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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生21巻5号

1957年05月発行

雑誌目次

特集 欧米の公衆衛生事情

米国の公衆衛生

著者: 橋本道夫

ページ範囲:P.1 - P.10

はじめに
 私は昭和29年7月より1年間ロツクフェラ財団の好意でハーバード大学に学び衛生行政を専攻としてMPHの課程を終える機会を得ました。ここに述べる意見も私が学び,見聞し本を読んだ範囲を出ず"米国"のと云うような一般的概念に当てはまらない所もあることでしようが,日本の保健所医師として働いて来た私の眼に写つたままを綴つて見たいと思います。私の立場は衛生行政を社会的な視野より考えるもので特定の技術や学問の分野に重点をおいたものでないことを前以てお断りいたします。

英国の公衆衛生制度

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.11 - P.25

I.その歴史
 英国の公衆衛生制度の特徴は,いわゆる予防衛生と,患者の医療とが,極めて密接に結びつけられ,さらにこれが,社会福祉,児童福祉,社会保険の制度と合されて,彼等のいわゆる「福祉国家」の根幹を作つていることである。
 このように広く解釈された系統的な公衆衛生制度は,第2次世界大戦後に一応の完成を見たのであるが,疾病の予防や治療を単なる個人あるいは個々の家族の責任にのみまかせず,中央政府あるいは地方自治体がある程度これに関与する必要を認め,これが何らかの形で制度化され初めたのは,今から凡そ100年余り以前のことである。

フランスに於ける衛生行政の機構と医療制度

著者: 額田粲

ページ範囲:P.27 - P.34

I.衛生行政機構
a)中央における行政機構
 殆どすべての文明国では衛生行政は地方自治団体の直接の責任において行われる。しかしこれを強い中央統制下においている国と地方自治にまかしておいている国とがある。後者のよい例は英国で,前者の例はフランス,ドイツ等欧州大陸の国々に見られる。就中フランスは伝統的にあらゆる政策において中央集権の強い国で,地方自治団体は名目的の責任者に過ぎない場合が多いとされている。
 フランスにおいて衛生行政担当の省が独立発足を見たのはすでに1920年のことであり,それ以前にも内務省内に衛生行政の中央部局が存在していた。戦後に至つて人口問題担当部局が衛生省に統合され,現在では公衆衛生人口省(Ministérede la Santé Publique et de la Population)と改称された。

西独における衛生行政の機構と医療制度

著者: 額田粲

ページ範囲:P.35 - P.41

I.衛生行政の機構について
a)連邦政府
 Bundesrepublik Deutschlandの名の示すように西独は連邦国家である。連邦を構成する州はSaarの返還にともない10州となり,Schleswig-Holstein,Hamburg,Niedersachsen,Nordrhein-Westfalen,Bremen,Hessen,Bayern,Rheinland-Pfalz,Baden-Würtemburg,Saarであるが,その他にもWest-Berlinは州ではないが連邦議会に議員を送つている。州の中Hamburg,BremenはStadtstaatと呼ばれ所謂特別市である。
 連邦全体に対する法律,即ち連邦法Bundesgesetzは立体府である連邦議会でつくられる。連邦議会は二院制で,下院である連邦衆議院Bundestagと上院である連邦参議院Bundesratから出来て居り,前者の議席は大体487程度後者は38である。

イタリヤに於ける結核対策

著者: 磯江驥一郎

ページ範囲:P.42 - P.47

 日・伊文化交流促進の意味で,イタリア外務省の好意に依り長沢誠司氏(東京療養所),束村道雄氏(大府荘)と私の3名が8ヵ月間の留学を許可せられた。昨年2月に羽田を出発,長沢氏と私はローマのCarlo forlanini研究所で,束村氏はナポリのprincipi di piemonte研究所で予定の期間を快適に過ごすことが出来た。主なる目的が結核研究におかれていたので,イタリアの公衆衛生全般にわたて知悉する余裕はなかつたし,結核の問題にしても研究所内の生活に大部分の時間が費された為に,公衆衛生的方面について見聞する機会は甚だ乏しかつたので所題の意味に沿い得ないが,文明先進国である欧州各国の中で国情が比較的わが国に近似していると言われるイタリアに於て結核に対する施策及び活動状況を知ることは意味あることなので,短期間の滞在ながら得られた知見を記載して大方の御参考に供したい。

ソ聯を訪ねてその保健医療を觀る

著者: 暉峻義等

ページ範囲:P.49 - P.56

1.医育
 ソ聯には,現在,約30万の医師と医学専門家がいる。これに約90万人の助産婦と看護婦,試験検査員,レントゲン技術者等が協働して,ソ聯の医学と医療保健事業の支柱となつている。そして毎年,約2万の医師が新たに医学教育を修了してこれに参加している。
 ソ聯では,生産性の向上がとくに重大な国家的目標としてかかげられている。だがソ聯において,私の眼と耳とにはげしくひびいた事実は,物よりも,金よりも,人間が大切だという宣伝と啓蒙とが力強く行われていることである。だから,私のみたところによると,ソ聯では今,あらゆる方面の教育の普及徹底が熱を帯びて進行している。人間を良くし,人間の質をたかめ,人間の働らきを向上することこそ,ソ聯にとつての第一の課題なのである。ソ聯政策はもちろん計画経済と社会主義制度に基礎をもつている。だが,その一方において,非常に力強い教育主義,人間主義,即ち一種の理想主義が実行に移されて,それがソ聯の民衆に将来の希望をいだかせている。

