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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生23巻1号

1959年01月発行

雑誌目次

特集 保健所管理 巻頭言

保健所の運営

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.1 - P.2

 色々な企業について,最近はこれを如何に経営するかが一つの学問として研究されるようになつた。
 昨年の夏あたりも,重役さん達の経営学講習会で,箱根や軽井沢が大変にぎわつたと伝えられる。

解説

保健所管理セミナーについて

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.3 - P.7

はしがき
 新しい発足以来10年余を経たわが国の保健所活動は,戦後の公衆衛生の発展に大きな役割を果してきたが,現在2つの意味で一大転換期に直面しているといえる。すなわち,第一には戦後主として与えられたものとして推移してきた保健所活動に対するわが国の実情に即した再検討を,第二には国民皆保険を中核とした医療保障制度の伸展に伴い,社会保障制度の中における公衆衛生活動の立場を明らかにするとともに,このような社会情勢の動きに即応した保健所活動のあり方の確立を迫られているのである。
 昭和33年9月15日から30日までの正味2週間,公衆衛生院で開かれた保健所長を対象とする保健所管理セミナーは,このような時代の要請に応えて今後の保健所活動の正しい進路を見出すための試みであり,その準備や企画については,新しい角度から大いに工夫がこらされ努力がなされた。

綜説

行政管理の動向

著者: 岡部史郎

ページ範囲:P.8 - P.11

 Ⅰ.
 1.フランスの文明批評家シーグフリードが,現代を「管理時代」と規定したことは,すでに有名であるが,わが国の行政に管理という概念が導入されたのは最近のことであると言つてよい。従つて,行政管理という概念も,技術も今後の発達にまつところが大きい。
 2.従来のわが国の行政の特質は,天皇の統治権の発動形態として権威主義又は権力主義の色彩の濃いことであつた。近代国家としてのわが国の行政は,この権威主義に法治主義の衣を着せたものであつた。行政官の権威は,法令の執行という形で現れた。ここに,官吏制度は,法科万能ということにならざるを得なかつた。官吏の養成における東大法学部と高等文官試験制度の役割を思い合されたい。そこには,権力と法律技術との密接な結合があり,従つて,行政官としての事務官の優越性が生れた。しかし事務官の優越性は,行政事務の尊重を意味するものではない。むしろ,法律万能のかげに,事務や技術の軽視が宿るのである。支配の道具としての法規の論理は尊重されるが,法規の基盤である行政事実や法規の実現する過程である行政事務は,一段価値の低いものとして取り扱われたのである。従つて,行政事実の認識・調査や行政事務の処理について,その合理的な取扱いとか能率とかいうことには,余り考え及ばなかつたといえるのである。行政は,法規の権威の執行であると考えられたのであるから,おのずから,そこには,重々しい形式と慣例の尊重が生れた。

衛生行政における管理と能率—保健所活動を中心として

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.12 - P.15

はじめに
 衛生行政とは「公衆衛生の本来の目的を達成するために,公の責任において,その条件を整える働き」であり,さらに「与えられた条件の下において,公衆衛生活動の質の向上を図る働き」である。ここに条件というのは,第一に人,第二に予算,第三に法律,第四に組織の問題であるといえる。ところで,わが国の衛生行政の現状をみると人を確保すること,予算を獲得すること,法律を作ること,機構を整えることにはきわめて熱心であるが,これらの人なり,予算なり,法律なり,機構なりを公衆衛生の質の向上のために,最も効果的に管理運営してゆくということについてはきわめて不熱心であり,ときには無関心でさえあるのが通弊であるといえる。
 もちろん,このことは決して衛生行政に限つたことではなく,わが国の行政全般について当てはまることであるが,これは明治の初頭以来終戦に至るまで80年の長きに亘る中央集権的,官僚主義的な行政がもたらした重大な弊害のひとつであると考えられるのである。このような点を頭におき乍ら,以下に衛生行政における管理と能率の問題を,保健所活動を中心として考えてみよう。

