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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生21巻4号

1957年04月発行

雑誌目次

特集 家族計画

公衆衛生と家族計画

著者: 古屋芳雄

ページ範囲:P.1 - P.3

 今日の公衆衛生に携わる者はその国の人口の動きに対して,常に深い注意を払つていなければなりません。公衆衛生の効果は死亡率に依つて判断せられることが多いから,死亡率の動きに注意する必要のあることは申すまでもありませんが,それと同時に出生率,或いは人口増加率にも注意せねばならぬのです。例えば日本では戦後死亡率のいちじるしい改善をみた。これは公衆衛生の勝利といえるでしよう。しかしもし同時に出生率が下らなかつたら今ごろはどんなことになつているでしよう。今日のわが国は,あれだけ出生率が下つても戦前にくらべて東北六県ほどの人口がふえているのですが,もしあの終戦直後のような高い出生率が今日までつづいていたとしたら,日本は今ごろは,相当の社会不安がかもし出されているに違いなく,公衆衛生の面にも,いろいろな不愉快な現象,例えば食糧不足に基ずく国民体力の低下があらわれているかもしれません。要するに公衆衛生の努力で死亡率を引下げることが,却つてそれの向上を阻む要因になるのです。
 そういうわけだから,今日の公衆衛生に携わる者は,好むと好まざるにかかわらず,死亡率と共に,出生率の動きに注意しなければなりません。

家族計画と人口問題

著者: 北岡寿逸

ページ範囲:P.4 - P.6

 家族計画ということは,理論的にも実際運動としても,世界全体の問題としては現在のところ人口問題とは関係がない。それは母性の保護とか,個人の生活の向上とか云うことを直接目的とするものであつて,人口問題のないアメリカや,人口減少を憂うるフランスに於て盛んに行われている事実によつてもこのことは明らかである。
 然し私は,日本の家族計画は世界の家族計画と異つた特質を持つている。少くとも左の3つの特質を持つているものと思う。

優生保護法について—その問題点

著者: 木村又雄

ページ範囲:P.7 - P.11

1.法律の概要
 優生保護法は昭和23年7月に,昭和15年に立法された国民優生法にかわつて制定されたものであつて,その後数次にわたつて改正が行われて今日に至つているが,第1章総則以下6つの章及び附則からなりたつている。
 第1章は総則で目的と定義の規定がある。

家族計画の普及対策について

著者: 木村又雄

ページ範囲:P.12 - P.16

はじめに
 昨年11月第1回家族計画普及全国大会が,厚生省日本家族計画連盟の主催,関係各省関係団体の後援協賛の下に東京に於て開催されました。第1日は代表者協議会で,都道府県関係団体の代表者が一堂に会して討議が行われ,第2日は午前が総会,午後は記念式として初の「家族計画賞」の授与などが行われたのでした。
 第1日の協議会では,(1)地域社会における組織活動の推進方策について(2)事業場等における組織活動の促進について(3)受胎調節実地指導員の活動の展開方法について(4)家族計画思想の普及徹底とその対策についての4つの問題を中心として種々討議がなされたのでありました。第2日目の総会では第1日の4つの課題について,その検討の結果が報告され,質疑応答の後,家族計画の普及について,満場一致で次の決議が行われたのでありました。

人工妊娠中絶の産婦人科学的考察

著者: 森山豊

ページ範囲:P.17 - P.22

1.はしがき
 人工妊娠中絶(以下中絶と略称する)は,技術的には特別問題とするようなことはない,ただ最近これが注目されているのは,戦後優生保護法が改正されて,その適応の範囲が拡大され中絶数が激増したためである。中絶は他の医療処置と異なり,これが社会道徳,宗教或は秩序と密接な関係があるため,何れの国,いつの時代でも,中絶施行には厳重な法的制限がある,わが国においても,戦前は,妊娠を継続することが母体の生命を危くする場合にのみ中絶が認められていた。即ち疾病治療の場合にのみに限定されていたが,戦後は疾病治療のみでなく,出生制限の有力手段として行われている。これはわが国特有の現象である。

家族計画と地区組織活動

著者: 柴山知輝 ,   若林登

ページ範囲:P.23 - P.27

 1つの宿場町と2つの純農村が合併した人口2万ほどのNという町がある。この町の旧町域ではかねてから母子愛育について町の人々の関心がたかく,乳幼児をもつ700余の家庭が10〜20世帯くらいずつの単位で母子愛育班をつくり,班グループ毎に,或いは愛育班長連絡協議会で練られたプランによつて,育児講習や定期的な健康診断,座談会,愛育機関誌の発行,母子衛生大会,研究発表会など数々の愛育活動を活溌におし進めていた。
 ところが2年程まえ,同じ町の村落部で,1人の婦人がいきなり人工妊娠中絶の結果死亡するという事例が起つた。愛育思想の高い土地柄と,人工妊娠中絶の経験者もご多分に洩れず多いことなどから,この話は町の婦人たちに非常な衡撃を与えた。

