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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生22巻9号

1958年09月発行

雑誌目次

特集 国民健康保険と公衆衞生 巻頭言

国民健康保険と公衆衛生特集について

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.457 - P.457

 わが国の公衆衛生は,現在二つの意味で大きな転換期に直面していると考えられる。すなわち,第一は戦後GHQの強力な指導援助の下に主として他律的に行われた公衆衛生諸制度の一大改革について,それから10年を経た今日,現在までの歩みの反省と評価を基礎として新しい出発を迫られていることであり,第二は医療保障を中核とする社会保障制度への第一歩として,国民皆保険へのスタートが切られ,公衆衛生活動は社会保障制度の進展に即応しつつ,その中における自らのあり方を確立してゆかねばならぬ段階に入つて来たことである。
 このような背景の下において,昨年の7月以来公衆衛生院では曾田次長を中心に衛生行政学部が世話役となつて,毎月二種類の研究会を開催して今日に至つている。すなわち第一は衛生行政研究会であり,第二は保健所運営管理研究会である。このうち前者は厚生省関係各課,東京都及び近県の衛生部,保健所並びに大学の公衆衛生関係者,公衆衛生院関係者等,毎回30〜40名のグループで衛生行政の当面する基本問題について調査資料,事例等の発表を中心に問題点を整理し,基本的な考え方を討議するものであり,現在までに「保健所運営について」「公衆衛生活動における病院の役割」「衛生行政と地方自治」「地区衛生組織活動」(3回)「公衆衛生とは何か」「国民健康保険と公衆衛生」「地方財政と衛生行政」等につき9回の研究会を持つている。

綜説

国民健康保険最近の動向

著者: 藤森昭一

ページ範囲:P.458 - P.463

1.はじめに
 国民健康保険制度は,昭和13年に創設されて以来,本年で20周年を迎えた。この制度は,1930年台の不況により経済的窮乏にあえぐ農山漁村等の住民に対し,その医療費の負担を軽減することによる生活の安定と医療の普及とをはかろうとする趣旨のもとに発足したものである。
 この制度は,過去20年の間に,終戦及びこれに伴う混乱の時代を挾んで前後8次にわたる改正を経,逐次その給付内容を向上させ,その財政的基礎を強化する等社会保険制度としての実質を充実させ,普及の面においても,全国市町村の4分の3をカバーするにいたり,今や,単に発足当初の主たる対象であつた農山漁村の住民のみでなく,都市住民をも含めて広く被用者以外の一般国民の健康保険制度として重要な役割を果しつつある。

国民健康保険と公衆衛生

著者: 西尾雅七

ページ範囲:P.464 - P.467

 昭和31年11月,社会保障制度審議会は「医療保障制度に関する勧告」を政府に提出したが,その中で国民皆保険への途として,1つは被用者5人未満の零細事業所に対する健康保険の実現と,他の1つは国民健康保険の設立を強制化する方策を講ずることを挙げている。かくして,国民皆保険を実現し,それによつて医療扶助にも該当せずまたいかなる医療保険からも締め出されている国民にも―それは全国民の約3分の1と見做されているが,―医療における機会均等を実現せしめ様としている。しかし,わが国の医療保障制度を構成している諸制度の間には,その最も重要な部分である療養給付においてすら質的な差があり,また夫々の制度が対象としている被保険者にも社会的経済的な条件における格差が認められる状況である。したがつて国民皆保険が実現したからといつて,直ちに国民のすべてに真の医療の機会均等がもたらされるとは到底考えられない。現に,各種の医療保険の被保険者の受診率に差が認められ特に組合及び政府管掌健康保険,各種の共済組合,船員保険等の被保険者の受診率は日雇労働者健康保険,国民健康保険等の被保険者の受診率に比して格段に高率であつて,昭和30年においても,前者は後者の約倍の受診率を示している。

国民健康保険と公衆衛生活動について

著者: 須川豊

ページ範囲:P.468 - P.472

はじめに
 国民皆保険達成の出発点は,現行国保の財政確立にある。国保財政の健全化には種々の方法があるが,基本的には疾病を減らすことである。病気を予防したり,早期に治癒せしめることは,公衆衛生当局(保健所)の仕事である。
 公衆衛生は,種々の生活条件に支配されるので,衛生当局だけがどんな努力と工夫を傾けても,その効果に限度がある。特に疾病減少が,その公表された数で論議されたり,人間の寿命で計算されている限りでは,政策として浮んでこない。伝染病の集団発生があると,公衆衛生が改めて認識される如き逆な現象が,社会の通常のすがたである。ここに公衆衛生を,すべての人々,特に関聯ある機関の指導者に考えなおしてもらわねばならぬ理由がある。

