にかこまれた住宅地,500戸)は,M市役所衛生課から衛生モデル地区の指定をうけ,全主婦たちの協力によつて,ハエと蚊を駆除する運動を続け,この九月に終了した。1ヶ月3回,衛生課員の指導の下に主婦たちは,スプレーを使つて,便所,ゴミ箱,水たまりなど害虫の発生する場所に駆除剤をまいた。
 毎月9の日が実施日ときめてあるので,その日が日曜日であると,私も,その作業に参加した。

学校健康教育の現状

著者: 下田巧

ページ範囲:P.33 - P.37

I.学校における健康教育の現状
 はじめに,学校健康教育の定義をしてかからないと論がまとまらないことになるが,この稿では,一応学校において学徒に対して,健康の保持増進,病気とその予防,安全というような事柄について,組織的系統的に学習をすることを学校健康教育と定めて,論をすすめることとする。
 このような学校健康教育は,戦前においては,衛生訓練ということばで,可成り熱心に全国の小学校において実施されていた。しかし,中学校以上の学校においては,積極的には取りあげられていなかつたようである。

学校健康教育の現状—その反省と批判

著者: 上庄洋

ページ範囲:P.38 - P.40

1.健康教育の占める位置
 厚生省の楠本氏によれば健康教育とは学校衛生教育のことであり,一般社会衛生教育に対する言葉であるといわれる。およそ公衆衛生思想の普及向上には,衛生教育が不可欠の手段であることは論をまたないが,その対象とするところを大きくわけると2つに分類することができる。その1つは一般社会人,例えば家庭の主婦,或は個人で農,工,商,業を営む人達がこの部類に属する。第二が会社,事業場,学校,其他之に類する施設等で,いわゆる一定の組織に属する人達。健康教育は,この第二分類中の学校における衛生教育をいうのであつて,対象は学童並びに生徒であることは,いうまでもない。

職場における衞生教育

著者: 戸田弘一

ページ範囲:P.41 - P.45

1.職場に於ける衛生教育は衛生管理の中核である
 衛生管理と云う言葉は労働基準法の施行と共につくられた言葉であり,読者の多くにはなじみのない言葉かと思われるので,簡単に説明を加えておこう。衛生管理とは事業場に働く従業員の健康に障害を与える如き諸々の事項を処理して従業員の健康を確保し,ひいてはその福祉に貢献すると共に,その結果として事業場の経営に好影響を与えるような一連の施策を行うことである。即ち衛生管理には2つの目的がある。一つは労働者の健康を保持し得るような対策をとり,疾病によつて起る不幸を回避出来るように努めることであり,他は企業経営の能率をよくするために労働力保全の意味で労働者の健康を保持するよう施策することである。このように表現すると全く相反した二つの目的があるようであるが,実は同じことを両面から見たに過ぎない。要は従業員の健康保持にあるのである。
 衛生管理者はこの目的のために種々の対策をとつている。作業環境を調査してその改善をはかると共に,差当りの対策として有害な作業場では保護具を支給してこれが使用をすすめている。結核発病を予防するために一連の対策を進めている。伝染病の集団発生を予防するために清掃清潔対策や予防接種等の対策を計画している。重大な結果を招く如き慢性進行性疾病の早期発見のために定期に健康診断を実施している。

職場における衞生教育

著者: 高師冏

ページ範囲:P.46 - P.50

まえがき
 私が,トンチ教室の生徒なら,「国鉄は職場のデパートである」と答える。
 2本のレールの続くところ,毎日1千万人のお客さんと,43万トンの貨物が運ばれている。あのおびただしい人の波の駅。臨時臨時で編成に追われる機関区,車掌区,電車区,客貨車区。旅客列車の合間をぬい,深夜も走る貨物列車。暑さ寒さにつけ又暴風雨の折は徹夜で,線路や電線の確保にいそしむ保線区,信号通信区。機関車や客車の修理がまにあわず,徹夜作業の工場。…など。こうして,44万人の職員は,全国数千箇所270の職種に分れて,昼夜働らいているからである。

