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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻8号

1958年08月発行

雑誌目次

特集 大阪の公衆衛生活動

大阪の公衆衛生小観(1954〜1958)

著者: 朝倉新太郎 ,   木村慶 ,   清水忠彦

ページ範囲:P.401 - P.404

話し合いと組織化
 1953年秋,日本公衆衛生学会総会が岡山で催されたときである。奇しくも同じ宿屋に泊り合わせた関(阪大)庄司(大阪市大)は学会の感想から始まつた公衆衛生のよもやま話に夜のふけるのを忘れていた。「現在の行きづまりは,わが国の社会経済事情によるところが大きいが,身近な問題としては,要するに我国の公衆衛生の歴史の浅いところにある。その解決のためには,公衆衛生のあらゆる機関,あらゆる職種の人が自由に話し合う場をつくることからはじめねばならぬ」(「公衆衛生の会」のあゆみ)かくて,関らはその後の大阪における公衆衛生のボランテイア活動に身を投じていくのである。
 丁度そのころ,数年前から朝日新聞の協力をえて今村,関らの研究者を中心にして組織されていた「結核予防対策協議会」でも,より広い範囲の意見が必要だという話がもち上つており,これは上記の「自由に話し合う場」をつくる具体的な契機ともなつた。

座談会

大阪の公衆衛生を語る

著者: 丸山博 ,   井田直美 ,   加藤義緖 ,   猫西一也 ,   島崎㦢 ,   庄司光 ,   関悌四郎 ,   瀧内秋治 ,   千尾秀治 ,   月橋得郎 ,   中山信正 ,   西滋夫 ,   西輝房 ,   東田敏夫 ,   福原絹子 ,   古林兆一

ページ範囲:P.405 - P.412

 公衆衛生の取材はつい東京中心になりがちであつたが今月号はすつかり大阪におまかせして見た。
 大阪の公衆衛生は大変好転しているとよく話題に出るが,その大阪の公衆衛生はどういう基盤のもとに良好になつたのか,又今後の方向はどうなのか,大阪の各ポストの方々に話合つていただいた。
 大部自己批判も出たが公衆衛生は夜明け前であつて決してたそがれではないという結論が出た事は,心強い思いである。

活動報告—どのように仕事にとりくんでいるか Ⅰ.予算

保健所における予算態容と配分上の諸問題

著者: 奥山三四吉 ,   森元昭

ページ範囲:P.414 - P.421

1.はじめに
 保健所の予算を語るには,先ず大阪府の財政事情を明らかにし,衛生行政費の府財政上に占める地位について論じなければならない。
 1.由来大阪府は所謂富裕団体と称せられ,東京都に次ぐ財政力を有し,年々多額の歳計剰余金を持ち極めて豊富な財政事情をほこつているように伝えられている。

Ⅱ.研修

大阪府の研修をめぐつて

著者: 千尾秀治

ページ範囲:P.422 - P.423

 衛生行政を展開する上に,技術を基盤にしなければならないことは今更云うまでもない。この際に第一線に於ける保健所の技術者の役割は極めて重要であり,特に医師の行政官としての訓練と全体に対する把握による企画性や指導性が大切であるが現実は必ずしもこの線にそつているとは思われない。ここに教育の問題がある。医学部に於ける教育は自然科学に偏し過ぎて社会科学的な要素は極めてわずかしか与えられていない。衛生行政に対する綜合的な組織だつた教育を要求している。
 保健所の医師の不足は全国的な傾向である。又公衆衛生の意義を認めてこの陣営に入つて来た人達もいつかは消えてゆく現実をどう分析すれば良いか。

大阪市における保健所職員の研習活動について

著者: 月橋得郎

ページ範囲:P.424 - P.425

 研習活動が職員の質の向上を約束し,行政効果を高める上に果す役割は大きい。特に新らしい医学的な技術を民衆の中に持ち込まねばならない公衆衛生においては,各職員が常に新らしい知識と技術を取り入れると共に,これらを実践に移して行くのでなければならない。このような観点に立つて行われる研習には色々の型があり得るが,現在大阪市において試みられているものについて,その概略を述べてみたい。
 先ず第1に行政当局(衛生局)が自らの行政能率を高める目的でオフイシヤルの立場で行う職員の研習である。このうち最も明確な形をとつているのが保健婦に対して年1度行われている再教育であろう。従来この計画には主として厚生女学院があたつており,保健婦の保健指導技術の向上がはかられる外,市職員としての窓口取扱に及ぶ広い範囲の講義が行われている。最近では後に述べるように,保健婦の業務の多様性と,これら業務を消化し切れない為に起つて来た訪問の行きづまりから,保健婦活動の再反省の必要が受講者の意見としてとりあげられ,日常業務を整理するための業務分析,及びこれに基く業務の評価が資料を持ちよることによつて行われる傾向にある。