保健所と国保施設との関係—主として埼玉県の国保の歴史を中心に

著者: 春日斉

ページ範囲:P.473 - P.476

 国民健康保険事業における保健施設については,法第8条及び規則第11条に規定してある様に,すでに発生した身体的事故に対する医療給付措置に止まらず,直接被保険者の疾病を予防すると云う仕事を,治療と表裏一体の関係に立つて行うため,即ち国保事業窮極の目的である被保険者の生活の安定,向上のため設置せられるものであるが,具体的には此の保健施設の強化によつて,医療費が合理的に節減され,保険財政の確立,保険税の軽減等に寄与するのみならず,保健所を中心とした市町村衛生行政の仕事と一体となり,之に協力し,その足らざるを補い或いは先行し,無医村の解消にも役立つものとされている。
 然も,その企画,実施に関する事項,保健所業務との関連についての極めて具体的な指導は,昭和24年6月1日附けの保険局長,公衆衛生局長連名の通知によつて明かであり,それに加えるものは少いが,埼玉県の国保施設の歴史の回顧を中心に2〜3の卑見を述べてみたい。

国民健康保険の活動と公衆衛生

著者: 守屋清

ページ範囲:P.477 - P.481

1.国民健康保険の概況
 国民皆保険,という言葉が生れて既に久しい。政府もやつきとなつて,この達成に努めようとしているが,現状はなかなか楽観を許さないものがある。
 昭和32年11月末で,被保険者数は3,330万人二重加入者の180万人を除くと約3,150万人,であるから,国民健康保険の対象者5,400万人に対して58%にしか当らない。

川口市国保の活動と公衆衛生

著者: 奈良健次郎

ページ範囲:P.482 - P.488

1.緒言
 昭和13年国民健康保険法が制定されて,今年で満20周年を迎え,中央においても各地方においても,それぞれ多彩な記念行事が展開されんとしている。政府は社会保障制度進展の一環として国民皆保険を称え,昭和35年度までにこれを達成せんとして,着々その推進を画つているようである。
 国民健康保険も創設当時から幾多の難関に遭遇しながらも,兎も角これを乗り切つて,既に揺籃期から成年期に達したと云えよう。然しながら,地域医療保障制度として発展した国民健康保険は他の医療保険との経済的均衡上からも,公衆衛生との関連上からも,又その他の種々の面においても複雑な問題を内臓している。

国保統計の利用

著者: 松浦十四郎

ページ範囲:P.489 - P.491

 国民健康保険が実施されている地域では,その住民の大部分が――被保護者,被用者保険被保険者,被扶養者が部分的に除かれているが――被保険者となつているから,その地域における発病または有病の状況を知るのに国保の診療統計を利用することは非常に役に立つと思われる。
 ただ国保が実施されている地域でも,患者は一部負担金を払わなければならないのであるから,経済的な事情によりすべての患者が自由に受療することができるとは限らず,また医療機関の分布衛生知識の普及度等の影響により国保統計は必らずしもその地域の発病,有病についての完全な資料になりうるとはいいえない。

国保と保健所

著者: 朝倉新太郎

ページ範囲:P.492 - P.495

1.皆保険の意義
 社会保険の有無が,結核死亡や乳児死亡の増減に大きく作用し,又逆に,行き届いだ結核管理や乳幼児検診が,それらの疾病の発生を予防し,死亡率を低減するのに役立つのみでなく,ひいては保険経済にプラスするという諸家の報告1〜4)を引用するまでもなく,社会保障と公衆衛生活動は,両々相俟つて,疾病の予防と治療に対し,あたかも強力な緩衝液のような働きをもつている。このBuffering Actionが強ければ強い程,不時の災害や疾病の発生に対し,社会は動揺することが少ないし,最少限の応急策でもつてそれをよく防遏することが出来るのである。
 この意味で,歴代の政府が公約としている国民皆保険の構想は甚だもつて望ましいことであるし,それによつて,これ迄何かしらノレンに腕押しの感がないでもなかつた我国の公衆衛生も強固な支柱が与えられるというものである。

隨想

国民健康保険と保健所

著者: 小宮山新一

ページ範囲:P.496 - P.497

 国民皆保険の計画が進展するにつれて,国保と保健所の関係が,あちらこちらで論議されるようになつてきた「公衆衛生と社会保障」といつた原則論から,保健所の保健婦と国保の保健婦というような具体的な問題までいろいろと論じられてはいるが,いつになつても,すつきりとした結論をきくことはできなかつた。何か本質的なところで,大きくくい違つているのではないだろうか。
 そもそも国民健康保険が生まれてもう20年になる。保健所も同じく20周年を迎えるわけである。20年も経つたら,もう少し具体的に両者の結びつきができてもよさそうなものである。もともと国保と保健所とは,いわば一卵性双生児とでもいいたいところであるが,現実にははら違いの兄弟というのが,ほんとの姿のようである。