統計の誤用

著者: 立川清

ページ範囲:P.51 - P.56

1.比較は似たもの同志で
(第1例)
 まず極端な例を挙げよう。いま男の致命率20%女の致命率40%という,女の致命率が高い疾病があるとする。この疾病の新治療法が有効かどうかを見るために,男80人,女40人,計120人の群について実験した。対照として男30人,女60人,計90人の群を使い,実験群の死亡者は32人,対照群の死亡者は30人だったとする。実験群の致命率は26.7%(【32/120】×100),対照群の致命率は33.3%(【30/90】×100)で,実験群の致命率の方が低いように見える(第1表)。すなわち新治療法は有効のように見える。果してこの判断は正しいだろうか。
 男女を別々にして比較すると,第1表のように,実験群も対照群も男の致命率は共に20%,女の致命率は共に40%であって,実験群と対照群との間には差はない。ただ実験群には致命率の低い男が多く含まれ,対照群には致命率の高い女が多く含まれていたために,男女を合計すると実験群の致命率が対照群よりも低いように見えるに過ぎない。男女によって致命率に大差があるというときは,男は男同志,女は女同志で比較をすればよい。または実験群と対照群の男女の割合を一定にしておけばよい。比較はいつも似たもの同志でしなければならない。こんなバカげた誤ちをする人はいるはずがないと思うかも知れないが,必ずしもそうではない。

座談会

保健所と衛生教育

著者: 林秀 ,   佐々木忠正 ,   宮坂忠夫 ,   岡田貫一 ,   豊川行平 ,   山口与四郎 ,   石垣純二

ページ範囲:P.57 - P.72

組織と母親の問題
 石垣  川崎は昔から非常に衛生教育に熱心で,保健婦の活動も全国的に調べている保健所ですが,この頃はどうですか。
 佐々木  そうですね,管内の人口がむやみに増加して,以前のやり方ですと非常にオーバーワークになるので,一時はちよつと気分的にも沈滞しましたが,また大分保健婦なんかも奮起して,新しい気持で一生懸命やつております。

集会の技術—衞生教育のための

著者: 石垣純二

ページ範囲:P.73 - P.77

おことわり(慢性前置病の症状)
 「衛生教育のための集会」と一口に言つても,千差万別である。衛生管理者を集めての打合せ会もあろうし,一般の主婦を集めての育児講演会もある。農協婦人部幹部のための講習会もある。こうした集会のすべてについて,いちいち技術的な注意をまとめてみるスペイスは無い。そこで一おう衛生教育的な一般人向きの講演会を中心に,集会を成功させる原則や工夫を整理してみよう,そうすれば他の集会についても,かなり共通性もあるだろうし,応用が利くはずだという予想で本稿をまとめてみた。もちろんがつちりしたテキストがころがつているわけでもなく,自分の体験を中心にいろいろと考えをとりまとめてみただけであるので,体系的でない憾みは強い。読者がそれぞれ御自分の御体験によつて修正し加除して下さらんことを希望する。前置病の発作は以上でオシマイ。

私の衛生教育時代

著者: 加藤光徳

ページ範囲:P.78 - P.79

 私の衛生教育時代という題で何か書くようにとの依頼があつたのであるが,如何にも古い時代の思い出を書かされる感である。しかし私が衛生教育に興味を持ち出したのは僅か6年前のことであり,しかも地方において公衆衛生の実務にたずさわつている間に感じたことどもを衛生教育的に考えることを続けていたに過ぎない。従つて私の衛生教育時代というような長い経験のものではなく衛生教育については少しの経験しか持つていないというべきであろう。ただ,この短かい期間において衛生教育が行政と如何に結びつかなければならないかを考えたことは多少とも意義のあつたことと思われる。
 1949年頃までの衛生教育は衛生教育担当者のみが考えた衛生教育であつて公衆衛生全般への響をもたなかつたし,衛生教育実施の上に一つの行きづまりを感じさせられるものがあつたようである。従つて衛生教育について興味もおこらなかつたし,単に係員に任せておいただけであつた。