家族計画と保健所活動

著者: 五月女謙一

ページ範囲:P.28 - P.31

Ⅰ.緒言
 標題について編集室の注文を受けたが,さて如何に筆をすすむべきか,全く閉口した。実のところ保健所活動はかくあるべしなどとは私の到底述べ得られることではない。それ故私は主として過去7ヵ年に互る本運動の足跡を顧み,併せて今後の方針を述べて責を果すこととした。

家族計画と保健所活動

著者: 野村澄江

ページ範囲:P.31 - P.33

 保健所(優生保護相談所)が家族計画に持つ役割は集団指導(グループ指導)を主とすべきであつて,個別指導は来所する一部の人を除いては実地指導員に任すのが当然である。只現在の段階では,集団指導のみに止つてはいられないのではないかと考えられる。
 それは,実地指導員の資格を持つ助産婦,保健婦は,一応各地に相当数あるけれど,その活動は多くの隘路に阻れて充分でない医師特に産婦人科医でも親切な指導を行う人は稀で,受胎調節の方法を知る事を切望している人達の希望を満たすのに,満足すべき状態でないからである,それで特別な地区を除いては相談所が実地指導までタツチせざるを得ない状態になつている,そして正しい意味の家族計画を行う等の受胎調節の指導に努力しているわけである。

家族計画と助産婦保健婦

著者: 児玉貴和子

ページ範囲:P.34 - P.36

 保健婦である私が開業助産婦さんと一緒になつて多産で貧しい我が村を現在迄の家族計画に育て上た事を述べてみます。対象の奥南村の実態は海岸沿に南面した急傾斜地帯で面積は4.6平方粁,戸数770戸,人口4677人で産業は半農半漁,農業は甘藷麦を主として一部果樹や米作がある位で急耕地面積1戸当5段弱で約80%は零細農になつている。その上燃料は全部購入する状態で生活の苦しい中に飲料水は少く非衛生的な文化の低い村である。
 最初は先ず避妊が目的で,始めた動機としては1949年頃人工妊娠中絶が流行のようになつてからの事である。二男三男で辛じて生活している者が2才迄に次回の出産で,経済面に困るのは勿論の事子供の世話も出来ずして,乳幼児の死亡率は高くなり,親子共に苦しむうちに,昔でいう間引のような結果となり,訪問先でいつも話題とされていた。昨日今日中絶した者が家人や隣人に知られたくない為,平常以上の仕事をする。身にこたえる事を知りつつもやつているのだ,又中には中絶費の出来ない人がある,仕方なく自然の分娩となり,分娩費は勿論分娩の準備は何1つ整わず目出度いはずの出産を暗い心で迎える妊婦さん,こんな状態の多くなるのを見たり聞たりするうちに見逃す問題でないと助産婦さんと話合い立上つたのが1950年であつた。

生活保護家庭の家族計画について

著者: 丹下坂宇良

ページ範囲:P.37 - P.39

 近時 我が国の家族計画運動も漸く普及への段階になりましたが,識者が憂える如く逆淘汰になつたり,又民衆から離れた指導者の運動になつたのではなく,一般上流家庭婦人から盛り上り,それが下層の主婦にも手を差しのべ,それ等の主婦達が喜び乍らこの運動に参加するというような空気になりつつあることは大変よい傾向だと思います。
 人と生れて誰も子供を欲しくない者はないと同じように「思うようなら子3人」という言葉のように,出来のよい子供3人位でよいと一応誰でも望んで居たことではあつたが,それがなかなか思うように出来ないので授りものなどという言葉も出来たと思う。上流の家庭では婦人に相当の暇もあつたから苦労して大勢の子供を育てることはないと考えるようになつて来て居たので,家族計画などという言葉のない内に曲りなりにも多少の計画を持つて居たが,下層になるにつれて二大本能の「食」の方にばかり追われて「性」のことなど研究する暇がないというのが実情で「妻は夫へサービスをすればよいのだ」という考え方も下層程強い因習になつて残つて居るので庶民への徹底には時間を要したと思います。

生活保護世帶の家族計画

著者: 久保秀史

ページ範囲:P.40 - P.43

 家族計画という言葉も,ずいぶん普及したものだ。あの村,この町,そして多くの事業所で,いまや家族計画の運動は,日1日と盛んになりつつある。
 しかし,なんといつても,厚生省で音頭をとつている特別普及対策は,国の予算をもとにした全国的なものであるだけに,規模も大きいし,社会に対する効果も大きいといわなくてはならない。

村の保健婦と家族計画

著者: 大峡美代志

ページ範囲:P.43 - P.45

 私の受持つている須坂市高甫地区は市の一部ではあるが,戸数450人口2500でリンゴ,養蚕,酩農等を主とする純農村です。この村に保健婦の根をおろして13年,村という地域社会の中にありながら他村の様子もわからず限られた視野と過去4カ年家族計画運動を推進してきた体験をもとに題名と取組みたいと思いますので或いは片寄するかもしれないのをお許し願いたい。

