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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻4号

1958年04月発行

雑誌目次

特集 性病予防 綜説

アメリカの性病対策

著者: 岡英彦

ページ範囲:P.173 - P.176

米国における性病行政の発展
 わが国の公衆衛生行政は敗戦を契機として大きく発展をした。GHQの指導は概して適切であつたが,時には我々を混惑させるようなこともあつた。その一つに性病行政がある。終戦直後,公衆衛生の重点を指向したのは,当時猛威を振るつた急性伝染病の防あつであつたが,この時期を過ぎた頃性病予防に重点が移されて来た。当時我々の関心は,結核とか母子衛生にあつたのにも拘らず性病行政に大きくエネルギーをさかなければならなかつたので,彼等の指導する衛生行政は,結局のところ,日本人自体のためというよりは,米軍将兵のための行政であるというように理解したことすらあつた。しかしこれはあくまで誤解であつたことが,渡米して,彼の地の性病行政を知ることによつて判明した。あの頃は性病行政が,アメリカにおける衛生行政の中心であり,性病を駆逐することに大きな努力が払われていたのである。日本と米国では,衛生行政の位相がそれだけずれていたのである。
 何故アメリカでは性病行政が大きく取上げられたか。勿論性病が米国民の健康生活に大きな脅威であつたことも事実であろうが,私はそれとともに,アメリカ合衆国という国のあり方自体に問題があつたのではないかと考えている。米国は内政的には独立した国と同じ権限をもつ州の合同したものである。従つて衛生行政も各州の権限でありその施策の方が,連邦政府のそれよりも先行し,進んでいた。

日本に於ける性病対策とその將来

著者: 田波幸男

ページ範囲:P.177 - P.180

 本年4月1日より売春防止法が全面的に施行されることになり,所謂赤線地域,青線地域等の存在が許されなくなるので,このためそれらの地域の業者の転業が社会的な問題となつているのは衆知の通りである。この転業は順調に進んでいるとはいえないけれども,種々の圧力によつて余儀なく進行していることは事実であろう。有名な名古屋市の中村遊廓,岐阜の金津園等は既に解散をしたということである。我が国では数百年の歴史をもつ集娼制度が売春防止法によつて崩れ去るのであるけれども,この後に来るべきものが如何なる形をとるかということは中々に予想し難い点もある。ある人は売春防止法は一つの風俗革命であるといつているし,これも事実であろうけれども,売春婦の発生が根本的には貧困に起因している限りは売春防止法のみによつて売春婦がすべて姿を消すとは考えられない。何らかの潜在した形で存在をつづけるのであろうが,その形を予想することがむずかしいのである。集娼制度がなくなるのだから散娼という形になるだろうということは確かであるが,その散娼がどういう形になるのであろうか。
 我が国では男子の性病の70%は売春婦から感染するといわれている。このように性病の感染源として非常に重要な売春婦の存在形態が激変するのであるから,これに伴つて性病対策も大きな変化を受けざるを得ない。

日本に於ける性病の実態—戦前から戦後へ

著者: 山本二郎

ページ範囲:P.181 - P.186

はしがき
 外の疾病の場合と同様に,性病患者が一定の期間内に一体どの位発生しているのか,又現在断面を切つた場合にどの位の性病患者があるのか,又表われてきた性病患者はどんな様相を呈しているかを推定するのは非常に困難な仕事である。表面に表われてきた数字を掴むことは易しいが,実際の数がどうかとなると人によつてその推計方法には色々のやり方があり,それらの間には相当の開きがあるであろう。
 ここでは二,三の方法について私見を述べて,日本における性病の実態を探ることにしたい。

性病予防行政はどうあるべきか

著者: 小原菊夫

ページ範囲:P.187 - P.189

 性病まん延の社会的原因は,売淫とPromiscuity(性的無規律または乱交)という二つの形式で行われる夫婦外性交である。この二つの社会悪がなくなれば,性病はまん延しなくなるわけである。しかし,道徳教育だけでPromiscuityがなくならないように,売春防止法という法律だけで売淫がこの社会から姿を消すとは考えられない。むしろ,赤線のような集娼地区がなくなれば,今の社会状態では,すべての売淫婦が散娼として衛生管理の眼の届かない地下へもぐつてしまうであろう,とは誰でも考えることである。そこで「この四月からの売春防止法の完全施行後は狂暴な性犯罪がふえはしまいか。また性病がふえはしまいか」。と,世の識者たちまでが心配するのも無理はない。
 しかし,われわれは赤線がなくなつてから後の性病の罹患率を憶測したり,そのまん延を危惧したりする前に,ここで今までの状態を吟味してみる必要がありはしまいか。

娼婦を中心とした性病の疫学と今後の対策

著者: 園田真人

ページ範囲:P.190 - P.197

緒言
 性病の蔓延は,売春と性的無規律によつて生れるものであり,これを無視して性病対策は考えられない。しかも性病は,特異な伝染型式をもち,すべての人類に免疫性がなく,接触に選択性があるなどの疫学的特性をもつている。売春の社会病理学については,古くから幾多研究され,男女数の不平等,社会機構,経済の不均衡などがその原因とされているが,これら社会的要因の改善こそ性病撲滅の根本問題であろう。
 わが国においても,売春防止法が施行されるようになり,われわれは集娼を中心とした従来の性病対策方法を反省し,予想されうる今後の変化を検討せねばならぬ時期に直面している。

アンケート 売春禁止に際して公衆衛生関係者に望む

売春防止施行に際し公衆衛生関係者に望むもの,他

著者: 大野宰

ページ範囲:P.198 - P.204

まえがき
 売春防止法に就いては賛否両論種々なる意見があつたにせよ愈々本年4月1日より完全に効力が発生した。洋の東西を問わず売春問題と性病問題とは切つても切れない関係にありながら,今度ばかりは性病問題が完全に置いて行きぼりを喰わされたという感が深い。これには公衆衛生関係者特にこれ迄性病予防の面に努力を払つて来られた方々が等しく不安の念を抱かれたことと思う。その主な原因は戦後余りにも種々雑多な型で而も夥だしく存在した売春婦の内,公衆衛生の面から見て人員管理の面が比較的容易であつた所謂赤線のみが最も大きな対象となつた処にあるようである。我が国から集団的な売春業態が消滅したことは確かに一歩前進である。然しながらそれでもなお売春婦の絶対数は減少せず,反対に性病が増加したとするなればこれは大きな社会問題となる。

原著

九州,北海道等の炭鉱從業員寄生虫相の研究(第3報)—ブロムナフトール剤及びピペラジン剤による駆虫成績

著者: 佐々学 ,   林滋生 ,   徳力久二郎 ,   白坂龍曠 ,   三浦昭子 ,   佐藤孝慈 ,   高田敦徳 ,   若杉幹太郎 ,   福井正信 ,   長田泰博

ページ範囲:P.206 - P.210

 我々は1956年10月より12月末にかけて三菱鉱業健康保険組合に所属する九州,北海道などの炭鉱従業員約3万人につき,検査材料を東京の研究室に輸送し,これに塗抹法,飽和食塩水浮游法試験管培養法の3法を併用する寄生虫検査を実施した成績を報告した1)。その後1957年3月に全地区ほぼ一斉に鉤虫及び蛔虫保有者に対して,それぞれ1-ブロモ,ナフトール(2)(オーミン・富山化学製)及びピペラジン・ハイドレート(ベキシン・田辺製薬製)を用い,集団駆虫を実施し,さらに凡そ2カ月目に再び前回と同様の3法併用検便を行つてその陰転率をしらべたので,その成績をここに報告する。

