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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻5号

1958年05月発行

雑誌目次

特集 健康の疫学 巻頭言

「健康の疫学」について

著者: 野辺地慶三

ページ範囲:P.233 - P.233

 わが疫学研究会は,その前身である疫学集談会の時代より通算して,既に70回に及ぶ研究会を開催している。この間に取上げられた討議課題は誠に多種多様であり,わが国における疫学研究の流れの一面を示しているものといつてよい。これらの課題は,例えば総論的なものとしては,疫学の使命から,血清疫学,理論疫学,疫学調査方法等に至る迄,又各論的なものとしては,急性,慢性の伝染病から,食中毒,非伝染性疾患等に至る迄を含んでいる。疫学の重要性に対する認識の向上が,このような巾の広い研究領域を斉らしたものといい得るのである。
 昭和32年1月29日,公衆衛生院において開催された第68回疫学研究会が討議の主題とした「健康の疫学」は,疫学の分野で今後開拓さるべき領域を示すものとして意義が深い。このことが,従来の「疾病の疫学」の比重が軽くなつたことを意味しないことは勿論であるが,「疾病の疫学」に「健康の疫学」が加わつて,はじめて集団の健康問題を研究対象とする真の疫学が完成されることは,当日の演者も述べている通りである。

概論

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.234 - P.238

まえがき
 もともと,伝染病を主として,その発生の地理的,時間的な分布,消長を検討しようとして組立てられた疫学的方法は,その応用が,非伝染性疾患特に最近重要性を加えたいわゆる成人病などにも及び,災害や,自他殺の疫学的研究も,多くの学者に採り挙げられ,犯罪や反社会的行動などの社会学的事象にさえ,同様な研究方法が広く応用され,「疫学」なる言葉は,一種の流行となつている感がないでもない。
 このように「疫学」の応用が広まるにつれて,その考え方,その方法の普遍化に異論がないとしても「疫学」なる言葉は適当でないと云う意見も強まつている。

疫学の立場から

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.239 - P.246

疫学の立場
 筆者はここで疫学の歴史をHippocratesにまで遡つて論ずる意図もないし,又それ程の興味も持たないが,現在の疫学の立場を述べる上から,今日までの疫学の歩みに簡単な回顧を与えることは必要ではないかと思う。
 疫学Epidemiologyはもともとその字義の示す通り,流行Epidemicを研究する学問であり伝染病の流行がその研究対象であつたことは周知の通りである。少くとも今世紀初頭まで人類を最も悩ましてきた疾病は伝染病であり,そこに伝染病を対象とする疫学が生れたのも当然のように考えられる。

生理学の立場から—公衆衛生における生理学の新展開

著者: 田多井吉之介

ページ範囲:P.247 - P.253

はじめに
 公衆衛生の分野における生理学の貢献は決していまに始まつたことではない。環境との結びつきにおいて人体生理を理解するために,環境生理学(environmental physiology)あるいは生理衛生学(physiological hygiene)という1分科が派生したのも,そう最近のことではない1)。しかしながら,初期におけるこの分野の貢献は,決して公衆衛生全般に対する普遍化されたものではなく,むしろ特殊な集団についてのみおこなわれたようである。たとえば,労働人口の疲労を軽減し,生産力を維持し,災害や潜在的な中毒を防止し,また発育期にある青少年の体位を向上させ人的な戦力を増強するなどの目標をもつて発展した。そうして,労働人口への大きな寄与が認められ,とくに同分野の研究と実践が度を高めたため労働衛生学の中へ入りこんだ生理学は,第2の分化による労働生理学を産むにいたつた。このように,広い公衆衛生の一部にあつての生理学の貢献は小さくなかつたが,しかし,これらはすべて過去に始まつた一連の出来事である。18世紀の産業革命につれて病気の様相がかわりはじめたが,19世紀から20世紀の前半にかけて,多くの社会は依然伝染病の多発に悩まされ,その対策に重点がおかれた。しかしながら,最近のペニシリンをはじめとする多数の有力な抗生物質の出現によつて,公衆衛生の分野には声なき革命がおとずれた。

年令的発育の立場から

著者: 久保秀史

ページ範囲:P.254 - P.255

 健康という言葉は,日常誰でも口にする言葉であるが,一体どういう状態のときに,そういえるのであろうか。
 健康とは病気のない状態であるとか,体が大きく力が強いときなどをいうのであると考えられていた。しかし,戦後は国連の保健憲章にもあるとおり,「単に病気がないというばかりでなく,肉体的にも,精神的にも,社会的にも完全に良好な状態をいう」と健康についての考え方も大分変つてきた。

保険医学の立場から

著者: 一色嗣武

ページ範囲:P.256 - P.260

生命保険と健康体
 生命保険における医的選択は死亡率を基準として行われるものである。死亡保険に無条件で契約できるものを標準体という。標準体は死亡率の良好な集団であり,死亡率が一定の範囲内にあるべき条件を備えたものである。保険医学上の標準体を健康体と解釈されないこともないが,標準体は健康の通念と若干相違するものがある。
 例えば,後に述べるように低血圧は死亡率が良好で診査時の低血圧には本態性低血圧症が包含されているものと思われるが,標準体に属する。