保健所管理の技術的基礎

著者: 橋本道夫

ページ範囲:P.16 - P.25

はじめに
 戦後の新しい保健所も既に10年の歳月を経た。近年医療保障体制の確立が進められるにつれて保健所の在り方も既に過去10年の型そのものから次の新しい段階を開いてゆかなければならない時期に直面しつつある。保健所を如何に運営管理するかを,理念の上から,言葉の上から,又一途に実践の立場から相当な体験を私達は蓄積することが出来たが,この転換の時期において我々に今最も不足しているものは具体的な又出来るだけ客観的な諸種の係数を判断しながら,方針を決定し,又実績を把握検討することではなかろうか。"補助率が低い","予算が不足だ","人が足らない"等これらはすべて現状を左右する最も決定的な因子である。
 しかし,今"どれだけやる仕事があるのか"。"それをやるにはどのような職種の人がどれほど必要か","現在はどのような程度に,人,金,物,仕事,をもつて行つているのか","不足とするならば何がどれほど不足なのか""方針をかえるとするならば何をどのようにかえるのか","そのために現在の人と業務にどのような影響を来すのか"などと現実の行政機構の中におりこむためには是非とも見当がついていなければならないことで,部外者の人をも充分納得させるようなことのできるような資料や見解が余りにも乏しいのではなかろうか。

公衆衛生に望まれる社会学的アプローチ

著者: 柏熊岬二

ページ範囲:P.26 - P.29

1.新しい科学の方向
 最近の諸科学の方向の中で,際立つていることの一つは,他の学問分野との提携であり,共同研究の機運の盛上りである。たしかに,従来の狭い学問的枠の中にとどまつていたのでは十分に解明しえない問題が次第に多くなつてきている。とくに,対象を一にする科学の間では新しい方向への努力が余計に望まれようし,事実,これまでも2〜3の分野では行われてきた。例えば,パーソナリテイ(Personality)の解明を目指す,心理学,精神医学,社会心理学,社会学,人類学,その他の科学の間では,比較的早くから共同研究の功績をあげており,最近では,各学問分野の境界を取除いて新しい学問体系--行動科学(behavioral science)--を生みだそうとする動きさえ芽生えている。
 本稿の主題である公衆衛生についても,その対象を共通にする他の分野との交流を必要としよう。とくに,人間の社会生活の諸側面を取扱つている社会諸科学,中でも社会学との提携は不可欠の条件とさえ云える。このことは,残念ながら従来余り省みられなかつた点であるが,今後両者がますます接近するにつれて,必ずや双方に実り多き成果をもたらしてくれるであろう。

国民皆保険と公衆衛生

著者: 黒木利克

ページ範囲:P.30 - P.30

 今回の保健所管理セミナーの最終日の午前,黒木企画室長により「国民皆保険と公衆衛生」を主題とする特別講義があり,その内容について本誌に御執筆頂く予定であつたが,非常にお忙しいため甚だ残念乍ら本号に間に合わなかつた。何れ改めてこの問題について御執筆願うことになつているので御期待頂きたいと思う。
 この特別講義の中で黒木氏は,まずわが国における公衆衛生及び医療制度の変遷,諸外国とくにイギリスにおける医療保障制度の発展について述べ,医療保障の概念,医療の本質等の問題にふれた後,わが国における医療のあり方の反省として,①保障すべき医療の内容,②医療水準と国民所得水準とのバランス,③診療圏問題,④医療機関の機能の分化,⑤家庭医の重要性,⑥病院と診療所の役割,⑦医療機関の公衆衛生活動における役割,等の諸問題について述べ,公衆衛生の強化が医療保障の大前提であり,この点イギリスの場合は公衆衛生から医療保障への道をとつたのに対し,わが国では社会保険から医療保障へ入ろうとしている点に問題があることを指摘した後,公衆衛生活動のセンターとしての保健所の問題点として次の諸点をあげた。

保健所管理についてのセミナー

1.保健所運営(その1)—保健所運営の現状と問題点

著者: 田波幸男 ,   北野博一 ,   橋本道夫 ,   橋本正己

ページ範囲:P.31 - P.35

保健所の充実強化について(説明田波保健所課長)
 保健所の任務は管内における公衆衛生全般に対して責任を負うことであつて,具体的には,管内の公衆衛生に対して総合的な計画を樹立し,自ら中心的実施機関として活動するとともに,市町村,国保関係,医療機関,地区衛生組織等の自主的な公衆衛生活動に対し,指導,援助及び調整を行い,又管内の公衆衛生に対する責任を全うするために,諸種の監督業務を行うことであり,この任務を遂行することによつて,医療保障達成の基礎確立に貢献するものである。
 右の要請を考えるとき,保健所関係の現状には種々改善すべき点がある。以下その主要な点についての概略をかかげる。

