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公衆衛生21巻12号

1957年12月発行

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特集 インフルエンザ 口絵

インフルエンザ流行の地図

ページ範囲:P.1 - P.2

Aアジア57型ウイルスによるインフルエンザの世界的流行状況

綜説

Aアジア57型ウイルスによるインフルエンザの世界的流行状況

著者: 松田心一

ページ範囲:P.3 - P.12

緒言
 今春わが国の全土にわたつて猖獗を極めたインフルエンザ・ウイルス(以下イ・ウと称する)A型の一変異型,すなわちA東京57型ウイルスによるインフルエンザの大流行は,およそ5月初めから8月初めに亘つて,少くとも全国民100万人以上をおかしたが,本ウイルスは単にわが国だけでなく,ひろくアジア各国に侵入して,同様の大流行をおこし,更に次々と他の大陸にも波及蔓延して,近来稀に見る汎流行の様相を呈するに至つたことは周知のとおりである。このA型変異ウイルスは各地で相次いで分離され,A香港57型,Aシンガポール57型等と呼称されたが,結局血清学的には同一のものと固定せられて,現在は一般にAアジア57型と称されている。
 この春の流行が極めて激烈であつただけに,各国とも,今冬期における本ウイルスによる新な流行の再燃を最も警戒し,かつおそれているわけである。幸い今度のインフルエンザの臨床症状は極く軽症で,死者も少いことが,比較的安心できる点であるが,それでもなお冬期にむかつて,その毒性が高まり,合併症を伴い,症状の悪化することが危惧される。このことは過去に起つたいくつかの汎流行について見てもわかることである。

日本に於けるインフルエンザ流行の趨勢と対策—Ⅰ.全国的な趨勢と対策

著者: 佐竹繁男

ページ範囲:P.13 - P.18

 最近における我が国の全国的なインフルエンザの流行としては,昭和25〜26年(1950〜51)の冬のインフルエンザA型,昭和27〜28年(1952〜53)の冬のA型,昭和29年(1954)の1月から6月にかけて全国に散在的たおこつたB型,昭和30年(1955)の1月から4月のA型とB型の混合流行,さらに昭和31年(1956)の10月下旬から翌昭和32年1月にわたるA型・B型の交錯した流行がみられたものであるが,この僅か5カ月後の昭和32年(1957)5月下旬にいたつて,ふたたび近年にない大規模な全国的な流行をみたことは記憶に新しいところである。
 すなわち,A東京57型(Aアジア57型)と称せられる新変異型ウイルスによるインフルエンザ対策の上に大きな飛躍をもたらした流行であつた。

日本に於けるインフルエンザ流行の趨勢と対策—Ⅱ.東京都の状況

著者: 山口与四郎

ページ範囲:P.19 - P.24

 インフルエンザ(以下イ.と略す)流行が病原学的裏付けをもつて公衆衛生対策にとりあげられるようになつたのは,第二次大戦後の近々10年足らずの間であるが,本病がもつ強烈な伝播力の故に一たび流行の様相を呈してくると,多かれ少なかれさまざまの社会問題を伴うのが通例である。しかもこれに対する抜本的対策の困難性から流行防遏上の予防効果を期待し得る範囲は極度に限定されている。それらの諸問題に関する疫学的,臨床学的ないしは病原学的研究分野の詳細は他の執筆者にまつこととして,ここには本年の流行を中心として東京地方における最近の趨勢とこれが対策の実状を述べて参考に供したい。

日本に於けるインフルエンザ流行の趨勢と対策—Ⅲ.神奈川縣の状況

著者: 時任直人

ページ範囲:P.25 - P.31

緒言
 1957年春以来,東南アジアに流行を見たインフルエンザ(以下「イ」)は,その病原体が我々の未だ侵襲を受けたことがない新型ウイルスであつたため,文字どおり日本を席捲した。神奈川県もその例にもれず,空前の大流行を見,川崎市,横須賀市の資料から推定して全人口の凡そ40%,約117万人が罹患した。感染処女地における「イ」流行の疫学現象は我々に種々の事実を実地に教えて呉れた。これについて,その把握が比較的容易で且つ正確な集団である学校の流行の様相を観察し考察して見たい。

