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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻11号

1958年11月発行

雑誌目次

特集 地区組織活動・1

地区衛生組織活動の沿革と動向

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.573 - P.580

まえがき
 ちかごろ公衆衛生の領域で地区組織活動について議論される機会が非常に多くなつた。地方の公衆衛生に関する学会や講習会はもとより,中央の学会や大会でも,研究発表,シンポジウム,特別講演などいろいろな形でこの問題がとり上げられ恰もわが国の公衆衛生は地区組織活動のブームを現出したかの感が深い。このような現象は,戦前には見られなかつたことであり,公衆衛生が「健康のための地域社会の組織的な努力」であつてみれば,地区組織活動こそはその中心的課題でありこの問題が関係者の関心事となり,真剣な討議の対象となつてきたということは,実はわが国の公衆衛生が,漸く新しいれい明を迎えようとしているとも考えられるのである。
 イギリスやアメリカについてみると,18世紀の末から19世紀にかけての多くの熱烈なボランテイア達の組織活動が,地方衛生委員会から中央の衛生行政組織へと発展し,今日の公衆衛生の輝かしい成果を収めている。これに対して,わが国の公衆衛生はこれとは逆に,出発の当初からもつぱら中央集権的な行政に支えられて来たことを考えると,最近における地区組織活動の抬頭は,ともすれば黄昏論の唱えられるわが国の公衆衛生の将来に明るい希望を抱かせるものといわなければならない。

米国における地区組織活動

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.581 - P.584

 米国のCommunity Organizationが日本の地区組織活動と同じものだというわけにも行くまいが,一番似たものをとるとこれになる。このCommunity Organizationにも色々あるようだが,始めにその1例を紹介しよう1)

中共の地区組織活動—カ・ハエ撲滅運動からみる

著者: 大鶴正満

ページ範囲:P.585 - P.588

 1957年5月から6月にかけて,筆者は第2次の訪中医学使節団の1人として中共へ渡り,その新しい医学や公衆衛生の動静に少しく触れる機会を得た。一行中での筆者の役割はマラリアの専門家ということで,各地でマラリアやその伝播ハマダラカに関する数回の講演と座談会を持つことになつた。分担した仕事の性質上,わが国にも宣伝されている例の中共のカ・ハエなど撲滅運動の実際を旅の先々で出来るだけ見聞することに勉めてみた。もとより接触や観察の範囲は自らかなり限られていたのであるが,かかる方面からみた中共の地区組織活動について次に所感を述べてみたい。

地区衛生組織の社会学的分析の一事例—金子村の調査より

著者: 柏熊岬二

ページ範囲:P.589 - P.598

I.調査の趣旨と作業仮説
 この調査は国立公衆衛生院の昭和31年度,第13回衛生教育学科,並びに第1回保健指導学科・衛生教育コースの合同教科課程の一環として組み入れられ,社会調査と,地区組織活動(Community Organization)の実習を兼ねて行われたものである(注1)。
 従つて,調査の第1の目的は,上記学生に社会調査の方法と技術を体験的に習得させ,同時に,地区衛生組織を育成する場合の視点と云うべきものを把握させることにあつた。そこで調査内容はあらゆる側面を網羅した包括的なものとなつている。

原著

宮入貝(日本住血吸虫中間宿主)の生物学的研究—IV.自然界に於ける宮入貝の生態観察

著者: 菊池滋

ページ範囲:P.599 - P.603

緒言
 日本住血吸虫の中間宿主である宮入貝の棲息地域は一定の範囲に限局されているがこれは宮入貝の生活環境に対し種々複雑な要因があり,簡単に判断するわけにはゆかないがとりわけ地質,地形地相,土壌,水路,気象との関係が大いに影響しているものであることはさきに指摘しておいたがこの外の要因として貝の習性が大きく関係をなしている。
 従来自然界に於ける貝の生態観察に就ての詳細な記載は極めて少ないので著者は山梨県に於て長年貝の生態について観察して来たがその成績の一部即ち棲息場所,温度,棲息状況,環境の変化等についてはさきに報告したが今回更にひきつづき棲息地の植物及び動物相,冬眠の状況,産卵,貝の発育等につき報告したい。

工場結核の様相

著者: 玉井良男 ,   古城朝彦 ,   宮崎誠一 ,   小島敏郎

ページ範囲:P.604 - P.612

 最近B.C.G.管理,社会情勢の好転から初感染発病が減り,既陽性者からの発病が増えた事,化学療法の進歩により職場に於ける復職者が多く見られ,これは喜ばしい事ではあるが耐性菌の問題が新しい「テーマ」として取上げられつつある。
 我々は南九州の某工場に於て,昭和23年から30年迄8年間,以下の項目について検索した。その一端を述べて御教示を仰ぐ次第である。

九州における鉤虫の分布について

著者: 牟田口利幸

ページ範囲:P.613 - P.616

 戦後の九州における腸管内寄生虫ことに鉤虫については,宮崎ら(1948),永吉ら(1951-2),古賀ら(1951-5),山口ら(1951),岡部ら(1952-5),小村(1952),有田ら(1955),大鶴(1953),河野(1953),大場(1955),小牧(1957)など諸氏の報告がある。九州の鉤虫種別分布に関しては,永吉らが宮崎県南部の広範なる地域で,小牧が宮崎県中部,宮崎らが鹿児島県,古賀らが福岡地方,山口が久留米附近,大鶴,河野,大場が福岡県の炭鉱地方で調査したところでは,おおよそ九州の北部はズビニ鉤虫が優占的に分布し,南部ことに温暖な宮崎県の南部地方にはアメリカ鉤虫が圧倒的に蔓延し,またブラジル鉤虫も寄生していたことが判明した。
 著者は,昭和26年3月以降,九州の環境を異にする数地区(都市,農村,漁村および炭鉱地区)の住民を対象にStoll法の検便につづく集団駆虫,屎便培養などを施行し,鉤虫の感染経路を疫学的に追求してきた。今回はそれらの資料を基として,九州における腸管内寄生虫,特に鉤虫の分布状態について報告する。