原著

原水爆影響調査船俊鶻丸の調査結果について

著者: 浦久保五郎

ページ範囲:P.80 - P.87

 南太平洋における米国の原水爆実験は本年にも計画され,5月5日に最初の一発が実施されたのを皮切りに次々と推定10回行われ去る7月下旬遂に終止が報ぜられた。一昨年の第五福龍丸の事件以来我国民の得た前代未聞の経験や心配が結集して本年もまた南洋調査船が計画され,一昨年使われたと同じ俊鶻丸がまた21名の若い科学者を乗せて出航し約40日間にわたる調査を終えて帰つて来た。筆者も再びこの調査団に加わり一昨年とは異つた新しい見聞をもつて今さらのように原水爆の脅威を感じたのであるが,以下にその興味ある部分を味簡単に紹介したいと思う。ここであらかじめ断つておきたいのは本年の実験はマーシヤル群島のビキニおよびエニウエトツク環礁で行われたが,最初の1回目が5月5日,2回目が21日といづれも公表され,俊鶻丸の出航は26日であつたので調査航海中いつ3回目の実験が実施されるかわからないという状況であつた。そして丁度われわれがビキニの西方に近づいた時その第3回目が行われていたということがわかつたが,そのあと続いて実験は行われたのでわれわれは実験中に行つて調査をしたということすなわち俊鶻丸の調査結果はあくまでも実験中のものでしかも10回やつたうちわずか2回の後に得られたデータであるということになる。

浮浪者と富裕者の寄生虫検査

著者: 問川迪典 ,   一ノ瀬永吉 ,   阿部道夫

ページ範囲:P.88 - P.90

 各種寄生虫の寄生率が生活状態の高低によつて異るであろうことは当然想像される所である。我々は茲に甚しく生活状態の異る二つのグループについて検便を行い各種寄生虫の寄生率を調査した。その一つは東京都内各地に散在する浮浪者であり,他は所謂人間ドックに收容された人々で,一般の生活よりも甚しくゼイタクな生活を営んでいる階級である。これら2群における寄生虫の種類および寄生率について比較を試みた。

保健所に於ける肢体不自由兒療育相談状況—附先天性股関節脱臼の早期治療

著者: 野島元雄

ページ範囲:P.91 - P.93

緒論
 先天性股関節脱臼,脊髄性及び脳性小児麻痺等を主とする肢体不自由児の療育については,児童福祉法(昭和22年)により,各都道府県に療育指定保健所が設置され,専門医により専門的見地より療育相談が行われ成果を挙げている。
 私は昭和27年以来石川県における指定保健所たる小松保健所において,療育相談嘱託医として指尊を行つて来た。開設後年月の経過と共に受診者も増加し,最近世人の関心も高まつて来た。昭和30年1月より12月に至る1ヵ年間の利用受診状況,また特に先天性股関節脱臼(以下先股脱と略す)の早期発見早期療法の成果について併せ報告する。なお同所にては成人の身体障碍者の療育相談にも応じているので肢体不自由児療育相談対照を0〜15才までのものとして調査した。当保健所管内は小松市を中心とし,熊美郡を含み,白山連峯山間部,日本海沿岸域に渉る地域であり人口数は約12万である。

水痘,麻疹の集団内同時流行例

著者: 今井清

ページ範囲:P.93 - P.96

 集団内に二つの伝染性疾患が流行した場合どの様な罹患率を示し互いに影響し合うものであろうか。偶々昭和28年春東京に麻疹の流行があつた際,住宅地である杉並区内の幼稚園に水痘,麻疹の同時流行がみられた。

鉤虫驅除に対するオーミンとテトレンの効果比較について

著者: 村上賢三 ,   立村森男

ページ範囲:P.96 - P.99

1.緒言
 我が国における寄生虫保有率は,今なお全国的に高率を示し,寄生虫対策は国民保健上重要な問題である。我々の居住する石川県下においても,寄生虫卵保有率は市部において大体10〜20%,郡部において30〜90%の高率を示し,殊に奥能登においては70〜90%の所が多い状態である1)
 我々は昭和28,29両年に石川県下の一農村の一斉検便と駆虫を行う機会を得たので,その虫卵保有率と鉤虫駆除に対するオーミンとテトレンの効果比較の成績について報告する。ここに報告するのは昭和29年のみについてである。

鷄卵と細菌について—特に細菌の卵菌の卵殼通過について

著者: 中西恭生

ページ範囲:P.99 - P.103

I.緒言
 我々は一般に卵を栄養食品として食しておるが病鳥殊に産卵器に病変のある鳥の卵や,常に不潔な所に棲む鳥はその産道が細菌に依つて汚染され卵の形成の中途に於て既に細菌が侵入し,産卵後これが為めに卵の腐敗或は細菌による食中毒の原因となる例は少なくない。
 新鮮鶏卵内の保菌状態即ち保菌率は,養鶏講義等によるとハードレー等は252個中50例,約20%,本邦では225個中46個,20.4%という,又鶏卵内の細菌による汚染は卵の形成途中に侵入したものばかりでなく卵殼に附着した細菌が卵殼を通過する事によつても汚染されるという事も考えられるが,之に関した文献は少なく且其の結果は区々である。即ちWilm(1895)は実験的にコレラ菌の外大腸菌及び種々の水中菌も卵殼を通過し其の際細菌の運動の速度及び菌体の大さが関係すると言い,又Golowkow(1896)はコレラ菌は卵殼を通過するとし,Maurer(1912)は鶏卵内容に大腸菌を1例だも証明し得なかつたし,又大腸菌は実験的にも卵殼を通過し得ずと述べ,梶原(1922)は大腸菌,パラチフス菌は卵殼に単に塗布しても通過せずという。

製鋼工業從業員の眼疾調査報告

著者: 細川昌義

ページ範囲:P.103 - P.106

Ⅰ.緒言
 高熱処理の作業を主とする製鋼業においては,眼の占めるその作業能率との関係及び職業的疾患,例えば短波光線による外眼部の損傷,長波光線による水晶体や網膜等の障碍及び異物飛入に際する角膜,結膜の損傷ならびにそれにより起る二次的感染等の問題や,色神異常を有する者の職場適性配置の問題など極めて重大である。
 従つて,眼科的立場から工場作業の能率を高めかつ従業員の安全を保護し,その作業中の危険を未然に防止する対策を考慮せねばならない。

昭和22年以降検出せる30例の縮小条虫について

著者: 丸田喜造 ,   三原庸太郎 ,   武川藤吉郎

ページ範囲:P.107 - P.108

まえがき
 縮小条虫は終戦頃迄は極めて稀にしか人体感染しないものと考えられていた。終戦後はその理由は正確には分らないが,各地で発見され,特に稀なものではなくなつた。本教室に於ても昭和22年以降25年まで4例検出し既に発表1)したが,その後昭和26年より30年12月まで検便総数約4万名中26例の本虫卵を検出した。以上30例の大部分は最短3日,最長4カ月の間隔をおいて2回以上検便し確認したものである。検便範囲は東京都,神奈川県,千葉県,茨城県,富山県,検査法は大部分食塩硫苦浮游法である。

放射性同位元素P32を用いたコガタアカイエカの飛翔距離測定実験

著者: 北岡正見 ,   徐慶一郎 ,   緒方隆幸 ,   児玉威 ,   原田文雄 ,   石井襄二 ,   時任直人 ,   田中徹 ,   杉山貞一 ,   小林和夫

ページ範囲:P.109 - P.115

まえがき
 日本脳炎が蚊によつて伝播されることは今更申すまでもない。本病の予防対策を感染径路,特に蚊について論ずるには,今日媒介者であることの確証の挙げられているコガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)の飛翔距離を知ることが重要なことであるにも不拘,未だに測定されていない。そもそも蚊の飛翔距離を測定するのに色々の方法が報告されているが,種々の色素で着色した成虫を放つてその地点とその蚊を再び採集した地点との距離を測る方法(Zetek 1913)1,2)が古くから用いられていた。それにはオレンヂG,エオジン,フクシン,ゲンチアナヴイオレット,メチレンブルー等の色素が用いられたが,ある色素は或種の蚊に有害であつたり,染色中に蚊が活性を失つたり,更に着色の持続性が不十分であつたりして,種々の困難が伴つていた。近年に至り,Hassett & Jenkin等(1949)3)が放射性同位元素を使用し,蚊体に何等悪影響を与えることなく放射能帯荷の成虫蚊を作ることに成功してから,放射性同位元素で標示された蚊で野外の飛翔距離を測定する実験が行われるようになつたJenkin等(1950)4),Thurman等(1950)5),Quarterman等(1955)6),更に蚊のみならず蠅Lindguist(1951)7),ダニその他の昆虫8)にもこの方法が応用され興味ある結果が報告されている。

便所ハンドルその他の汚染について

著者: 野田正男 ,   福田諄

ページ範囲:P.116 - P.118

 日常何気なく触れているドアーのハンドル,手すりなど諸物件の,し尿性汚染の事実を知ることは,消化器系伝染病などのまん延の可能性を知り,手洗いの重要性を説くうえに,公衆衛生上,意義と興味深いことで,吉田氏など2)3)4)の報告もあるが,われわれは,被検場所に更に学校その他を加え,汚染の程度を検査したので報告する。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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