icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻1号

1958年01月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生と社会保障 巻頭言

社会保障と公衆衛生

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.1 - P.1

 近代的な公衆衛生は,18〜19世紀以来,共同生活を営む多数人の健康を守るために,主として市環境衛生施設の整備を中心として発展を都見た。
 急性伝染病は,この方法によつて著しく減退したが,慢性疾患の制圧や,母子衛生等の向上は,物的な環境衛生改善だけでは,充分な成果があがらず,そのためには,日常の生活様式の改善や,身体的抵抗力の増進等,いわゆる個人衛生の伸張をまたなければならなかつた。

綜説

医療保障と公衆衛生との関連

著者: 与謝野光

ページ範囲:P.2 - P.4

1.緒言
 医療保障と公衆衛生の関連に就いて,昨年来厚生科学研究費を得て,目下各国の実状を主として文献に依り調査し,併せて我が国の現状に照してその間の動向,今後の在り方に就き検討を行いつつある。今回日本公衆衛生学会が大阪で開催せらるるに当り,京大西尾教授の懇篤なお薦めもあり調査途上乍ら,所論を纒めて同学会に報告した次第である。右の次第で本誌に於ても紙面を割愛せられたので予ねての考えを誌し大方の批判を仰ぐことにした。
 医療保障と公衆衛生が人類社会の福祉の上に極めて重要な部門を占める関係上,両者の間に密接な関連が望ましいことはいう迄もない所である。

児童の福祉と衛生

著者: 若松栄一

ページ範囲:P.5 - P.10

児童の福祉と衛生の理念
 現在の日本に於ける社会保障の構成として大きく三つの柱を建て得ると思う。一つは各種社会保険を以て構成される医療保障,各種年金及び諸給付の製度であり,これらは原則として拠出制相互扶助の精神に立脚している。二つは生活保護法を中核とする一連の社会福祉施策であり,これらは国民の最低生活を保障した憲法の規定に由来する国民の権利,国の義務を基盤とする無拠出制,公的扶助を原則とする行き方である。第三は公衆衛生の行き方であつて,この場合は一般大衆に対する無差別平等のサービスを建て前とし,予防的乃至間接的保障の推進をその内容としている。これら三つの系列の社会保障施策は,それぞれの分野に於て又その内容,対象により細分されて,カテゴリカルな援護又はサービスを行つている。なお労働関係の規制を行つている一連の労働施策並びに公費による義務教育制度等は更に広い意味の社会保障の分野を受け持つているが,これらについてはここでは問題の外におくこととする。
 ところが児童に対しては,そのような一般的な保障の措置だけではどうしても物足りない。児童の特性に応じて,異つた角度からもつと濃度の高い,手厚い庇護が加えられることが必要である。

老人福祉の諸問題—養老年金と養老施設

著者: 加藤信太郎

ページ範囲:P.11 - P.14

 老人福祉の問題は近時とみに世人の関心を集めるようになつてきた。毎年9月15日の「としよりの日」を中心として,敬老会の催しが各地で持たれているし,さらに続々と府県や市町村の条例による「敬老年金」あるいは「慰老年金」が創設されつつある一方,中央においても政府は厚生省において年金委員を委嘱して老令年金(養老年金)を中心とする国民年金制度の創設準備を進めており,社会保障制度審議会に対して「国民年金制度の基本構想いかん」という諮問を行つた。かたわら,民間においては,従前からの養老施設のほかに,新しい試みとしての有料老人ホームが次第にその数を増しつつあるし,また,各地に老人クラブが結成を見つつあるという状況である。
 このような動き,つまり世人の老人福祉の問題に対する関心の高まりを示す動きは,よく指摘されるように,主として下の二つの事柄にその原因を見出すことが出来る。すなわち,(1)第2次世界大戦によつてわが国の社会的・経済的条件に著しい変動が生じたが,これに伴つて老人の生活問題は甚だ深刻な様相を呈するに至つた。最近における国民生活の安定・向上は,ようやく取残された恵まれない階層としての老令者の問題に世人の眼を向けさせるようになつてきた。(2)さらに,人口の老令化という現象,いいかえるならば総人口中に老令人口の占める比率の増大という傾向に対して,多くの掘下げた研究が行われ,世人の関心を引くようになつてきたのである。

