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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生23巻5号

1959年05月発行

雑誌目次

綜説

未熟児と保健所

著者: 船川幡夫

ページ範囲:P.293 - P.297

(1)はしがき
 最近の乳児死亡率の低下は著しいものがあり,それに比しては,新生児死亡率の低下が緩慢であることはつとにとなえられているところである。この間の消息を更に詳しくみる1つの方法として,仮に乳児死亡を,新生児死亡と新生児期以後の乳児死亡とにわけて比較してみよう。
 表に示すように,昭和27年を境として,新生児期以後の死亡が,新生児期のを下廻るようになつている。更にこの関係を,乳児死亡率の低い代表的な欧米諸国と比較すると,夫々新生児期以後の乳児死亡は,新生児期の死亡の3分の1程度にまで下つている。即ち,乳児死亡のこれ以上の防止のためにはどうしても新生児期に手をつけざるを得ない情勢となつている。

医療社会事業—公衆衛生との関連において

著者: 浅賀ふさ

ページ範囲:P.298 - P.301

健康相談に来る患者
 待合室に帰つて,椅子に力なく腰かけたA氏の顔色はひどく蒼白であつた。彼は今医師から肺結核の診断と仕事を休んで絶対安静をとるようにと云い渡されたのである。A氏には妊娠中の妻と3人の子供が家庭で待つている。明日からの生活の恐怖と不安が彼をおそつたが,それにも増して彼を困惑させたのは妻にどのように打ちあけたものかという事であつた。これは50余年前ボストンの或診療所でDr. Cabotの診察した1人の患者の姿であつたが,現在日本のどこにも数多く見出される風景であるばかりか,我国には複雑でもつと困難な事例が非常に多い。それは我国特有の文化と貧しさから来る人間関係の中で培われる諸々の問題が執拗にからんで解決を困難なものにしていると同時に,社会資源の貧困―実際に欠除しているものと対策は一応建てられていながら経済的裏付の少いため不渡手形に終るもの―が人々のニードに答え得ないからである。試みに最近の医療社会事業事例記録を開いて見れば次のような事例が見出される。
 B患者は肺結核の子持ちの妻,夫は社会的信頼性も経済的安定性もない。すでに死亡した母以外は皆義理関係の実家しか頼る処がない。Bが現代医学の恩恵をうけて,立ちなおるためには経済的社会調整が必要である。子供の問題も援助しなければならない。これは東京都深川保健所のケースで保健婦が扱いかねて依頼したものである(1)。

チエツコスロバキヤの医療制度と社会保障

著者: 鈴木継美

ページ範囲:P.302 - P.307

 チエツコスロバキヤがナチスドイツの占領から解放され,いわゆる人民民主主義共和国として発足したのは1945年である。東欧諸国の中でもつとも工業(特に軽工業)の発達しており,第2次大戦前にブルジヨア民主主義共和制をしいていたこの国の変貌が始つた訳である。
 ナチスドイツによる6年間の占領によつてチエツコスロバキヤの経済,国民生活,保健などの全分野にわたる荒廃が残された。重工業,軽工業(たとえば鉄鋼生産高は1937年度に銑鉄167万5千トン,鋼鉄230万トンであつたものが1946年度には銑鉄96万1千トン,鋼鉄167万7千トンに減少)だけでなく,農業の生産力の低下,住居の破壊,医療従業員の減少など健康を確保するために必要な各種の要素がそろつて不足していた。大学の閉鎖のために6年問新しい医師は1人も生まれなかつた。

座談会

公衆衛生における問題点の推移

著者: 安斎博 ,   内山圭梧 ,   小島三郎 ,   小山武夫 ,   曾田長宗 ,   高部益男 ,   八田貞義 ,   福見秀雄

ページ範囲:P.308 - P.319

 公衆衛生の名分野―伝染病予防,下水道の完備,関係方面との協力提携等,数多くの問題が過去何十年かの間に形を変えある場合には,根本的な考え方まで変わつて今日に及んできた。過去の実績の上に,新しい技術をいかに採り入れていくか,既存の事実を,ある場合にはいかに打破しなければならないか。国立予防衛生研究所の小島三郎前所長を中心に公衆衛生畑の諸先輩に大いに語つていただいた。

