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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生23巻12号

1959年12月発行

雑誌目次

特集 公害 巻頭言

公害

著者: 斎藤潔

ページ範囲:P.713 - P.714

 明治維新以来,わが国における産業革命のめざましい発展に伴つて,産業の工業化と人口の都市集中の現象が急速に行われた結果として,従来しばしば公害の実例がくりかえされ,その都度局地的問題として取り上げられてきたが,勿論充分な解決は得られなかつた。しかるに,最近に至りこの問題が社会的関心のうちに,やかましい世論として大きく浮び上つてきた。
 今日まで公害に対しては,国としても殆んど対策が講ぜられず,社会問題としても小さく処理された傾向があつた。その間公衆衛生人としても,公害の実体を充分に解明しえず,従つて社会問題として取り上げられるほどに盛り上がらなかつた。

綜説

公害問題序説

著者: 庄司光

ページ範囲:P.715 - P.720

 最近世論は公害問題に非常な関心を示し,公衆衛生の分野では第11回日本公衆衛生学会1),第15回日本医学会総会2)で,公害問題に関するシンポジユウムを開催したが,衛生行政の面では未だ方針,対策が十分出来ているとは云い難いし,公衆衛生の第一線では行き悩んで居る面が少くない。今日,公害問題について反省し,今後の方向づけをすることが極めて必要に思われる。本誌の公害問題の特集もこの線に沿つたものであるが,ただ公害問題は範囲が非常に広いために,具体的なことは大気汚染に限り,他の問題については将来の機会に譲つたことを諒承されたい。

大気汚染機構研究の現状

著者: 伊東彊自

ページ範囲:P.722 - P.728

I.大気汚染機構
 ひと口に大気汚染といつても,はつきりした定義でも与えないかぎり,きわめてばく然とした現象を考えなければならない。たとえば最近のように大気の放射能汚染がやかましい問題になつてくると,大気汚染の中に放射能ちりや放射能雨をとりあげないというわけにはいかなくなる。放射能性ちりの沈着に着目すると,北半球の中緯度地方に沈着が多いという緯度効果を無視できなくなるし,そうなれば当然,対流圏沈下,成層圏沈下も考えなければならず,大気大循環の問題を取り上げなければならなくなる。汚染源にしても,大きな工場からの煙だけでは片手落ちであるといわれ,家庭用の煙突に注目したのがごく近年のことと考えられていたのが,現在では大きな問題として自動車の排気ガスが浮かび上つてきているし,原水爆実験もりつぱな汚染源であるし,原子炉のいくつかはすでに事故をおこしており,広く注目されてきているところである。このほかにも宇宙じんなどというまだよく正体のつかめない大気汚染源があり,それによつて派生する可能性があるともみられる大規模な降水との関連も数年前からこの方面の学界の話題になつてきている。
 ここでは,これらの全体について展望するわけにはいかないが,簡約に総括するほど研究の形態がかたまつていないのが現状であるとみてよかろう。したがつて,いきおい問題となつているいくつかの研究におもに目をつけることになる。

自治体の行う大気汚染の測定法とその問題点

著者: 寺部本次

ページ範囲:P.729 - P.736

I.まえがき
 煤塵,有害ガスによる都市の大気汚染が公害問題として近年各地で住民の苦情の対象となり,行政的にもその対策が強く要望されている。この対策のためにはまずそれぞれの都市における大気汚染の範囲,量,質等の特性に関する科学的な調査資料を必要とする。大気汚染に関する調査研究には気象学,物理学,化学,薬学,工学,医学,植物学など広汎な分野の知識と技術を要し,これらの最新の学術によつて深く究明されなくてはならないことはもちろんだが,又一面標準化された測定方法で広範囲に長期間継続して調査を行つて汚染の地域的分布,季節的分布,年変化(さらに人体,植物,器物等への影響)等の実態を把握する必要がある。
 大気汚染問題の発生しているところ,または発生のおそれのあるところでまず実施すべきは後者の場合である。このSurveyにおいては(1)科学的で測定結果が十分信頼できること,(2)日常業務として継続実施のできること,(3)統一された標準的な測定法でその結果が国内はもちろん国際的にも比較のできるものであること等の要件をみたしてくれる測定法が望ましい。

中小工場よりの煤煙及び塵埃防止対策

著者: 小林陽太郎

ページ範囲:P.737 - P.741

 大気汚染問題の対策として,発生源をつきとめて,その発生量を少なくすることは,根本的に重要な工学的問題である。発生源としては,重工業地帯としての地域的な問題,発電所等の大規模な発生源と高い煙突から出る煙,ダスト等の防止対策等は重要ではあるが,ここでは触れず,中小工場のボイラを発生源とする大気汚染に対する防止方法の一端を紹介する。
 ボイラより発生する,煙,シンダ,フライアツシュ等が煙突より外部に出るのを,出来るだけ防止することが,対策の目的である。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・8

