icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生23巻4号

1959年04月発行

雑誌目次

特集 農村衛生

農業労働への覚書

著者: 大橋一雄

ページ範囲:P.229 - P.234

 1.農業労働の特徴―1.
 農業労働は鉱工業或いはその他の産業の労働とは異つた特徴を有している。即ち,それは農業労働過程における"異種継起性 "と" 季節性"とである。農業以外の産業には一般的に職種が定まつているが,それは労働手段に結びついていることを原則としている。従つて,個々の労働者が従事する作業の内容は職種によつて示されていることになり,職業的な分化は進んでいるのである。
 これに反して,農業においては職種は存在しないし,従事する作業の内容は一定ではない。農業労働過程においては異質の労働が順次に配列されている(異種継起性)が,それは作物の生育に応じて労働が異つてくるためで,この異つた種類の労働に同一人が従事しなければならないので,労働手段による職種の分化は行われ難い。

最近における農民の健康状態

著者: 国見辰雄

ページ範囲:P.236 - P.238

 農民の健康状態について考える時,本来ならば労働としての農業生産と直接相互関連する処の労働力の健康状態が問題となるべきである。従つて純粋な意味では労働衛生,もしくは産業衛生の範囲を出ない。
 然しながら現実に農民の健康の問題を扱う時,遅れた農村の生活文化に依る,即ち,農民の生活の仕方に依つて惹き起される疾病や保健の問題――農業生産に間接に関連する―の方が寧ろ比重が大になる。

農村医学の発展のために

著者: 林俊一

ページ範囲:P.239 - P.242

はしがき
 言葉としてみれば,農村衛生という概念は都市衛生に対応している。しかし実際に問題となつている農村衛生の内容は,都市衛生と対比されるようなものばかりではない。
 都市の住民の職業や階層はあまりにも雑多であり,環境もけつして一様ではない。したがつて都市衛生という場合には,都会に共通している特殊な環境衛生だけが問題になる。

健康農村建設協議会の活動を顧みて

著者: 野津謙

ページ範囲:P.243 - P.246

I.健康社会建設協会に就いて
 長年,公衆衛生の仕事に従事していた私が,終戦後,毎日来所する患者を相手に診療所を経営して痛感したことは,ただ患者の治療のみでは到底満足することが出来なかつたことである。
 昭和25年秋,同志医師相寄り,健康社会建設協会を発足せしめ,

農村の環境衛生

著者: 児玉威

ページ範囲:P.247 - P.252

 1955年から始められた厚生省指導によるカとハエのいない生活実践運動は昨年で3年計画を完了したが,この間モデル地区数は51,300ヵ所に増加し一応所期の目的を達したといつてよい。このように,これまでカとハエの一掃に主力をおいた農村の環境衛生指導方針も,これからは家庭生活自体の改善にまで幅をひろげ,健康な生活環境の育成に努力しなければならない時期に到達している。よつてここでは農村の日常生活に関係の深い住宅および設備の現状の分析とその改善の問題について述べてみたい。

農村衛生の問題点

著者: 村江通之

ページ範囲:P.253 - P.259

 保守性の権化とうたわれた農村も今日では各種の方面に進歩性の猪突をおもわしめることが度々ある。
 今回編集局より「農村衛生の問題点」という題目を20枚の紙上にまとめよと依頼されて少々困惑を感ずる次第である。と申すのは山陰の小都市米子に勤務する様になつて13年目,この間のんびりとアカデミックな仕事が出来ると夢をえがいて来たことは完全に裏切られ,1日1日が大衆指導(主として農村)で多忙な日を送り,なにげなく実施する衛生漫談(日本公衆衛生雑誌第5巻第12号参照)も既に500回を突破したからである。それほど今日の農村は衛生学者の指導的活動を要求する時代に入つておるからである。

随想

農村を歩いて

著者: 加藤陸奥雄

ページ範囲:P.260 - P.261

 昨年の夏のこと,前後2週間ほどにわたって北海道の方々を歩きまわる機会がありました。おかげで話にきき,写真でみていたいくつかの観光地にも足をふみ入れることができました。そして北海道の大自然の美しさも味うことができました。同時に,今のうちにこの美しいというよりはあるがままの自然を人間社会がぶちこわしてしまわないうちに,張本人である人間自身がその自然を保護する努力をしなければ,後になつて口惜しがってもどうにもなるまいが,などしみじみと感じさせられたことでした。

