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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生21巻7号

1957年07月発行

雑誌目次

特集 明日の公衆衛生 今後に期待するもの

環境衛生

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.1 - P.5

序説
 わが国の公衆衛生の現状には,いくつかの重大なゆがみが見られる。中でも,今後の公衆衛生の健全な発展のために強く指摘されなければならない事実は,いわゆる予防衛生の進歩に比べて,その基盤であるべき環境衛生が甚しく立ち遅れていることであろう。
 このことは,明治の初頭以来わが国の衛生行政に一貫してみられる事実であつたばかりでなく,戦後においてすら公衆衛生の各分野が長足の進歩を遂げた中にあつて,ひとり環境衛生のみは顧みられずに取り残された感が深いのである。とくに,汚物処理,下水道の整備など環境衛生の中でも最も基本的な分野であり乍ら終戦後数年の間は一顧だに与えられなかつたといつても決していい過ぎではないのである。

母子衛生

著者: 林路彰

ページ範囲:P.6 - P.9

 近年公衆衛生の進展につれて,わが国の平均寿命は著しくのびた。この寿命延長に,大きな役割を果たしているのは,言うまでもなく,戦後に於ける乳幼児死亡の著しい改善である。
 しかしこの乳幼児死亡の減少傾向の中につて,依然として改善を見ないのは,新生児の死亡である。即ち乳児死亡率が,既に40(出生1,000対)を割つたにも拘らず,新生児の死亡率は,現在なお20以上にとどまり,オランダ,スエーデン,ニユージーランド等の乳児死亡率にも及ばない現状である。

老人病対策

著者: 松岡脩吉

ページ範囲:P.10 - P.17

1.問題としての老人病
 老人病対策といえば,まず老人病とは何か,そしてその対策は,といつた順序になるであろうが,さて老人病とは何か,ことに,公衆衛生の問題として注目されるようになつたものとしての老人病とは何を指すかとなると,充分に明確でないともいえる。
 男子における前立腺肥大症が老人病であることには,誰も異存はないであろう。1955年のわが国の死亡統計3)で見ても,40才以上で始めて現われ,高年令になるほどいよいよその死亡率は高まつている。明白な老人病としての前立腺肥大症による死亡の年令的傾向をもつて定型的とするならば,このような定型的な傾向を示す疾病は他にもないことはないにしても,それによる死亡の絶対数は極めて少ないのである。1955年におけるわが国男子総死亡数365,246中前立腺肥大症によるものは311例に過ぎない。

家族計画

著者: 久保秀史

ページ範囲:P.18 - P.22

 公衆衛生の目的は,すべての国民が健康で,幸福な生活を営めるようにすることであるのは,いまさら言うまでもなかろう。ところで,わが国の公衆衛生は,戦後急速な発展をとげて,僅か10年たらずの間に,死亡率を半減するという,世界史上に類を見ない輝かしい効果をあげたのである。この死亡率の著しい低下は,日本人の寿命を延ばすことに成功し,特に0才の平均余命は,昭和10年に比して約20年という驚くべき延長となつて現われたのである。
 このような死亡率の低下,即ち寿命の延長は,人間にとつて望ましい現象であるが,かりに出生率が一定で変りないとすれば,日本の人口は,死亡率の低下した分だけ増加することになる筈である。

衛生教育

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.23 - P.26

衛生教育10年間
 "衛生教育とは何か"ということについてはたびたび論議され,雑誌などにも発表されたりしているが,現在でも,人によつて考えが違うらしい。しかし,衛生教育なることばを一番広く解釈すれば,ある活動が衛生教育と呼ばれていようがいまいが,要するに衛生教育的な効果をあげ得るものであれば,衛生教育として考えられている。この意味では,例えば保健婦の家庭訪問も衛生教育である。食品衛生や環境衛生の監視もそうである。だからといつて,なにも家庭訪問や監視を衛生教育の仕事にせよなどというのでは決してない。ただ衛生教育の目からみると,たいていの公衆衛生活動が,このような意味で,衛生教育として見られ,衛生教育の効果がなかつたらたいして価値がないと考えられるだけである。
 衛生教育が公衆衛生の基礎だ,というのは,国民に充分な衛生知識がなければだめだというのではなくて,上述のような意味ではなかろうか。"公衆衛生従事者はすべて衛生教育者でなければならない"というのも,ほぼ似たようなことである。具体的には,日常衛生教育と呼ばれていない業務も,その結果衛生教育上どんな影響があるかを考えて実施せよ,ということと,座談会などで衛生教育のための話などを進んでしなさい,ということ,この二つの意味があるわけだ。

精神衛生

著者: 高木四郎

ページ範囲:P.27 - P.30

Ⅰ はしがき
 精神衛生に対する関心は全世界を通じ第二次大戦を境として著しく高まるに至つた。その結果,1948年には世界精神衛生連盟(World Federation of Mental Health)が結成され,それ以後連盟の年次総会および2年おきに国際精神衛生会議が開催されるようになつた。また,世界保健機構(World Health Organization,WHO)も精神衛生を重要事項として取上げている。
 わが国も当然この世界的情勢の影響を受け,戦後精神衛生はようやく一般の関心の的となるに至つた。ことに戦前は精神衛生に対する関心は精神医学の一部専門家の間に限られていたが,戦後は教育・心理学・社会福祉・公衆衛生関係者,さらに一般人士の間にまで広がり,その内容意義を理解するとしないとにかかわらず,広く精神衛生が口にされるようになつた。そして昨今ようやく「精神衛生」の念仏を唱えるだけでなく,その事業をいかに建設し推進すべきかという,足が地に着いた対策を考えるべき時期に到達したように思われる。

食生活改善

著者: 安江正子

ページ範囲:P.31 - P.35

栄養改善の現状は
 1957年にWHO(世界保健機関)の世界保健デーに定められた4月7日の課題に「あすの健康はよい食物から」がとり上げられた。保健衛生の部門で食生活が健康の礎をなす事は衆目の相認める処である。
 昭和21年以来行われている厚生省国民栄養調査はどの様な結果を示しているであろうか。あの食糧どん底生活とも云える,かつての苦しい時は嘘の様で,連年の豊作に生産県では配給米より安く米も入手出来,戦前にも増して食品の種類は豊富になり,品質も改良せられ以前入手困難だつた品物さえ,ざらに店頭に美しく包装されて購売力をそそつている。

座談会

公衆衛生の反省

ページ範囲:P.36 - P.50

 昨年末P先生から本誌に寄せられた投書は非常な反響を呼び,"公衆衛生は黄昏か?" をめぐつての論争は各方面で活溌に行われるに至つた。
 しかし黄昏は手をこまねいていても暁にはならない。明日の公衆衛生は一体どの様にあるべきか。我々は明日に向つて如何なる努力を為すべきか。それには先ず現在の反省から出発しなければならない。
 本誌では,公衆衛生関係の先生方を招いてこの"反省"を試みた。腹蔵ない意見を出し徹底的に批判をしていただく為に,特に匿名の形式をとつた。

統計のページ

最近における実態調査のあらまし(1)

著者: 前田正久

ページ範囲:P.51 - P.55

 戦後,顔や勘による行政が何かと批判の的になり,実態を計数的に把握し,十分に吟味された統計数字を基礎とした科学的運営によるものでなければ真に地についた行政とはいえないといわれ出した。
 それかあらぬか,厚生省においても数多くの実態調査が矢つぎばやに実施されて,いささか実態調査ブームの感がないでもなかつたが,それはさておいて最近5年ばかりの間に行われた諸調査のうち目ぼしいものを拾つてみよう。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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