更生指導(REHABILITATION)の社会的必要性と運用

著者: 稗田正虎

ページ範囲:P.15 - P.18

まえがき
 現代医学の進歩は予防医学や治療医学の部面で戦後偉大なる発達をとげ,人類が生命的危険にさらされていることは従前に比し極めてすくなくなつてきた。然しながら生命的危険をまぬがれた患者の社会的復帰は如何であろうかと考えるとき,原発性疾患,障害は治癒したにも不拘,実際の社会復帰は長びき,或いは作業能力が高度に減退し或いは不能と考えられるものが多い。今次戦争をけつきとして,戦傷病による障害者の社会復帰をめざして,新しい綜合科学が発達し,更生指導(Rehabilitation)と呼ばれた。更生指導は予防医学,治療医学に対して医学の第3相,社会復帰医学といわれている。この経験は機能障害や生業能力を阻害している一般の障害者にも応用されるようになり,新しい医学の分野として世界的に採用され普及しつつある。

生活館長の見た公衆衛生

著者: 塚本哲

ページ範囲:P.19 - P.22

(Ⅰ)
 公衆衛生という課題について直接この仕事に関係をもたない私に意見を求められたのであるが,公衆衛生ということは公衆道徳にも重大な関係をもち,教育的な一つのムーブメントととも心得ているので,日頃からいいたいこと,希望したいことが一ぱいあるような気がしていた。しかしいざ書こうとしてみるとどうも抽象的にばかりなつてピントがぼやけるのである。これが素人のかなしさというものであろうか。
 だが考えてみると公衆衛生の活動ということは私の従事しているCommunity Centerの仕事にも極めて重要な関係をもつものである。そこで私の立場を一応申上げておくことをお許し願いたい。今日Community CenterとかNeighborhood Houseとかいわれている仕事は,もとはSettlment運動に源流を発するもので,英国における初期の活動は例の有名なToynbee Arnoldを中心とする大学拡張運動であり,オツクスホード大学の名門の子弟が貧民窟に住居して近隣を教化誘導する『知識的殖民』であつた。したがつて学生のヒユーマニテイと知識とによつてスラムの民衆を一人でも多く引上げようとする上下運動であつた。

病院とHealth Centerの地方組織化(Regionalization)について

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.23 - P.27

1.地方組織化の意味
 100年来の医学の大進歩は,病院機能の高度化を要求し,そのために,病院の設備には益々莫大な資金を必要とし,且つは多数の専門医を初め看護婦その他多数の医療の補助員を必要とするようになつた。
 そして,この近代医療の殿堂である病院に対する信頼は日に日に増大し,大都市には大病院が林立し,また各農村においても隣村して病院の設立増設が進められている。例えばわが国においても終戦後この傾向は盛んとなり,特にこの数年間の病院数,病床数,機能の増大化は非常に急速のものが見られる。

セツルメント運動と公衆衛生

著者: 芦沢正見

ページ範囲:P.29 - P.32

セツルメント運動の起りと戦争によるその断絶
 「1923年かの関東大震災が我が国にもたらした影響の数々の中,社会運動と社会事業の勃興はその主たるものの二つとして挙げられる。我が帝国大学セツルメントもかかる社会趨勢の上に誕生したのであつた」。これは昭和12年刊行「東京帝国大学セツルメント十二年史」の冒頭の言葉である。学生運動としてのセツルメントはイギリスのトインビーホールを以て嚆矢とされているが,我が国では大震災後に出来た東大セツルメントがはじめであろう。セツル運動の性格を明かにするために,それが出来たいきさつを同じく十二年史によつてたどつてみよう。
 関東大震災直後は東大構内にも数千の避難者が溢れ,それを救援するために学生有志からなる学生救護団がそのことに当つたが,更に上野公園に集つた1万の避難民の窮状が伝えられるや,学生の心情は末弘巌太郎教授を動かし,下谷区役所,上野警察署と交渉の末,公園内にバラツクを建て食糧の配給,情報局の創設,防疫活動等に身を以て当り,震災救援活動に大いに貢献したと記されている。

座談会

公衆衛生と社会保障

著者: 曾田長宗 ,   牛丸義留 ,   館林宣夫 ,   遠藤朝英

ページ範囲:P.33 - P.44

 貧困と疾病との関係がまことに密接である如く,公衆衛生と社会保障のつながりも,密接である。しかも国民皆保険を前にしてその関係は複雑な問題を含んでいる。
 どのようにつながつていかなければならないか――将来の為の現状分析を厚生省と医師会の先生方にお願いした。