衛生学公衆衛生学教育の概論

著者: 原島進

ページ範囲:P.742 - P.744

はじめに
 編集部から私にあたえられた題は「衛生学公衆衛生学の概念」であつた。このシリーズは医学生に対する教育ということを頭において,筆者方がそれぞれの立場から書かれているものであるので,私がここに,衛生学公衆衛生学の概念を文字どおりに述べるのは,どうも,おかど違いのように考えられる。
 これから衛生学公衆衛生学をはじめて学ぼうとする医学生としても低学年に属する若い学生に,頭初にあたつて,衛生学公衆衛生学の概念を論述しても,それは具体性をかくだけであつて,この学科を興味をもつて学んでゆこうという意欲をかきたてることにはならない。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・9

労働衛生学

著者: 堀内一彌

ページ範囲:P.745 - P.746

 私どもの大学に於ける衛生学公衆衛生学教育のカリキュラムについては,大分以前に求められて医学雑誌に書いたことがある。そのころと本質的に変化はしていない。教育のうちの1つの重点は労働衛生学におかれている。それというのも我国の将来に於ける社会のありさまが,工業殊に重工業を主体とする立国方針によらねばならぬであろうし,殊に私どもの大学の立地条件が日本に於けるその場合の一中心となると考えたからである。産業殊に重化学工業の進歩は,人間の生理状態と著しく相反する物質やエネルギーを,生産技術の手段として用いるようになつて来ている。現状では常に生産技術が優先され,生産に従う人々の保健は二の次にされている。私どもは現在の医学教育機構のなかで,出来るだけ公衆衛生の理論と実際の心得のある医師を世に送るべきであるので,教育の一重点を労働衛生学に置くことは極めて大切であると考える。
 実際に労働衛生学の講義その他のための時間数は,第4学年前期に毎週1.5時間,合計24時間である。しかし上述したような観点から,医学部第1学年からはじまる衛生学公衆衛生学教育のすべてを通じて,産業集団を頭においた教育をする様に心がけている。たとえば人口論で死亡率を論ずるときには職業別死亡統計に,環境生理衛生学では作業環境条件とヒトに,栄養学は集団への栄養問題に,疲労は産業疲労に,それぞれ重点を指向して教育を実施している。

「医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育」についてのアンケート

医学生に対する疫学及び疾病予防の教育について

著者: 岡田博

ページ範囲:P.747 - P.747

 疫学という学問は甚だ古くから存在したに拘らず今日に於ても新らしい領域に属すると考えられている学問であつて,我国に於ては医科大学に講筵が設けられて十余年しか経たない。この学問の包含する内容は昔は感染症を対象としたものであつたがその後非感染性疾患も包括され近年は医学的生態学というともすれば足許を見失いがちな広汎な領域迄拡大されるに至つたのてあつて,医学の他の諸分科と異なり困つたことには今日に於ても確然とした体系が樹立されていないのである。従つて疫学の講義の内容は各人で相当異なつていることが想像される私自身この講義を受持つて10年程経つが正直のところ毎年教育はこれでよいのかと反省し苦慮している。今回金光教授の教育方針を読んで流石金光教授丈あると感心すると共に大いに共鳴している点が多い。

原著

地方小都市(長崎県大村,諌早,島原市)における街頭騒音の実態

著者: 相沢竜 ,   山口道雄

ページ範囲:P.748 - P.751

I.緒言
 戦後都市騒音問題が一般の関心をよび,昭和28年以来横浜市(28年5月1日防止条例)をはじめ諸都市に条例乃至指導基準が制定され,行政措置実施の段階に入つた。長崎県でも33年9月10日付で長崎県騒音防止条例を制定公布し,長崎・佐世保両市に適用したが,その他の都市においても交通機関騒音や映画館等の拡声放送音等が問題となり,条例適用を要望する声が起つて来たので,当研究所では大村・諫早・島原の3都市につき街頭騒音の測定を行つたので,その成績を報告する。

オゾン殺菌灯の殺菌効力について

著者: 田口勝久

ページ範囲:P.752 - P.755

I.緒言
 近年家庭生活の文化的向上と公衆衛生の発達に伴つて,電気器具の衛生面への応用が著しく多くなつてきた。その主なるものは紫外線殺菌灯,オゾン殺菌灯等で食品衛生・環境衛生・防疫等各方面に広く利用されつつあり,特に病原菌殺滅,食器具の保管中における衛生的管理,理美容器具の消毒,室内空気の清浄化等にオゾン殺菌灯の応用が有効といわれている1)2)
 オゾンによる殺菌は紫外線と異り被照射面だけの殺菌でなく,ガス状に発生したオゾンの拡散浸潤によつて室内一様に殺菌作用が行なわれるもので,この殺菌法は欧米諸国においては水道水等に早くより応用されたが,我国では消費電力量その他の理由により実用化が遅れていたものである。

