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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻12号

1958年12月発行

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特集 地区組織活動・2

地区組織活動と技術

著者: 鈴木猛

ページ範囲:P.637 - P.641

 私はもともと公衆衛生全般についての知識も浅く,又,衛生教育といつた面についても全くの素人である。ただ,殺虫剤を専門に研究している関係上,ハエや蚊の駆除運動の現地をしばしば訪れ又これに関して地区の組織活動にも接する機会が多い。幸いここに紙面を与えられたので,害虫駆除という狭い観点からではあるが,地区組織活動と技術について,平素考えていることを述べてみたい。

"パキスタンの地域社会開発事業—特に農村開発事業(Village AID Piog amme)について

著者: 橋本道夫

ページ範囲:P.642 - P.646

地域社会開発事業の歴史的背景
 1947年インドとパキスタンの分離はこの新しい国の独立の始まりである。700万という多数の民族移動が数々の流血の事件と暴動の中に両国の間に行われた。
 宗教の違いというものはかくも深い対立を招くものであるとはおよそ日本人の私達にとつて想像も出来ないものであつた。その結果西と東に数千粁をへだてて7,600万の国民をもつ回教国パキスタンが生れたのだ。独立の後に来たものは極度の貧困(1人当年間所得は日本の約1/3)と,疫病と8割をこえる文盲と又家を失つた難民の問題であつた。この中から独立国家としての新しい国造り(イスラム社会主義と彼等は言つているが)を目指している。彼等の言葉を貸りるならば"人民のための,人民の手による綜合開発事業……最も力強い最も金のかからない恒久的なしかも地味な開発方法"が今ここに説明しようとする"Community Development(地域社会開発事業)である。これによつても現在日本で叫ばれている地区組織活動と全く異なつた背景のもとにこの事業が開始されたことが理解できよう。

対談

地区組織活動について—衛生の立場から聞く

著者: 宮坂忠夫 ,   橋本道夫 ,   早崎八洲 ,   大志萬準治 ,   矢口光子

ページ範囲:P.648 - P.657

 われわれの仕事の立場ではなくて,毎日の生活を中心にして考えてみると,これは衛生だ,これは生活改善だ,これは社会教育だという工合に,みごとに分類されているわけではない。そこには,いろいろなものが混然としている。
 また,どちらかといえば衛生に重点がある面も,それだけ孤立しているのではない。必らず生活の他の面と,密接に結びついている。例えば,家庭経済家族関係など。
 そこで,衛生の向上を目的にする仕事も,他の関係部門の仕事と協力・協調すればするほど,相互の効果があがろうというのである。それには,まず,他の部門を理解することが必要であろう。今までにも,相互の立場や基本的な考え方がわからぬために,あるいは誤解していたために,つまらないゴタゴタが少なくなかつた。
 この対談の企画は,衛生に関係のある社会福祉,社会教育,生活改善について,よりよく知るために行われたものである。対談の中心的な問題としては前号で特集された「地区組織活動」を頭にえがきながら,話を進めたつもりである。
 なお,編集部からの依頼により,きき手としては厚生省公衆衛生局保健所課の橋本道夫技官と私とがあたり,毎回2人とも出席したが,橋本技官は主として社会教育関係を,私は社会福祉と生活改善とを受け持つた(宮坂)。

綜説 各国の保健所

英国における保健指導

著者: 宇留野勝正

ページ範囲:P.658 - P.661

A.英国の公衆衛生事業
 日本の公衆衛生事業は主として,保健所を中心に行われているが,英国ではこれと違い日本の保健所の仕事にあたる事業は2〜3の施設に分かれて行われている。即ち直接臨床に関係のある事業(日本の保健所の予防課の事業)と間接的保健事業(日本の保健所の環境衛生に関する事業)とは全然別個に行われているのであつて,その間の説明のために先ず関係法律と所属官庁の事業分担について述べてみることとする。

西ドイツの保健所

著者: 額田粲

ページ範囲:P.662 - P.666

I.保健所の概要
 ドイツの衛生行政機構についてはすでに本誌第21巻第5号(昭和32年5月)に述べたので,詳細はここに省略する。要するにドイツの機構では衛生行政は州,特別市,或は下級自治団体である市町村等地方自治団体にその全権がゆだねられて居り,中央の連邦(Bund)の権限は日本やフランスのように強くない。
 ドイツの保健所(Gesundheitsamt)は元来は全部国立staatlichであつた。そして現在でもその名残りは残つていてBaden-Wurtemberg,Bayern,Niedersachsen,Rheinland-Pfalz州には国立の保健所がある。このような国立の保健所の場合には全く一個の独立官庁であつて勿論地方団体の監督は受けない。しかし現在ではこのような国立の保健所は減少し,地方自治団体の設立するものが次第に増加している。Hessen Nordrhein-Westfalen,Schleswig-Holstein州ではすべて地方団体設立の保健所である。このような地方団体の設立による保健所は日本とは違つて完全に市役所の一部局になつているのが普通である。

