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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生21巻9号

1957年09月発行

雑誌目次

特集 屎尿と塵芥処理

主張

著者: 戸田正三

ページ範囲:P.1 - P.3

(1)一般論
 わが国の諸都市における汚物処理の現状は,由来都市という一つの有機体の各構成部門の中で,最も遅れたものである。世界のいわゆる文化都市を一覧して,日本の都市ことに大都市ほど,汚物処理の手おくれしているところはない。
 憲法第25条に定めた,健康で文化的な生活を営む国民の権利に対する最大の障壁は,屎尿処理の行詰りであるといつても過言ではない。まさに糞づまりの重症である。都市における屎尿の衛生的処理は,公衆衛生の向上増進のためにはもとより,日常生活における生活文化の岐路である。今わが都市の最大多数の家庭における屎尿処分は,まつたく野蛮といわざるをえない。かかる風習を是認しては,今後われらが文化的な世界人として,他国人と共存共栄的な社会を構成する場合に,他国人からきらわれる。その例は少くない。

ふん尿及びじん芥処理の現況

著者: 楠本正康

ページ範囲:P.4 - P.7

史的背景
 日本では,古くは川や沼の上に便所をしかけてここでふん尿を水とともに流し去る処理方法と,空地に穴を掘つてここで用をたし,一杯になるとまた別な場所に穴を掘つて便所とする方法とが一般に行われていた。古事記の丹塗矢のもの語りに便所に入つた美女を下からいたづらしたことが記載されているが,この便所はかわやと呼ばれ,おそらく,川の上に作られた清楚なものであつたにちがいない。万葉の古歌にも広々とした野原で用をたしている歌がみられているが,これも当時のす掘便所の様子を表現したものと思われる。こうした原始的な便所は,いまでも一部に見られている。山間の温泉地や観光地などには,かわや式の便所がよく使用されている。河川の汚染は別として,便所そのものは,何の臭気もなく,まことに快適で,いわゆる水洗便所の様式である。高野山では,つい最近まで,山の清水を竹の管で水槽に導き,ここから各戸の台所の水槽に送り,あふれた水を便所に流して,汚物を洗い去つて,この水は最後に有田川に流れ込んでいたが,この有田川にそそぐところに「清め不動」をまつつて民心の納得をはかつた。
 ところが,鎌倉時代になると全国的に開墾がさかんになり,農業が発達するにつれて,まず緑肥とともにふん便は肥料として重要な価値のあるものとなつてきたので,これを一ヵ所に貯えておく必要が生じた。

米国における屎尿並に塵芥処理の現状

著者: 内藤幸穂

ページ範囲:P.8 - P.13

まえがき
 水道協会雑誌第266号(昭和31年12月号)で芝浦工業大学の田中寅男氏が現在世界の注目をあげつつあるコンポステイング(Composting)の問題を衛生工学的な立場からとりあげ,その歴史的な懐古から基本的理論まで細かく紹介されていた。筆者もこの問題については2年程以前から深い興味をもち,昨年許されて渡米した折にもこの方面の勉強をしたので,実に興味深く拝読した次第である。
 ところがその内容を拝読していると,米国の実状が余り紹介されていない。確かに田中氏のいわれる様に,米国におけるこの分野の研究は最近やっと発達しかけたばかりのものであり,正式に発表された報告もそれ程多く見当らない。勿論国情の違いや経済事情の相違から,欧州諸国のそれとくらべてその広範な発達がおくれた事実はおおうべくもないのだが,基礎的な調査研究は着々と進められているのである。

都市における屎尿処理の諸問題

著者: 児玉威

ページ範囲:P.14 - P.20

まえがき
 近年急速な人口の都市集中と農村における屎尿需要の減退から農村に還元されない屎尿,即ち余剰屎尿が逐年増加し,大都市のみならず地方中小都市でもこれが処分に困難を来し,衛生的合理的にこれを処理するよりも,如何にしてこれを量的に処分するかが当面の急務となつてきた。厚生省の屎尿処理5ヵ年計画によると5年後の都市の屎尿処理状況を,収集日量は現在12万1千石(対象人口2,200万人)に対して22万2千石(4,000万人)で84%増,農村還元日量は現在6万6千石に対し2万6千石で60%減,結局余剰屎尿は現在の約5倍の17万6千石を見込まなければならないことが推算された。実態調査の結果では屎尿の排泄量は人口1人1日当り平均5.7合,1年では2.1石であつて,現在収集日量12万石の都市屎尿は農村還元54%,下水道,屎尿消化槽等処理17%,不衛生処分(海洋投棄等)29%の割合で処分されているという。
 屎尿は著しく浮遊固形物に富み,有機物濃度はわが国の下水の70〜80倍に達し,環境特に河海の重要な汚染源となる。