アンケート

国保から保健所へのぞむこと/保健所から国保へのぞむこと

著者: 川野一人 ,   柳徳三郎 ,   川上喜太郎

ページ範囲:P.498 - P.499

 国保の保健施設活動の中心となる者は,直接に住民に接する保健婦であるが,町村の国保に保健婦が置かれているときでも,一般衛生部門には置かれていない場合が殆んどである。又,町村合併によつて国保の保健婦活動区域は広範囲にわたり過重の傾向にある。
 国保の保健婦には,国保事業運営の健全化をはかるため,その資料に基いた保健活動を重点的に実施することが望ましいにもかかわらず,ややもすれば一般的な予防接種の業務等に多くの時間を割かれるきらいがあるので,保健所に保健婦を充実するとともに町村の一般衛生部門にも保健婦を設置して,これら三者の保健婦が相協力して地域社会の保健活動を行うことを強く要望する。

綜説

英国における公衆衛生関係立法小史

著者: 前田和甫

ページ範囲:P.500 - P.507

まえがき
 英国における公衆衛生の発展のあとをたどると,その要望は,18世紀中葉から始る産業革命が,無慈悲に,加速度的に進むにつれて急速な人口移動,都市集中が強行され,その結果として必然的に生じたもので,多くの先覚者・社会改革者等の熱心な運動により,自発的・私的な事業から次第に政府の施策へと移つたことが分る。先ず,古くからの救貧法(Poor Law)を改正し,適応を拡げ,又新しい対策をとり入れて,窮乏した人間を拾いあげることから始まり,続いて都市に必要な諸施設の建設,緊要な諸規則の制定へと進んでいつた。
 同じ頃,これとは別に,急速に増加して来た工場労働者の苛酷な労働条件,悲惨な環境の改善を目指すR・Owen等の運動が実を結び,最初の工場法(FactoryAct)が定められてから後,次第に婦人・年少労働者の問題,労働者の住宅建設,有害業務の規正等へと公的の監視と施策の制定が発展して,初期の公衆衛生の立法,対策は,この2つを根源として,関係諸法へと発展したと言えるであろう。

原著

地域集団の淋菌一日調査

著者: 宮入正人 ,   太田正 ,   海老原進 ,   清瀬吉次郎 ,   山平広治

ページ範囲:P.508 - P.511

 一定集団内の有病者数(Prevalence)を知る事は疫学研究の上に,又対策樹立の上に欠く事の出来ない基礎的事項である。この基礎的資料を得る為に今日まで多くの試みが行われている事は周知の通りである。しかし乍ら今対象を淋疾のみに限つてみても決して容易な事ではない。対象を自他覚症ある患者に限る事は淋菌感染者の大部分をとらえる事にはならない。淋疾には無自覚的感染者が相当数存在するからである。又淋菌の存否を指標にする場合でも,その検出方法,手技によつて同一の結果を得られるとは限らない。
 又調査目的からして,被検者に苦痛を与える如き方法は用いられず,同時に被検者数も少くては目的を達し得ないので検査手技が極めて複雑なものは多人数を検査する場合不便である。結核に対するツベルクリン反応の如き,梅毒に対する血清学的反応の如き免疫反応を利用する方法は未だ淋菌感染症に対して完成されていない。

文献

工場廃水による公用水の汚染

著者: 芦沢

ページ範囲:P.497 - P.497

 河川汚染の性格が時代と共にすつかり変つてしまつたことが,1913年と1946-48年の境界水の汚染に関する国際合同委員会の資料の比較により明白である。1913年のオンタリオの経済は農林業及びその加工業が主体であり,汚染も専ら下水汚染(細菌汚染)が疫学上の立場から評価されていた。1946年までにヒユーロン湖,エリー湖に面する地帯の人口は1913年の3倍以上になり,産業も工業中心となつた。人口の増加に伴い,未処理ないし部分処理のままで流入する下水も増加しているわけであるが,上水浄化の進歩に因るものか,水系伝染病の発生は1913年当時と比較すると殆ど跡を断つに至つている。
 一方工場廃水による伝染の増加は莫大なもので,1948年の推定によればヒユーロン・エリー両湖に注ぐ河川に流される工場廃棄物の量はイギリス(Great Britain)の全体のそれに匹敵するとされている。オンタリオには現在重工業が密集し,新工程,新製品の目まぐるしい出現は工場廃水の処理に日に日に戦を挑んでいる。これら工場廃棄物は下水汚染とちがつて伝染病の上からは意味が少い。1951年の国際合同委員会報告から引用すると,「これらの工場廃水は油,毒物,異味異臭物を含み,固体,酸,アルカリ,有機物等の所きらわぬ投棄による汚濁が主な公害の理由である」としている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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