企業体に於ける家族計画—常磐炭礦

著者: 林英郎

ページ範囲:P.46 - P.48

緒言
 私達の家族計画が,事業場における成功例か,どうか,疑いをもつております。
 昨年9月,保健文化賞を戴いたことが,成功の証拠だと,仰言るなら致し方ないのですが。

企業体における家族計画—日本鋼管における実例

著者: 篠崎信男

ページ範囲:P.49 - P.53

はしがき
 昭和26年以来,日本鋼管における新生活運動の一環としての家族計画運動の推進を実験的に試みたその成績について,手許にある資料を中心として報告することにする。この問題は会社側の深い理解と主婦側の積極的な意力とともに労働組合の好意的黙認の下に実行されたもので,1つの運動の集団組織的な実験例といつても過言ではない。昭和27年度は計画準備期として色々の研究資料に基ずき,会社側との打合せを行い,その実現計画を完了した年度である。従つて以下述べるものは昭和28年に始つた広汎な新生活運動実践事項の中,家族計画のみにしぼつたものの報告である。以上の報告の中で若干でも効果があつたものがあれば,それは,単なる家族計画運動だけを行つたためではないということを認識しなければならないであろう。然し家族計画の具体的な問題に限つても,単なる技術的な面のみの勝利でなく,少し大げさな言葉を使えば人間相互の信頼意識の勝利であるとも言える。つまり,生活技術を相互に生活の中に活かし更に進んで文化価値を求めようとした理想のお蔭でもある。会社は会社なりに,従業員は従業員なりに,主婦は主婦なりに夢を求め,探り合つたその筋と筋とに暖い血が通つた賜でもある。

家族計画の衛生教育—その話方を中心に

著者: 石垣純二

ページ範囲:P.54 - P.56

PRの旅路にて
 私はいま長野県の渋温泉にいます。中部電力の依頼で,長野支店管下3ヵ所で,家族計画の講演をするためです。はじめての温泉ですが,この渋はいい温泉です。光の波の中にぼうつと漂つてるように見えた雪嶺も,もうすつかり眠つたようです。近くにあるという滝の瀬音が,林を吹きすぎる松風のように聞えるだけ。こんな環境で,とても演説をする気分にはなれませんから,想の浮ぶままに,家族計画の衛生教育の体験を書いて行つてみようと思いました。まとまらない点は,どうぞ御寛恕下さい。

海外の家族計画の動向

著者: 村松稔

ページ範囲:P.57 - P.60

 日本における家族計画の発展に関連して外国でこの問題がどのように考えられ,取扱われているかを見るのは,今後のわれわれの進み方にとつて1つの参考となるであろう。勿論日本には本質的な点で日本独自の立場というものがあり,外国の事情をそのまま取入れることは出来ないということもあるが,しかし,殊に家族計画の場合には,例えば東南アジアのいくつかの国の例のように,むしろ日本の経験から多少なりとも参考になるものがあれば,それを学びたいという希望もある位であるであるから,とにかく種々の国々の状態を参照し合うということは,日毎に狭くなつている地球に住むわれわれとしてやつてみる価値のあるものにちがいない。
 そこで,以下に,海外の家族計画の動向をなるべく広く紹介しようと思うが,便宜上全体を2つの部分に分けることとする。最初の部分では国家としての人口事情あるいは人口政策と家族計画とがどのように結びつけられているかを述べ,第2の部分では主として国際家族計画連盟**に参加している,家族計画に比較的積極的な国々の具体的活動の事情を概観することにしたい。

避妊薬による受胎調節

著者: 六弥太忠行 ,   相田きさ子

ページ範囲:P.61 - P.65

Ⅰ.緒言
 最近,我が国に於ては,人工妊娠中絶の激増に対して,母性保護の為に,又年々切迫して来る労働人口問題の上から,或いは家庭経済を目標とする文化的な家族計画実施の為に,受胎調節の必要が強調されている。
 偖て避妊手段としては,合理的な受精阻止法としてペツサリーがとりあげられが,これは婦人科的にサイズを合わせなくてはならぬのと,住宅事情等の為に日本ではまだ大衆向きとするには難点がある。サイズを考慮しなくとも良いスポンジ,タンポン類は軽度の異物感に腟短縮の為の不快感あり,それに取出しの紐が苦になるといわれる。昔から非常に普及している男子側のコンドームは差し当り,男性の理解が必要であり,又,性感覚の受容器は亀頭冠にあるパチニ小体であると推定されているが1),コンドームを装着した場合にはゴム越しの接触の為に男性の性感を減殺し,女性側には精液の吸収がない為に,種々な肉体的,精神的障碍ありともいわれている。従つて,避妊器具の種類は数あるも,夫々長所及び短所があつて取捨選択を必要とせられるが,上記の欠点を補足し且つ国民大衆に広く実施させる為に如何なる対象にも聽いたその日から自分で直ぐ使える最簡便な避妊薬品が受胎調節普及過渡期の第一段階として,一応考えられるので,私は,誰でも安易に使える避妊薬単独使用の臨床実験を実施し,その結果些か知見が得られたので,ここに報告する。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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