報告

第2回アジア保健会議に出席して

著者: 鯉沼茆吾

ページ範囲:P.320 - P.322

 アジア産業保健会議は,日本,インド,フィリッピン,ビルマ,インドネシア,タイ,中国の7ヵ国が参加して各国の保健,医療状態,予防衛生事業,保健及び医学教育,生活水準などを討議し,協力態勢をかためるものである。
 第2回の会議は,昨秋11月16日からインドのカルカッタで開かれ,日本からは長谷川秀治教授(東大)以下17名が派遣された。本号に掲載された鯉沼茄吾名誉教授(名大)の談話及び金光正次教授(札大)の報告から,この会議の意義を読みとつていただくことを希望する。

第2回アジア保健会議に出席して

著者: 金光正次

ページ範囲:P.322 - P.324

 昨年11月中旬印度のカルカッタで開かれた第2回アジア保健会議に,我国からは東大長谷川秀治教授を団長とする17名が出席し,私もその一員として参加した。この会議は暉峻義等博士の唱導により1956年秋Asian Conference of Occupational Healthという名称で我国に於てその第1回が開かれ,今回は印度が主催したものである。「今回の会議を開くに当り暉峻博士は,アジア諸国の主産業は農業で,農民が国民の大多数を占めている事と,保健衛生及び医療の水準の低い事から,この会議を産業医学のみに限定せず,その目的を国民全体の医学的向上に拡大発展すべきであるとして,その名称もアジア保健会議と改める事を提案された.この趣意に従い我国からは産業医学以外の分野の専門家も参加したが,主催者との連絡が十分でなかつたためか今回も産業医学の問題が主要課題として採上げられたので,我国からの参加者の中には思想上若干のズレを感じた人もあつた。
 今度の会議に参加した国は印度,中国,インドネシア及び日本の4国で,約100名が参集した。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・1

ヨーロツパ各国の医科学生に対する衛生学公衆衛生学教育

著者: 西川滇八 ,   前田和甫

ページ範囲:P.325 - P.331

 医科大学の医科学生に対する衛生学及び公衆衛生学の教育は,その国の衛生状態,医療の状態,保健制度の状況が反映されるのが一般のようである。たとえば,基本的な公衆衛生上の問題に関する法制が完備し,衛生工学や衛生試験検査等の専門家が養成されている国では,医学生に具体的な衛生技術は教えなくともよい筈であり,一方,かかる面の発達が遅れている国では,具体的な衛生技術をも医学生の重要な課目としてとりあげなければならないであろう。ここには,ヨーロツパにおける医学教育課程の中の衛生学,公衆衛生学のカリキユラムを紹介して,わが国のそれと対比する資料としてまとめてみた。ヨーロツパ各国(主として西ヨーロツパ)の衛生状態は決して一様ではなく,国によつて著しい距りがある。第1表は18力国の衛生統計を較べたものだが,国別の差が大きいことはこれだけの基礎的な数値だけからも十分察知される。従つてヨーロツパ地域と一括しても,国により公衆衛生面で重視しなければならない問題に大きなちがいがあり,大部分が将来一般医となる医学生の教科内容にも差異が生ずるはずである。
 ヨーロツパ各国の医学生の教育は5年乃至7年であるが多くは6年間で,卒業後,独立の医師として医業に従事する前に,大学,大病院等でさらに研修を積むのが普通のコースのようである。たとえば英国やノールウエイでは,卒業後一定期間の修練が規定されていてその間に公衆衛生の実地訓練が課されている。

原著

32P標識細菌を用いる洗浄力試験

著者: 浦久保五郎

ページ範囲:P.332 - P.334

まえがき
 洗浄力判定のための試験には従来いろいろの方法があるが,結果を数的に正確にあらわすことおよび結果の再現性に相当の困難がある。最もよく研究されているものには人工汚垢で汚染した一定様式の人工汚染布を洗浄し,洗浄の前後でこれに光を投射しその反射光の強さの差によつて洗浄率をあらわすという方法1)があり,これが現在広く一般に用いられている。最近はまた同位元素をこの方面に用いることも行われ,32Pで標識した細菌を用いる方法が報告2)3)されている。筆者は32Pで標識した大腸菌を洗浄の効果を示すのに用いることを試みて若干の成績を得た。以下に報告する。

