綜説
疫学調査について
著者:
乗木秀夫1
所属機関:
1日本医科大学衛生学教室
ページ範囲:P.65 - P.69
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現在,疫学調査について,方法論的な検討が真面目にとり上げられて来ているが,考えてみるとちよつと変な感がする。確かに,方法論として,一つの現象を如何なる方法をもつて解釈してゆくかと云う面もある。現在,広く用いられているマスターテーブル,一次発生に対する潜伏期の算出,曝露時の推定,家族集積性の検討などは,疫学調査に対する方法論的前進であろう。しかし一方,その結果を導き出すためには,その方法で充分であつたかどうかと云う意味の方法論的検討もあると思う。本題目の疫学調査については,この後者の問題を取上げる。その理由は,現在の疫学調査が,既に多くの報告がある伝染病から,新しく開拓しなければならない非伝染性或は慢性の疾患にまで,進展しつつあるので時には思わぬ誤りをおかすことがあると考えるから。
一体,疫学と云う言葉,統計と云う言葉,数字で表わすと云うこと,これ等は全く混同されてしまう。疫学とは何か,私自身疫学的研究と云う言葉を耳にするとき,統計的研究とか,数的検討とかにおきかえてみて,おかしくないと云う疑問に感ずることがある。或る集団発生或は多発事例の調査で,その病原的部門を取り去り,その臨床的部門を除いたあとの雑とした資料を漠として寄せ集めたものが,疫学部門に取上げられているかの如き錯覚に落入ることすらある。