2.保健所運営(その2)—予算管理を中心として

著者: 北城潔 ,   北野博一 ,   栗原忠夫 ,   奥山三四吉 ,   橋本正己

ページ範囲:P.35 - P.37

発題講義の要旨
奥山三四吉講師
 資料「保健所における予算態容と配分上の諸問題」公衆衛生第22巻8号(昭和33年8月)を中心として,大阪府衛生部における保健所予算の編成,配分,執行の経緯,現状,問題点等について説明。まず予算編成の基礎となる財政の原則としてF. Newmark(仏)の学説〔①公開性の原則,②明瞭性の原則,③事前承認性の原則,④厳密性の原則,⑤単一性の原則,⑥ノンアフエクシヨンの原則,⑦完成性の原則〕及びH. Smith(英)の学説〔①計画性の原則,②責任性の原則,③報告の原則,④手段具備の原則,⑤多元的手続の原則,⑥裁量性の原則,⑦時期弾力性の原則,⑧予算機構の綜合性の原則〕等を紹介,現実がこれらの原則と隔りのある点を指摘,大阪府衛生部における着眼と改善の経過を述べた。
 大阪府においても実績主義が一般常識として慣習的に行われていた。保健所予算についても,国と地方公共団体の予算編成の時期的なズレ等で予算の裏づけのない事業ができることもあり,また,例えば衛生監視業務,認許可等法律で義務づけられた狭い意味の行政行為に必要な予算が不充分なために保健所として最も重要な指導的な業務のための予算がこれに喰われる傾向があつた。そこでこれらの不合理を是正するために,財政の原則,交付税の配分方式等を分析しこれを参考として予算の配分の合理的な基礎を見出すために努力を重ねた。

3.法的事例研究

著者: 木村政光 ,   大池真澄 ,   下村健 ,   樋上貞男 ,   小林富美栄 ,   曾田長宗 ,   橋本正己

ページ範囲:P.38 - P.39

このセミナーのねらい
このセミナーは,法的な立場からの事例研究であつて,厚生省としての結論を出すというようなことはあくまでも避けたい。各事例の問題点は一応研究のために出してあるが,これに捉われないでいろいろな観点から討議してほしい。(木村座長)

4.職員研修の諸問題

著者: 北野博一 ,   橋本正己

ページ範囲:P.40 - P.42

 このセミナーは,当初「監督者のあり方」を中心とし,これに関連して職員研修の諸問題をも取り上げる計画であつたが,当日止むを得ない事情で講師・助言者に変更があつたため,主として保健所における職員研修をめぐつて,茨城県下館保健所及び徳島県徳島保健所の事例発表を中心に自由な討議を行つた。

5.結核予防業務(その1)—集団検診を中心として

著者: 若松栄一 ,   今井清 ,   田中正一郎 ,   小川良治 ,   清水寛 ,   重松逸造 ,   橋本正己 ,   吉田寿三郎

ページ範囲:P.42 - P.50

〔事例発表〕
1.舞鶴市の結核予防事業に対する保健所の役割
京都府舞鶴保健所長 八十島 幸三
 舞鶴市は人口11万の裏日本の元軍港都市で現在海軍自衛隊教育隊の所在地で財政は赤字団体に指定せられている。厚生課の中に公衆衛生係があり技術者は看護婦4名であつて,市の行なう伝染病予防注射及び結核住民検診におけるツ反応及びBCG予防注射も彼等の業務になつている。これら注射に対する医師雇上費は注射1人に対し1円の費用が計上されているに過ぎず,これによつて開業医の協力を得る事が出来ないし,又開業医も民衆が集り易い時間と自分達の診療時間との関係を口実に協力しようとしない。学校における結核検診においても一部の校医はツ反応及びBCG注射等を嫌がり保健所に押しつけようと学校当局に迫る状況である。これらの集団注射業務は無味乾燥なる単純労務的であつて心身の緊張を要し疲労の多いものであるからだと思える。これらを保健所で引受けないと間接直接撮影とも病院に依頼する。結果が保健所收入が大幅に減少する事になり本庁の容認する処とならない。保健所の1乃至2人の医師及び保健婦では全部を引受ける事が出来ない。一部は病院に依頼する事となるが病院は近くの学校だけしか引受けないから勢い遠方で辺ぴな処許り保健所がやらなければならず,昭和31年度の住民検診率7%から3倍の22%に,32年度は向上さしたが医師,保健婦の労務が3倍になり,医師保健婦が過労で病気欠勤をする様になる。