水俣奇病に関する研究(2)—中毒猫,魚介類および海底泥中の水銀について

著者: 佐藤徳郎 ,   福山富太郎 ,   山田美恵子 ,   高柳恂子

ページ範囲:P.757 - P.759

 前報1)にひきつづき,マンガン,セレン,タリウム(硫化鉄鉱を焼いたときコトレルダストに2000ppm.存在する),有機フツ素(リン酸肥料製造時に相当量フツ素が出る)等について発症猫,水俣湾内の魚介類より検出を試みたが,対照との差は見出せなかつた。その後McAlpine等2)が水俣病を紹介し,メチル水銀中毒の症状に酷似していることを報じ,喜田村3)が中毒猫,海底泥に水銀のみられることを報じた。確認の意味において各種試料について水銀の分析を行なつたので報告する。なお,熊本医大水俣病研究班で水銀の面を強調して報告されたことが報じられている4)

熔接ヒユームの粒径に関する調査研究

著者: 近藤東郎 ,   須藤清二 ,   祝成之助

ページ範囲:P.760 - P.763

 熔接技術は近年に於いてその価値を認められ,極めて広範囲に各種産業に亘つて利用されている。特に我国のように造船工業の盛んな国での需要は我々の想像を超えるものがある。
 熔接作業に伴つて発生するヒユームは使用する熔接棒の種類により異なるが,このヒユームを吸入することによつて惹起するであろう作業者の塵肺もまた当然問題となるところである1)。一方,肺胞に沈着する塵埃粒子の大きさはBrown,Hatch2)その他の破究者9)によつて大体決定されている。従つて熔接ヒユームの粒度分布の状態を知ることは熔接作業の有害性を評価する為に必要である。以上のような観点から,我々は最近諸外国で塵埃研究に屡々使用されているカスケード・インパクター3)10)によつて調査研究を行つたので,その結果を報告する。

札幌市北保健所管内住民の高血圧集団検診について

著者: 向当良司 ,   東堅治 ,   小島良友 ,   福井セキ ,   斉藤佳子 ,   奥村利雄

ページ範囲:P.764 - P.770

I.緒言
 近年,結核死亡が激減した反面,脳溢血,悪性腫瘍,心臓疾患等の比較的高年層に多発する疾患による死亡率が高位を占めるようになり,従つてこれらの所謂成人病を予防し,その死亡率を低下させることが予防医学上の新しい課題として注目されるようになつた。
 われわれは成人病予防対策の一環として,まず脳溢血の主要原因である高血圧症をとりあげることとした。従来,高血圧の集団検診は医療関係機関1)2)3)4)5)が実施したという例はかなり多いが,保健所が実施したという報告は少い。われわれは,先に札幌市北保健所管内(北光・鉄東・鉄西・幌北・元町・篠路・新琴似・各出張所地区)住民について高血圧の集団検診を実施したので,その成績を報告する。

文献

自動車の排気ガスによる健康障害,他

著者: 西川

ページ範囲:P.746 - P.746

 自動車の排気ガス,蒸気,および微粒子がロス・アンゼルスの空気汚染源の主なものであると考えられているが,アメリカの西海岸にある諸都市--サンジエゴ,サン・フランシスコ--でも程度の差こそあれ,問題になつている。わが国の公害問題で空気汚染を取り上げるのは,煙突からの石炭燃焼ガスだけであるが日ごとに増える自動車の数と,交通のさくそうする道路をみていると,明日はわれわれの問題としてふりかかつてくることは明らかである。
 自動車の排気ガスは酸化窒素と不完全燃焼物とを含んでいて,粘膜,結膜の刺戟症状が強いことは明らかである。これ以外の作用は未だ明らかでないが,本報告では自動車の排ガスの組成から,長期にわたる曝露実験を続ける必要性を強調している。それには気象因子に関する分析も必要であることを付け加えていた。特に問題となるべき組成ガスには,一酸化炭素,酸化窒素,鉛化合物,その他炭化水素,オゾン等を挙げているが,ちなみに排ガス中の濃度は一酸化炭素が0.2〜12%,酸化窒素が0.4%以下,炭酸ガス5〜15%その他炭化水素0.01〜2%,オゾン0.5ppmであるという。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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