綜説

国民皆保険と公衆衛生

著者: 黒木利克

ページ範囲:P.262 - P.264

国民皆保険の推進
 昭和32年・33年の両年にかけて,医療の国民皆保険の推進という既定方針は,各種の面で逐次具体化された。すなわち,全国民に対する医療保険の適用を目途とする国民健康保険全国普及計画は,32年度を初年度として実施に移され,医療保険の普及率(適用人口の総人口に対する比率)は,31年度末69.7%,32年度末74.6%と,年年上昇してきた。33年に入ると,全国46都道府県のうち100%の普及を示す県が7つを数えるに至り,すでに90%を越える普及率を示している県も2,3に止まらない。また,市町村の国民健康保険実施義務,国民皆保険態勢確立のための国の責任の明示(療養給付費の2割を全市町村につき一律に負担すること,療養給付費の5分に相当する調整交付金を新たに設けること)等を内容とする新国民健康保険法および同法施行法が,33年12月,第31回国会でようやく成立し,国民皆保険推進の基盤が確立されるに至つた。もとより,全国に国民健康保険を普及し,あらゆる地域の住民を名実ともに疾病の脅威から守ることは,必ずしも容易でなく,給付水準の向上や保険財政の均衡の確保という問題点の解決には,多大の努力を要するであろうが,上に述べた所から察せられるように,国民皆保険の推進は,着々進みつつあるといえるのである。

講座

大学における衛生学・公衆衛生学の教育

著者: 公衆衛生編集委員会

ページ範囲:P.265 - P.265

 1866年に世界最初の衛生学教室がMünchen大学に設置され,Max von Pettenkoferが医学生に対して衛生学を講じてより,医師養成の教育課程に衛生学が採用されることになつたことは周知のことであります。医科学生に衛生学の教育が必要であることは今あらためて申し述べるまでもないことですが,衛生学自身が,Pettenkofer時代と,百年の進歩を辿った今日とでは全く変つてしまつているところに問題があると思われます。当時は細菌学も未だ独立しておりませんし,医療保障は全く経済問題の範囲を脱しておりません。医学の応用科学と申しましても衛生学は未だ独特の系統をもつ学問とは云えない様な状態であつた訳です。
 現在では衛生学は単なる衛生学と申すには余りにも広範な分野を包含しておりますので公衆衛生学と衛生学の両名称を並べ用いなければ一股的でない程に拡大された応用医学の系譜をもつ様に成長しております。分野は臨床医学各科の応用部門のみでなく,基礎医学でも含まれるものが多く,さらに統計学,経済学,社会学,心理学,教育学等人文科学それぞれの応用科学といえるまでに発展したのであります。殊に戦後における急激な進展は驚異の的でありまして,およそ直接疾病と関係のない保健百般は衛生学・公衆衛生学の専門分野の如くに見なされる程であります。

原著

立川市内に発生した汚染井戸水に関する研究

著者: 上月清逸

ページ範囲:P.266 - P.268

1.緒言
 立川市内を中心に近接市町村にまでも浸潤し,かつては"燃える井戸水"の名をもつて騒がれた汚水,ガソリン臭井戸水については,さきに当院の佐藤等が長年に亘つて系統的に調査研究し,発表した1)〜4)。このうち第3報によれば,当時は米軍や調達庁の好意ある態度によつて,殆んど解決し,また,汚染原等の問題についても,すべて問題視することなく,学問的調査研究により,完全に解決した旨を報じていたが,その後日米両国間において汚染原の問題が再び提起され,昭和27年以来,4年間に亘つて深刻な討議が交されて来たようである。しかし佐藤等は時間的に機会をうることが出来なかつたため,研究継続を行うことができなかつたのであるが,たまたま余等は好機に恵まれ,中途から研究をうけつぎ,今日に至つたのである。
 ここで,昭和27年以来,昨年に至る間日米両国間で交された政治折衝の過程にふれる意志はなく,又それが本論文の本旨ではないが,ちようど機会よく,本年3〜5月間に,汚染された井戸の所有者には,大部分の損害賠償の支払いが終了したときでもあり,ここにわれわれの小さな研究を総まとめにして報告できることを幸に感ずる次第である。

諸国死亡の死因別構成について

著者: 加藤正直

ページ範囲:P.269 - P.274

 従来各国死亡の死因別構成を観察するに当つてはそれぞれの国の全死亡数中に占める各死因別死亡数の割合を以つてする方法がとられていたが,かかる観察方法は諸国の人口構成の差異に顧慮を払つていない点において欠点がある。
 著者は各国の人口構成を一定の標準人口と同様であるとした場合に各国が示すべき死因別死因構成を求めた。