6.結核予防業務(その2)—患者管理を中心として

著者: 若松栄一 ,   今井清 ,   田中正一郎 ,   田中明夫 ,   重松逸造 ,   橋本正己

ページ範囲:P.50 - P.53

〔事例発表〕
1.保健所の結核患者カード管理について 大阪市旭保健所長 長谷広
2.管内結核患者家族の発病について 兵庫県福崎保健所長 吉田 博義
 保健所の行う結核予防事業において効率的な患者発見策は患者家族検診である。しかし管内の各種結核検診を全面的に担当している当保健所にあつて,尚且つ家族検診を管内全域に亘り滲透していくには検診能力の点において問題がある。私は当保健所が最近行つてきた住民検診,学校検診,家族検診の夫々の結果より結核患者家族の発病状況を追求したのでその大要を報告する。
(1)住民検診によつて得た結核患者家族の発病状況について(第1表)

7.母子衛生業務

著者: 松尾正雄 ,   浅野一雄 ,   鈴木隆子 ,   林路彰 ,   船川幡夫 ,   高石昌弘 ,   橋本正己

ページ範囲:P.53 - P.58

〔事例発表〕
1.母子衛生業務の事例
愛知県岡崎保健所長 太田辰男
Ⅰ.保健所における母子衛生事業について
(1)乳幼児保健指導について
 所内母子クリニツクの外に岡崎市においては主として市営乳幼児健康相談所がこれに当り,保健所は専ら母子愛育地区の育成に当つている。郡部に対しては保健所か定期的に出張相談を実施する。昭和32年中の取扱件数は保健所5,452,相談所7,068件で県保健所取扱総件数の13.4%に当る。保健所クリニツク1回平均約30名,年間1人平均受診回数33回,所外定期相談は1回平均51名,受診回数4回である。

8.保健婦の業務

著者: 金子光 ,   小林富美栄 ,   北野博一 ,   谷口智子 ,   土谷節子 ,   鈴木キヨ ,   曾田長宗 ,   岡田菊枝 ,   永野貞 ,   橋本正己

ページ範囲:P.58 - P.62

〔事例発表〕
1.保健婦活動の事例 高知県中央保健所長 中屋 逸郎
 高知県では10年来保健婦を町村に駐在させ担当地区の綜合業務を推進することにより相当の成果を收めてきたのでここに報告する。
 本県は四国南側で面積約7,100平方粁,人口約90万で地形,山脈と峡谷が主で,産業に乏しく交通不便で行財政の困難な県である。終戦前は保健所数3,保健婦数20で,公衆衛生は甚だ低調であつた。即ち保健所及び保健婦活動は僅かに保健所所在地周辺に限られ,非民主的不公平のそしりを免がれなかつた。この点を反省し昭和23年保健所数5,保健婦65名を以て全県下を保健婦によつて分担し,保健所事業を可及的滲透すべく駐在制をとることに踏みきつたのである。

9.保健所のクリニック(成人病対策を含む)

著者: 山形操六 ,   橋本道夫 ,   林弘 ,   橋本正己 ,   吉田寿三郎

ページ範囲:P.62 - P.67

〔事例発表〕
1.保健所クリニツクの運営について 名古屋市中保健所長 織家 実
1.保健所クリニツクの考え方
 保健所クリニツクは当然個別指導に重点がおかれる。個別指導は問題点をもつた個人とその家族を含めたものを指導対象とすべきである。従つてクリニツクはこの問題点を発見する場であると共に解決の端緒を与えるものと考える。従来ともすればクリニツクの場ですべてを解決しようと考えて長く引き止め過ぎたことはないか,問題点の有無にかかわらずこうした傾向はなかつたか,保健所クリニツクは保健所業務の一部であり問題点発見の場はさらに拡大されて来た現状では"待機"する仕事から前進して"外に出て求める"仕事に切り換えるべきであり,このためにも従来クリニツクとして扱つて来た内容,人員等にも整理を加えねばならないと考える。