公衆衛生と国際協力機関

著者: 斎田晃

ページ範囲:P.57 - P.62

まえがき
 国際協力が,公衆衛生の分野でどのように行われているが,とゆう事を理解する為には,過去を振返つて,その歴史的発展をたどらなければならないと,思うのである。現在のものは,過去の色々の時代での努力と,それを支えた理念との蓄積と発展であつて,決して一日にして出来上つたものでは無いからである。
 大ざつぱに考えてみて,このような努力は,三つの時期にわけて考えられるように,思えるのである。その一は,1800年の中頃から起つた努力が,失敗をしながらも根気よく続けられて,ようやく1900年の始めに具体的な組織にまで辿りついた時期であり,その二は,1920年から始まつた国際連盟時代の,より整頓せられた組織活動の時代であり,その三は,第二次大戦後の国連専門機関として,文字通り世界的な組織を作り上げるのに成功した。現在の世界保健機関(W.H.O)の活動の時期である。

諸統計

著者: 厚生省統計調査部

ページ範囲:P.63 - P.74

主要国の推計人口と人口密度
 1955年10月1日現在,わが国で行われた国勢調査の結果によると,わが国の人口は約8,928万人である。国連の人口統計年鑑1955年版によると,世界で最も人口の多い国は中共で,5億8千万人,次いでインドの3億8千万人,ソ連の2億1千万人,アメリカの1億6千万人である。日本はこれに次いで第5番目に位する。国連統計局の推計によると,1954年の世界の総人口は約25億であるから,中共はその23%,インドはその15%,ソ連はその8%,アメリカはその6%の人口を擁しており,以上の諸国で地球上の人口の約半分以上が占められているわけである。わが国の人口は,世界人口の約4%に当る。
 これらの多くの人口を擁している諸国をみると,いずれも広大な国土をもつた国々であるが,5番目にくる日本だけは,人口が多い割に国土が狭い。このため,1平方粁当りの人口密度はこれらの諸国よりとびぬけて高く238である。

社会保障制度申議会の勸告ならびに医療保障委員の報告について

著者: 鈴木晃

ページ範囲:P.75 - P.80

 終戦以来11年,わが国の状態はようやくにして,戦後復興経済の段階を脱却して,福祉国家の建設を目ざして進むべき絶好の好機に直面している。
 従来は,戦災の復旧,生産の回復,自由経済の確立に主力を注がざるを得なかつたため,国民の所得再分配ないし社会保障の面において不充分の点が少くなかつたことは,あるいは止むを得なかつたことかも知れないが,その段階も漸くすぎ,今後は国民所得の純増加,国家財政規模の純増加のうち,相当の割合において,社会保障の面に投入する時期がきたものと考えられる。丁度この時期に当り社会保障制度審議会からの勧告が政府に対してなされたのである。

鼎談

公衆衛生は黄昏か?(3)—アンケートを読んで

著者: 石垣純二 ,   聖成稔 ,   池田忠義

ページ範囲:P.81 - P.99

 本誌1月号及び3月号に掲載したアンケート「公衆衛生は黄昏か?」は,非常な反響を呼び,今や各方面で熱心な「公衆衛生黄昏」論争が行われるに至つた。本社では,かつてのクラスメートであり,現在それぞれの立場から公衆衛生の仕事を担う池田,石垣,聖成3先生を招き,アンケートをめぐつての御意見を伺つた。

原著

最近30年間の関門港におけるコレラ検疫成績

著者: 前田弘近

ページ範囲:P.101 - P.104

 海外に検疫伝染病が流行し,国内にそれを導入するおそれがある場合は,従来は政令によつて一定期間を限り検疫伝染病流行地と指定されていた。コレラ流行指定地(以下指定地という)は戦前までは中国沿岸地域殊に上海は多く流行地と指定され,過去における日本への伝播経路は殆んど中国系統であつたが,最近では衛生思想の向上のため,中国沿岸地域から姿を消して我が国への伝播系は絶たれたようであるが,シンガポール情報によれば,なお印度やパキスタンの一部には年中発生が報ぜられ,国際交通の頻繁とスピードアツプ化に伴い,コレラ輸入のおそれはなお解消しない状態である。そこで,過去におけるコレラ検疫の実績を知ることは,単にコレラ検疫上興味あるのみならず,将来の検疫対策上重要なことである,かかる見地から筆者は,関門港における最近30年間のコレラ検疫成績を整理したので報告する。

塵紙に対する一つの工夫

著者: 砂田毅 ,   東義夫 ,   木下正弘 ,   西岡潔

ページ範囲:P.105 - P.107


 用便時,塵紙を通して糞便中の細菌が,使用した手指に附着する事は既に良く知られて居る。此の汚染した手指を直ちに清浄にすれば良いが,通常は此の手指で衣類を正して後,始めて手洗いを行つているのが普通である。従つて我々の衣類とか建具は不用意に日常用便後の汚染した手指によつて汚されている。出来得れば此様な汚染は防止された方が望ましい。その為には手洗いを便器の傍に設置して拭い取り後直ちに手洗いを行うのが最も良いが,その設備を国民全家庭に及ぼすには経済的にも難点があり,又獲得した習慣からつい此れを省略する者が出て来る虞がある。従つて省略出来ない段階で手指汚染を防止する事が最も望ましいし,又それは無意識に実行出来る様にした方が良い。用便時省略出来ない段階は汚物の拭い取りであるから,此の処置を行うときに手指が糞便により汚染しない様にするのがfollproofである。
 そのため我々は塵紙に注目して此れを加工する事を考えた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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