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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生23巻11号

1959年11月発行

雑誌目次

特集 精神衛生(Ⅱ)

精神衛生行政の機構とその周辺

著者: 広瀬克己

ページ範囲:P.657 - P.664

I.序
 精神衛生行政はまだごく若い行政の1つである。精神病者監護法と精神病院法は半世紀の長い歴史を終えて昭和25年精神衛生法に発展的解消をとげたのであるが,新しい精神衛生行政はここから始まつたといつても過言ではないだろう。
 かくて精神衛生行政は,この10年間に国都道府県の行政のなかで一応の機構を確立したことは周知の如くである。この行政機構が10年の過程で,精神医学の進歩に即応しつつ発展してきたとはいえないが,幸い法の性格に重大な変化をみないで今日に至つたことは慶すべきであろう。しかしながらいよいよ重大化してきた人口や財政事情,行政伝統などから復古主義の片鱗が漸くちらつき始めた現実も見逃し難い。病院の救護施設化,入院手続きの司法権介入の動向などには,にわかには賛同しがたい本質的問題のあることに留意しなくてはならない。

精神衛生から地域社会への接近方法

著者: 横山定雄

ページ範囲:P.665 - P.670

I.はじめに
 編集氏から表題のような,少しばかり意味のとりにくいテーマを頂いた。しかも「理論ではなく実際を」という註がついている。皮肉な見方をすると,精神衛生は今まで地域社会から遊離していたようでもあり,理論はともかく,精神衛生活動が地域社会に接近する実際方法がよくわからないのだ,とも受けとれる。だが,精神衛生が公衆衛生の領域に含まれている今日,こんな解釈でよいのだろうかと思われる。しかしよく考えてみるまでもなく,精神衛生関係者はその専門活動に当つて地域社会や住民生活と積極的に結びつけることもなく進めてきているようでもあり,従つて実際方法はもとより,その理論構成さえも明確にされていないのではないか,と思われる。
 たとえばごく最近,厚生当局のきもいりで「保健福祉地区組織育成中央協議会」が設立され,社会福祉と公衆衛生の両関係者はこれから一致協力して「地域組織活動」を推進しよう,ということになつた。だがこの中に精神衛生関係者やその団体は加入してもいないし招かれてもいない。これはどういうわけなのであろうか。

母子衛生領域における精神衛生

著者: 宗像文彦

ページ範囲:P.671 - P.674

 精神衛生はすべての衛生問題の分野に存在していることは今更Lemkauの言を引用するまでもなく,多くの専門家および衛生関係者によつて知られており,注意が喚起されていることである。精神衛生学を定義して,「人間を,人間全体として理解しようとする学問である」とするものもあり,身体的健康の問題であれ精神的健康の問題であれ,われわれが「患者」乃至は「人間」について,相談を受け,指導・治療を行う際には,その人間の精神衛生を常に忘れてはならないであろう。特に,最近においては,母子衛生領域における精神衛生の重要性が強調されつつあり,日常母子衛生事業に従事している医師・保健婦・助産婦等は,妊産婦乳幼児の身体的健康についての指導を行うのみでなく,その精神衛生についての指導を行う必要に迫られることが多くなつた。

新しい精神病院

著者: 江副勉

ページ範囲:P.675 - P.680

I.はしがき
 最近精神病院のあり方についての関心がひじように強くなつてきており,1957年には第1回病院精神医学懇話会1)が国立武蔵療養所でひらかれた。外国でも精神病院の問題をあつかつた本が何冊も出版されているし2)〜6),国際的には世界保健機構の精神衛生専門委員会がこの問題ととりくんでいる7)8)
 ところで,現在精神病院改革運動の先頭にたつているイギリスWarlingham Park Hospitalの院長T. P. Reesが1956年王立医学心理学会年次総会で精神病院のあり方をのべた会長演説8)は"Back to Moral Treatment andCommunity Care"と題されている。"復帰"というからには,過去になにかよいものがあつたにちがいない。事実,ふるい文献をよむと,いま新しい旗印のようにさけばれている"opendoor"という言葉がたびたびでてくるのである。

綜説

保健所の問題点

著者: 村中俊明

ページ範囲:P.681 - P.688

I.まえがき
 戦後我国の行政は新しい転換をみたが衛生行政についても大部分の法規は面目を一新した。衛生行政の一機構として保健所も又大きな変化をうけた。
 公衆衛生は社会的影響をうけやすいという特性の故に過去に於て戦争目的遂行の為に社会活動の大きな推進力の一つとなつた。そして保健所は国家体制確立のために強力な実践的役割を果した。

アイソトープの利用の趨勢

著者: 森栄幸

ページ範囲:P.689 - P.697

I.はじめに
 本誌8月号に原子力関係の論文が掲載されたがこれは原子力と公衆衛生の両者の結びつきの重要性に着目されての企画と考えられる。アイソトープの利用を見ても,公衆衛生という面から,いろいろと問題が浮び上つてくる。まず,アイソトープが使用される目的によつては,一般公衆へ危害の及ぶ恐れのある方法で使用される場合のあること,つぎに,各所の研究室工場などで使用ののち廃棄されるアイソトープのこと,また,アイソトープの使用施設で事故があつた場合のことなど,さまざまなケースが思い出される。
 たとえば,アイソトープが広い範囲の野外実験に使用されることがある。詳しくはのちに述べるが,海洋漂砂の移動状況の調査のため放射性の砂をアイソトープで作り,これを海岸線に撤いたり,発電用ダムや農業用水池堰提の漏水調査のためアイソトープを含んだ水を流したり,昆虫の移動飛しよう範囲の調査のため昆虫にアイソトープをラベルして放つ場合もある。これらは,アイソトープの使用前に,附近人口の分布はどうか,飲用水への混入はないか,その地域に放射能が沈着しないか,等々一般公衆に危害を与えないよう慎重な調査が必要なことはいうまでもない。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・7