10.医療機関,関係行政機関との連携

著者: 曾田長宗 ,   吉田幸雄 ,   橋本道夫 ,   井田直美 ,   橋本正己 ,   吉田寿三郎

ページ範囲:P.67 - P.71

〔事例発表〕
1.保健所と医師会,医療機関との積極的連携
   山梨県小笠原保健所長 佐々木 孝
2.保健所と医師会,市町村等との積極的連携
   青森県黒石保健所長 高松功
3.保健所と医師会,医療機関との積極的連携について
   福井県福井保健所長 円山 槇雄
4.保健所結核予防事業と市町村の積極的連携について
   奈良県吉野保健所長 南森 正友
まえがき
 保健所所在の地元でありながら保健所に対する認識が低く且封建的因襲が強い地区に対する結核住民検診を実施し好成績を收めたのである。

11.環境衛生業務(食品衛生を含む)

著者: 畠田正義 ,   宮田一 ,   槇野四郎 ,   実川渉 ,   橋本正己

ページ範囲:P.71 - P.74

〔事例発表〕
1.衛生監視業務の改善合理化の事例 宮崎県小林保健所長 梅村 享信
 婦人会とその他一般の環境衛生,食品衛生に対する関心が高まる一方,法律の改正等により保健所の衛生監視業務の量は急激に増加したが,関係職員の甚だしい不足のため保健所は大きな困難に直面している。そこで,衛生監視の能率化を図るため,週1回(火曜日),全監視員が一台の自動車に乗つて,計画的に飛石的に管内の監視指導を行つている事例について報告した。

12.諸外国の保健所の比較

著者: 川上六馬 ,   岩佐潔 ,   斉藤潔 ,   曾田長宗 ,   橋本正己

ページ範囲:P.74 - P.79

講師による解説と討議された主な問題点
川上講師
 昨年4月26日よりロンドン,スイス,ドイツ,オランダ,フランス,イタリー,アメリカを廻り帰国した。外国の衛生行政,特に保健所を夫々2つ3つ見て参つたので簡単に申し述べる。
 全体的に見て欧洲では保健所は行政はやらないで健康相談をやつている。例えば,ローマなどでは監視員は保健所に駐在しているが,その命令権は保健所長でなく,その地区の衛生部局長にある。勿論この監督権が所長にあるか,部局長に直属しているのが良いのかは別問題であるが,この方が機動性があつて情実に左右されることが少ないようにも思う。衛生監視はフランス警察が行いその他の国は衛生部局が担当している。

13.保健所における実地修練

著者: 橋本道夫 ,   杉原正造 ,   斎藤潔 ,   橋本正己

ページ範囲:P.79 - P.83

〔事例発表〕
1.保健所における実地修練について 岐阜県伊奈波保健所長 傍島賢
 私は昭和31年2月伊奈波保健所長として,衛生行政を担当することになつたのでありますが,当保健所は医師実地修練の指定保健所であり,初めてインターンを指導する責任の重大さと,そのむつかしさを痛感したのであります。
 そこで毎回日課表を計画すると共に,2週間の最終日には必ず座談会を開き,感想文の提出を求め,次回及び来年度の参考資料としたのであります(別紙感想文の要旨を説明)。

14.地区衛生組織活動(その1)—農村における地区組織活動を中心として

著者: 大志万準治 ,   辻美恵子 ,   重田信一 ,   宮坂忠夫 ,   橋本正己

ページ範囲:P.83 - P.91

〔事例発表〕
1.地区組織における衛生教育活動について 山口県岩国保健所長 宮原 精二
 岩国保健所管内は山口県の東端で小瀬川を隔てて広島県に接し,南部は瀬戸内海に面する。北部は山岳地帯で山口県の屋根と称せられる。山口,広島,島根の三県の境界をなしている。
 管内を北より南へ錦川が貫流し,南部の海岸地帯にやや平地のある外,総面積の5分の3以上は山である。

15.地区衛生組織活動(その2)—都市における地区組織活動を中心として

著者: 三浦英夫 ,   宮坂忠夫 ,   橋本正己

ページ範囲:P.92 - P.96

〔事例発表〕
1.保健所管内の地区組織
  東京都玉川保健所長 松浦 利次
 大都市周辺の様に,人口の社会的増が多く住民の出入のはげしい所では,一般に公共活動の地区組織をつくることはむつかしい。
 吾々がさし当りほしい地区衛生組織は,(1)地区住民との意志疏通の場として,(2)衛生上の情報交換の場として(3)各種調査の基盤として,(4)且つグループ活動施行としての組織である。