外来診療所における赤痢の実態—特に軽症赤痢患者について

著者: 川上武 ,   加藤毅 ,   小熊トシ子

ページ範囲:P.275 - P.280

はしがき
 化学療法剤,抗生物質の出現と公衆衛生施設の普及により,急性伝染病の激減した今日でも,赤痢は年々10万人前後の患者が届出されており,届出伝染病患者数の半分を越している実情である。
 従つて,赤痢が予防機関における防疫対策の大問題の1つであるのはいうまでもないが,日常赤痢患者に第1線で接している臨床家にとつても,その動向について正しい見解をもつことが必要になりつつある。ところが赤痢治療薬の急速な進歩は,赤痢の病像に大きな変化を及ぼし,臨床家の赤痢についての考え方と,現行の赤痢届出制度との間には大きな溝ができてきたように思われる。両者の溝を埋めるには,予防機関の働きの大切なのは勿論であるが,治療機関の立場より,赤痢の実態と病像を調査して解明することが更に必要である。この仕事はまた厚生省が昭和28年に行つた赤痢実態調査(特にその中で,下痢患者と赤痢菌既陽性との関係)を側面より検証するという性質をもつ筈である。

泉熱集団発生に関する小調査

著者: 永山平重郎 ,   遠藤昌雄 ,   松村誠

ページ範囲:P.281 - P.283

 昭和27年5月栃木県那須郡七合村谷田部落に9名の泉熱患者が発生した。
 私共は5月22日現地に赴き調査した。

放射性同位元素による表面汚染の測定と研究室の汚染の状況

著者: 鈴木継美 ,   柄川順

ページ範囲:P.284 - P.286

(Ⅰ)はじめに
 放射性同位元素の利用が拡がるにつれ,それによる汚染の管理は,ますます重要性を帯びてきた9)。これまでわが国では核爆発による大気,水などの汚染についての知見はいろいろと発表されているが,放射性同位元素の研究室内での利用,産業現場における利用にともなう汚染の状態はほとんど調べられていない。一方空気汚染の測定法表面汚染の測定法についても検討が不足している。この理由はいろいろあげられるが1)2),とりあえず可能なところからこのギヤツプは埋められるべき時期がきている。
 最近荘野2)が研究室内の表面汚染について1例を発表したが,著者等も東京とその近郊の研究所大学の研究室5ヵ所について表面汚染の現状を測定したので,ここに発表する。なお著者等の目的は汚染の現状を明らかにすることと同時に,サーベーメーターによる直接測定法と濾紙塗抹法による測定法との比較を行なうことであつた。

農村の下水処理について

著者: 大塩行夫 ,   相沢壮吉 ,   伊東保一郎 ,   池内まき子

ページ範囲:P.287 - P.289

 大都市では上水と共に下水施設はかなり完備されている。しかし農村では上水は簡易水道として普及されつつあるが,下水の設備は全くなされていないといつても過言ではない。即ち個々の農家が素堀の下水溜を作り,ここに貯溜するか,公共の河川,用水等に放流するという方法をとつている場合がきわめて多い。不完全な下水の処理を行うことにより周囲の環境を汚染させ,衛生昆虫の発生源ともなり,さらに農村の美観を損うであろう。筆者らは農村の下水処理の実態を明らかにしこれが不完全のときには上水(井戸水)に影響をおよぼすか否かということについて調査を行つた。
 調査月日は昭和33年6月24日から7月14日までの晴天の日を選んで行つた。

腸チフス患者多発地区で捕獲したねずみの臓器内から分離されたS. typhiの1例について

著者: 高橋末雄 ,   山口与四郎 ,   佐々木建夫 ,   池田和雄 ,   難波諄士 ,   辺野喜正夫

ページ範囲:P.290 - P.291

緒言
 本郷保健所管内においては昨年の夏,駒込片町,駒込神明町を中心として,その隣接地区に29名の腸チフス患者が発生したが,今年もこれと略々同一地区内に5月から9月にかけ24名の腸チフス患者が発生した。このように同一地区内に2年連続して菌型を同じくする患者が多発したことは注目に価する事実であつて,東京都においては,これが感染源と伝染経路の調査につとめているが,その一環として患家ならびにその周辺のねずみを捕獲し,都立衛生研究所において保菌状態を調査したので,その結果を報告する。

文献

喫煙と死亡率,他

著者: 芦沢

ページ範囲:P.242 - P.242

 シガレツトスモーカーは,全死因死亡率ならびに,肺がんだけでなく,シガレツトが刺戟を与える口腔,咽喉頭,食道等の癌,さらに冠動肺疾患,消化性潰瘍などの疾患による死亡率においてもノンスモーカーより高率であるという報告は医学的に考えても納得できるが,といつてシガレツトスモーキングがこれらの疾患の一因だとはいえない。イギリスのR.DollおよびA.B.Hill,最近のアメリカのJ.Berksonの報告はいずれもシガレツトスモーカーが,ノンスモーカーより上述の各種疾患の死亡率においていずれも高率であることを示している。このことは,シガレツトスモーキングが肺がんという独立疾患の重要な病因因子であるとする説に疑いをはさませる。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら