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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生21巻11号

1957年11月発行

雑誌目次

綜説

世界の社会保障制度

著者: 館林宣夫

ページ範囲:P.1 - P.4

1.社会保障の定義
 社会保障ということばが始めて用いられたのは比較的近年のことである。即ちアメリカにおいて,ルーズベルトがニユーデイール政策をおしすすめようとしていた1932年のことである。然しこの言葉の生れたアメリカは,今日社会保障と云われている制度に関してはむしろ発達の遅れている国であつて,イギリスでは1601年に既に生活保護法に類するものがあり,ドイツでは1883年に健康保険法が生れている。これ等の国では何百年,何十年の歴史の後に今日の制度の発達をみているのであつて,社会保障制度は決して1932年にこの言葉が世の中に出現してから生長したものではない。
 そのように古い歴史を持つ国々に比べると我が国の健康保険の歴史はやつと30年,生活保護法や厚生年金法が制定せられてから僅か十年乃至十数年にすぎない。我が国の疾病保険の制度は近く,国民皆保険に到達しようとしており,一応の目標も定まり,制度としても雑然としてはいるが,内容は相当充実したものと云い得るものとなつているが,社会保障の二大支柱の一つである老令年金制度については法律こそあるが内容が極めて貧弱なものであり,又国民の一部について制定せられているに過ぎないので我が国の社会保障制度は疾病保障に傾斜した不均等な状態にあると云い得る。

オウム病

著者: 松本稔

ページ範囲:P.5 - P.12

 オウム病は外国の病気だ,とついこの間までいわれたものである。われわれもそれにさして疑をもたなかつた。しかし今にして思えば,これは少々うかつだつた。というのは,第一に,オウム病は世界中にひろく分布していることから考えて,日本は例外,と思う前に,むしろ日本にもありはしないか,と考えるべきではなかつたろうか。オウム病は元来トリの病気であつて,トリからトリに容易に伝播する。また日本にはオウム病に高い感受性をもつたトリ,たとえばオウム,インコの類その他のトリがかなり多く飼われているばかりでなく,オウム病の分布しているとされている諸外国との間にこれらのトリの移動がかなりひろく行われている。しかも感染したトリの多くは,一見健康にみえる慢性のウイルス・キヤリアーとなり,これが重要な感染源となる。これらの事実は,日本にもオウム病はあるであろう,との推定をむしろ強めるものである。
 これはさておき,最近日本でもこの病気がかなりひろく分布していることが明らかにされた。この発見のいとぐちとなつたのは,大森,石井,松本1)等その他の,オウム病ウイルスにごく近縁のウイルスによる,ウシ,ヤギなどの家畜の病気の研究にあつた(Matumoto et al2)をみよ)。

医学生のMedico-social Trainingについて

著者: 東京大学医学部公衆衛生学教室

ページ範囲:P.15 - P.18

 東京大学医学部においては医療保障制度の講議に附随して学生に社会的に問題を有する患者についてのケースワークを課している。このようなケースワークは英米の医科大学においては一般に行われ,社会医学や公衆衛生の教育に顕著な効果を挙げているのであるが,わが国ではあまり一般的でない。
 わが国の医学はドイツの流れをくむもので,いわゆる生物学的医学の面では優れているが,患者の社会的環境に眼を転ずることが少いため,医学的興味からのみ診療が行われ,患者の福祉は往々にして第二義的になつてしまう傾向が少くない。これはわが国の医学教育の欠陥にその源を求めることができるのであつて,学生時代から患者を社会生活を営む人間として理解する訓練に欠けているためであると思われる。

原著

九州,北海道等の炭鉱從業員寄生虫相の比較研究—第1報.長距離輸送材料による塗沫,浮游培養検便の併用法について/九州,北海道等の炭鉱從業員寄生虫相の比較研究—第2報.地域別の寄生虫相の差異について

著者: 佐々学 ,   林滋生 ,   田中寛 ,   佐藤孝慈 ,   三浦昭子 ,   若杉幹太郎 ,   白坂龍曠 ,   高田敦徳 ,   徳力久二郎 ,   仲村英一 ,   永野柾巨

ページ範囲:P.19 - P.27

 炭鉱労務者は日本はもとより,欧米各国においても寄生虫,とくに鉤虫類の寄生が著しいことで注目されているが,我々は三菱鉱業健康保険組員約3万人の寄生虫検診の依頼をうけたので,この調査研究を開始した。その結果,各地における寄生虫相の特徴を新につかみえたのみならず,塗沫,浮游,培養の3法を併用することにより単独法に比して糞便内の諸種寄生虫がはるかに高率に検出され,今後このような集団検診にあたつて医師,衛生技術者の方々に広く採用されるべきであると感じたので,ここにまず我々の行つた術式を紹介し,批判を仰ぎたいと考えた。
 三菱鉱業株式会社の炭鉱及び事務所は北海道(美唄,大夕張,芦別,茶志内など),東北(山形県油戸),北九州(飯塚,鯰田,上山田,新入,勝田,古賀山,方城など),九州の離島(崎戸,高島,端島),大都市(東京,札幌,福岡など)など我国の代表的な地域に分散し,これらの従業員が大部分一地区に定住して異つた自然環境のもとに生活し,しかも殆んど同一規準の給与のもとに同似の作業に従事しているので,日本における寄生虫相の地理的,環境的な差異を比較するには絶好の研究材料であると考えた。

水俣奇病に関する研究(1)—浚泄汚泥とイリコの毒性について

著者: 佐藤徳郎 ,   福山富太郎 ,   鈴木妙子 ,   松浦富久江 ,   山田美恵子 ,   内田信之 ,   伊藤蓮雄

ページ範囲:P.28 - P.30

 昭和31年4月頃から熊本県水俣市海岸に錐体外路性症状,小脳症状,神精症状等の中枢神経系症状を主として訴える奇病の存在することが,新日本窒素肥料会社附属病院の細川博士により気づかれ,しかもすでに過去数年間にも発生していることが,同博士の手により,水俣市医師会の協力のもとに明かにされた。
 31年末までに患者54名,死者17名に達しているが,最近約10名の患者が以前から発症していることが明かにされている。

肝硬変訂正死亡率の県別観察

著者: 柚木角正

ページ範囲:P.31 - P.36

1.緒言
 昭和31年の死亡統計によれば此の年肝硬変による死亡は男女合計8,307名を数え,死因順位の第15位に位し,全死亡の1.1%を占めている。渡辺1)によれば我国の肝硬変訂正死亡率は10カ国中,男ではフランス・米国白人,女ではフランスを除く他の国よりも高率である。
 森末2)の県別粗死亡率計算によればわが国に於ける肝硬変の死亡は男女ともに,九州・中国・四国地方に高率県が集中し,関東・東北地方に低率県が集中している。しかし此の計算は各県人口の年令別構成の差に特に留意していない。

乳房及び乳嘴の形態について

著者: 佐藤千春

ページ範囲:P.37 - P.37

1.はじめに
 当地方農村地帯の乳児の栄養方式は,母乳栄養が多く,その頻度を見ても,母乳89.1%混合9.2%人工1,6%(6カ月未満)となつている。1)これは必ずしも母乳の満足な分秘量を示すのではない。母乳不足にも拘らず,無頓着に授乳を継続しているのであり,それは検診によつて乳児の発育を見ればよく判る。
 これ等母乳不足の原因は,母親の体質上から分秘量の過少な者も少くない。然し一方,本来分秘量が多いにも拘らず,乳房又は乳嘴の畸形のため,即ち乳嘴が過大,又は過小のために,乳児初期の乳汁吸啜に障碍を与え,又炎症を起した側の乳房の断乳,時には又,授乳初期に於て分泌量過多のため,一側の乳房のみ偏用して,所謂廃用性萎縮を来し,乳児の発育と共に,乳汁の不足を来すものが少くないのである。筆者はこの点について検診時いつも痛感したので,昭和30年9月〜10月群馬県安中保健所管内の乳幼児検診に際して,その母親の乳房,乳嘴を観察して,下記の如き成績を得た。

6×6判フイルムによる先天股脱の判定基準について

著者: 水野宏 ,   鈴木シゲ

ページ範囲:P.38 - P.44

1.はしがき
 間接撮影によつて先天性股関節脱臼の集団検診を行うことは我国独自の方法であるが,これは昭和23年著者の一人水野によつて創始されたものである。水野は,はじめ35mm判間接撮影フイルムを用い,これによつても先天股脱の診断は充分可能である事を認めたが,昭和25年以降6×6判フイルムを愛用し,この方法によれば股関節各部の計測を行つた場合も,直接撮影によるものに比し,その信頼性においてさして劣るものでなく診断上殆んど不便を感ぜぬ事を知つた1)2)
 最近水野にならつて乳児検診に股関節レ線間接撮影を実施するものが多くなつたことは,3)4)5)この方法によつて先天股脱の早期発見,早期治療の完全実施が可能になるという点でまことによろこばしい事といわなければならない。

乳幼兒アメーバ赤痢の流行例と二三の実験観察

著者: 岩井澄雄 ,   帖佐博 ,   辻昭二 ,   福原文明 ,   赤松高之 ,   古本浩

ページ範囲:P.45 - P.51

 アメーバ赤痢の病原体である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の分布は広く全世界に及んでおり,我国に於ては戦前は一般健康人に5%内外の感染率であつたが,戦後は海外からの帰還者が多数に感染していたためと,一般の生活状況の悪化のために現在は10%内外とされている(松林,昭和30年)。又病原性の点からも国外株は国内株に比して強いと云われる(Okamoto,1953)。
 一般にアメーバ赤痢は成人に比して小児では少い様であり,Musserはアメーバ症は大人の病気であると云つており,Craig(1944)は感染率について小児は大人より一般に少いが,之は感染の機会が少いからで,育児院,孤児院の様な感染の機会の多い所では高率であるが,アメーバ赤痢は少くとも温帯では小児では非常に稀であると云つている。

座談会

保健所の在り方を語る(2)

著者: 橋本道夫 ,   大橋誠 ,   箕輪真一 ,   江崎広次 ,   鎌田昭二郎 ,   前田和爾 ,   小西恵美子 ,   石垣純二

ページ範囲:P.52 - P.58

 10月号では公衆衛生院医学科コースの学生が見た現在の保健所の長所,短所をあげ,今後の方向にも一部ふれました。今月は再び,開業医をいかに公衆衛生の陣営にひい入れるかの対論に入りますが,興味ある問題だけにカツトせずにのせました。

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WHOニユース

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.59 - P.61

ソ連WHOに帰る
 ソ連USSRは,第二世界大戦の後,保健,衛生に関する国際協力を担当する国連の専門機関としてWHOが創設される際,積極的にこれに参画し,1948年3月に正式加盟国となつたのである。その後WHOの運営につき飽きたらないものがあつたらしく,1949年2月以来,WHO関係諸会議に参加せず,分担金の支払も行わなかつた。WHO総会は,あえてこれを加盟国名簿から除かず当分の間非活動加入国Inactive memberとして,他日の復帰を期待することとした。
 保健,衛生上の国際協力には,イデオロギーの相違など問題にならないし,真の技術的提携がなければ,充分な成果も挙がらないので,加盟各国から切なる希望もあり,1956年の銘9回世界保建会議の決議によつて非活動期間の分担金の処理方針も見当がついたので,いよいよソ連邦は再びWHOの正式メンバーとして,復帰するに到つた。

統計のページ

最近における実態調査のあらまし(2)

著者: 前田正久

ページ範囲:P.62 - P.66

 前号に紹介した厚生行政基礎調査は,その目的の第一にかかげられているように当該年度における重点的施策や近い将来問題となるであろう重要施策に即応して,毎年いくつかの調査事項がさし替えられつつ実施されてきた。
 それらのすべてを紹介するには紙数に限りがあるので,公衆衛生の分野に関係のあると思われるものをいくつか抜すいして紹介をするにとどめる。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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