学校保健

著者: 柳沢利喜雄

ページ範囲:P.699 - P.702

I.序言
 学校保健に就て述べるわけだが,その前に一言衛生,公衆衛生学教育の全般に就て我々の学校のことを述べる。千葉大学では今まで医学概論(医学哲学)の講座はなく,ただ教授の興味によつてその様な考え方が教えられていた。
 ところが最近の学生の傾向として,余りにも問題を割切りすぎるのではないかとの論議がなされだした。勿論その事自身が悪いわけではなく,かえつて進歩である一面もあるが又反面たしかに考えなければならない問題でもある。この様な悪い意味のRealismに対してもつと深くつきこんで考える教育の必要がおこつてきたわけである。その為には医学哲学の授業が要請される。ただ実際問題になるとその担当者の人選の困難性がある。そこでとりあえず今年の後期から2年生に正規授業として医学概論を課することにきめた。そしてその一切の企画運営を公衆衛生学の教授にまかせられた。なぜなら公衆衛生学の授業に際しては最も直接的に学生がこの様な問題と対決する場面が多いからである。

「医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育」についてのアンケート

三浦教授の「環境衛生」(2)上下水・汚物処理の読後感

著者: 入鹿山且朗 ,   谷川久治

ページ範囲:P.703 - P.704

 三浦教授の「上下水・汚物処理」の教育内容についての読後感を書けという御命令を受けたが,同教授は私の大先輩であり,そのお講義の方針,内容については敬服して拝読したので,私がとりたてて批判がましいことを書く資格も力もない。ただ長年同じ項目について学生に教えている私として感じている問題について触れる。どうしても講義の下手な故もあつて学生に興味を呼び起すことができないが,講義内容について何か満ちたりないものがあるのではないかと反省している。広い意味の生物学に属する医学を学ぶものにとつて衛生学,とくに環境衛生の上下水や汚物処理の問題になると何となく医学と別途な領域を講義しているように学生に受けとれるのではないかという気がする。最近2,3の大学で衛生工学の教室ができ,その方でこの部門が専門的に取扱われるようになると,益々医学とかけ離れてゆくような気がする。勿論この部門が衛生学の極めて重大な部門で軽視できないのであるが,講義内容または衛生学者のこの方面の研究方向に何かも少しつきすすんでゆかねばならない点があるのではなかろうか。

原著

1農村における屎潜血反応及び自覚症状との関係の疫学的研究

著者: 千葉昭二 ,   境野てる子

ページ範囲:P.705 - P.708

I.緒言
 著者らは,埼玉県高坂村住民の寄生虫検査の際,屎潜血反応および自覚症状につき調査する機会を得たので,その結果を報告する。
 尿潜血反応の集団的研究に関する文献は,余りみられず,佐藤1)その他の研究も臨床的或いは生化学的方面に限られ,疫学的調査は少い。最近,谷川他5)が報告しているのみである。

高血圧の統計学的観察(第3報)—中学生の血圧について(その2)

著者: 古川三雄

ページ範囲:P.709 - P.711

I.はしがき
 さきに,第2報,中学生の血圧 その1において,農山村の中学生207名 男子96名,女子111名の血圧を測定し,身長,体重,比体重,脈搏数と血圧との関係を統計学的に追及して報告したのであるが,本編においては,引続き,同じ中学生を対象とし,遺伝関係ならびに環境条件と血圧との関係を観察したので報告する。

ロンドン便り

著者: 佐藤徳郎 ,   長谷川泉

ページ範囲:P.698 - P.698

 LondonのChester Beatty Instituteに滞在中の公衆衛生院佐藤徳郎博士からのreportがとどきましたので掲載いたします。癌研究の動向についての興味ある示唆がなされております。

文献

職業衛生と地方衛生行政官,他

著者: 芦沢

ページ範囲:P.664 - P.664

 間口の広い衛生行政のさまざまな仕事に追われて地方衛生当局が見過している領域があるとすれば,それは職業衛生の分野ではないだろうか。U. S. Department of Health, Education, and WelfareのDr. Magnusonはこう問題を提起し,その理由として職業というと鉱山,工場を考え,地域社会との結びつきをつけなかつた。又有害物曝露の制御は手に負えないものときめこみ,人口の1/ 3以上をしめる労働者である成人の健康の維持という立場があるにもかかわらず,工場,事業所の中への進出を臆劫がつていた。人口10万以下の都市なら衛生担当の機関は1つで十分であり,現在,学校保健にタツチしていると同程度には出来る筈である。工場主もtax-payerの1人である限り,こちら側に従業員の保健に関連のある問題について相談に応ずる用意さえあれば,すでに青写真の時に適切な指示をすることにより問題を未然に防ぐこともできる。地方医師会の協力を得て職業病の屈出制も考えられてよい。現に行われているカリフオーニヤ州では年間25,000の屈出を受理し,過半は皮膚炎である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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