都市に於ける塵芥処理の諸問題

著者: 海淵養之助

ページ範囲:P.21 - P.25

I.処理法
 塵芥の処理法として焼却,埋立,堆肥化等の諸方法がある。今その何れの方法を撰ばんとするかは全くその都市の立地条件に左右されるのである。即ちその方法及び位置は都市計画上の見地から決定されるべきであり,施設費,運搬費,運営費が最少にして敷地附近からの苦情もなく,衛生的条件を充たす様計画されねばならない。
 塵芥を焼却する場合,その有する熱価値が極めて低いので,兎角煙を出したり臭気を出したりして熱管理が難しい。又埋立の場合には蝿,臭気の発生を伴い易い。単なる野積堆肥場はごみ捨場と化し易い。今塵芥の運搬経済圏内に適当なる埋立地とか農耕地がある場合,何れの処理法を採用するにしても技術的困難は伴わず,そして施設の程度も下げることが出来るだろう。然しこの様な場所が見出し得ず,市内に処理場を建設せざるを得ない場合には高度の内容を必要とする。偖而焼却,埋立法の研究,高度化等については既に諸権威により研究されておること故,ここでは塵芥の堆肥化に関して述べることとする。

各種便所の得失

著者: 谷川久治

ページ範囲:P.26 - P.35

1.前がき
 便所には民族的習慣や地方的特徴により,且つ文化の程度により種々の種類があり,又時代による変遷がある。世界各地の便所を見るに日本式汲取便所や,水洗便所の他に樽式(バケツ式)吸込式,ケンタツキー便所,井戸便所等があり,又欧米,中国,南洋等夫々の特色がある。更に川便所,砂便所,豚便所,容器便所(馬桶)等夫々独特のものであるがそれらについて興味本位の民俗学的な記述は本題の目的ではない。抑々便所の問題は今日我々の直面している屎尿処理の問題と密接な関係にあり,又生活改善としての便所の改良を主眼としている。私はこの意味で便所の得失を考察したい。ただ図面は紙面の関係で最小限度に止める。
 一般に便所は都市と農村で相違し,又家庭用と共同用乃至公衆多数用によつても,更に費用の負担力に応じて,設計に自ら異るところのあることは当然である。その他便所の選定には,水道や下水道の有無,溝渠,河川の状態,敷地及び地下水の高低,或いは寒冷,積雪期や地方的習慣等も考慮に入れねばならない。

屎尿の資源化と化学処理について

著者: 谷川久治

ページ範囲:P.36 - P.43

1.前がき
 近来都市に於ける人口の増加に伴う屎尿の排出量の増大と,肥料として屎尿の需要の激減により所謂余剰屎尿が年々多くなり,その処分に困つているのが現状である。即ちこれが解決は今日国家緊急問題の一つとして極めて重要である。
 汲取屎尿の処理には種々の方法があるがその一つに化学処理乃至乾燥肥料製造法がある。これは屎尿処理と資源化との一挙両得を企図するものである。これに関しては古くから多数の考案や特許が出ているのであるが何れも企業としては成立しなかつた。併しながら以前に企業的に失敗したという事は必ずしも今日化学処理の不可能を示すものではない。又先入観念からこの方法に冷淡であるのは適当でない。というのは以前には汲取屎尿は有価物であり,集荷から施設万般,企業体の負担であつたが,現今では事情が変つてきたのである。即ち現在では何れにせよ屎尿は都市の責任で汲取り,処分をせねばならない。そしてこの為の経費の支出は止むを得ないのである。故に化学処理を必ずしも営利事業として考えねばならない事はない。ただ屎尿処理の一法として環境衛生上の重要問題の解決をかねて,有用な資源を活用し,更に経費の一部を回収出来ればよいという見界に立てるわけである。かくて若し作業を企業体に委托するにしてもその企業が成立する程度に都市が協力すべきは勿論である。

河川海洋の汚染—特に屎尿海洋投棄について

著者: 三浦運一

ページ範囲:P.44 - P.54

 ばん近都市の余剰屎尿処理難は益々深刻を加え沿岸都市では汲取屎尿の海洋投棄が激増し,また下水並に工場廃水による河海の汚染も甚しく,これらの環境汚染は公衆衛生及び産業上の重大問題として,ようやく世人の注目をひくに至つた.特に屎尿海洋投棄については吾々が戸田博士を盟主に仰いで全国有志で組織している屎尿処理対策協議会でも,毎回屎尿処理の重大問題として論議されている。

原著

一屎尿消化槽における寄生虫卵の検査成績

著者: 小島邦子

ページ範囲:P.55 - P.60

 近時農村における化学肥料の普及にともなつて中小都市の屎尿の農村よりの汲取りが減少し,中小都市の屎尿を如何にすべきかということが緊急の問題となりつつある。これに対して1950年,嫌気性消化法による屎尿の処理法がとり上げられ中小都市の屎尿処理法として,かかる衛生工学的方法による消化槽が各地に設けられるようになつた。埼玉県行田市に新設の屎尿消化槽は昭和29年11月に竣工したもので,この種のものとしてはその建設は比較的早期のものである。しかし,たとえばこれとほぼ同時期に開設された逗子市における試験結果を見るに,その寄生虫卵殺滅状態は必ずしも満足なものとはいえない(原田ら,1955)。そこで私は同消化槽について蛔虫卵を主とした寄生虫卵の消長に関して検査を行つてみた。検査の時期としては虫卵死滅率の最も低いと考えられる冬期を選び,試験は昭和30年11月から同31年3月までの時期に毎月1回づつこれを実施した。
 行田市における屎尿消化槽は前述の如く,昭和29年11月竣工した2槽式のもので(第1図参照)1日平均約100石の処理能力を有する。長さ9.4m,巾2.0m,深2.0mの投入槽に運搬された屎尿は,量の計算,調整,夾雑物の除去等がまず行われ,ついで内経約10.0m,深約7mの第一消化槽に送られる。

赤痢保菌者の疫学的研究

著者: 高木剛一

ページ範囲:P.61 - P.74

まえがき
 細菌性赤痢は,患者,保菌者の糞便中の赤痢菌が手指の接触を介して,飲食物,食器等より経口的に伝染するものであることは,衆知のことでありながら,赤痢保菌者が赤痢の伝染に対してどのような役割を演じているものかは,現在までに充分明らかになつたとはなお言い難いのである。その原因の一つは,赤痢保菌者の取扱いが余りにも行政的に処置され,従つて,その実態の究明が徹底を欠いた点に求められるようである。
 私は,赤痢保菌者が赤痢感染上占める位置を正しく評価するための資料として,赤痢保菌者の生態をアンケート方式により集録し,集団赤痢感染例,家族感染例において保健所活動を少し深くほりさげて実行に移し,更に都伝染病院の協力を求めて,摘発保菌者の実態を研究し,赤痢保菌者ひいては赤痢感染様式についてある程度具体的の成績を得ることができたので,赤痢予防対策の参考に供したいと思う。

含嗽—咽頭溶連菌の消長を中心にして

著者: 木村光雄 ,   田中外喜 ,   奥村武 ,   佐藤信義 ,   富永良橘 ,   金子健太郎

ページ範囲:P.75 - P.81

I.まえおき
 昭和29年秋,福岡県築上郡において,主として小児の間に発疹性,或いは無疹性の腎炎が多発し1),更に昭和30年秋にも,福岡,徳島その他の各県において,同様の症状を呈する腎炎の流行がみられ,いわゆる「奇病」とされていたが,我々は,昭和30年12月2日,「溶連菌感染による流行性腎炎」と診定2),更に昭和32年4月,第31回日本伝染病学会における交見演説において,昭和29年から3ヵ年間の経験にもとづいて,本症の概要を述べた3)。この腎炎が溶連菌によつて惹起されることは,いまや明確にされているにもかかわらず,本症の予防については,遺憾乍ら未だ殆んど研究がなされていないようである。
 さて,この溶連菌によつて惹起される疾病としては,猩紅熱をはじめ,扁桃炎,口夾炎,肺炎,中耳炎,リンパ腺炎の他,疔,癤,膿痂疹,蜂窩織炎,産褥熱,敗血症など,幾多の疾病が挙げられている。この溶連菌の感染様式としては,種々の経路が考えられるが,これ等疾病時には,その病型の如何にかかわらず,殆んどの患者はその咽頭部に溶連菌を保持しており,これがいわゆる空気感染,即ち飛沫感染,塵埃感染によつて,広くその周囲を汚染し,大多数は先ず鼻咽腔に侵入し,ここで定着,増殖して,発病限界値を越え,或いは他の部位への自家感染を起して発病する。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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