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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻3号

1958年03月発行

雑誌目次

特集 子供の衛生と人間形成 綜説

母子衛生に望むもの

著者: 斎藤文雄

ページ範囲:P.117 - P.119

はじめに
 昭和10年以前の母子衛生と昭和10年以後わけても最近の10年間の母子衛生とを比較してみる時,われわれはその発展のすばらしさに頭が下る思いである。妊婦死亡の漸減,乳児死亡率の低下何れもその成果を物語つているが,今日の母子衛生は単に病気を予防するとか,分娩の合併症を少くするとか,母子の死亡をくいとめるとかいうような医学の本質的な目的に副つて押し進めてゆくだけでは間に合わなくなつて来た。わが国のように母子衛生がおくれて発達した国では,まだ医学面の仕事だけでも負け惜みをいえば開拓の前途洋々たりで,まだ完全な姿で発展したとはいえない現在である。WHOのきめた健康とは身体的なwell-beingであると共に精神的にも,社会的にもwell-beingでなければならないとされている。そうすれば頑強な身体をもつ子供はそれだけでは健康とはいわれない。もしその子が家庭的に或いは社会的に適合しない性癖を持つているとしたら,その子はたとえ頑強な身体の持主であつても不健康児の烙印を押さなければならない。即ち今日の母子衛生は多分にその個人のおかれた社会環境,家庭環境においての人間関係に立脚した健康という考え方が必要であり,そこで始めて母子衛生の真髄にふれてくると思われる。現在のわが国としては目的は遠いかも知れない。しかし,この10年間のすばらしい努力に弛みがないものとしたら必ずしも遠い目標ではない。

母子衞生のあゆみ

著者: 若松栄一

ページ範囲:P.120 - P.123

おいたち
 まだ日本の乳児死亡率が現在の4倍も高かつた頃,大正5年に政府は乳幼児及び青壮年の死亡改善のために保健衛生調査会を設置し,大正11年には我国の乳児死亡を減少させるための方策如何という諮問が出され,それに対して特別委員会を設けて調査審議した結果「差当り須要都市に小児健康相談所を設置すべし」との答申がなされた。現在788カ所の保健所を整備した偉容と思いくらべると今昔の感なきを得ない。それにしても母子衛生はどうして育つて来たろうか。
 昭和12年に保健所法の制定により,保健所が保健衛生サービスのセンターとして発足したわけであるが,当時多くの保健所が簡易保険の健康相談所から転換したため結核の相談のみが主として行われ,母子の保健指導は仲々進展を見なかつた。当時満洲事変に始まつた戦争が拡大するにつれて,生めよ殖やせよの掛け声をバツクにして母子の保健指導が取りあげられた。即ち昭和15年に制定された国民体力法に基づいて人的資源の培養策としての青少年の体位の向上が打ち出され,その一環として乳幼児の検診,保健指導が実施されることになつた。16年には人口対策確立要綱が国策として定められ,乳幼児から更に妊産婦の保健指導をも行うことになり,17年には妊産婦手帳の制度が始められるに到つた。しかしながら末端行政機構も技術者のサービス網も整備せずにそういう施策が徹底するはずもなく,かつ又大平洋戦争の非勢と共にすべてが壊滅に帰してしまつた。

新しい児童学の提唱

著者: 竹内薫兵

ページ範囲:P.124 - P.128

 児童学(Pädologie)と云う言葉は,しばしば教育学(Pädagogie)と誤られる。また時として,小児科学(pädiatrie)と混同せられる。児童学には教育学も医学も包含するから,教育学小児科学ともに児童学の1部分であるに過ぎない。児童学即教育学乃至小児科学と曰うは当らない。しからばこの児童学と云う言葉は誰が称え始めたかは明かでない。倉橋惣三はドイツの某学生がその卒業論文(Dissertation)にこの言葉を用いたのが始めだと述べたが,私は可惜その文献を焼失した。
 内容的に観ると,われわれの児童学研究を対象とする学問は,現今に於ては非常に広い。あらゆる科学,それらのみならず,芸術,宗教,哲学を含めての文化的問題が,凡そ,事児童に関する限りに於て児童学研究の対象である。従つて,児童を生物学的に観る医学即ち小児科学は,その生理部門,病理部門と共に,正常児,異常児の研究も等しく重要視せられる。同じ比重に於て,心理学,教育学,絵画,音楽,宗教等が好題目となる。現にわが日本児童学会に於ては,戦後浮浪児問題で逸早く意見を発表した。児童福祉法の敷かれるよりかなり以前に児童福祉のための法的処置を要望した。戦後,教育の混乱期にまた意見を公にして適正なる帰趨を知らしめようとした。その他児童の牛乳問題,歯の問題,学校衛生問題,童話,絵本,玩具,学校劇など繰り返し研究せられて,また研究せられつつある。