眼底所見を主とする高血圧集団検診方式の研究—第2報.集団検診における各種検査法の検討(その1)

著者: 新井宏朋

ページ範囲:P.335 - P.341

I.緒論
 近年脳卒中死が国民死因分類の1位をしめるとともに脳卒中(以下卒中と略す)による死亡率を低下させる事が現代の医学の重要な課題となつてきた。併し乍ら卒中が,それを予知しうる特有な自覚症状が少ないことと,社会で一見健康に生活している人々に突発する事から卒中を発病の前段階で早期に発見しようとする集団検診がその対策として試みられ,所謂健康管理の実施をみるに至つた。
 しかし,卒中の成因は,いまなお不明の点が多いため,一般社会より集団検診の実施に対する強い要望があるにもかかわらず集団検診の意義,及びその方式に対する詳細な検討はなされていない。私は第1報1)において卒中の前段階たる高血圧と血管硬化を発見する有力な診断法として,眼底検査を一般社会集団で計7集団1,824名に実施し,一般社会で活躍している成人中にも眼底に高血圧,血管硬化の所見をもつ者が多く,特に高度な所見とされている出血,白斑,高度交叉現象のみられる者もまれでない事を述べた。本報では卒中予防の集団検診方式研究の一環として,現在汎く集団検診で実施されている血圧測定,尿蛋白検査により,これらの眼底有所見者をどの程度に発見しうるかについて検討する。

有害職業病と特殊健康診断

著者: 平沢秀次郎

ページ範囲:P.342 - P.344

1.はしがき
 昭和33年度下半期に於て労働省の指定する検査を必要とする職種の都内及び近県の労働者,延べ2,100名について実施した内,鉛,ベンゼン,騒音,脂肪属の四項目の該当事業所88カ所,977名を各項目別に集計して現在の有害職業病の実態の一面を考察し,各位の御批判を戴ければ幸せと存ずる次第です。

川崎市中原保健所管内における登録犬の実態調査について

著者: 杉原正造 ,   稲見勲 ,   大畑吉春 ,   松本良夫 ,   川副武 ,   伊東吉男

ページ範囲:P.345 - P.351

I.緒言
 川崎市は神奈川県の東端に位置し東京都と横浜市に隣り合せ人口約55万の都市であつて中原保健所管内は市の中間に位し工業,農業,住宅の3地帯で構成される人口約15万,世帯数3万7千戸を有する一般都市である。
 川崎市に於ける狂犬病の発生は第1表に示す通り昭和27年58頭を頂点として年々減少し最近は発生を見ないが,中原保健所管内においては依然として浮浪犬及び咬傷犬は減ずることなく公衆衛生上住民の悩みの原因となつているので私共はこれらの点についてその実態と合せて疫学的究明も考慮し,死亡犬の原因,年令別調査も同時に行つた。本調査が狂犬病予防業務の発展と公衆衛生の向上に寄与出来れば幸と思つてその概要を報告するものである。

文献

住宅建設と罹病率,他

著者: 芦沢

ページ範囲:P.319 - P.319

 アメリカ合衆国東海岸の某大都市において,スラム住宅から新しい公営アパートに移つた世帯について,いぜんとしてこの場所に留まつている世帯を対照群とし,住宅の諸条件が健康に及ぼす影響に関する広はんな調査がジヨンスホプキンス大学によつて行なわれている。この調査は一応3年間を目標としたもので,ここに報告されているのは1年半経過した時のいわば中間的のものであるが,いまのところ両群の間には著しい罹病率の差は,どの質問の各項目についても現われていない。テスト世帯と対照世帯はそれぞれ400および600とし,家族の性,年令別構成,家計の状態,学歴,アパート入居前の住宅の諸設備の状態(水道,キチン,諸室等)ならびに入居前の健康状態等についてなるべく両群が均等になるように両群をそろえた。調査は訪間聞き取り調査により面接員にあらかじめ同様な訓練を受け,調査中でも面接技術の差を一様に保つため,いろいろな試みがなされたことが述べられている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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