宮入貝(日本住血吸虫中間宿主)の生物学的研究—I.宮入貝棲息地の地質及気象

著者: 菊池滋

ページ範囲:P.211 - P.214

I.緒言
 日本住血吸虫病の予防撲滅に関しては年々膨大の財源を費しその撲滅を図つているが,尚依然として罹病者多数の発生を見ている実状である。果して有病地が楽土となり安住の地を得るの日はいつであろうか。現在の撲滅方針は単に予防措置を講じ流行を抑制すると云う緩慢な態度で根本的撲滅方策は樹立されておらない。他の有病地に比し山梨県はその面積が最も広大であり,単なる一時的な湖塗策では永遠に撲滅は達成し得られない。かつての有病地に患者の発生がないからと云つて決して貝が絶滅し終息したものとはいえない。万一少しでも予防措置に緩みが出るなれば忽ち再燃の兆をなし,或は元の有様になることは既に歴史の示すところである。従来撲滅事業の芳々しく進歩しなかつた一因として本病の研究が学術的研究のみに興味を持ち予防撲滅の実際方面に就ては深く追求されず,殆ど学問の外と云うふうに扱われて来た感がある。ここに抜本的な予防撲滅方策が広く研究され,実施されねば本病の根絶を計ることは至難の業である。本病撲滅の途は虫卵撒布の中絶と罹患者の完全な治療及中間宿生撲滅とにあり,この中いずれか一つが完全に遂行されればこれによつて起る新なる病気の発生は全くなくなるであろうが,このことは中々容易ではない。従つて撲滅をなす上に只一つを固執することは適当でなく,他方面に於てもこれと相平行して撲滅事業を推進して芟除につとめねばならないことは勿論である。

宮入貝(日本住血吸虫中間宿主)の生物学的研究—II.宮入貝棲息地及非棲息地の土壌形態と分析

著者: 菊池滋

ページ範囲:P.215 - P.222

I.緒論
 著者はさきに山梨県に於ける宮入貝の棲息地質は標高200〜400mの冲積層400〜600mの洪積層に大体限局して棲息し,これに接する地質は第三紀層,御坂層,輝石安山岩,花崗岩,石英閃緑岩その他の地質で標高800〜1,200m以上に及んでいる。この地域には貝の棲息は極めて少ないか又は見られないことを報告したが果してこの地質以外の地域には棲息することは不可能であるかどうか,或いは何故に棲息地域に限局して容易に拡大せぬだろうかの問題を明らかにすることは極めて重要なことである。宮入貝の棲息地域が一定の範囲に限局されていることからして宮入貝の棲息条件にも種々の要因があると思われるので簡単に判定するわけにはゆかない。とりわけ土壌と気象との関係が大いに影響を及ぼすものと考えられる。由来これ等の問題についての研究報告は極めて少なく,加藤(1940)は山梨県に於ける宮入貝棲息地帯の地質は冲積層及び洪積層に限られるとし,また広島県の棲息地の或る地域についてその地質が花崗岩,秩父古生層及びLoam層であるところには棲息は認められないと述べている。津田(1952)は山梨県産宮入貝は東京都内,神奈川県埼玉県の土でも充分飼育し産卵及び稚貝の成長も棲息地となんら変化がない。

Piperazine製剤による學校集団蟯虫驅虫の効果について

著者: 松本一男 ,   仲井正名 ,   杉野昭一 ,   大橋貞子 ,   土田龍也 ,   島崎弘郎 ,   西村和彦 ,   中野宗一 ,   久原良躬 ,   蒲生達次 ,   富山艶子 ,   森正夫

ページ範囲:P.223 - P.226

はしがき
 従来蟯虫駆除には,下剤投与法,浣腸洗腸法,肛門部位軟膏塗布法,或いはゲンチアナビオレツトのような色素殺虫剤を用いる方法等があつたが各れも不充分な駆虫効果しか認められなかつた。近年Piperazine製剤が蟯虫駆除に対して有効であることが報告せられ,我が国でもPiperazineを蟯虫駆除に用いた人々は奈良,吉松,武知,川本等多数の人々がいる。各れも良好な成績を報告している。
 我々も前記の蛔虫編でのべた工場地帯における某小学校児童,特に低学年を対照としてPiperazineによる蟯虫駆除効果を観察し,その成績を得たので報告する。

1956-57年冬期に分離されたインフルエンザウイルスについて

著者: 松山達夫 ,   小見山茂人

ページ範囲:P.227 - P.229

 1956年11月より翌年2月に至る間,群馬県下にインフルエンザの流行がみられ,送付を受けた検体につきウイルス分離を行い,インフルエンザA及びBウイルスを分離し,また患者の血清診断からも本流行はA,B混合流行であることが認められた。
 これらの分離株のうちA株は所謂Dutch '56 typeに近い抗原構造であるが,B株はここ数年にみられなかつた大きな変化があることが判明した。よつて,これら分離株の詳細と流行の概略につき報告する。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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