綜説 各国の保健所

フランス及びオランダの保健所

著者: 山本高治郎

ページ範囲:P.97 - P.101

 編集者の求めに応じて本稿を引受けたのであるが,かなりの躊躇を以つて引受けたことを冒頭に告白することを許されたい。他に適任の方が居られるに違いないのであるが,急に思い浮ばないままに引受けさせられる結果となつて了つたのである。筆者は,1955年の4月から7月までフランスに滞在し,且つそのうちの2週間はオランダの見学旅行に費消したと云う程度の経験の持主でしかない。従つてできる限り正確を期した積りであつても,本レポートに大きな見当外れがあるかも知れないし,又一面大雑把なものに必然的になることも避けられない事情にもある。唯この両国の公衆衛生活動が,余り我が国に於て関心を払われていないので,敢て本稿を引受けた次第である。

原著

聾唖の予防に関する研究—実態調査,文献的考察を基礎にして

著者: 小川喜代子

ページ範囲:P.102 - P.104

はしがき
 聾唖は先天的或は後天的に諸種の原因によつて聽器,聽覚中枢,言語中枢の何れか障碍を蒙り,日常会話の出来にくいもので,我が国には人口1万人につき10〜20人に達し,諸外国に比して真に多数に上つている。これら聾者の身体状況,社会生活状況は聾唖でない者より低劣であり実にあわれである。この様な不遇な聾者の救済と発生防止のためにささやかな研究の一端を簡略に述べて諸賢の御批判と御指導を仰ぎたいと存じます。

山梨県有病地学童の年間に於ける日本住血吸虫卵保有状況について

著者: 大田秀浄 ,   佐藤重房 ,   秋山澄雄 ,   中山茂

ページ範囲:P.107 - P.109

 日本住血吸虫(日虫と略す)の人体の感染率は逐年減少し,塗沫法にては日虫卵の検出は極めて困難となり集卵法にて実施しても検出虫卵数は極めて少数となつた現状であるので,有病地学童の年間に於ける日虫卵の保有状況を詳細に知らんとして,有病地中巨摩郡某小学校学童,第3学年107名,第6学年81名の集団検便をMIFC変法による集卵法にて昭和31年2月より昭和32年1月まで毎月1回実施し,二,三の知見を得たので報告する。

自動車警笛の不快感に対する要因

著者: 永田久紀 ,   佐々木武史

ページ範囲:P.110 - P.111

 都市に於ける最近の自動車台数の増加は著しいものがある。京都府警察本部の統計によると昭和32年度は昭和22年の8.5倍強で然も毎月増えている状態で,之に伴つて自動車の警笛音が公害問題の焦点に置かれ,昭和33年度より無警笛運動が全国的に行われ始めている。我々は昭和32年度より行つている警笛調査の一環として,自動車の警笛が不快感を与える要因に就いての調査を行つたので其の結果を述べる。

文献

地区保健センターとしての病院

著者: 西川

ページ範囲:P.109 - P.109

 「昔は病院といえばベツトに横たわつた人間の周りに家族,親類縁者,喜びや悲しみ,希望や恐怖が取りまいている図を想像したものであつた。」しかし新しい治療法が医薬,治療技術面で発達し,予防・保健事業が公衆に浸みわたつたために,様相は20年前と全く変つてしまつた。米国の人口は急激に増加しているが,病院の数はそれにも増して殖えつつある。1946年には人口1,000に対して112の病院があつたが1956年には132になつている。
 また病院自体も変つて来た。以前には病院の経済的支柱は別にあつたけれども,現在では患者の支払う医療費と保険団体の支持とになつている。したがつて病院が従来通りにその門をたたいて入つて来た患者だけを対象としていたのでは完全に責任を果したことにはならなくなつている。近い将来は公衆衛生と病院とが緊密に連携をたもつて研究し,検討し,行動しなければならなくなる。病院で認知した情報を公衆衛生当局に通報して流行のぼつ発に対する予防をさせると同時に,この予防活動にも病院が従事する必要がおこつてくる。もち論従来とても,出席,死亡,結核やポリオの発生等についてはよく情報を提供し,ことに最近の黄色ブドウ球菌の耐性株発生についてはまことに時宣に適した処置をとつてくれたので,これとの戦いが有利に展開しているわけである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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