大阪市における食品衛生監視業務の研究とその行政効果について

著者: 猫西一也

ページ範囲:P.425 - P.427

 われわれが,自らの業務を系統的に研究しはじめたのは,第12回公衆衛生学会の要望課題に応じて,それぞれのグループに分かれ研究を行つたことに始まる。
 学会は,食品衛生監視の諸問題に関する討議会の要望課題として,1)監視票の再検討,2)食品衛生監視に伴う現場検査の再検討,3)食品衛生監視業務の分析,4)食品衛生教育の問題点,を要望課題としたので,それぞれのテーマ毎にグループを組み検討を行つた。

Ⅲ.保健婦活動

医療機関と保健婦活動—衞保会はこのようにとりくんだ

著者: 乾死乃生

ページ範囲:P.428 - P.428

 地域住民の健康を管理するには,医療機関との密接な結びつきが無ければならない。患者が適正な医療を受け最も短期間に治癒するためには,医師と保健婦とのよいチームワークによる指導が必要である。
 常に保健婦から積極的に指導を仰ぐようにし医師の手足となつて働き,相互の結びつきにより人間関係を深めて行かなければならないと思う。

結核重点訪問

著者: 東条静子

ページ範囲:P.429 - P.432

 地区の要求に応じた保健婦事業が現状の保健所で効果的に結核母子その他慢性疾患等を取り入れ内容を充実してゆく為,業務の整理を行い必要度の高いものから整備し各種別について効果的に業務を遂行してゆく前提のもとに先ず結核の重点訪問が取り上げられた。

Ⅳ.医師会と保健所

大阪府医師会の公衆衛生活動

著者: 古林兆一

ページ範囲:P.433 - P.434

 府医師会は勿論各地区医師会に於ても年度の事業計画に「公衆衛生の向上に関する件」なる項目が年々掲げられているが,特に実際的な活動が進められることもなくうとんじられたままで経過して来た。予防医学そのものの発達が我が国に於ては極く最近のものであり,戦後行政的にも保健所がやつとその軌道に乗り,又学問的にも初めて公衆衛生学が独立するなどその歴史は浅い。いわんや街の開業医に於ては日夜多忙な,悪くいえば馬車馬的な保険診療に追われている昨今であるためその余力を予防医学に注ぐということは求める方が無理なように思われて来た。求めても無理であろうと想像した誤つた観測と,予防医学への熱情の不足とが知らず知らずの間に医師会の公衆衛生活動の向上を阻み,低調な活動状態が常態であると見なされたまま何等の反省も不思議な程起らなかつた訳である。一寸反省する暇さえあれば府,市衛生当局,保健所という行政当局のみによる公衆衛生活動が如何に跛行的であるかが気付かれねばならない筈であつた。「予防は治療に優る」という言葉は医者のみならず一般巷間に於ても容易に理解されうる一句でありながら,その実行運動は甚だ難しいものとして取り上げられなかつた。
 私は,崩壊への一途を辿る開業医の惨状を救うものは唯一つ,臨床医としての公衆衛生的協力―予防医学の活用あるのみと信じている。「見よ惨憺たる開業医の現状よ。目覚めよ開業医諸君!予防医学的活動への協力を」と叫びたい。

開業医の地域公衆衛生活動

著者: 島崎櫛

ページ範囲:P.434 - P.435

 昨夏来,大阪府医師会は地域社会活動の一環として公衆衛生活動の活溌化を企画し,既に府市衛生関係当局の担当者,保健所等,各方面の諸団体と相寄り,各種の研究や協議が行われた。我が福島区医師会に於ても,之れに相呼応して,新年度を迎えて,会員挙つて,保健所と協力し,公衆衛生活動の展開に挺身している。
 さて当区では,それに先き立ち公衆衛生対策委員会を組織した。そして区内を分ちて4班とし,各班内に1名の専任委員を置き,班内事情に応じ一切を取きめる。それを毎月1回の定例委員会に持寄つて協議する。

