文献詳細
文献概要
特集 公衆衞生とノイローゼ 綜説
育兒に関するノイローゼ
著者: 斎藤文雄1
所属機関: 1聖ロカ国際病院小児科
ページ範囲:P.23 - P.26
文献購入ページに移動育児ということは元来楽しかるべき性質のものであり,家庭内に小さな子がひとりでもおれば,その家庭の中心はその子だといつても差支えないくらいで,現に子供がひとり生れると,両親はその日から「あなた」でもなければ「○○子」でもない。お互いがお互いをお父さんと呼び,お母さんと呼ぶ。両親の親は忽ちお爺さん,お婆さんと呼ばれる。即ち呼び名からして子供中心の呼び名が通用するようになるくらい,子供は家庭の花形であり団欒の中心である。わけても母親にとつてはどれだけ子供によつて人生の生きがいを感ずるか判らない。ところが近年わけてもここ4〜5年来のことといつてよいが子供を育てることに不安焦燥を示す母親が少なくない。原因は何か。これは簡単ではないようである。母親によつては子供が自分の思う通り伸びてくれないということがノイローゼを起す原因になる。たとえば子供の発育は決してみんな標準通り行われるものではないのに自分の子は標準以上であるべきものの如く考える。自分が時間をかけて作つた離乳期食を子供がちつともたべてくれない。切角しつけた大便の躾けが最近になつてまた崩れて逆戻りして一向に治らない,もうひとりで教える年頃なのに。こういう母親はいつも標準という考えから頭が離れない。それ以下であることがいかにも自分ひとりの責任ででもあるかの如き錯覚に陥る。
一方にはまた競争意識がノイローゼを作つている。同じころに生れたのに隣りの子はもう歩いている。
掲載誌情報