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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生21巻2号

1957年02月発行

雑誌目次

特集 公衆衞生とノイローゼ 綜説

ノイローゼとは

著者: 塩入円祐

ページ範囲:P.1 - P.10

はしがき
 「ノイローゼとは何か」という設問に答えるに当つて,その原因,症状を述べる前に,一体ノイローゼなるものが疾病と云われるべきかどうか,を吟味する必要があるだろう。なぜならばこれは器質的変化を持つ所謂疾病ではないからである。
 ある神経系なり器官なりに炎症や変性乃至は機械的損傷があつて,その神経系や器官が働かなくなるとすれば,これは疾病ということが出来る。かりにそのような器質的変化がなくとも,その変化を予想させるような症状があれば未だ疾病と云つてよい。例えば震顫麻痺が1817年にパーキンソンParkinsonによつて記載された頃にはどこにも器質的変化は見出されず,ノイローゼと同様な機能的疾患とされていた。脳炎,進行麻痺,脊髄癆,舞踏病などさえも始めはノイローゼの中に包含されていたことを思うと,今更乍ら医学の進歩の道程に感慨を覚えずには居られないだろう。このようにしてノイローゼの中から次々と器質的疾患が取出され,除かれて行つて,最後にノイローゼとして残つているもの,それが今日流行になつている所のものであり,今ここで取上げようとしているのである。

小兒のノイローゼ

著者: 高木四郎

ページ範囲:P.12 - P.16

I.まえがき
 思春期以前の小児にはノイローゼはまれなものであると一般に考えられている。しかし,実際には小児にも,ノイローゼ,あるいはこれと近縁の状態はさほど,珍しくはないといつてよい。筆者の経験によつても,成人に比較すれば,もちろん少いけれども,まれというほど少いとは考えられない。小児にノイローゼが珍しいと考えられているのは,従来,精神科医が小児(精神薄弱児やテンカン児は別として)に接する機会が少かつたこと,平素小児を扱つている小児科医その他に精神医学的素養が乏しかつたことによるのではあるまいかと思われる。児童精神医学がもつと発達して,精神科医が小児に接するようになり,また小児科医・保健所員等,小児を扱う人たちがこの問題に関心を抱くようになれば,小児のノイローゼはもつともつと多く見出されるであろうと想像される。
 小児のノイローゼが取上げられることが少かつたのは,一つにはそれが成人のノイローゼに比べて特殊性を持ち,訴えや病像に異る点が多いためと思われる。小児はその精神が未発達,未分化であるために,成人のように自己の精神状態を内省し,これを言語的に発表し訴えることができない。いわんや,成人のごとく,みずから医師を訪れるなどということはない。訴えの内容からいうと,身体的な訴えが多く,そのため,しばしば身体疾患と誤診される。

精神身体医学の限界

著者: 阿部正

ページ範囲:P.17 - P.22

1.前おき
 精神身体医学の限界と云うのが,私に与えられたテーマであるが,精神身体医学は,最近急速に発達しつつある医学の分野である為に,その発達の途上において,その限界を論ずる事は,極めて困難な事である。
 現在の状態を唯述べるのみでは意味がなく,今後の発展の先を見通して論じなければならない。そこで勢い精神身体医学の理論的考察にならざるを得ない。

育兒に関するノイローゼ

著者: 斎藤文雄

ページ範囲:P.23 - P.26

1.何が原因か
 育児ということは元来楽しかるべき性質のものであり,家庭内に小さな子がひとりでもおれば,その家庭の中心はその子だといつても差支えないくらいで,現に子供がひとり生れると,両親はその日から「あなた」でもなければ「○○子」でもない。お互いがお互いをお父さんと呼び,お母さんと呼ぶ。両親の親は忽ちお爺さん,お婆さんと呼ばれる。即ち呼び名からして子供中心の呼び名が通用するようになるくらい,子供は家庭の花形であり団欒の中心である。わけても母親にとつてはどれだけ子供によつて人生の生きがいを感ずるか判らない。ところが近年わけてもここ4〜5年来のことといつてよいが子供を育てることに不安焦燥を示す母親が少なくない。原因は何か。これは簡単ではないようである。母親によつては子供が自分の思う通り伸びてくれないということがノイローゼを起す原因になる。たとえば子供の発育は決してみんな標準通り行われるものではないのに自分の子は標準以上であるべきものの如く考える。自分が時間をかけて作つた離乳期食を子供がちつともたべてくれない。切角しつけた大便の躾けが最近になつてまた崩れて逆戻りして一向に治らない,もうひとりで教える年頃なのに。こういう母親はいつも標準という考えから頭が離れない。それ以下であることがいかにも自分ひとりの責任ででもあるかの如き錯覚に陥る。
 一方にはまた競争意識がノイローゼを作つている。同じころに生れたのに隣りの子はもう歩いている。