新産児衞生に望むもの

著者: 八木日出雄 ,   斉藤浩

ページ範囲:P.129 - P.132

 近年公衆衛生の普及,各種抗生物質の進歩と共に,老人病の研究への関心が深まつた為に,我が国の平均寿命は著しく延びた。この蔭には一面,戦後に於ける乳幼児死亡率の著しい減少を見のがすことは出来ない。然しながら,戦前,戦後を通じて依然として減少傾向を認め難い,この医学の進歩にとり残されたものの中に新産児死亡があることを忘れてはならない。
 殊に生後5日以内に死亡するものは1949年の本邦統計によれば,全出生児の1.14%に当り,

フランスに於ける母子保護

著者: 山本高治郎

ページ範囲:P.133 - P.137

 フランスは出生率の低い国家として知られているが,1941年人口1,000に対し13.1と云う最低の数字を記録して以来,徐々に上昇の傾向にある国家である。1955年その数字は18.5となり,同年の日本の19.4と比肩し得る処に迄到つている。我が国が人口過剰に悩んでいるのに対し,この国では人口の寡少を歎きとしている。従つて彼我の間に母子保護政策の著しい相違の見られるのは当然である。ここに若干の頁をかりて,この国の母子保護政策と最近の実状とを伝えたいと思う。

母子衛生を主とする地域組織(愛育村)について

著者: 広瀨興

ページ範囲:P.139 - P.142

 厚生省の調査やその他によつて,私は母子衛生を主とする地域組織は,現在,全国に約2千5百カ所くらいあると推定しています。その中には在来の婦人会の活動程度のものから,本格的に細胞組織を編成し,その地域の隅々まで水ももらさぬようがつちり網を張り,しかもその活動も母子衛生推進のため必要な各種の事業例えば環境衛生,生活改善,購買協同組合など綜合的事業にまで手を延して活動している地域もあります。

肢体不自由児の問題

著者: 小池文英

ページ範囲:P.143 - P.146

1.対象児童の数と種類
 肢体不自由児とは「肢体の機能に不自由なところあり,そのままにては,将来生業を営む上に支障を来すおそれのある児童」であると定義されている。要するに,種々なる整形外科的疾患(外傷や先天性奇形を含めて)のために四肢や体幹などの機能に支障を来し,それが社会生活(広義の)を営むのにハンデイキヤツプとなつているか,又はなるおそれのある児童を指すわけである。
 ではこのような不自由児の数は全国でどのくらいいるであろうか,というとこの点正確な数字を把むのがなかなか困難である。というのは,不自由となる身体の部位が広い範囲にわたるので見落し易いという点,その原因も種々雑多で単一でなく,且つ年令層によつて異つた様相をとるので,或る特定の年令児を限つて調査を行つてそれを全年令層に引き延すことが出来難いという点,更にまた従来「不具」とか「片輪」と呼ばれていて蔑視の眼でみられていた結果として家人が極力世間の目にふれぬように隠そうとする傾向があることなどが原因として挙げられる。

愛知県における身体障害児対策—巡回療育相談を中心として

著者: 千種杏三

ページ範囲:P.147 - P.153

まえがき
 愛知県は名古屋市を中心とする尾張平野,その東方の三河平野,その北方の三河の山地,知多半島,渥美半島に大別される。人口は約380万,年間の出生数は約6万5千である。豊橋市,蒲郡市岡崎市,安城市,刈谷市,名古屋市,一宮市と国有鉄道東海道本線が走り,その他中央線,武豊線飯田線があり,なお名古屋市を中心として名古屋鉄道,近畿日本鉄道の交通網が発達し,尾張平野,三河平野は交通が便利であるが,南設楽郡,北設楽郡,東加茂郡,額田郡等三河の山地は交通は比較的不便である。
 県下の保健所は名古屋市内に名古屋市の設置するものが12,その他の地区に県の設置するものが23,計35であり,その外に6カ所の保健所支所がある。