原著

鉤虫の冬期集団驅虫による感染予防の効果に就て

著者: 松林久吉 ,   阿部道夫 ,   斉藤昭三 ,   伊従茂 ,   嶺崎巌 ,   川辺文夫

ページ範囲:P.45 - P.49

 鉤虫の卵及び仔虫が寒冷に対して抵抗力が弱く畑地上ではそれらが冬期に殆んど死滅してしまうものであることは既に松崎(1931)が指摘した所である。即ち同氏によればアンキロストーマ種もネカトール種も,畑地上に見出されるのは5月より12月に至る期間内だけであり,しかも11,12月の両月には極めて少数であると云う。このことから鉤虫集団駆虫は冬期に行うことが,その後の感染を予防する上に特に有効である可きことが想像されていたわけである。松崎も常々このことを筆者に語つてはいたが,特にこの問題についての報告をなしたのは昭和26年に至つてである。その前年北山は内科学会の特別講演で,冬期駆虫の重要性を強調してはいるが,自らの実験は行つていない。
 鉤虫の集団駆虫に関する報告は多数にあるが,特に冬期の駆虫を主眼とした研究報告は小宮等のものだけである。松崎もまたこの点に主力をおいて研究を行つているが,その詳細な報告に接しない。

勝田市を中心とする職業別鉤虫並びに蛔虫の淫浸状況

著者: 梅谷勇一 ,   兼先浩一

ページ範囲:P.51 - P.54

1.まえがき
 職業別鉤虫並びに蛔虫の淫浸状況についての報告は割合に少く,而も,農家,非農家に分けて観察した報告が大部分で,殊に茨城県に於いては,これをみないので,我々は,茨城県勝田市の工業農業,商業及び日立市の鉱業の各職業別の鉤虫並びに蛔虫の淫浸状況を調査したので,これを報告する(勝田市は,茨城県北に存在し,水戸市より4km北にあり,日立製作所水戸工場及び日立工機株式会社の数個の地域に亘る社宅集団を中心にして発達した勝田町に隣接の農村を合併して,昭和29年11月市制施行した田園工都で,土地は平坦である)。

石灰窒素のレプトスピラに対する作用(Ⅲ)—シアナミド,生石灰及びカーバイドのレプトスピラ殺滅作用

著者: 山地幸雄 ,   志波剛 ,   石関忠一 ,   小嶋秩夫 ,   八田貞義

ページ範囲:P.55 - P.58

 前報1,2)までにわれわれはLeptospira ictero-haemorrhagiae,及びLeptospira pyrogenesの試験管内培養液に石灰窒素を加えると,レプトスピラが消失し,石灰窒素のこの作用には該肥料中のカルシウムシアナミド,及び生石灰が関与すると推定した。そして更に一部の人々により考えられた石灰窒素より青酸が生ずる,との説を否定する結果を得,また石灰窒素の分解過程に生ずるグアニルシアナミドには,殺レプトスピラ作用はないと認めた。
 今回は上記の推定を実証するため精製シアナミド,及び生石灰の殺レプトスピラ作用について実験を行ない,更にカーバイトの殺レプトスピラ作用について検討を加えた。

腐敗アミンと食中毒との関連に関する一考察

著者: 岩本多喜男 ,   飯田広夫 ,   安藤芳明

ページ範囲:P.59 - P.61

 腐敗アミンと食中毒との関連については,古くから種々論議されているが未だ不詳な点が多い。古くはプトマインとよばれたある種の中毒性物質の存在も現在では一応否定されているが,近年我国では腐敗アミンについての研究が進み,中でもヒスタミンを中心とする食中毒については,宮木1),河端2)らによつて漸次解明されつつあり,又三沢3)らは仮性アレルゲンとしてTrimethylamine,Choline,Neurineなどをあげ,小笠原4)は赤痢菌による疫痢の発症の外因として各種のアミンをとりあげている。
 又昭和30年の夏期に全国的に多発した「いか中毒」の原因については,各方面で検討していたが,玉利,岡田,柳沢5)らは構造未知の有毒性アミンを抽出してこれを原因物質と推定している。この様に一部は解明されたものもあるが,大部分は未知であり,たとえ検体中から中毒性アミンが検出されても,その量が極めて微量であつたり,検体そのものの摂取された食品との異同が疑問視されたりして,容易にその原因がつかめないのである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら