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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻6号

1958年06月発行

雑誌目次

特集 ジフテリア予防接種

Gravis型ジフテリアの疫学

著者: 藤本伊三郎

ページ範囲:P.289 - P.297

I.緒言
1.その意義
 近年本邦各地のジフテリア流行で注目すべきは,gravis菌が主として見出される流行の多いことである。Andersonら1)によつて1931年ジフテリア菌はgravis, mitis及びintermediusに分類され,その後,数多くの流行例において,流行菌型と流行像との関係が調べられてきた。その結果,gravis型流行--35%以上の頻度でgravis菌が分離される2)--に際しては,罹病率の増大・悪性ジフテリア*1患者の多発・好発年令の上昇がみられている。さらに,予防接種の効果は,他の菌型による流行の場合ほど充分ではないという報告2)〜6)がみられる。これらのことから,gravis型流行の問題が,ジフテリアの疫学,ことに予防対策を基礎づけるための疫学において重要な位置を占めている。

百日咳・ジフテリアの混合ワクチンについて—予防効果と副作用

著者: 村田良介

ページ範囲:P.298 - P.306

はしがき
 最近化学療法が進歩して伝染病が減つてきたが,予防接種を必要とするものもまだ少なくない。現在の法律できめられているものだけでも生後12カ月の間に7回の予防接種を受けることになつている。しかもいろいろな病気に対して有効な予防剤がつぎつぎと研究されているので注射回数は増加する傾向にある。有効なものでも接種回数が多くなると大衆から受け入れられ難くなることは予想に難くない。
 Ramon1)2)はこの点に着目してすでに1926年頃に混合ワクチンを用いることを提唱した。フランスでは彼の研究にもとついて軍隊用としてジフテリア,チフス,パラチフス(A. B)の混合ワクチンを採用し,ついで1940年頃には幼児に対してジフテリア・破傷風の混合免疫を強制した。百日咳ジフテリア混合ワクチンはBordet(1936年),Ledingham(1939年)などによりとりあげられたが,最近10年間にアメリカ,イギリス,カナダなどで動物および人体について広汎な研究が行われ,混合免疫法が普及し予防接種の実施が容易になつた3)〜7)

予防接種の時期と接種方法の諸問題

著者: 金子義徳

ページ範囲:P.307 - P.313

 昭和30年10月に行われたジフテリア実態調査1)の結果並びに防疫調査会の答申にもとづいて今期国会に提出されていた予防接種法の一部改正案は2月18日衆議院本会議において可決され参議院に送付されたことはすでに報告2)されている所である。
 その主な内容は定期予防接種の第1期の時期を繰上げて生後3カ月から6カ月に至る期間に行うことにするとともに新らたに第2期接種を設けこれを第1期接種後12カ月から18カ月の間に行うことにするものであつてその後の追加接種は従前通りである。この接種時期の改正によつてジフテリアの接種時期は従来の百日咳第1,2期と同時期に行われることになるので両者の混合ワクチンの使用も技術的に可能となり且又混合ワクチンの免疫学的研究の結果からジフテリア百日咳混合ワクチンの問題は漸く具体化する機運になつた。厚生省では目下上記法案の施行に備えて施行心得を準備中であるとのことであるから近く実際に行われるものと考えられる。

乳幼児のジフテリア予防接種,殊に乳児早期接種に就いて

著者: 中村文弥

ページ範囲:P.314 - P.318

 乳幼児に於けるジフテリア予防接種の効果を論ずる場合には,矢張シツク反応の陰転状態と血中抗毒素価の推移如何が問題になる事は言う迄もない。勿論シツク反応がジフテリア免疫状態の大略を示す貴重な反応である事は動かすべからざる事実であるが,私共が最近数年間に亘つて検索した結果からすると,シツク反応の成績と実際の血中抗毒素価とが従来考えられて居たよりも不一致の場合が多く,殊に生後2年未満の乳幼児に於ては案外僅少な抗毒素価で陰性になり,又予防接種後当分の間は更に一層低値で陰性を示して来る傾向が認められる。その故に乳幼児が仮令シツク陰性でもジフテリア罹患の恐れのある場合が可成り屡々存在する可能性がある。
 従つてシツク反応の結果に依て,大略は推知し得るものの,実際の免疫状態を知る意味に於て,検査対象は仮令比較的僅少例でも,小児の1人1人に就いて精細に血中抗毒素価を測定して行く事は,主としてシツク反応を以て調査して行く野外実験と並んで,頗る緊要な事である。

ジフテリア予防接種の改正—予防接種法の一部改正について

著者: 浜崎直哉

ページ範囲:P.319 - P.319

 先の国会で予防接種法が改正された。改正された点だけを見ると,ジフテリアの定期が今迄3期であつたものが4期となつて居り,今まですら悪かつた予防接種率が,尚更悪くなるのではないかとの印象を与える。然し実際には,百日咳とジフテリアの混合ワクチンが使用せられるので,幼少児が注射を受ける回数は,今迄より3回だけ反対に減ることになり,接種率は改正により却つてよくなるものと期待されて居る。
 改正の主な理由は,3才から5才迄の幼児が患者も多く,調べて見ると免疫の度合も低くなつて居り,どうしてもこの谷間をうずめる必要があるということである。

座談会

ジフテリアの予防接種をめぐつて

著者: 染谷四郎 ,   黒川正身 ,   齋藤いし ,   岡田博 ,   山下章 ,   浅野花子

ページ範囲:P.320 - P.328

 ジフテリア予防接種法が改正されて7月1日から施行される事になつた。そして第1期と2期は百日咳,ジフテリアの混合ワクチンを使用する事となり,接種回数は結局減少する事になるから効果は上るのではないか――というのが厚生省の見通しであるが,この機会に研究機関及び現場の先生方をお招きして研究していただく事にした。

原著

宮入貝(日本住血吸虫中間宿主)の生物学的研究—Ⅲ.自然界に於ける宮入貝の生態観察

著者: 菊池滋

ページ範囲:P.329 - P.335

緒論
 日本住血吸虫の中間宿主である宮入貝の日本に於ける棲息地域は一定の範囲に限局されているがこれは宮入貝の生活環境に対し種々複雑な要因があり,簡単にきめるわけにはゆかないが,とりわけ地形,地相,土壌,気象との関係が大いに影響を及ぼすものであることをさきに報告した。然しながらこの外の要因としての貝の習性もこれと大きな関聯を有しているので棲息地に於ける宮入貝の自然の状態,即ち貝の生態を深く見きわめることが最も大切である。貝の生態に関しては宮入,鈴木(1913),小林(1916)1),Cort(1919)2),杉浦(1931)4),Mao(1948)12),岡部(1938)4),Ingalls(1949)13),Hsü(1950)14),Hunter(1950)21),McMullen(1951)15),Izumi(1951)16)川本(1954)20),岡本(1954)19),津田(1952)18)等の報告があるが,いずれも自然界に於ての詳細な観察記載は少ない。著者は山梨県に於て自然界の宮入貝の生態を長年観察し,更に環境の変化についても観察したのでここに取りまとめて報告し,従来の諸業績に対する知識の増補をなさんとするものである。

京都府南部の2農村に於ける鉤虫の調査と集団駆虫

著者: 中西靖郎 ,   吉田幸雄 ,   松尾喜久男

ページ範囲:P.337 - P.340

緒言
 本邦各地に於ける鉤虫の疫学的調査が,近時盛に行われ教室においてもすでに数年来,中部日本諸地域の調査研究が続行され,特に1952年より1955年に亘り,吉田は京都市内及びその周辺農村地帯の調査を実施し,京都市周辺の鉤虫の濃度は北部及び東南部の山間地帯に比較的低く(10%前後),南部低地及び南西部丘陵地帯において比較的高い事を報告している。
 著者等は1957年4月より山城盆地の南部2農村の鉤虫の疫学的調査及びその集団駆虫を実施し若干の成績を得たので報告する。

山陽地区に於けるブユの調査成績

著者: 岡本詢

ページ範囲:P.341 - P.343

 中国地方に於けるブユについては2,3の先輩による調査記録はあるが,未だその研究は少ない。然し近年は緒方,佐々等の広島県に於ける分布並びに駆除実験,岡山県に於ける大野等の駆除成績の報告を見るなどこの方面の研究が盛んとなりつつある。他方これ等の地域に於ける本虫による被害状況は各地共に,特に山間部に於いて,相当激烈な模様であつて,最近に至り漸く駆除を行わんとする傾向が見えて来たことは喜ばしいことであると思う。然し駆除を合理的に行うためには,その種類,分布,生態に関する調査研究の必要なことは言をまたない処である。著者はその基礎調査として1955年7月以来,主として山陰地方に於けるブユについて上記諸項の研究を行つているが,今回は山陽側の数地点より採集したものについて述べ参考に供したい。本調査は日本衛生動物学会ブユ研究班の綜合的な仕事の一部として行つており,種類,分布を調査したもののうち現在までに判明したものについて述べる。
 次の各地点について著者は流水中より主として蛹の採集を行い,主としてこのものについて種の同定を行つたが,一部のものは,これらの蛹を羽化せしめて成虫で同定を行つた。成績は次の通りであつて,記載は地名,採集年月日,種名及び採集数の順序とした。

文献

大気汚染に関する経過報告/ペニシリン耐性黄色ブドウ状球菌

著者: 西川

ページ範囲:P.313 - P.313

 ここ数年来,わが国の公衆衛生学会・衛生学会等の研究発表機関において公害特に大気汚染に関する研究成果の報告,特別講演が取り上げられている。それがビキニの核爆発による人工放射能物質による大気汚染に刺戟されて発展したとは思われない。大阪市では戦前よりこの問題を取り上げて,市民の健康及び生活をまもる努力が続けられており,尼ヶ崎市・東京都でも最近数年間は熱心に検討されている。しかしまだ一般の都市において真剣に考慮をはらつているとは思えない様である。
 この問題はMac Kenzieのいう通り比較的新しい公衆衛生問題であつて,特に都市衛生の課題である。都市化すると重工業が次第に発展し,その燃料消費の増大とともに,運輸機関や廃棄物処理が強化されてくる。また住民の生活程度の向上につれて家庭燃料の排気ガスも増して市民の健康にさわる様な状態が起つてくる。それは昔の「伝染病を撲滅」したような方式ではこく服されえない困難さをもつている。しかも使用する燃料の種類が変つてきた。米国では1900年には燃料の90%は固形のものであつたが,現在では70%が液体燃料であるから,汚染物の測定も複雑な技術が必要になつてきた。大気汚染になやむ米国の地域社会は10,000に達しているというが,この被害は生活用品・植物等の害を含めて10億ドルを上回るとの調査報告がある。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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