医師会と保健所

著者: 中山信正

ページ範囲:P.436 - P.437

 郡市区医師会と保健所の関係は比較的良好な関係にあつた。公立病院の新設,増築には極めて強い反応を示される医師会も保健所となると,其の設備の改善,人員の拡充に寧ろ積極的な援助を惜しまない。保健所法そのものが地区医師会の中心機関ともなり,医師会に対してもサービス機関ともなるべきことを想定して保健所を規定している点にも理由はあろうし,医師として行政面へ進出した唯一の代表者である保健所長を何とかもり立ててやろうと言う意識も底流しているに違いない。とにかく,医師会と保健所が真正面から衝突したと言う例は寡聞にして余り聞かない所である。然しながら本当に医師会と保健所が機能的に唇歯輔車の実を挙げているであろうか。腹の底から協力して行こうと言う意識が両者の間にあつたであろうか。残念ながら私は寂寥を感ずるものの一人である。大多数の医師は今尚ロマンチストである。或はロマンの残党と言つた方がよいかも知れない。公衆衛生と言う様な大義名分を振り廻されたら,これに対して非協力的な態度を示すことはロマンチストたる衿持がユルサない。内心にヤルセナイ所のリラクタンスを覚えながらも保健所に協力して出張予防注射に応援し,保健婦の家庭訪問に協力し,渋面ながら伝染病の届出に疲れた筆を走らせる,かくて文句の出ない程度に協力の態度を明示して行く。

保健所と医療機関との連繋

著者: 井田直美

ページ範囲:P.438 - P.443

 保健所の黄昏とか黎明とかに関連した議論が最近紙上をにぎわしておる。これにつれて幾多の保健所の問題点が論ぜられた。一方保健所ではそのおかれている状況に応じて問題点解決へ努力され,紙上にこの努力が多数掲載されるようになつた。このように保健所にある幾多の問題を具体的に解決してゆく努力,そうしてこれを更に検討して一歩一歩前進してゆくことが保健所の発展になろう。
 私どもの保健所でも自己反省やら,先輩・第三者のこれら議論を手がかりとして,具体的にいくつかの問題を取上げ,実施に移してきた。即ち,

Ⅴ.地域組織活動

地区婦人組織を基盤とした公衆衛生活動の発展過程について

著者: 浜口剛一

ページ範囲:P.444 - P.447

 公衆衛生を推進する為には,保健所の機構を整備すると同時に,地域組織を基盤とした公衆衛生活動が当面の重大な題目である。
 当保健所においては,昭和25年より婦人団体である吹田母子会を中心として,医師会,助産婦会等の協力による組織活動を展開し,成果を上げることができた。以下,母子会活動に焦点を置き種々の事業成績を紹介し,これらの経過と将来の方向についてのべる。

大阪における公衆衛生活動の問題点と將来の方向

著者: 庄司光

ページ範囲:P.448 - P.453

 大阪における公衆衛生活動の歴史と実際については既に述べられてあるから,此処にはこれに就て若干の考案を加えると共に,将来如何なる点に重点をおいて進むべきかについての私見を述べたい。公衆衛生活動といつても衛生行政,公衆衛生学自体を取扱うのでなく,これらと表裏一体をなしている終戦後のvolunteer運動についてである。

文献

カナダ連邦政府職員の健康の保持/病院とその社会的需要

著者: 芦沢 ,   西川

ページ範囲:P.412 - P.412

 カナダ連邦政治は現在約15万の政府職員をようし,その数はこの10年間にほぼ2割の増になつている。職員の男女の比は70:30であるが,最も多い3万5千人が集つているオタワでは男女の比は53:47である。これら政府職員の健康の増進と維持には,1946年来,国家保健福祉局(Department of National Health and welfare)の公務員保健部(Civil Service Health Division)がこれに当つて居り,国家保健福祉相(Minister of Notional Health and welfare)を通じて内閣が責任を負うている。増大する保健との要求に応えるため保健ユニツトの最低基準と分科がきめられ,保健部の管理部門と臨床設備を併せたメデイカルセンターが造られ,更に13,500の公務員を対象に看護助言相談をする12の保健ユニツトがさしあたり設けられた。(現在はフルタイムのユニツト20,パートタイムのユニツト2)。オタワのヘルスセンターは内科医4.精神科医1.心理専門家1.パートタイム放射線科医1.社会福祉事業の長1.看護助言相談事業の長1.のスタツフをようし,オタワの3万5千の公務員に健診保健サービスを行つている。過去3年来,鉱山技術調査部,鉱山局及びその他放射性物質を取扱う部局,特殊な上級管理職には特別の定期健康診断を実施している。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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