性に関するノイローゼ

著者: 西丸四方

ページ範囲:P.27 - P.30

 ノイローゼの中で性に関係するものが特に多い様な感じを誰しも起すものであり,又ノイローゼは本来性的なものであるとさえ考えられるのが普通であるが,その理由として,人間の精神生活の中で,殊に欲望不満や葛藤や心配を起し易いのが性的領域であることもあるけれども,それより大きな役割をしているのが,フロイトの精神分析の見方による影響であろう。精神分析によれば,ノイローゼは根本的には性的欲望の抑圧から起るのであり,変態性欲は神経症と同列のものであるとするのである。フロイトは実をいうと変態性欲の存在から逆にその神経症理論を立てたのであつて,変態性欲と神経症と同列のものであるというのは一つの仮定である。しかしいかにもその様にみえるものもある。いかにもそう見えるというのはどういうことかというと,神経症では今,ある精神的身体的症状が,以前の精神的経験からいかにも由来したように見える時に,神経症というということなのである。われわれは神経症の診断をつける時に,いかにも神経症らしい症状―といつてもひどくまちまちなものであるが,何となくそういうものがあると思つているのであり,変態性欲や性的障害の諸状態もそれである―をもとにしてつけるのであるが,それと同時に,これはいかなる以前の精神的経験から由来しているかを問題にして,その様な精神的経験を探すのである。

老人の心理的特徴

著者: 金子仁郎

ページ範囲:P.31 - P.34

まえがき
 老年期というものは,長い人生の最終期であり,たそがれの時期であるが,これがいつからはじまるかを明確にすることは容易でない。われわれは大まかに老人という場合は,60才以上,時には70才以上の者をさしているが,このような暦年令ではつきり老人というものを区別することが出来ないのは周知のことである。人間は元来個人差がかなりあるものであるが,ことに老年になるとこの個人差が大きくなり,70代でも壮年に劣らない人をよく見ることができる。このように暦年令で区別が出来ないので,生理的年令で区別しようとする試みがなされるが,これも実際上はかなり困難な問題である。従つて,ここでは身体的並びに精神的能力の衰退がかなり著明となり,壮年時代の活動が出来なくなつた者を老人として論ずることにする。
 老年現象そのものが,生理的なものか,病的なものかは問題となるが,しかし生物は生きている限り老衰をまぬかれない。この老年性変化は個体に内在する生命のエネルギーが減退し,細胞や組織の機能が衰えることによるが,しかし一方環境の影響もかなり強く受けるものである。老人の心理的現象にしても,脳神経組織が老年性変化をきたし,その機能が衰退することがその基礎をなすが,しかし老年に伴なう種々の環境的変化もまた老人の心理に種々の影響を及ぼすものである。

座談会

話題の新刊書をめぐつて

著者: 秋元寿恵夫 ,   石垣純二 ,   佐藤徳郎 ,   佐藤恒信 ,   館林宣夫 ,   豊川行平

ページ範囲:P.37 - P.53

健康相談
 A 丸山さんの「健康相談」ですが,こういう素材を扱つた本は初めてのように思いますので,どうぞ御自由に御批判願いたいと思いますが,最初「健康相談」の一般的な御感想から承りましようか。
 B 大ざつぱに言えば,読んで打たれる所が非常にある訳でしよう。処が何を彼が言おうとするか,はつきりしない点がいささか徹底を欠いておる。

原著

ゴボウ巻によるS. enteritidisの食中毒例について

著者: 鈴木ミツヱ ,   茂木茂雄

ページ範囲:P.55 - P.57

緒言
 S. enteritidisの食中毒例の報告は我が国においては比較的多いが最近の報告としては中谷1)の鯨肉による食中毒例,及び辺野喜,松井,依田2)の納豆又はメンチカツが原因と推定される食中毒例の報告がある。又当研究所においても原田3)が食肉による本菌の食中毒について報告している。
 私共は今回ゴボウ巻による食中毒例を経験し疫学的,細菌学的に調査した結果S. enteritidisが原因であることが判明したので,その概要について述べ,同学の士の参考に資したいと考え報告する次第である。

青森市に発生せる秋刀魚飯ずしによるBotulinus中毒例

著者: 川口義雄 ,   太田秀生 ,   大屋昭次

ページ範囲:P.57 - P.59

I.緒言
 Botulinus中毒は中枢神経症状を主要症状とし,他の食中毒と著しく異なる特徴を有するが,私共は昭和30年9月青森市に発生したBotulinus中毒患者7名(中3名死亡)を経験したので報告する。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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