ゴキブリの駆除対策

著者: 井上義郷

ページ範囲:P.667 - P.672

I.ゴキブリの害虫化について
 ゴキブリは俗にアブラムシとも呼ばれ,直翅目,ゴキブリ亜目に属し,わが国に分布を記録されているその種類は,琉球,小笠原諸島のものまで含めますと5科22種となります。そのうちの大部分の種類は野外に棲息しているもので,われわれの生活と直接的な関係をもちません。事実上衛生害虫として問題となる種類は,ビルの事務室や飲食店などで広く見かけられる黄褐色で小型のチヤバネゴキブリと一般家庭の台所に多い黒褐色の大型の種類です。これには2種類あつて関東以南に主な分布を示すクロゴキブリと,関西から北で秋田県附近まで知られているヤマトゴキブリです。なお,地域によつてはワモンゴキブリも注意さるべき種類となります。
 これらのゴキブリは,いままで,衛生害虫として一般にはあまり問題とされていなかつたものですが,最近,非常に注目されるようになつてきました。特に,近代的な設備を具えた都市のビルや鉄筋アパートでは,ハエや蚊よりも,むしろ,このゴキブリが重要な害虫として登場してきております。その問題点を,まずはじめに,考察することが駆除対策を立てる上に重要だと考えられます。

原著

九州,北海道等の炭鉱從業員寄生虫相の比較研究(第6報)—北九州の炭鉱における主要寄生虫の年令分布等について

著者: 佐々学 ,   林滋生 ,   白坂龍曠 ,   三浦昭子 ,   佐藤孝慈 ,   福井正信 ,   長田泰博 ,   矢沢庄三

ページ範囲:P.673 - P.678

 我々は三菱鉱業健康保険組合に所属する炭鉱従業員の寄生虫相についてすでに報告したような観察をつづけて来たが,今回は主として北九州の筑豊地区従業員の家族について,前回と同様の方法で寄生虫検便を行つた成績をまとめた。
 なお,今回の検査対象には直接被保険者,即ち従業員はふくまず,その家族だけで,従つて青壮年層は女子が大部分を占めている。従業員の検便は全事業所とも前年度に終了し,家族については今回は筑豊地区(古賀山,勝田をふくむ)だけで,来年度以後に島地区,北海道地区の家族が予定されている。

海水浴場の細菌檢査に対する1考察

著者: 坂野薫 ,   上野武 ,   長信良 ,   鈴木五郎

ページ範囲:P.679 - P.682

 海水浴場の細菌検査は,その対象が,プール,公衆浴場等と異り,海水そのものが動的なものであるから,その検査法や,得られた結果に対する考察も,何らかの考慮が必要と思われる。著者等は昭和31年7月から9月にかけて,毎日,定時連続観測した結果,これに対する考察について,以下に記すような方法をとつてみた所,次のような知見を得たので,ここに発表する。
 観測位置の設定は外洋水,内湾水の流入がよく行われ,附近の汚染源に直接影響されないと考えられる場所で,風雨等でも観測が出来る位置を選沢した。尚,この選定は神奈川県水産試験場の今までの観測結果に基いたものである。

教室内における学童の語音明瞭度におよぼす騒音の影響

著者: 芦沢正見 ,   山川和彦 ,   河村正三

ページ範囲:P.683 - P.685

 昭和32年3月13日,東京都中央区立某小学校第5学年の1クラス38名の児童に対し,騒音が語音明瞭度におよぼす影響について実験を試みた。

ハイアミンによる含嗽効果—猩紅熱及び流行感冒の予防

著者: 木村光雄 ,   奥村武 ,   佐藤信義 ,   富永良橘 ,   金子健太郎

ページ範囲:P.687 - P.695

I.まえがき
 先に第47回日本内科学会九州地方会および第31回日本伝染病学会総会において,咽頭溶連菌の消長を中心としてみた2,3薬剤の含喇効果について発表し,更にその詳細な報告1)を公にしたが,今回,昭和32年4月18日より5月14日に至る27日間に,23名の狸紅熱患者の発生を見た福岡市今宿町において,前回と同様にハイアミン含漱錠を使用し,猩紅熱の流行に対してのみならず,たまたま時を同じくして続発を見た流行性インフルエンザに対する含嗽効果について1,2の知見を得たので報告する。

文献

英国Birmingham地区の集団X線撮影,他

著者: 小泉

ページ範囲:P.666 - P.666

 英国Birmingham地区での1952〜56年の集団X線撮影の結果が報告された。この論文は,著者自身の言によれば,何も新らしいことがらやユニークな方法を述べたものではないが,1病院地区(Hospital region)で集団X線撮影がどのようにして展開されたか,そしてそれが結核のCase-findingにどれだけ貢献したかについて記載されたものである。
 5年間に,毎年1,000例以上の活動性結核が発見され,有病率では1,000対3〜4である。有病率が高いグループについての集団X線撮影の重要性は増大しつつある。1956年には呼吸器結核で訪院した症例の30%は集検の患者であつた。装置としては,100ミリの常設X線撮影ユニツトと,軽量で可搬式のユニツトをくみあわせて用いた。常設の方は産業地域の主要病院において,一般医からの紹介者,接触者,自発的に来訪する人,ツ反応陽性児童を対象とし,可搬式のは地域内の要望に応じあるいは有病率の高い地域に向けて活動するという方法をとつた。病院を中心とした地区の集検という点で興味ある文献であろう。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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