粉塵吸入実験に関する基本問題(1)—粉塵発生器の種類について

著者: 近藤東郎

ページ範囲:P.617 - P.621

 粉塵問題は最近空気汚染ということが喧しく論じられ始めたので,急速に一般の関心を惹くようになつたが,実はそれ以前から常に産業関係者を悩ましているものであつた。労働衛生学の中で大きな比率を占める産業障害の多くが粉塵によつておこる。その種類は産業方法の発達と共に増加こそすれ,決して少くはなるまい。そして,粉塵によつておこる産業障害の中でも特に中毒に関する研究は現在迄に甚だ多く,その研究法も産業現場調査法と実験研究の二方面よりとられている。前者では過去に於ける他要因を無視した純医学的調査法から社会環境までも加味した所謂疫学方式に変化して来ている。これに反して後者に於いては特に吾国では未だに中毒発現の被毒方法として経口,皮下,吸入法の中で前2者を用いて研究が行われている。これは方法として比較的簡便且毒物量を一応正確に体内に注入しうること,及び急性実験の行えることによる為であろう。実際,著者の経験から云つてもガス吸入実験は別として粉塵吸入実験は実験技術上の制約から予想外に長期に亘るものとなる。この意味からも実験開始前に於いて使用動物,指標とする生体症状について充分吟味する必要が出てくる。
 さて究極に於いてこれら3法による症状の差はないのであるが,中毒発現過程での極めて微妙な反応形式に関しては投与法間に明かに差のあることが既に著者の教室に於いて確かめられている1)2)

青酸ガス燻蒸による船舶内のねずみ族駆除について

著者: 前田弘近 ,   豊増勝萬 ,   玉ノ井恒

ページ範囲:P.622 - P.625

 外航船舶は国際衛生規則によつて,ペスト予防の見地から,ねずみ族の駆除を施行しているが,現在では,二酸化硫黄による少数の国を除いて,大部分の国は青酸ガス燻蒸による方法を採用している。我国においても,戦後は専らこの方法を用いているが,青酸ガスは生物に対して猛毒を有するので,燻蒸作業に当り,これが取扱に細心の注意を要するは勿論,ガスの船内における拡散,浸透及び吸着の状態,ねずみ族に対する作用並びに燻蒸後のガス換気等についてよく理解し,ねずみ族駆除の目的を達すると共に危害の防止に当らねばならない。

東京都内のある市場に棲息するねずみについての調査研究

著者: 福井正信

ページ範囲:P.626 - P.629

 1956年2月より1957年2月迄の間,都内某卸売市場において都衛生局虫疫課及び市場当局によりパチンコ式捕鼠器を用い鼠の駆除作業が行われた。当研究室ではその全屍体を解剖し捕獲数の月別推移,性比,妊娠率,胎児数,体重及び内部寄生虫を調査したのでその結果を報告する。
 本文に入るに先立ち終始御指導を頂いた佐々学助教授に深甚の謝意を表し,材料を提供頂いた東京都衛生局虫疫課及び市場当局,材料の処理に御協力下さつた当研究室佐藤金作氏に感謝の意を表する。

東京都下利島に於ける蝿・蚊の季節的消長に関する研究

著者: 平川達

ページ範囲:P.630 - P.635

I.緒言
 伊豆七島方面には,かねてから2つの主要なる風土病,即ちフィラリア症と所謂八丈デング(現在の七島熱)の存在が知られていたが,戦後,八丈島を中心に活溌な医動物学的並びに疫学的の調査研究が行われるに及んで,之等の疾病に対する幾多の新知見が齎されるようになつた。
 しかるに従来調査の対象となつた島々は,比較的交通の便に恵まれ,且つ現に之等の疾病の蔓延度も高いと目されているところである。従つて,交通上のみならず種々の点で不便な利島は,これ迄特殊の疾病の報告もない為に,斯様な調査は池田氏等(都衛生局,1955)の恙虫に関する調査以外には,行われていなかつた。著者は,農村厚生医学的見地から,1956年3月から1年間,先ず蝿・蚊及びフィラリア仔虫に関する医動物学的調査を行つたので,茲に得られた若干の成績について報告する。

文献

欧州における老人衛生,他

著者: 西川

ページ範囲:P.580 - P.580

 人口の10%以上が65才以上の老人によつてしめられる国の多い欧州の国々では,老人衛生を重要視しており,この面の研究業績も数多く発表されている。わが国でも漸く事の重大性に気付き,国家老人年金,老人福祉施設に関して当局も強い関心を示してきた。この著者は老人の保健,福祉に関して欧州における研究状況と実施状況を伝えている。
 Van ZonneveldはオランダのNational Health Research CouncilのGerontology部委員であり,以前より老人の健康調査等で同国の老人衛生の全般的企画として,フランスのHeutプランを推奨している。この計画は欧州各国の大部分で承認され,実施されているものである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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