臨床検査の立場から—生化学的測定量の疫学的観察

著者: 鴫谷亮一

ページ範囲:P.261 - P.264

はじめに
 本日は臨床家として我々が実際に人体から測定する2つの測定量,血色素及びコレステロールの血中濃度について,1つの疫学的観察を試み,公衆衛生を専門とする皆様方の御参考に供しようと考える。この2つの量を選んだ理由は,後述する如く血色素は若年者の健康状態に密接な関係があり,コレステロールは高年者の健康状態を支配する重要な因子であるためである。

「健康の疫学」に寄せて

「健康の疫学」について,他

著者: 橋本正已

ページ範囲:P.265 - P.265

 健康の疫学の中心概念である「健康」について感ずることは,従来の健康観がいわば後むきの健康,つまり現在を起点として過去にわたつて健康であつた,という事に重きをおいているということです。この点は,いわゆる健康優良児の選考基準などにも現われているのではないでしようか。
 これに対して今後の公衆衛生にとつては,前むきの健康ということが大切だと思います。すなわち,現在を起点として,将来にわたつて確かに健康であることが保障されているような状態です。例えば,赤痢というような疾病を考えてみても,上下水道の完備した環境に生活している人と,その施設のない不潔な環境におかれている人とではたとえ現在赤痢に罹患していないという点では同じであつても,その健康の確からしさには大きな隔りがあると思われます。

原著

電話器消毒装置の効果

著者: 松尾晃

ページ範囲:P.275 - P.277

緒言
 筆者は最近漸く各官衛,会社,事業所,等に出廻り始めた電話器消毒装置の効果を検討して見た。巷間に見られる該品には2種類ある。即ち錠剤式と液剤式とである。前者は送話口のカバー中に錠剤を収めたものと,送話口の架台ケースの中に収めたものがあり,後者はカバー中或は架台下の容器の中に薬液をしみこました綿状の物又は海綿状の物を入れ空気を隔てて接する様に装置したものである。
 何れにせよ使用される薬剤はヘキサメチーレナミンか10oxy-3methyl-4isopropyl Benzen(ビオゾール)が主剤でこれに葉緑素,香料,時には賊形剤としてタルクが加えられて居る。確に此れら主剤は溶液状態中に菌が投入された場合には殺菌効果を呈するが,錠剤,液剤が常温で空気中に蒸発,拡散して行く時に電話送話口の菌を殺菌するか否かを疑つたので筆者は此れを取上げて見た。

学童に見る蛔虫侵蝕状況(其の2)—鳥取県米子市境港市並びに西伯郡49校の児童に関する調査

著者: 今村隆 ,   須山康夫 ,   岩村昇 ,   高野正明 ,   晴木光 ,   岩田貞男 ,   森田隆朝 ,   木下干城 ,   石丸利之 ,   原隆子 ,   亀家朗介 ,   松本弥生

ページ範囲:P.279 - P.286

 終戦直後の日本の予防医学領域の三大問題としてやかましくいわれたものに結核,性病並に寄生虫の蔓延侵蝕がある。而してこれらの3者はともに今日は全くその蔓延状況に著しき変化をみるといわれる。
 先に村江らは昭和22年10月から23年3月にわたり,鳥取県米子市並に西伯郡内の小学校49校と中学校21校の生徒児童につき塗抹標本の検鏡で小学校児童19,917人と中学校生徒5,545人,計25,462人の検便を実施して,その結果小学校児童の36.1%に,中学校生徒の33.5%に蛔虫の保卵陽性者をみたと報告した1)

文献

食品に用いる抗生物質,他

著者: 西川

ページ範囲:P.238 - P.238

 食品に添加する化学物質の取締りの問題は非常に重要で,ただ一国のみで制限することは無意味に近く,国際的規約が必要となつてきた。抗生物質が食品に添加使用されることは甚だしく普及してしまつた。その使用は主に腐敗防止である。従つて普通の食品貯蔵法で貯えておくのでは変質せず,また食品の風味をかえないことが第1条件である。次ぎは食品中に混つた抗生物質が崩壊その他によつて変化しないこと。第3には広範な抗菌スペクトラムをもつ。第4には一般的取扱いでは毒性をもたないこと。第5には食品中でも充分抗菌力を発揮できるほどの濃度が保たれ,またよく全体に混入していて偏在しない。第6には癌原性がないこと。第7には例外的にアレルギーになり易い体質に対してもアレルギー作用をもたないことが大切である。かかる条件にかなつた使用法を適用するのは極めて困難なことであるが,しかし極めて重要であることは論をまたない。
 さらに抗生物質が問題となるのは,食肉,牛乳及び加工酪製品中に抗生物質をまぜたり,あるいは飼育牛に抗生物質を使つている場合である。食肉,加工酪製品に抗生物質を使つている場合には,それに添加された抗生物質が摂取者の体内に入つてから抗生物質過敏症をおこすことである。牛乳にまざつている場合,及び乳牛に抗生物質が投与されているような場合には,当該抗生物質に対して耐性となつたブドウ球菌力がつくられていることである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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