最近の流行に於けるインフルエンザの臨床

著者: 佐野一郎

ページ範囲:P.32 - P.36

 5月上旬から京浜及び阪神の両大都市地域に始まり日本全土に蔓延したインフルエンザは,8月に入り一応終熄したが,その病原ウイルスA東京57は全くの新株であるので,今後の流行に対処する資料を得るために,伝染病調査会では詳細な調査を行つているが,私共も臨床面を担当して協力することになつた。たまたま6月下旬に私の病院の看護婦生徒間にA東京57が集団発生したのでその所見を記し,つぎに続発性肺炎で入院した患者の臨床症状を記して御参考に供し度いと思う。

最近のインフルエンザの病原学

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.37 - P.41

インフルエンザ及びその類似ウイルスの分類
 インフルエンザ・ウイルス及びそれに類似のウイルスとしては前によくMNIウイルス群1)と言う呼称が用いられた。Mumps,Newcastle病,Influenzaの頭文字を集めたものであつて,この3つの病気の病原ウイルスが類似の性質を持つているが故にウイルス群としてその名を与えられたのである。この群のウイルスはいずれもある種の動物の赤血球を凝集すると言う性質を持つている。勿論赤血球凝集能力と言う性質はこの群以外のウイルスでもこれを持つているものがある。例えば痘瘡ウイルス群のものもそうであるし,その他日本脳炎ウイルス,デング熱ウイルス,Theilerの向神経性ウイルス等いろいろあるが,MNIウイルス群のウイルスの赤血球凝集に関する性質は特別のものである。
 一般にウイルスの赤血球凝集作用は,ウイルス(あるいはウイルス感染に由来する凝集素)が赤血球に吸着することによつて起る赤血球表面の電荷勾配の変動によるものであるが,MNI群ウイルスの場合には赤血球に吸着されたウイルスはその吸着した赤血球表面の部分(この部分を構成するものをreceptor,即ち接受体と言うが)に一種の酵素作用を及ぼし,それを破壊してしまう。随つてウイルスを吸着して後ウイルスの接受体破壊作用によつて接受体が破壊されて再びウイルスの解離された後の赤血球はもはやウイルスによる赤血球凝集作用を受けない。

疫学の立場からみたインフルエンザ対策

著者: 平山雄

ページ範囲:P.42 - P.48

1.緒言
 インフルエンザ対策は各所で活溌に論議されているが,最も賢明な対策のあり方について,学者の意見は必ずしも一致していない。
 凡そ,伝染病の予防対策を考えるに当つてある者は過去の防疫記録或いは経験から,ある者は現実の社会情勢から,ある者は純理論的に伝染機序から論議している。正しくはそれらすべてを考慮して考究すべきである。既往の大流行に際して取られた予防手段が殆んど完全な失敗に終つたことから,根底から悲観論を唱える学者も少くない。疫学のいくつかの教科書を開いてみても,その大部分は「重症化予防」に重点をおくべしとしており,流行の発生及び蔓延の阻止については,きわめて懐疑的である。例えばA.D.Langmuir1)の記述をMaxcyのPreventive medicin(Hygiene)から拾つてみよう。

対談

インフルエンザを語る

著者: 小島三郎 ,   曾田長宗

ページ範囲:P.49 - P.57

 「秋もインフルエンザは流行するか」春以来何回か,繰り返えされた質問であつたが,予想された如く,今秋も,流行は各地に蔓延し,すでに多くの学校が閉鎖している状態である。この流行の病原体はどこから来たのか。世界の状勢はどうか,春の流行の対策は妥当であつたか――インフルエンザ流行のすべてについて語つていただこう。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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