市町村における母子衞生の動き

著者: 浅野一雄

ページ範囲:P.154 - P.160

1.はしがき
 従来,母子衛生活動は保健所における公衆衛生活動の重要部門として実施されているのであるが健康な母親が健康な子供を産み,そして丈夫に育てるという母子衛生の根本理念にたちかえつて考えてみる時,伝染病の予防方策の如く社会防衛的な緊急性にこそ欠けているが,国民保健の基盤をなしているという点に於いて極めて重要な課題であることは今更ここに詳しく述べるまでもないであろう。
 従つて,真に母親と子供の幸福と福祉のためには更に一段と母子衛生施策の進展をはからなければならないが,これがためには妊娠中における母体の心身の変動,旺盛な子供の発育過程を通じて現在より以上に頻繁な観察と指導を加えなければならない。しかし,これは現在の行政機構とその人員をもつてしては言うべくして行い難く,又反面,色々な意味で家事に追われて多忙な母親がその大部分を占めている我が国の現状からもいかに子供のためとはいい乍ら,少くとも外観的には健康だと思われる状態(子供特に乳幼児に於いては病識がなく,又仮令あつたとしてもその表現が充分でなく,素人の目から正常と病態との差がつくことは非常に少い)に於いて再々保健所に通わせることも実態的には仲々困難である。

原著

保健所における乳児指導の考察

著者: 山下章 ,   池田絹子 ,   樋代匡平

ページ範囲:P.161 - P.164

 保健所で行つている数多い公衆衛生事業の中で母子衛生指導は最も重要なものであるに拘らず全般的に比較的活溌でないのはどうした訳であろうか,色々の理由はあろう。しかし何と云つても根拠になる法令の稀薄であることが第一の原因であろう。そのために予算も少い人手も足りない。従つて重要とは知りつつも,つい後廻しになると云うことではなかろうか。
 私共はこうした逆境の中にあつても強く方針を打ち立てて皆で協力してやればどの位まで出来るものかやつてみようと考え昭和31年11月から先ず乳児指導に重点をおいて始めた。勿論四谷保健所管内が人口54,000人,面積3平方粁と云う恵まれた環境にあることが,私達にやれば出来ると云う自信を与えていたことは否めない。

新生児出血性疾患の予防に関するビタミンKの妊婦集団投与成績(特に未熟児に対する効果)について

著者: 小糸賢太郎 ,   竹内欣一 ,   渡部恒雄

ページ範囲:P.165 - P.168

緒言
 昭和28年第5回中国・四国小児科学会に於いて,愛媛県周桑郡に於ける乳児死亡率をα指数より観察し,新生児対策が母子衛生の重点課題であり,新生児期では生後2,3日以内に起る血液プロトロンビン濃度の低下による出血性疾患乃至その潜在型が死亡率,脳障害の発現その他に相当影響を及ぼしているのではないかと想像した。
 分娩直前の妊婦にV・Kを投与することによつて新生児の血液プロトロンビン濃度が上昇することは既に証明されており,之を公衆衛生の面から集団的に投与して新生児出血性疾患を予防しようと試みた余等は,同郡に於ける昭和28年9月以降30年8月までの成績を第7回中国・四国小児科学会に於て中間報告済である。

健康診断と保健所

著者: 野尻与市

ページ範囲:P.169 - P.170

 ある教員養成大学では,入学試験と共に行う健康診断を,いろいろの理由から,部外の機関に代行してもらつている。しかし部外といつてもその実施機関には一応の制限をつけて,官公立病院,保健所,大学附属病院で受診するように指定し,検査内容も統一するため一定様式の健康診断書を入学希望者に渡し,それに記入させている。
 昭和31年度入学希望者4,375人から提出されたその健康診断書を見ると,保健所を利用した者が非常に多いこと,記入の状態が十分でないこと,などがうかがえるので,その実情を記して各種健康診断実施機関の人の参考に供したい。

文献

大気汚染物質がマウスの生殖および産仔の生存におよぼす影響,他

著者: 芦沢

ページ範囲:P.119 - P.119

 さきに著者らは実際と同じ汚染大気に成熟実験動物を曝露し,その生体反応を検討したが,対照との間に有意差を認めななかつた。(P. Kotin, and H. L. Falk;Air Pollution and Its Effect on Health,California Med. 82:19, 1955)。
 今回は生体反応を受け易い妊孕期および新産仔についてその影響を検討した。スモツグはガソリンにオゾンを作用させて発生せしめ,マウスが曝露する実験室におけるその濃度は酸化物で平均1.25ppmである。第二群はロスアンゼルス当局の資料により,その通りの濃度に空気中汚染物濃度を日別,時刻別に変えて曝露せしめた。総酸化物の最大濃度は0.4ppmである。第三群は対照群で,フイルターで除塵した洗滌清浄空気中で飼育した。実験期間は何れも19週である。1ケージには雄1雌2匹をいれ,それぞれ10ケージのマウス(C57プラツク,マウス)を以て一群とした。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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