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特集 性病予防 綜説
アメリカの性病対策
著者: 岡英彦1
所属機関: 1山形県庁厚生部
ページ範囲:P.173 - P.176
文献購入ページに移動わが国の公衆衛生行政は敗戦を契機として大きく発展をした。GHQの指導は概して適切であつたが,時には我々を混惑させるようなこともあつた。その一つに性病行政がある。終戦直後,公衆衛生の重点を指向したのは,当時猛威を振るつた急性伝染病の防あつであつたが,この時期を過ぎた頃性病予防に重点が移されて来た。当時我々の関心は,結核とか母子衛生にあつたのにも拘らず性病行政に大きくエネルギーをさかなければならなかつたので,彼等の指導する衛生行政は,結局のところ,日本人自体のためというよりは,米軍将兵のための行政であるというように理解したことすらあつた。しかしこれはあくまで誤解であつたことが,渡米して,彼の地の性病行政を知ることによつて判明した。あの頃は性病行政が,アメリカにおける衛生行政の中心であり,性病を駆逐することに大きな努力が払われていたのである。日本と米国では,衛生行政の位相がそれだけずれていたのである。
何故アメリカでは性病行政が大きく取上げられたか。勿論性病が米国民の健康生活に大きな脅威であつたことも事実であろうが,私はそれとともに,アメリカ合衆国という国のあり方自体に問題があつたのではないかと考えている。米国は内政的には独立した国と同じ権限をもつ州の合同したものである。従つて衛生行政も各州の権限でありその施策の方が,連邦政府のそれよりも先行し,進んでいた。
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